見通し不全型と意欲喪失型のキャリア停滞 昇進見込みの低さがキャリアの停滞感や意欲低下に及ぼす影響

執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保
執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
藤村 直子

前回の研究レポート「やっぱり部長くらいにはなりたい〜管理職志向・専門職志向と昇進希望の実態調査報告〜」では、専門職志向をもつ人の多くは昇進を希望しているものの、希望する役職まで昇進することは難しいと思っている人が大半であることについてご紹介しました。本レポートでは、調査分析結果を用いて、昇進見込みの低さがキャリアの停滞感や意欲の低下にどのように影響を及ぼすのか、そのメカニズムについてもう少し具体的にみていくことにします。


キャリア停滞モデルの仮説

これまで多くの日本企業では、一定レベルまでの昇進機会を提供することを従業員に対する動機付けの手段のひとつとして用いてきました。昨年弊社で実施した「昇進・昇格実態調査2009」においても、管理職ポスト不足時の対応としては「相当する専門職等に昇進させる」(33.8%)が最も多い回答でした。管理職・専門職の複線的人事制度運用の目的についても、「管理職ポストが一杯なので、同等の能力を有する者を処遇するため」が1991年時点とは順位が逆転して「スペシャリスト育成のため」を上回るというように、専門職制度が管理職ポスト不足の受け皿としての意味合いを強めています。

進む高齢化によって中高齢層の人員が増大し、管理職ポストの需給バランスがさらに崩れた場合、受け皿としての専門職制度の運用を再考することや、管理職になれなくても仕事にやりがいや誇りを感じることができるような昇進に代わる動機付けの手段が必要になります。65歳までの各種継続雇用施策の導入に伴い、個人にとっても働き続ける期間が長くなる中、どのような条件が整えば昇進を前提とせずに長いキャリアを生き生きと働き続けられるかは、企業に勤める多くの人にとって今後重要性が増す課題となるでしょう。

これらを考える前提を把握するために、本研究では、昇進見込みの低さがキャリアの停滞感や意欲の低下にどれくらい影響を及ぼすのか、影響を及ぼすとしたらどのような構造になっているのかを明らかにすることを試みました。昇進見込み以外の要因として、仕事そのもののやりがいを考慮した「キャリア停滞モデル」の仮説は図表01のとおりです。

図表01 「キャリア停滞モデル」の仮説

このモデルの特徴としては、以下3つのとおりです。

■ ポイント1:仕事そのもののやりがいをキャリア停滞感の要因に加える

キャリアの停滞感や意欲の低下が見られる状態である「キャリア・プラトー」については前回のレポートでもご紹介したとおりですが、先行研究では昇進に関するプラトーを扱ったものが多くなっています。その一方で、昇進に関するプラトーと対比させた「仕事内容のプラトー(job content plateau)」という“仕事の内容や責任が挑戦しがいのあるものではない状態”を指す概念があります(Armstrong-Stassen(2008))。現実の場面を考えても、昇進以外の動機付け要因として「仕事そのもののやりがい」を想定することができます。そこで、「昇進見込みの低さ」に加えて「仕事そのもののやりがいの低下」も「キャリア停滞感」に影響を及ぼしていると仮定しました。

また、仕事のやりがいは、その時々の仕事の面白さだけでなく、その仕事が自分の専門性向上に貢献すると思われる場合に高まると考え、“自分の経験が蓄積され、専門性の形成につながっている”という「キャリアの継続性」の認知があるほど仕事のやりがいが上がると仮定しました。

■ポイント2:2段階のキャリア停滞感を想定する

期待理論(Vroom, 1964)によれば、自分が価値を感じる結果があり、その結果にいたる道筋があり、それを実現できる可能性があるときにそこに向かって動機付けられると言われています。昇進が、ある人にとって価値を感じる結果(高い賃金、社会的ステータス、社内での権力掌握、よりスケールの大きな仕事など)をもたらすものであり、昇進への道筋が明確で(仕事で成果をあげること、一定年次になることなど)、“これだけの成果をあげれば、あと○年で昇進できるだろう”“○年目くらいになれば課長にはなれるだろう”という見通しがもてれば一生懸命仕事をする、という考え方です。かつての日本企業では、そのような見通しをもちやすい時代もありました。

しかし、市況の悪化により努力が成果につながりづらい、これまで同様の成果をあげてもポスト不足で昇進できない、というような状況に陥った場合、昇進の見込みがないと感じることになるでしょう。このような結果への道筋が絶たれた状態を「見通し不全型の停滞」と置きました。

そして、会社、部署、仕事、上司などの自らをとりまく環境が変わっても昇進できなかったり、環境を変えること自体ができなかった場合に自分にはその能力がないと考えたり、昇進を意味のないものと思い直したりして、望んだ結果を手に入れることをあきらめてしまう状態を「意欲喪失型の停滞」としました。本研究では、「見通し不全型の停滞」を経由して「意欲喪失型の停滞」に行き着くと考えました。

■ポイント3:結果変数を新天地志向とする

キャリア・プラトーに関する研究では、転職や離職の意図が結果変数として用いられることが多いですが、その関係性については一貫した結果が得られていません。これは、研究対象とした職種に関する転職市場の状況や給与水準の違いなど様々な要因が考えられます。日本では、先行研究の多くが行われている欧米に比べると転職の割合はまだ低いため、本研究では転職意図に加えて、同じ会社の中での異動希望、仕事内容の変更希望も含めて「新天地志向」として、キャリアの停滞がどのように影響を及ぼすかを検討することにしました。

分析結果

分析対象データは、前回のレポートで用いた「30代〜50代ビジネスパーソンのキャリア意識調査」と同様のものです(30歳〜54歳の会社勤務男性500名)。

図表01の仮説モデルに対応した調査項目を用いて、共分散構造分析を行った結果が図表02となります。

図表02 昇進可能性認知と仕事のやりがいがキャリア停滞感・意欲低下に及ぼす影響(共分散構造分析結果)

※モデルの適合度指標
GFIおよびAGFI:モデルがデータをどの程度予測できるかを表す指標で、一般に0.9以上であればモデルのあてはまりが良いとされる
RMSEA:モデルの複雑さの影響を取り除いてモデルの適合度を表す指標で、一般に0.08未満であればモデルのあてはまりが良いとされる

(1)昇進可能性・仕事のやりがいがキャリア停滞感に及ぼす影響とは

●「昇進可能性認知」「仕事のやりがい」から「見通し不全型の停滞・意欲低下」への影響
「昇進可能性認知」や「仕事のやりがい」が低いと、「見通し不全型の停滞・意欲低下」を生じることが確認されました。「昇進可能性認知」からの影響のほうが大きいものの(-.53)、「仕事のやりがい」からも一定の影響があること(-.22)は先行研究とも符合する結果でした。

●「昇進可能性認知」「キャリアの継続性認知」から「仕事のやりがい」への影響
「昇進可能性認知」が高いほど「仕事のやりがい」が上がることが確認されました(.19)。一方、「キャリアの継続性認知」のほうが「仕事のやりがい」への影響は大きく(.47)、自分のキャリアの核となる仕事経験を積むことの重要性が示唆されました。

(2)2段階のキャリア停滞感は存在するのか

●「見通し不全型の停滞感」から「意欲喪失型の停滞感」への影響
「見通し不全型の停滞感」が「意欲喪失型の停滞感」につながるとの仮説が検証されました(.50)。「昇進可能性認知」から「意欲喪失型の停滞感」への直接の影響はモデル上統計的に有意とならなかったことから、昇進の可能性がないと感じた場合にはキャリアの見通しに不透明感が生じ(「見通し不全型の停滞感」)、それを変えたいという欲求もなく、あきらめが生じた場合に意欲を喪失すること(「意欲喪失型の停滞感」)が確認されました。

(3)新天地志向に何が影響を及ぼすのか

●「見通し不全型の停滞感」「意欲喪失型の停滞感」から「新天地志向」への影響
見通し不全の状態にある人ほど新天地を求めていることがわかりました(.52)。これは、昇進ややりがいのある仕事をあきらめたわけではなく、環境を変えることによってそれらを実現することに期待をもっているためと考えられます。一方、意欲喪失の状態にいる人は、現状を変えようとはしないことを示唆しています(-.22)。今の状態では望む状態を得られないとわかっていても、なんらかの理由で現状を変えることをあきらめている様子がうかがえます。

●「昇進可能性認知」「キャリアの継続性認知」「仕事のやりがい」から「新天地志向」への影響
現状を変えたいとする「新天地志向」は、「昇進可能性認知」「キャリアの継続性認知」「仕事のやりがい」からも直接有意な影響を受けていました。「キャリアの継続性認知」「仕事のやりがい」の低い人ほど「新天地志向」が高く(-.12、-.13)、現状への不満から変化を志向しているものと考えられます。一方、「昇進可能性認知」については、昇進の可能性があると思っている人ほど変化を求めているという結果になりました。自分への自信から、より良い環境を志向しているのかもしれません。


本研究ではキャリア停滞の結果生じる仕事への意欲低下を2パターン想定しました。分析の結果、「見通し不全型の停滞感」には昇進機会の減少が大きく影響し、「見通し不全型の停滞感」を経て「意欲喪失型の停滞感」に至る可能性が示されました。これら意欲低下のパターンの違いによって、「新天地志向」への影響が異なることも確認されました。「見通し不全型の停滞感」の場合には環境に不満はもっていても何とかそれを変えたいとの意図が見えるものの、「意欲喪失型の停滞感」の場合は現状に甘んじるというような傾向の違いがありました。これらが本人と企業にとって今後どのような影響をもたらすかについては、継続して議論を深めていきたいと考えています。

また、“自分の経験が蓄積され、専門性の形成につながっている”という「キャリアの継続性の認知」は「仕事のやりがい」に影響を及ぼし、それが「見通し不全型の停滞感」あるいは「意欲喪失型の停滞感」につながることも確認されました。「キャリアの継続性」や「仕事のやりがい」に着目することは、昇進機会の減少に直面しても働く意欲をもち続けるための一つの可能性を示唆しています。

今回、昇進可能性の認知がどのようにキャリアの停滞感・仕事への意欲低下に影響を及ぼすのかについて検証を行いましたが、昇進の意味合いは管理職志向と専門職志向とでは異なることが想定されます。また、専門職志向だけを対象とした場合、昇進可能性が仕事の動機を下げる程度は低いとも考えられます。そこで、これらのキャリア停滞感・意欲低下への影響モデルが、管理職志向・専門職志向によって相違があるのかどうか研究を進め、その結果についても今後ご紹介していきたいと思います。

【text:組織行動研究所 主任研究員 今城志保 藤村直子 本合暁詩】

※記事の内容および所属等は掲載時点のものとなります。

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