調査レポート
マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2020年
マネジメント業務の負荷が高まるなかで求められる管理職・マネジャー育成の指針
- 公開日:2020/08/24
- 更新日:2024/06/10
ビジネス環境が激変するなか、管理職層(主に課長・部長)の役割遂行の難度はますます高まっています。同時に管理職層の業務負荷も重くなっており、組織マネジメント機能を管理職層のみに押し付けることに限界が来ているという見解も出てきています。 このたび、マネジメント業務に対する人事担当者と管理職層、それぞれの認識の違いに迫るべく、定量調査を行いました。調査結果をもとに、今後の管理職・マネジャー育成の指針や管理職層だけに頼らない組織運営をご紹介します。
調査概要
企業の人事担当者および管理職層(マネジャー・課長・部長)を対象としました。
管理職の負荷はますます高まっている
会社の組織課題について尋ねたところ、管理職層の回答で最も選択率が高かった項目は「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」(68.7%)となり、次いで「中堅社員が小粒化している」(68.0%)、「次世代の経営を担う人材が育っていない」(67.3%)という結果となりました。
このように管理職層の負荷が高い状況には、3つの背景が挙げられます。
1つ目は、内外環境の変化によるものです。外部環境として、現在のビジネス環境はVUCA(※)といわれるように、曖昧かつ変化が激しいことが大きな特徴です。そのようななか、管理職層の判断は非常に難度が高くなっています。また、内部環境変化の大きな特徴として挙げられるのが価値観の多様化です。部下の雇用形態や適性だけではなく、働き方や仕事に対する価値観、志向などを把握して、個々人の業務アサインやキャリア支援を行うことがこれまで以上に求められています。
2つ目は、マネジャー本人の経験についてです。現在管理職に昇格する人は、管理職になる以前にリーダー的な役割を担い、マネジメント経験を積んだ後に昇格することが少なくなっている傾向があります。その結果、マネジメントの基礎スキルが身につかない、マネジャーになる志向が育たないといった弊害が生まれ、マネジャー昇格後の適応がうまく進まない状況が生じています。
3つ目は、マネジャーにかけられる期待についてです。特に新任管理職層は、着任直後から失敗できない状況に立たされており、メンバーの信頼を得ながら、プレイヤーとマネジャーの仕事を両立させていかなくてはなりません。マネジメントの準備期間がほぼない現実のなかで、即戦力となることが求められているのです。
管理職層の負荷が高い背景には、上記のような複合的な要因があると考えられます。管理職層自身はそのことを痛感しているかと思いますが、人事はこの課題をどのように認識しているのでしょうか?
※ 「Volatility(激動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をつないだ今日的環境を形容する言葉
マネジメント業務負荷に対する課題意識のギャップ
マネジメント業務に対する、人事担当者と管理職層の意識ギャップをについて考察していきます。
図表1のとおり、「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」についての選択率の順位は、管理職層では1位だったものの、人事担当者では3位という結果となりました。このことから管理職層、人事担当者共に、「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」という認識は高いといえます。
では、実際に管理職層の負荷に対する解決策はどの程度、計画・実施されているのでしょうか。
人事担当者に会社の3~5年先を考えた際、人や組織に関する課題のなかで、「計画や方針に盛り込まれているもの」(選択はいくつでも可)を尋ねたところ、最も選ばれたのは「新人・若手社員の育成・戦力化」(48.0%)。次いで、「人材の定着率向上(離職率の軽減)」(39.3%)、「次期経営幹部育成」(34.7%)が続きます。
また、「計画や方針に盛り込まれているなかで、最も重要度が高いもの」(1つだけ選択)については、「新人・若手社員の育成・戦力化」(16.7%)と「人材の定着率向上(離職率の軽減)」(16.7%)の選択率が高い結果となりました。
今回のテーマである「管理職の負荷軽減(役割の分業化)」は、「計画や方針に盛り込まれているもの」(選択はいくつでも可)の選択率で10位(21.3%)にとどまります(図表2)。
管理職層の負荷が高いことは、人事担当者も課題と認識しているものの、計画や方針の上位には入らず、負荷軽減に取り組まれにくい現実が見えてきました。
むしろ、多くの企業では新人・若手の育成や人材の定着が急務であり、会社としての方針にも盛り込まれていることが分かります。
そもそも管理職はさまざまな期待を受け止めるポジションです。「負荷はかけたくないが、かけざるを得ない」というのが企業の本音でしょう。また管理職にかけている期待を減らすにしても、その期待を代わりに誰が受け止めるのか? ということに解を見いだせない以上、積極的に負荷軽減を推し進めることは難しいといえます。
では管理職層にはどのような期待がかけられているのでしょうか? 次の章で詳しく見てみましょう。
管理職層への期待はメンバー育成
管理職層はプレイヤー業務をこなしながら、日々の業務管理やチームワークの維持、メンバー育成など、多岐にわたる役割を果たしています。また、管轄する組織のメンバーからの要望と、上司からの要望との間に挟まれながら、業務面・心理面での調整を不断に行っています。
では、管理職層への期待とは、具体的にどのようなことが挙げられるのでしょうか。
人事担当者に「管理職に期待していること」(3つまで選択)を尋ねたところ、最も選ばれた項目は、「メンバーの育成」(50.0%)でした。次いで、「担当部署の目標達成/業務完遂」(33.3%)、「部署内の人間関係の円滑化」(26.7%)が続きました。
また、管理職層に「管理職として重要な役割」(3つまで選択)を尋ねたところ、「メンバーの育成」(54.7%)、「業務改善」(30.7%)、「会社・事業の戦略テーマ(重点テーマ)の推進」(30.7%)が選ばれました(図表3)。
このことから、管理職層の方が「仕事のマネジメント」を人事よりも重視する傾向があったものの、第一の期待は「メンバーの育成」で共通していることが分かります。
期待が多岐にわたることは管理職層の負荷にもつながっていると考えられますが、管理職として最も期待されることが、必ずしも最も負荷だと感じているわけではないでしょう。特に管理職層が「応えづらい」と感じている期待は何なのでしょうか? 次に、管理職層が日頃のマネジメント業務で困っていることを確認していきましょう。
管理職層に、日々の管理職業務で「困っていること」(いくつでも選択可)を尋ねたところ、「メンバーの育成」(56.0%)、「業務改善」(52.0%)、「目標達成のための業務推進」(46.0%)が選ばれました(図表4)。
メンバーの育成や業務改善は重要だと考えていることとしても上位でしたが、同時に困っていることでもありました。「人の側面」と「仕事の側面」のマネジメントを高次に両立させることが求められているなか、管理職層の負荷を減らす手立てはあるのでしょうか。
これからの組織に求められる「シェアード・マネジメント」
ここまで、管理職への期待とどのような期待に応えることに困難を感じているかを見てきましたが、やるべきことを挙げれば切りがないというのが実情でしょう。どういう成果をあげるべきか、管理職層がフォーカスする対象を絞ることが重要だといえます。
弊社ではマネジメントを、「組織資源を効果的・効率的に活用すること、特に人を生かすことを通じて、所属する組織が目指す目的の短期的・中長期的実現に貢献すること」と定義しています。要はマネジメントとは、組織の持続的成長を実現することだといえます。
そして、持続的成長を実現する上で求められる成果は4つあると考えています(図表5)。ここには、調査でも管理職への期待として多く選ばれていた「メンバーの育成」や「業務改善」なども含まれます。これらの成果は組織において、どれかではなくすべて達成すべきものです。
ただ、これらの成果は管理職1人で達成しなければいけないものではありません。マネジメントが機能し、上記の成果が出る状況を管理職が生み出せればよいのです。具体的には、メンバーにどう職場運営に参画してもらうか? メンバーの仕事内容や環境をどうデザインするか?といったことに知恵を絞ることです。
「管理職→メンバー」というタテ方向の関係ではなく、組織のメンバーがリーダーのように振る舞い、他のメンバーに影響を与え合うヨコ方向のリーダーシップを「シェアード・リーダーシップ」と呼びます。今後の職場においては「シェアード・マネジメント」とでも呼ぶべきマネジメント観が求められるのではないでしょうか。
例えば、調査結果から部下育成は、管理職層の役割として最も期待されていることですが、育成計画の立案やメンバーのコーチングをリーダー層が担うことも可能でしょう。また、メンバーの業務進捗管理についても、進捗をオープンにし、メンバー同士で指摘・アドバイスをするように変え、管理職層はその環境・風土づくりに専念するという方法も考えられます。また、これらの取り組みは、急速に進化しつつあるAIやRPAの活用、HRTechの普及によっても後押しされるでしょう。
しかしながら、こういったシェアード・マネジメントを推進していく上では、実際にはいくつかの壁があります。
1つ目は、管理職層に「マネジメントのかたち」の選択肢が少ないことです。管理職層が「自分でやる」という1つの考え方に縛られてしまい、「チームでやる・委ねる」という考え方に転換できない状況があります。会社や人事から示される理想の管理職像や評価制度、1on1などの制度が発想の足かせになっていることもあるでしょう。
今回の調査において、管理職層にマネジメント業務で困っていることに対する必要なサポートを聞いたところ、いつの時代も要望が高い「人員補給や配置転換」のほか、「管理職同士の情報交換の場の設定」や「外部の専門家によるコーチング」といった選択が多かったのは注目すべき点です(図表6)。
実は思っている以上に、管理職にはマネジメントを巡る“真面目な雑談” が重要なのではないでしょうか。まずは社内交流、できれば人事が社外交流の場をプロデュースすることを通じて、マネジメントには数多くの選択肢があることを管理職層が認識することが第一歩といえます。
2つ目の壁は、メンバーの考える「マネジメントのかたち」がすぐには変えられないことです。「チームで組織を運営する」「メンバーに委ねる」といったことを追求するために、いきなり組織形態を自主運営組織のように変更することは現実的には困難です。そのため、シェアード・マネジメントは運用で実現していくことになります。その際に、管理職としてはメンバーをどのように巻き込むか、業務アサインをどう工夫するかを考える必要がありますが、この権限委譲が一筋縄ではいきません。もともと管理職層がやっていた仕事をメンバーに委ねようと思っても、メンバーとしては「それは管理職の仕事では?」「なぜ自分がしないといけないのですか?」「管理職の仕事を放棄しているのですか?」と抵抗感を抱くこともしばしば起こります。組織内で一旦そういったモードができあがってしまうと、管理職層の試みは頓挫してしまうでしょう。権限委譲を進める前に、管理職自身がメンバーとの信頼関係を築く努力をすることは当然ですが、企業としても誰か1人がリーダーをすればいいというパラダイムではなく、「メンバー全員が組織運営の当事者になる」ことをメッセージしたり、評価項目に組み込んだりするなど、企業全体の風土・バリュー変革を進めることが求められているといえます。
終わりに
本調査では、人事担当者および管理職層が感じている課題認識とその認識の差について見てきました。職場の実態調査を行うと、「企業の人・組織面での課題解決の主体は現場の管理職である。そのため管理職の能力開発が必要である」という結論になりがちですが、管理職層の力量形成に過度に依存する解決方法は限界を迎えています。管理職層の置かれた現実や負荷の内容について、人事担当者と管理職層、そして現場のメンバーが認識をすり合わせながら、共に組織マネジメントのあり方を再考していくことが重要ではないでしょうか。
マネジメントスタイルの変革についてはこちらの特集で詳しくご紹介しています。
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執筆者
サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
マネジャー
石橋 慶
2005年リクルートマネジメントソリューションズ入社。ソリューションプランナーとして、幅広い業種・規模の企業に対し、人材採用・人材開発・組織開発の企画・提案を行う。2012年よりミドルマネジメント領域の調査研究およびトレーニング・モバイルラーニングの商品企画・開発に従事。
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