調査レポート
管理職志向・専門職志向と昇進希望の実態調査
やっぱり部長くらいにはなりたい
- 公開日:2010/09/22
- 更新日:2024/03/22
昇進の遅れやその機会が閉ざされることを、キャリア研究の領域では「キャリア・プラトー現象」と称しています。プラトーとは高原・高台であり、昇進できないことによる停滞感や意欲の低下が見られるものとされています。 日本では青山学院大学経営学部の山本寛教授が、昇進可能性の行き詰まりやその認知が従業員に及ぼす影響について研究発表しています(『昇進の研究―キャリア・プラトー現象の観点から』山本寛著(創成社))。
昨年弊社で実施した「昇進・昇格実態調査2009」でも、企業が挙げる昇進・昇格に関する問題として、「ポスト詰まりが進行しており、社内の活性化に悪影響を及ぼしている」(28.3%)という点が挙げられていました。 一方、「昇進・昇格そのものに魅力を感じない者が増えている」(33.3%)が「女性の管理職登用が進まない」(50.9%)に次いで2番目に多い回答となり、1991年調査時(11.8%)に比べても大幅に増加していました。
高齢化やポスト不足によって社内での昇進の機会はますます少なくなっていくことが予想されますが、従業員の働きがいを考えていく際に、管理職志向や昇進に対する希望の実態についてどのように捉えていったらよいのでしょうか。
そこで、2010年3月に実施した「30代~50代ビジネスパーソンのキャリア意識調査」のうち、管理職志向・専門職志向や昇進希望に関する回答を中心に分析し、その実態を明らかにすることを試みました。
調査概要
調査概要は図表01のとおりです。回答者の役職の比率は「一般社員(30%)」「係長(27%)」「課長(31%)」「部長(12%)」で、業種および職種は幅広く回答が得られています。
図表01 「30代~50代ビジネスパーソンのキャリア意識調査」調査概要
専門職志向と昇進の意向
本調査では、管理職志向と専門職志向のいずれかを選択するのではなく、別個の設問として設定しました。 設問では管理職を「組織やグループを統括・運営する立場」と、専門職を「専門的観点から企画や商品開発・研究を行う立場」と説明しています。 管理職・専門職にどれくらいなりたいか(すでに管理職(専門職)に就いている人に対しては続けたいか)という問いに対しては、管理職志向(47.2%)よりも専門職志向(57.4%)の割合のほうが多いという結果となりました。 組み合わせてみた場合、「管理職、専門職ともになりたい」という割合が28.2%となり、最も多いことが明らかになりました。
この傾向は、現在の役職を一般社員(149名)のみに限定した場合には、さらに専門職志向の比率が高まっています(管理職志向32.9%、専門職志向62.4%)。 組み合わせてみた場合、「専門職になりたいが管理職にはなりたくない」(24.2%)が最多となり、「管理職、専門職ともになりたい」(20.0%)と続きます(図表02)。
図表02 管理職志向と専門職志向(「あなたは管理職(専門職)にどれくらいなりたいですか」)
一方、将来の昇進についての意向を問うと、「生活と調和が図れる範囲内で昇進を目指したい」(50.4%)が最多となり、「昇進にこだわらない」(26.2%)、「できる限り昇進したい」(16.8%)と続きます(図表03)。 この結果はすべての役職において同様の傾向で、一般社員についても「生活と調和が図れる範囲内で昇進を目指したい」(48.3%)、「昇進にこだわらない」(28.9%)、「できる限り昇進したい」(14.8%)でした。
図表03 将来の昇進についての意向(「将来の昇進についてどのように考えていますか」)
さらに、「どこまで昇進したいか」という設問に対しては、「部長クラス」が最多(37.2%)となりました。 現在すでに部長以上である者を除いたいずれの役職においても「部長クラス」まで昇進したいという回答は最多でした(図表04)。 それに対して、これらの課長以下の層(課長、係長、一般社員)が自分の希望する役職まで今の会社で昇進できると思っているかどうかについては、約半数が実現できない(「実現の可能性は低い」「実現できない」)、3割弱は実現できる(「確実に実現できる」「実現の可能性は高い」)との回答でした。
これらの結果から、管理職志向より専門職志向のほうが多いとはいえ、「一概に昇進したくないわけではない」「とはいえ昇進することは難しいと思っている」という一面がうかがえました。
図表04 役職昇進希望(「どこまで昇進したいと思いますか」)
昇進の意向と働く価値観・満足度との関係
つぎに、現在まだ管理職に昇進していない一般社員(149名)に絞って、専門職志向と昇進希望との関係を分析したところ、専門職に「なりたい」と回答している人の7割弱が昇進を希望している(「できる限り昇進したい」「生活と調和が図れる範囲内で昇進を目指したい」)ことがわかりました(図表05)。
図表05 専門職志向と昇進意向との関係(一般社員(149名))
専門職を志向している人のうち、昇進を希望する人とそうでない人との間には、どのような違いがあるのでしょうか。 働く上で重視する価値観について昇進を希望していない人と比較すると、昇進を希望する人ほど「高い収入を得ること」「責任者として采配が振るえること」「世間からもてはやされること」を重視していると回答しています。 満足度については、「総合満足度」(「総合的に考えて、あなたは現在の勤務先に入社してよかったと思いますか」)では昇進希望の有無によって差が見られませんが、「仕事満足度」では昇進希望者のほうが高く、「職位満足度」「昇進・昇格満足度」については昇進にこだわらない人のほうが高くなっていました(図表06)。 昇進を希望する専門職志向の人は、仕事自体にはやりがいを感じているものの、現在の職位やこれまでの昇進・昇格については満足していないようです。
図表06 専門職志向・昇進意向別の働く価値観(「働く上で何を重要視しますか」)と満足度(一般社員(149名))
キャリアの停滞感への配慮の必要性
今回の調査結果ではつぎのことが明らかになりました。
●管理職志向より専門職志向のほうが多いが、昇進を望んでいないわけではない。
部長クラスまで昇進したいという回答が最多。
●課長以下の層の約半数は希望の役職まで昇進することは難しいと思っている。
●一般社員で専門職を志向している人のうち約7割が昇進を希望している。
●一般社員で専門職を志向している人のうち、昇進を希望している人のほうが「高い収入」「責任者としての職責」「世間体」を働く価値観として重要視している。
●一般社員で専門職を志向しながら昇進を希望している人は昇進にこだわらない人よりも仕事に対する満足度は高いが、職位や昇進・昇格に対する満足度は低い。
専門職志向が高い人でもその多くは昇進を望んでいることがわかりました。 一方、希望する役職まで昇進することは難しいと思っている人が大半であり、冒頭で述べたキャリア・プラトーのように、昇進を希望しながらもその機会が少ないと感じることによる停滞感や意欲の低下をもたらす可能性があります。 そして、高齢化やポスト不足によってその可能性は増していくことが予想されます。 これはすでに現状での職位や昇進・昇格に対する満足度の低さにも表われているのかもしれません。
「昇進・昇格実態調査2009」では、企業における管理職・専門職の複線的人事制度運用の目的として、「管理職ポストが一杯なので、同等の能力を有する者を処遇するため」が「スペシャリスト育成のため」を上回っており、1991年時点と比べて順位が入れ替わりました。専門職の位置づけとして“管理職候補者の受け皿”としての意味合いが強まっているといえます。
専門職を管理職候補の受け皿としていくことによって、専門職志向で昇進を希望している人が重視している価値観のうち、収入や世間体の面ではある程度満たされるのかもしれません。 しかし、「責任者として采配が振るえること」という価値観は、その会社の専門職の権限や責任の大きさによっては満たされない可能性があります。 管理職志向と専門職志向とでは、昇進に期待することや責任者としての裁量がもてることの意味合いが異なることも考えられます。 その部分もふまえて、仕事の意欲や働きがいを考えるにあたり、複線型人事や専門職のあり方については、収入や役職名などの処遇面だけでなく、実質的な裁量の大きさやキャリア停滞の心理的な面にも今後さらに目を向けていく必要があるのではないでしょうか。
次回は、引き続き本調査の分析結果より、昇進昇格機会の減少が仕事の意欲低下にどのように影響を及ぼすのか、そのメカニズムを明らかにするキャリア停滞モデルについてご紹介いたします。
執筆者
技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員
藤村 直子
人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)、リクルートにて人事アセスメントの研究・開発、新規事業企画等に従事した後、人材紹介サービス会社での経営人材キャリア開発支援等を経て、2007年より現職。経験学習と持論形成、中高年のキャリア等に関する調査・研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集・調査を行う。
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