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調査レポート「働き方改革」に関する意識・実態調査

働く個人2040名の認知から見る、個と組織を生かす「働き方改革」実現のポイント

働く個人2040名の認知から見る、個と組織を生かす「働き方改革」実現のポイント
執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
藤村 直子

プロフィール

執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
藤澤 理恵

プロフィール

これからの働き方について考える機会が増えてきている。新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として、テレワークの推進などが一気に前に進んだケースや、準備が不十分なまま対策を進めざるをえないケース、現在は再び新型コロナ前と同様の働き方に戻ったケース、各社、現状はさまざまである。働く個人を見ても、働くことに対する価値観の多様化が今後さらに進む可能性が見え隠れしている。

今回、テレワークの是非といったピンポイントな理解にとどまらず、ここ数年で政府や各企業が推進してきた「働き方改革」に照らし、中長期的な視点に立った現状評価を行うべく、「働き方改革」に関する意識や実態を働く個人に聞く調査を実施した。「働き方改革」は複合的な施策であるため、目的によっても期待する成果が異なるものだが、働く個人や組織に必ずしもポジティブな変化をもたらすとは限らない。本稿では、独自調査の結果をもとに「個と組織が生かされる働き方改革」とはどういうものかを考えてみたい。

本調査実施の背景

2018年 6月に働き方改革関連法(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)が成立し、2019年4月から時間外労働の上限規制の導入(中小企業は2020年4月から)、年次有給休暇の確実な取得、2020年4月から正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止(同2021年4月から)など、順次施行されている。

そのタイミングに合わせ、弊社では、2019年8〜10月に企業の人事制度の企画・運用、「働き方改革」推進の責任者を対象に、「『働き方改革』と組織マネジメントに関する実態調査 2019」を実施した。各施策の進捗状況や成果実感、2017年調査との比較による個別制度の動向と併せて、「働き方改革」が組織マネジメントにどのような影響を及ぼすかについて、図表1のモデルを用いて確認した。分析の結果、個人の働きやすさと働きがいは、組織の協働・共創を促進すること、事業/現場との対話による一歩踏み込んだ改革によって働きやすさと働きがいが高まることが示唆された。

図表1 「働き方改革」が組織マネジメントに及ぼす影響

出所:リクルートマネジメントソリューションズ(2020)「『働き方改革』と組織マネジメントに関する実態調査 2019」「『働き方改革』の展開 ―労働時間圧縮のその先へ 個と組織を生かす共創・協働の組織開発―


「働き方改革」が推進されてきた背景には、多様な人材の労働参加、労働環境の適正化、イノベーションと労働生産性向上といった、社会と経営におけるニーズの高まりがあった。企業によって推進の目的や優先順位は異なるものの、法改正対応にとどまらず、組織マネジメントとの間に好循環をもたらす取り組みに進展しつつあることを確認できた調査となった。

さまざまな個性をもつ個人が、統合的・相乗的に力を発揮したとき、組織の力が最大化することを信じ、弊社では「個と組織を生かす」ことをブランドスローガンとして掲げている。「働き方改革」が個と組織を生かす取り組みとなり得るのはどのようなときか。それを継続して追究していくうえで、企業の担当者による、自社の従業員や職場の状況についての回答だけでなく、従業員自身による回答を用いて検証を行いたいと考え、企画・実施した。

「働き方改革」に関する意識・実態調査 概要

調査概要は図表2のとおりである。実施時期は2020年3月下旬で、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、首都圏など7都道府県で緊急事態宣言が発出される1週間ほど前となった。

図表2 調査概要「『働き方改革』に関する意識・実態調査」

同時に実施したテレワーク(リモートワーク、在宅勤務)に関する実態調査の結果については、既に報告している(※)。本稿では、「働き方改革」に関する意識・実態調査の結果について報告する。

※「一般社員2040名、管理職618名に聞く テレワーク緊急実態調査」
【前編】温かく明快なコミュニケーションで、誰も孤立させないテレワークを
【後編】テレワークがあぶりだすマネジャー依存の限界と、自律・協働志向組織への転換

「『働き方改革』による個と組織の変化」の5分類

「働き方改革」による個と組織の変化について、図表3のような項目を用いて回答を得た。これは、先述の図表1のモデル「個を生かす」「組織を生かす」のそれぞれの測定を試みたもので、企業調査と同じ項目である。それぞれに対して因子分析を行った結果、いずれも1つの測定内容・概念としてのまとまりが確認されたため、8項目の平均を「個を生かす」得点、13項目の平均を「組織を生かす」得点として、分析に用いることとした。

図表3 「働き方改革」による個と組織の変化を測定する項目例

次に、個を生かす得点、組織を生かす得点の両方が高い/低い場合、いずれかのみが高い場合の特徴を確認するために、下図のような分類を行った(図表4)。1〜5点を割り振った選択肢の内容をふまえて、それぞれ「高」群は3.5以上、「低」群は2.5未満とし、その組み合わせで5つの群を作成した。両方高い場合に「両方高群」、両方低い場合に「両方低群」、個を生かす得点のみ高い場合に「個高群」、組織を生かす得点のみ高い場合に「組織高群」、それ以外を「中群」とした。各群の人数、割合は図中のとおりである。

図表4 「『働き方改革』による個と組織の変化」の5分類 (n=2040)

「『働き方改革』による個と組織の変化」と成果指標とのポジティブな関係

個と組織が生かされている状態には、どのような良いことがあるのだろうか。「『働き方改革』による個と組織の変化」の5分類ごとの成果指標の傾向を見ていく。

まず、組織面での成果指標との関係を図表5に示した。生産性向上、働き方の柔軟化・多様化、事業成果、いずれの成果指標に対しても、両方高群であるほど、あてはまるという回答が多いことが分かる。事業成果に関しては、組織高群の回答も他に比べるとやや多い。

図表5 「働き方改革」による個と組織の変化と成果指標との関係(組織面)

続いて、個人面での成果指標との関係を図表6に示した。両方高群ほどワーク・エンゲージメントは高く、バーンアウト(燃え尽き症候群)や仕事の無意味さの認知は低く感じていることが分かる。

図表6 「働き方改革」による個と組織の変化と成果指標との関係(個人面)

個と組織が生かされている状態は、生産性向上や働き方の柔軟化・多様化、さらには事業成果の向上など、組織面での成果指標と、ワーク・エンゲージメントなど個人面での成果指標とポジティブな関係があることが分かった。これにより、「個を生かす」ことが個人の良い状態に、「組織を生かす」ことが組織の良い状態に、とバラバラに関係するのではなく、「個と組織を生かす」状態こそが、いずれの成果にもつながるものであり、目指したい姿であることが確認できた。

個と組織の変化の鍵は、「働き方改革」の進め方

それでは、個と組織が生かされている状態はどのようにすれば実現できるのか。そのヒントを探るために、「個人要因(属性、労働時間)」「環境要因(勤務先企業の業種、従業員規模、組織の特徴、職務特性)「『働き方改革』の打ち手(施策、目的、進め方)」に関して、どの変数が「『働き方改革』による個と組織の変化」の5分類に影響しているのかを、統計的な手法を用いて確認した。分析結果を抜粋して表示したものが図表7である。他の変数が一定だとしたとき、その変数が影響を及ぼすかどうかを表す偏回帰係数の値が大きいほど、プラスもしくはマイナスの方向に影響が大きくなる。ここでは便宜上、統計的に有意な数値のみ、印(†〜***)を付けて記載した。中群を基準に他の群を分析しているため、例えば、年齢という変数は、中群に比べて、組織高群、個高群、両方高群になる確率にマイナスの影響がある(年齢が低いほど、組織高群、個高群、両方高群になりやすい)、というように見る。

図表7 個と組織の変化による5分類を従属変数とした多項ロジスティック回帰分析の結果 (n=172)

まず、両方高群の特徴から見ていきたい。「個人要因」としては、労働時間の短さ、年齢の低さ、女性であること、「環境要因」としては、雇用環境がそれほど厳しくなく、組織の柔軟性を高めるHRMが導入されていて、職務の自律性が高いことが挙げられる。「『働き方改革』の打ち手」としては、労働時間の抑制を行っていること、法改正対応だけでなく、従業員の長期的なキャリアの充実を目的として掲げていること、そのうえで、経営が重要な取り組みとして語り、従業員の意見が反映される機会があり、事業や部門の事情が考慮されたものであること、何より、自分ごととして捉えることができて、一部の限られた人のための施策だとは感じていないことが大きいようだ。

続いて、両方低群の特徴はどうか。「個人要因」としては、男性であること、「環境要因」としては、外部環境・雇用環境共に厳しく、組織の柔軟性を高めるHRMが導入されていないほど、両方低群になりやすいようだ。「『働き方改革』の打ち手」については、時間当たりの生産性の評価の施策の導入、業務の効率化を目的としていることが有意になっている。また、女性に対する両立支援の実施割合が低いことが挙げられる。両方低群は、中群と比べて働き方の多様化、柔軟化といった、他の施策の導入率が低いという特徴がある。そのようななかで、時間当たり生産性の評価や業務の効率化だけが導入されると、効率一辺倒となって余裕がなくなり、個も組織も生かされない改革になっていることが考えられる。進め方としては、両方高群とは対照的に、一部の限られた人のための施策である、事業や部門の事情が考慮されていないという認知であるほど、両方低群になりやすいという結果であった。

個高群、組織高群については、年齢の低さ、職務の自律性の高さ、法改正対応目的だけではない点が、両方高群と共通である。個高群に特徴的なものとしては、1000名以上3000名未満の企業規模であること、副業・兼業の解禁、好事例・ノウハウの共有が挙げられる。従業員の多くが「働き方改革」を自分ごととして捉え、一部の限られた人の施策だとは感じていない点は両方高群と同様である。組織高群では、非製造業であること、雇用環境が厳しくないこと、組織の柔軟性を高めるHRMの導入が特徴的な傾向として挙げられる。

1点注意が必要なのが、この分析手法では中群との違いをより強く説明する変数だけが有意となって表れるため、個と組織をポジティブにする変数のすべてをピックアップしていないことである。例えば、両方高群では「働き方改革」の施策全般の導入率が高い傾向があり、バランスの良い施策導入は個と組織を生かす改革の前提条件ともいえる(図表8)。

図表8 「働き方改革」施策の導入割合

「個と組織を生かす働き方改革」を実現するには

最後に、本調査の結果をまとめて、考察していきたい。

まず、「個と組織を生かす働き方改革」が実現されていると、組織面での成果指標(生産性向上や働き方の柔軟化・多様化、事業成果の向上)と、個人面での成果指標(ワーク・エンゲージメントなど)が高い傾向があることが分かった。「個を生かす」「組織を生かす」のいずれかを優先するということは各社に委ねられている選択であるが、個と組織の両面を生かすことによって、個人面、組織面のいずれの成果も高くなる可能性を確認できたことは、お伝えしたいことの1つである。

そして、「個と組織を生かす働き方改革」を実現するために、以下の3つのポイントが示唆された。
(1)誰もが自分のため・現場のためと感じられる改革にする
(2)自社のHRMポリシーと整合させ、中長期の目的をもって進める
(3)働き方だけでなく、職務設計を自律的にする
以降はそれぞれについて、詳しく考察していきたい。

■誰もが自分のため・現場のためと感じられる改革にする
「働き方改革」の施策においては、生産性向上だけでなく、多様な人が仕事に参加しやすくなるための施策や、働く時間や場所を柔軟化する施策も含めて、バランスよく導入することが重要である。また、改革の進め方においては、一部の限られた人のための施策であると思われないようにすること、自分ごととして捉えられるように従業員を意思決定に参画させたり、事業や部門の事情を考慮したりすることも非常に大切なことである。この点については、企業を対象に行った調査でも確認されている(「『働き方改革』と組織マネジメントに関する実態調査 2019」「『働き方改革』の推進に関する実態調査 2017」)。

「働き方改革」が生産性向上の施策だけに偏ると、むしろ生産性向上を実現しにくくなる側面がある。その理由は、いくつか考えられる。生産性向上の意識やプレッシャーだけが高まっても、一人ひとりが生産性を最大化する手段(仕事をする時間や場所を選べるなど)が増えなければ、現状は大きく変えられない。反対に、テレワークなどの柔軟化の手段をすべての従業員が活用できることや、育児や介護や傷病といった制約を乗り越えて多様な人が仕事に打ち込めるようにする制度があることで、組織にいる全員が生産性向上の意識とツールの両方を手にすることになる。さらには、そのようにして会社から自由度が与えられれば、誰もが会社から信頼され、尊重されていると感じられる。その結果、職場や組織が分断されることなく、互いに協働することに対して前向きな姿勢につながるのではないだろうか。

■自社のHRMポリシーと整合させ、中長期の目的をもって進める
「働き方改革」は主として労務に関わる施策として推進されることが多い。しかし、成果を上げていくうえでは、組織の土台となる人事制度などの人的資源マネジメント(HRM)との関連が重要であることが明らかになった。

今回、「個と組織を生かす働き方改革」との関連が明らかになった「組織の柔軟性を高めるHRM」とは、幅広いスキルを身につけられるような採用・配置・能力開発の仕組みや、適材適所の異動をしやすくするための、報酬制度やタレントマネジメントシステムの整備などを含んでいる。戦略の変化に対応して組織構造を柔軟に変化させていくことを志向したHRMとして、研究が積み重ねられてきた概念であるが、今回、人の異動だけでなく、組織の協働にも効くことが分かったことは、大きな発見であった。よって「働き方改革」の目的についても、法改正対応にとどめずに、自社のHRMポリシーと連動した中期的な視点が求められる。

■働き方だけでなく、職務設計を自律的にする
意思決定の裁量があったり、仕事の進め方を自分で決められたりするような自律的な職務設計が、「個と組織を生かす働き方改革」に良い影響を及ぼすことが明らかになった。働き方の改革だけで、個人や組織の仕事の進め方が自律的に変わるとは限らない。仕事の任せ方や裁量のもたせ方といった職務そのものの設計も、自律的なものに変えていくことが有効と考えられる。

弊社機関誌RMS Message59号 特集1「自律的に働く」でも、自律的な働き方によって個と組織の成果が高まることを紹介している。


3つのポイントに共通していえることは、人事制度の導入や運用が、従業員一人ひとりに対して自律と協働を促すメッセージになっているということである。「個と組織を生かす働き方改革」は、上司によるジョブアサインや日々のマネジメント、従業員本人の意識向上や自律的な関わり方によって実現される側面もあるが、それ以上に、経営や人事の取り組みの影響が大きいことが本調査の結果からは示唆されている。先の企業調査の結果も併せて考えると、「個と組織を生かす」ことを理想の状態と描いて、改革の目的や背景について丁寧にコミュニケーションし、現場の実情を考慮した設計や運用をすることの大切さがあらためて感じられた。

一方、環境の厳しさの程度によって、「働き方改革」推進の難易度が異なることにも考慮が必要である。また、年齢や性別という個人属性によって、感じ方が異なる可能性も示唆された。今回取り上げた、個と組織が生かされているという状態自体が、経験年数や働くうえでの価値観によって意味合いが異なるのかどうか、今後、検討を継続していきたい。

働く個人2040名の認知から見る、個と組織を生かす「働き方改革」実現のポイント
本調査実施の背景
「働き方改革」に関する意識・実態調査 概要
「『働き方改革』による個と組織の変化」の5分類
「『働き方改革』による個と組織の変化」と成果指標とのポジティブな関係
個と組織の変化の鍵は、「働き方改革」の進め方
「個と組織を生かす働き方改革」を実現するには
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