青山学院大学 山本 寛氏 “キャリアの見通しの連続性”に着目する ―自律的キャリア開発の考え方

これまで、昇進場面におけるキャリア・プラトー、転職など組織間キャリアの研究、リテンションなど、時代背景をふまえた研究を進めてこられ、日本労務学会賞(学術賞)経営行動科学学会優秀事例賞、青山学院学術褒章をはじめとした数々の受賞経験をおもちの青山学院大学山本寛先生に、最近の研究テーマについてお話を伺いました。


“キャリアの見通し”の連続

― 山本先生が最近関心をおもちの研究テーマは何ですか?

近年、リテンションとキャリア開発との関係についての研究をしてきましたが、企業のリテンション施策は景気の影響を大いに受けるということもあり、今後はキャリアの連続性に関して個人の意識に着目して研究を深めていきたいと考えています。

リーマンショックがなければ、中高年雇用、2007年問題、人材獲得競争など、企業が一人ひとりを大事にしていく個別管理の流れに向かったかもしれませんが、現状、個々のキャリアの連続性にまで配慮した施策をとっているところばかりではありません。不透明な環境下で、個々のキャリア開発に関して企業に依存できないといわれて久しいですが、今まさに個人のキャリアについて考えることが重要だと思うのです。

キャリアに関する研究としては、いくつかのライフステージに分けてとらえる段階説で議論が止まっていることに問題意識をもっています。キャリアのつぎの段階に移るタイミングでのキャリア・トランジションの話もありますが、その前後でどう変わったかという点にとどまっていて、実際には連続性のあるキャリアについて全体としてとらえきれていません。

5年前に『転職とキャリアの研究』(創成社)を出版した際にも実感しましたが、追跡調査をしたデータや研究が少ないのです。たとえば、転職を通じたキャリア発達には、転職できるという自信や、キャリアにおいて自分が成功できるという自己効力感が重要ですが、それは転職後何年くらい続くものなのか?40歳、50歳までずっと同じ効力感を維持しながら突っ走ることができるのか?そうではないとすれば、過去の意識や考えが将来どこでどう効いてくるのか?このようなことを明らかにする、キャリアの連続性に基づいた理論やモデルが必要だと思っています。

― “キャリアの連続性”に関心をおもちなのですね。


たとえば、ある個人が就職前にキャリアについてどう考えていたのか、入社後の試練をどう乗り越え早期離職の問題をクリアしたのか、いわゆる「40歳のキャリアの危機」にどう対処したのか、定年後の再雇用においてどのような働き方をしたいのか、というように、入社初期・ミドル・定年前後などと分断してある年代だけをとらえるのではなく、トータルで働く人を追いかけていきたいのです。

東京大学の玄田有史先生の「希望学」ではないですが、希望=見通しだと思っています。過去やったことが今の自分に何かつながっている、限界はあるが無駄なことはない、先の自分のマイルストーンとつながっている。目標を立てて一生懸命やろうというコミットメントに必要なのは、過去から将来へとつながった流れのなかでキャリアの見通しをとらえることであり、先を模索していけば道があるという信念なのです。キャリアの積み重ね、連続性を認識することは重要なことであると考えています。

“キャリアの見通し”をもつことの難しさ

― キャリアの見通しをもつことが重要ということですが、現状はどうなのでしょうか?

キャリアの見通しをもつことは簡単なことではありません。正規・非正規社員の壁や、親の介護の必要性など自分の生活基盤から考えるとできること、できないことがあります。それらを取り除いて考えていくと、たとえば中高年で、会社から専門知識を身に付けなさいと言われ続け、実績を積んできた人ほど、仕事や会社に愛着があって現状から離れられない、先の見通しをもてないということがあります。そうすると、場合によってはその職業や企業の盛衰に巻き込まれることになります。企業の専門職制度がうまく機能しなかったという背景も関係あるでしょう。自社の競争優位やDNAと結びつけて、その会社でその人にやってもらう仕事を考えていく必要があるなかで、必要な専門性について明確にできなかったという事情もあります。

― ひと昔前であれば、上司や先輩社員を見ながら“自分もあの位の年齢には課長になって”というように、ある意味会社に敷かれたレールの上を昇っていくこと、それが多くの人びとにとって自然にキャリアの見通しになっていたのですね。昇進すること自体に、あまり動機づけられなくなったということもキャリアの見通しをもつ上で影響があるのでしょうか?

意識調査の結果などでも、昇進したくない、専門職になりたいという人は、昔より増えているといわれています。管理職がプレイヤー化し、上と下の板ばさみで大変だったり、リストラの状況も見てきたりしていると、なりたがらないという人もいるでしょう。

ただ、アンケート調査でこういう質問はあまり見ませんが、「定年まで平社員のままでよいか?」と聞かれれば、そう思うと答える人の割合はそう高くはないでしょう。

これは日本人独特の横並び意識、相対的な感覚や歴史や慣習から見るという傾向が関係していると思います。他の人と同じ位は出世したい、銀行でいえば支店長にはなりたい、という人はいても、それもなりたくないという人は多くはないのではないでしょうか。

一方で、自分の周囲にも管理職に3分の1もなっていない、他の会社でも同様ということになれば、これから先そういう縛りもなくなってくるのかもしれません。

ますます、自分でキャリアを考えなくてはいけない状況になってくるのではないでしょうか。

― 昇進の機会が少なくなってくると、今後は仕事自体で動機づけられ、それによってキャリアの見通しをもてるようになるということもあるのでしょうか?

もちろん、仕事自体が面白いということはあります。しかし、それはずっと続くわけではありません。覚えたらだんだん仕事ができるようになって、さらに高度になり、効率化して、となると、中期的に動機づけられた状態を維持し続けるのは非常に困難です。

また、企業が成長していて、成長分野に人を振り向け、アサインされた本人も成長感をもって、というような状況であればよいですが、継続的にそのような仕事を提供し続けるのは企業としても難しい環境になっています。

キャリアの見通しをもつ上では、配属や仕事をアサインする企業・上司と個人の双方が努力し続けることの重要性が増していくと思います。

“キャリアの見通し”をもてるようにするには

― 個人にとって、キャリアの見通しというのは常に継続して意識すべきものなのでしょうか?

毎日それを考え続けているわけではなく、節目で考えるということだと思います。とはいえ、大きな転機のときだけでなく、日常の仕事のなかで考えることも重要です。危機的な状況に陥ったとき、最低限の見通しをどの程度もてるかが分かれ道になります。

― どうしたら見通しをもてるようになるのでしょうか?

ひとつには、入社後だけでなく、中学・高校での進路指導やキャリア教育から取り組むことができればと考えています。

医学部など職業訓練的な色合いの濃い分野では、大学入学のときに方向性が決まってしまい、それ以外の可能性を切ってしまうことになります。逆に文系などは、卒業後の進路の選択肢は広い一方で、きちんと考え始めるのは20歳過ぎてからです。

また、日常から離れた時間をもつという方法も考えられます。日本で長期休暇・サバティカルを導入している企業は少ないでしょうが、これまでと全く異なる立場になって、繰り返しの毎日から離れるとだいぶ変わります。女性だけでなく男性の育児休暇もよいかもしれません。1〜2週間ではだめで、数カ月の時間が必要です。

最近では、大学生も海外に行く人が減ってきたようです。就職活動が厳しく、3年生後期からは就職オリエンテーションなどにも出席したりして、ますます留学しなくなっています。1〜2年卒業時期をずらしてでもできるとよいのですが、日本の就職事情ではその許容度がまだないからですね。中学・高校でのキャリア教育でも、「インドのガンジス川流域で人びとが炊事、洗濯など生活のほとんどを川に依存するような状況を見て、それまでもっていた生活や労働に対する価値観が大きく変わった」などという、統計でいえば外れ値のようないろいろなパターンを見せられたらよいと思います。

このような機会をもてない場合にも、これまでのキャリアを人に話して評価してもらうという方法もあります。連続性や価値観に基づいた興味や能力などについて、プレゼンテーションとして人に説明しようとするだけで、意識が変わるでしょう。ある時点の状況をキャリアの流れのなかでとらえると、その時点での意味合いが変わって見えてきます。2〜3回転職すればわかるということもありますが、必ずしもそういうわけにはいかないですしね。

― 最後に、今後の研究活動の抱負についてお聞かせください。

キャリアの連続性を実証的に研究していくには、同じ人に継続的にデータをとって追跡調査をしていくことが必要ですが、なかなか難しいことです。今はネット調査で4年目に挑戦しているところで、これからも機会を見つけながら継続した実証研究を進めていきたいと考えています。

― 本日は、ありがとうございました。

(インタビュー・文:主任研究員 今城志保/主任研究員 本合暁詩/主任研究員 藤村直子)

研究者PROFILE

山本 寛(やまもと ひろし)氏
青山学院大学 経営学部 兼 大学院経営学研究科 教授

●略歴
1957年生まれ。1979年早稲田大学政治経済学部卒業、その後銀行等へ勤務、大学院を経て、2003年より現職。博士(経営学)。日本労務学会理事、国際戦略経営研究学会理事。専門は、人的資源管理論、組織行動論、キャリア・ディベロップメント。日本労務学会賞(奨励賞)、日本応用心理学会奨励賞、経営科学文献賞、日本労務学会賞(学術賞)、経営行動科学学会優秀事例賞、青山学院学術褒賞受賞。

●主な著書(単著)
『人材定着のマネジメント-経営組織のリテンション研究』中央経済社 2009年
『自分のキャリアを磨く方法-あなたの評価が低い理由』創成社新書 2008年
『転職とキャリアの研究[改訂版]-組織間キャリア発達の観点から』創成社 2008年
『昇進の研究[新訂版]-キャリア・プラト-現象の観点から』創成社 2006年
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