- 公開日:2023/01/06
- 更新日:2024/05/16
リーダーシップに関しては、「リーダーシップ論は百花繚乱」といわれるほど、過去から現在にわたり、多くの研究者によって研究がなされると共に、さまざまな立場の人によって語られ、多種多様な理論・考え方が提示されている。本稿では、リーダーシップ研究の変遷と共に、本特集で焦点を当てる「シェアド・リーダーシップ」の概論を紹介する。
- 目次
- 「リーダーシップ」とは?
- リーダーシップ研究の変遷
- シェアド・リーダーシップとは?
- シェアド・リーダーシップにより高まるもの
- シェアド・リーダーシップを高めるもの
- 他のリーダーシップを否定するものではない
- シェアド・リーダーシップの可能性
「リーダーシップ」とは?
書店では、自己啓発、人事実務、経営学、心理学など、さまざまなコーナーに「リーダーシップ」に関する書籍がある。著者は、研究者、経営者、スポーツ選手など多岐にわたる。アニメやドラマの登場人物を素材としたリーダーシップ本まで存在する。皆さんの手元にも、リーダーシップに関する書籍があるかもしれない。では、「リーダーシップ」について、皆さんはどのようなイメージをもたれているだろうか。
例えば、「統率力」や「傾聴力」のような、リーダーの発揮している行動をイメージする人がいるかもしれない。また、「熱意がある人」や「判断力がある人」のように、リーダーの特性をイメージする人もいるかもしれない。
他にも、「特別な人が備えるもの」や「訓練で身につくもの」であったり、「良いもの」や「悪いもの」であったり、実にさまざまなイメージがあるのではなかろうか。それゆえ、「リーダーシップ」について議論を行うと、話が噛み合わなくなることも少なくない。
このような観点や定義の多様性は、学術的な研究にも見られる。よって、リーダーシップに関する議論をスムーズに行うためには、リーダーシップ研究の概観を把握し、その時々の焦点を明らかにすることが有効である。
そこで、本稿ではまず、Stogdill(1950)*1とも符合する石川(2016*2, 2022*3)にならい、リーダーシップを、「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーに及ぼす影響力」とした上で、いくつかの代表的なリーダーシップ研究について紹介する。
リーダーシップ研究の変遷
主要な研究については、国内では淵上(2009)*4 や石川(2022)、海外ではNorthhouse(2021)*5 などで体系的に紹介されている。ここでは、それらを参考にリーダーシップ論の変遷の概要を紹介する。本稿では、リーダーシップ論の変遷・体系を、大きく図表1のように3カテゴリでまとめる。
<図表1>さまざまなリーダーシップ研究の例
1つ目のカテゴリは、「リーダーの選抜・育成」に焦点を当てたものである。
このカテゴリに属するのは、
・1930年頃から始まる、リーダーのもつ「資質」に着目する特性論
・1950年頃から始まる、リーダーのとる「行動」に着目する行動論
・1980年頃から始まる、リーダーの「開発・育成のために必要な経験」に着目する開発論
がある。
これらは、例えば、「リーダーシップは資質のみでは決まらないため、行動にも着目」のように、過去の研究の限界に対し、新しい研究が展開してきた側面がある。それゆえ、「特性論は古い」のように考えられるケースもある。一方、現在でもリーダーの発掘、あるいは問題を起こしかねない候補者の見極めなどの関心から特性に着目した研究もされるなど、それぞれの研究は現在でも続けられている点に留意したい。
2つ目のカテゴリは、その時代や環境に求められる「リーダーシップのタイプ」に焦点を当てたもので、「コンセプト論」ともいわれる研究群である。企業変革の関心が高まった1980年代頃は「変革型」や「カリスマ型」など、力強いリーダーシップが注目された。その後、2000年代になると、企業不祥事が相次いだことから、「サーバント型」「オーセンティック型」「倫理型」など、倫理性や謙虚さを伴うリーダーシップが脚光を浴びることとなった。
そして、3つ目のカテゴリは、リーダーのみでなく、リーダーと共に働く「メンバー」にも焦点を当てるものである。このカテゴリにあてはまるものとしては、メンバーの特徴に合わせたリーダーの関わり、メンバーとリーダーの関係性、より能動的な構成員としての「フォロワー/フォロワーシップ」などの研究がなされてきた。
このような研究の変遷を経て、VUCAという言葉に代表される激しく、複雑な環境のなか、「1人のリーダーが正解を出すことの限界」や「変化への機敏な適応」に対応するリーダーシップとして近年注目されるものに、シェアド・リーダーシップ理論がある。
シェアド・リーダーシップとは?
Zhuら(2018)*15 の展望論文のなかで最も引用が多いとされるPearce&Conger(2003)*16 では、シェアド・リーダーシップは、「グループまたは組織、あるいはその両方の目的の達成に向けて個人がお互いにリードし合うことを目的としたグループに所属する個人の間の動的かつ相互作用的な影響力のプロセス」と定義されている。また、Zhuら(2018)では、さまざまな定義に共通するものとして、「同僚間での水平的な影響力」「チーム内での自然発生的な現象」、そして「リーダーシップの役割や影響力が集団内で分散」の3点が挙げられている。
また、石川(2016)では、シェアド・リーダーシップは、「職場やチームのメンバーが必要なときに必要なリーダーシップを発揮し、誰かがリーダーシップを発揮しているときには、他のメンバーはフォロワーシップに徹するような職場やチームの状態」と定義されている。主な特徴としては、「全員がリーダーシップを発揮している」「誰かがリーダーシップを発揮しており、それが適切と感じたときには、他のメンバーはフォロワーシップに徹する」「リーダーとフォロワーが流動的である」の3つが挙げられている。
いずれからも、図表2のように、シェアド・リーダーシップは「垂直的ではなく、水平的」「特定の人物ではなく、多数の人物で分散」「流動的、自然発生的」な特徴をもつものだといえる。
<図表2>シェアド・リーダーシップのイメージ
身近な例を考えると、新商品開発で、「ユーザーのニーズを具体化する」「商品コンセプトを検討する」「必要な生産体制を構築する」など、フェーズに応じて、マーケティング担当、生産担当などがそれぞれリーダーシップを発揮し合う現象は、シェアド・リーダーシップが発露した場面だといえるだろう。
また、職場の会議で、メンバーがそれぞれの得意領域の情報を共有したり、発散や収束など得意な場面で主体者が変わったりする場面があるが、これもシェアド・リーダーシップが発揮された場面と考えられる。
このように、事の大小を問わなければ、シェアド・リーダーシップは日常にちりばめられた現象なのである。
シェアド・リーダーシップにより高まるもの
では、シェアド・リーダーシップは、組織や個人にとって、どのような効果をもたらすのだろうか。また、どのような要因が、シェアド・リーダーシップを高めるのだろうか。これらについて、先行研究をもとに図式化したものが図表3である。まずはシェアド・リーダーシップの効果について確認する。
<図表3>シェアド・リーダーシップに関連するメカニズム
例えばZhu(2018)の展望論文では、シェアド・リーダーシップはチームの業績、創造性、満足度などの肯定的感情に対して正の効果をもたらすとされており、特に業績や肯定的感情との間の正の相関はWuら(2020)*17 のメタ分析でも確認されている。
これらの成果は、シェアド・リーダーシップによって直接高まる部分もあれば、チームのプロセスの改善を経由して高まる部分もある。チーム・プロセスとして、Zhuら(2018)では、メンタルモデルの共有や心理的安全性などの「認知・動機付けプロセス」、感情の調整などの「感情プロセス」、組織学習や情報の共有などの「行動プロセス」が挙げられている。
なお、シェアド・リーダーシップと成果の関係の強弱に影響を与える要因は、図表3の調整要因に該当する。例えば石川(2016)では、「取り巻く環境の曖昧さ」「創造性が求められる度合い」「対応の素早さが求められる度合い」「チームメンバーの専門性」などが高い場合、シェアド・リーダーシップがチーム成果に寄与しやすいとしている。
シェアド・リーダーシップを高めるもの
では、シェアド・リーダーシップは、どのような要因により高まるのだろうか。第一の要因は、チーム構成員の多様性やチーム結成からの期間など、「チームの特徴」である。
第二の要因は、「目標の共有」「ソーシャル・サポート」「意見の尊重」のような、「チームの環境・状態」である。これらは、Wuら(2020)のメタ分析において、いずれもシェアド・リーダーシップとの間に0.4程度の正の相関が示されている。
なお、シェアド・リーダーシップについて、「皆がそれぞれリーダーシップを発揮したら、ばらばらになってしまうのではないか?」という感想をもたれることもあるが、「目標の共有」や「意見の尊重」が前提となることを考えれば、シェアド・リーダーシップの発揮が組織の混乱につながるものではないとご理解いただけるのではなかろうか。
第三の要因は、該当組織の「公式リーダーの特徴」である。メンバーに権限移譲を行っていること、謙虚であることなどが、シェアド・リーダーシップを高めるとされる。シェアド・リーダーシップの発揮状況は、チームの特徴や環境だけでなく、公式リーダーの振る舞いによっても変化することは留意すべきポイントである。
他のリーダーシップを否定するものではない
シェアド・リーダーシップについては、「公式リーダー不要」や、「変革型リーダーシップ不要」のように、他のリーダーやリーダーシップのあり方を否定するもののように捉えられることもある。しかし、それらは多くの場合、誤解であるといえる。
まず、組織を機能させるための諸活動を司る「マネジメント」と、他者に及ぼす影響力である「リーダーシップ」については、対比・対立するものとし、リーダーシップを重視する考え方も見られるが、チームが目標を達成するためには、両者が必要である。そして、「マネジメント」に責任をもつのは、多くの場合、「公式リーダー」となる管理職である。よって、公式リーダーの存在が否定されるものではない。
また、先に述べたようなシェアド・リーダーシップが有効な場面もあれば、それ以外のリーダーシップ、時には垂直的なリーダーシップが有効な場面もある。また、「変革型リーダーシップをシェアする」のように、「どのようなリーダーシップをシェアするのか」という観点もある。すなわち、シェアド・リーダーシップは、他のリーダーシップを必ずしも否定しない。
新しいリーダーシップ論が、過去のリーダーシップ論を必ずしも否定するものではないこと、新しいリーダーシップ論が万能なものではないことについては、十分に注意する必要がある。
シェアド・リーダーシップの可能性
1人では見通せない不確実性への対処、多様な専門家による協働などに限らず、昨今の職場やチームの環境を考えると、シェアド・リーダーシップはさらなる可能性を秘めている。
例えば、弊社調査(2021)*18 でも示されているように、「マネジャーの負荷が過重になっている」と、よくいわれる。よって、1人のリーダーによるチーム運営が難しくなっていることを考えると、シェアド・リーダーシップは有効な解決策の候補と考えられる。
例えば、
・年功序列の度合いがかつてよりも低下すると共に、複線型人事制度の導入などにより、チームにおける垂直的な影響力が低下している
・同時に、各々が高いレベルの専門性や各自の得意領域をもつことで、チームにおける役割分担がしやすくなっている
・主体性や自律性が必要とされる機運が高まっている
ことなどを考えると、シェアド・リーダーシップの状態がより発揮されやすくなるのではないかと推察される。
また、公式リーダーの1つである管理職について、「なりたくない人」が増えているという悩みも耳にする。しかし、小誌42号*19 の調査報告に示されているように、「管理職をやってみたら、案外良かった」という感想をもたれる方も少なくない。そう考えると、シェアド・リーダーシップの状態でリーダー体験をすることは、管理職志向を高めるきっかけとなる可能性もある。
今後も、このようなシェアド・リーダーシップが及ぼし得るさまざまな効果に関する考察を深めながら、企業などにおける実践のあり方について検討を進めていきたいと考えている。
*1 Stogdill, R. M. (1950). Leadership, membership and organization. Psychological Bulletin, 47(1), 1.
*2 石川淳(2016).シェアド・リーダーシップ:チーム全員の影響力が職場を強くする 中央経済社
*3 石川淳(2022).リーダーシップの理論 中央経済社
*4 淵上克義 (2009). リーダーシップ研究の動向と課題. 組織科学, 43(2), 4-15.
*5 Northhouse, P. G. (2021). Leadership: Theory and Practice (Ninth ed.). Thousand Oaks, CA: Sage.
*6 Stogdill, R. M. (1948). Personal factors associated with leadership: A survey of the literature. The Journal of Psychology, 25(1), 35-71.
*7 三隅二不二(1966).新しいリーダーシップ : 集団指導の行動科学 ダイヤモンド社
*8 McCall, M. W. Jr., Lombardo, M. M., & Morrison, A. M. (1988). The lessons of experience: How successful executives develop on the job. Lexington, MA: Lexington Books.
*9 Bass, B., & Avolio, B. J. (Eds.). (1994). Improving Organizational Effectiveness: Through Transformational Leadership, Newbury Park, California. SAGE Publications.
*10 Greenleaf, R. K. (1977). Servant leadership. New York: Paulist Press.
*11 George, B. (2003). Authentic leadership: Rediscovering the secrets to creating lasting value (Vol. 18). John Wiley & Sons.
*12 Hersey, P., & Blanchard, K. H. (1977). Management of Organizational Behavior: Utilizing Human Resources (Third ed.). Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.
*13 Graen, G. B., & Uhl-Bien, M. (1995). Relationship-based approach to leadership: Development of leader-member exchange (LMX) theory of leadership over 25 years: Applying a multi-level multi-domain perspective. The Leadership Quarterly, 6(2),219-247.
*14 Kelley, R. (1992). The Power of Followership. New York, NY: Doubleday.
*15 Zhu, J., Liao, Z., Yam, K. C., & Johnson, R. E. (2018). Shared leadership: A state‐ofthe‐art review and future research agenda. Journal of Organizational Behavior, 39(7),834-852.
*16 Pearce, C. L., & Conger, J. A. (2003). All those years ago. In Pearce, C. L., & Conger, J.A. (Eds.). Shared leadership: Reframing the hows and whys of leadership (pp. 1ー18).Thousand Oaks, CA: Sage.
*17 Wu, Q., Cormican, K., & Chen, G. (2020). A meta-analysis of shared leadership: Antecedents, consequences, and moderators. Journal of Leadership & Organizational Studies, 27(1), 49-64.
*18 リクルートマネジメントソリューションズ(2021).人材マネジメント実態調査2021
*19 リクルートマネジメントソリューションズ(2016).管理職意向の変化に関する実態調査
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.68 特集1「自律型組織を育むシェアド・リーダーシップ」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
執筆者
技術開発統括部
研究本部
HR Analytics & Technology Lab
所長
入江 崇介
2002年HRR入社。アセスメント、トレーニング、組織開発の商品開発・研究に携わり、現在は人事データ活用や、そのための測定・解析技術の研究に従事する。
日本学術会議協力学術研究団体人材育成学会常任理事。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上席研究員。昭和女子大学非常勤講師。新たな公務員人事管理に関する勉強会委員。
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