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ワーク・エンゲイジメントとは何か

ワーク・エンゲイジメントの理論的背景〜そのメカニズムと応用のポイント〜

  • 公開日:2020/04/13
  • 更新日:2024/03/25
ワーク・エンゲイジメントの理論的背景~そのメカニズムと応用のポイント~

仕事に携わるなか、人はさまざまな心理状態に置かれる。そして、その心理状態が、さまざまな認知や行動に影響を及ぼしている。ここでは、そのような心理状態の1つとして最近注目されている「ワーク・エンゲイジメント」の概念や、実務での応用の観点について紹介する。

ワーク・エンゲイジメントとは
ワーク・エンゲイジメントと類似概念の整理
Why & What:ワーク・エンゲイジメントは何により高まり、何を高めるのか
How:どうすれば、ワーク・エンゲイジメントが高まるか
働く環境の変化とワーク・エンゲイジメント
他のウェルビーイングやメンタルヘルス指標にも留意
これからの「個と組織」とワーク・エンゲイジメント

ワーク・エンゲイジメントとは

ワーク・エンゲイジメントは、ネガティブな要因に焦点が当たりがちだった心理学および産業保健心理学において、ポジティブな要因にも光を当てようという、近年のポジティブ心理学のトレンドのなかで提唱された概念の1つである。

よく用いられるシャウフェリら(2002)の定義によると、「ワーク・エンゲイジメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる*1。そのエンゲイジメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である」とされる。

ポイントは、
 ・個人の仕事への肯定的な態度・認知
 ・活動水準が高い状態
 ・個人と仕事全般との関係性
 ・一時的な経験として変動する面もあるが、基本的には持続的かつ安定的な状態
を示す概念であることである。後に示すとおり、個人および組織、両者に対して肯定的な影響を及ぼす中核的な概念であり、近年、学界のみならず、ビジネス界においても注目を集めている。

例えば、厚生労働省の「労働経済の分析」において、平成30年版ではコラムとして、令和元年版では「第Ⅱ部 第3章『働きがい』をもって働くことのできる環境の実現に向けて」として詳細に取り上げられていることは、その証左といえる*2。

なお、測定のための尺度として代表的なものはユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度であり、17項目版、9項目版、3項目版がある。シャウフェリら(2018)による3項目版では、「活力:仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「熱意:仕事に熱心である」「没頭:仕事をしていると、時間が経つのが早い」が用いられている*3。

ワーク・エンゲイジメントと類似概念の整理

まず、類似した用語に「従業員エンゲイジメント(エンプロイー・エンゲイジメント)」があるが、こちらは組織に対するコミットメントや貢献意欲、すなわち愛社精神のようなものを示すことが多く、ワーク・エンゲイジメントとは異なる概念とされている。

また、ある行動に駆り立てる構造や過程に関連する概念である「ワーク・モチベーション」とも異なる概念とされている。その他、肯定的な感情としてよく用いられる「職務満足感」については、ワーク・エンゲイジメントのように仕事を「している」ときの感情や認知ではなく、かつ仕事に没頭しているわけではないため活動水準が低い状態であることから、異なる概念とされている。

その他、図表1のとおり、さまざまな類似概念があるが、それらと重複する部分もありつつ、固有の概念となっているため、着目すべき有用な概念と考えられる。

図表1 ワークエンゲイジメントと関連概念

Why & What:ワーク・エンゲイジメントは何により高まり、何を高めるのか

では、ワーク・エンゲイジメントは、一体何を高めるのだろうか。また、何によって高められるのだろうか。このような認知・感情を取り巻く要因構造については、さまざまなモデルが提唱されているが、ワーク・エンゲイジメントとの関係でよく示されるものは、図表2の「仕事の要求度―資源モデル(JD-Rモデル:Job Demands-Resource model)」である。

図表2 ワーク・エンゲイジメントに関する、仕事の要求度-資源モデル(JDーRモデル)

大きな枠組みとしては、

・「仕事の資源」と「個人の資源」は、それぞれ、また相互に関わり合いながらワーク・エンゲイジメントを高める

・仕事の要求度とコントロールのバランスがとれない場合、従業員がストレスを感じたり、資源の活用ができなくなったりするため、ワーク・エンゲイジメントを低下させる

・ワーク・エンゲイジメントは、個人、および組織のポジティブなアウトカムにつながる

というものである。 

なお、「仕事の要求度」とは、「仕事の特徴であり、従業員に身体的努力や心理的努力を要求する程度」である。一種のストレッサーであるが、コントロールができる範囲であれば個人にとって挑戦をもたらす要因となるものもある。 

「仕事の資源」は、「仕事において、ストレッサーやそれに起因する身体的・心理的コストを低減し、目標の達成を促進し、個人の成長や発達を促進する機能を有する物理的・社会的・組織的要因」である。また、「個人の資源」は、「自身を取り巻く環境を上手にコントロールできる能力やレジリエンスと関連した肯定的な自己評価」である。

このモデルにおける各要素の関係性については、さまざまな研究において実証されているものである。よって、ワーク・エンゲイジメントに着目し、それを高めることにどのような意義があるか、また何を高めることでワーク・エンゲイジメントが高まるかを検討する際の示唆となるものである。

How:どうすれば、ワーク・エンゲイジメントが高まるか

では、ワーク・エンゲイジメントを高めるためにはどのような手法・施策があるのだろうか。このような介入方法に関する研究も、近年蓄積されつつある。ここでは、ワーク・エンゲイジメント向上に関する展望論文である向江(2018)をもとに、その内容をご紹介する*4。

まず、ワーク・エンゲイジメント向上のアプローチとして、「個人を対象としたもの」と「組織を対象としたもの」の2つがある。

個人を対象としたものの1つに、臨床心理学や精神医学的なアプローチとして、認知行動療法を応用したものがある。これらは主に、メンタルヘルスに問題を抱えている対象と類似する、ワーク・エンゲイジメントが低い対象に対する効果があることなどが示されているが、高い対象に対しての適用可能性も模索されている。

この他、個人を対象としたアプローチとして、「従業員一人ひとりが仕事の捉え方や業務上の行動を修正することで、現在のやらされ感のある仕事を働きがいのあるものに変容させる」取り組みである、ジョブ・クラフティングを取り入れたものもある。メカニズムとしては、ジョブ・クラフティングにより、仕事の要求度や仕事の資源に関する認知が変容し、ワーク・エンゲイジメントが高まるというものである。

しかし、先述のJD-Rモデルの「仕事の資源」に表れているとおり、個人ではなく、その周囲の人々、あるいは仕組みとして変化を起こさなくてはならないものもある。また、個人の認知や行動の変化を起こす際にも、個人ではなく、集団で取り組むことで成果が期待できることもある。よって、組織など集団を対象としたアプローチも重要になる。

例えば、向江(2018)で紹介されているナイトら(2017)のメタ分析(図表3)*5 によると、個人に対する介入の研究数が1つであるため比較は難しいが、個人への介入と共に集団への介入においても一定の効果(Hedges’g = 0.51)があることが示されている。

図表3 ワークエンゲイジメント向上のための介入方法に関するメタ分析

また、集団レベルの介入の方法としては、マインドフルネス・トレーニング、技能訓練、休憩スペースの設置など、多様なアプローチがあり、それらがワーク・エンゲイジメントを高め得ることが示されている。

いくつかの研究を紹介したが、この他にも、仕事の要求度のコントロール、個人の資源や仕事の資源を高めること、そのためのアプローチはさまざまあると考えられるため、それらがこれから試され、その効果検証が行われることが期待される。

働く環境の変化とワーク・エンゲイジメント

JD-Rモデルや介入方法の例のように、組織・人材マネジメントの巧拙により、ワーク・エンゲイジメントが向上したり、低下したりする。

では、より川上の要因である、働く環境の変化は、どのようにワーク・エンゲイジメントに影響を与えるのだろうか。それについては、例えば近年のAIなど新しい情報技術の利用がワーク・エンゲイジメントを含むウェルビーイングに及ぼす影響について山本ら(2019)によってデータをもとにした検証がされている*6。

研究のなかでは、新しい情報技術の導入状況別に、メンタルヘルス指標、ストレス指標、パフォーマンス指標、ワーク・エンゲイジメント指標の有無が確認されている。そのうち、ワーク・エンゲイジメント指標については、新しい情報技術が導入されている、あるいは導入の計画・検討がなされている企業の従業員では、それ以外と比較して高いことが示されている。

新しい情報技術の導入により、仕事の仕方が変わることで、仕事の要求度が高まり、ワーク・エンゲイジメントが低下するとも考えられる。しかし、この研究によると、対象者の年齢や携わる仕事の特性による差は見られるものの、概して新技術の導入・活用は、仕事の要求度を高めるというよりは、仕事の資源として労働者を支援する効果の方が強いようだ。この点に関しては、さらなる研究の蓄積により、今後より実態が明らかになることが期待される。

なお、興味深い点として、テレワークや在宅勤務を実施している企業においては、新技術の導入によりワーク・エンゲイジメントは高まるものの、ストレスなどが悪化し得るという結果が示されている。調査の性質を鑑み、テレワークを利用している人が「仕事時間が不規則になる」ことや「余暇と仕事の切り分けが曖昧になる」こと、利用していない人において「仕事上の支障が生じている」こと、両者の可能性が示唆されている。

このことは、テレワークや在宅勤務が悪いという結論を導くものではない。一方で、新しい技術および新しい働き方については、複数の施策の組み合わせの効果について慎重に検討すべきという観点を与えてくれる研究である。

他のウェルビーイングやメンタルヘルス指標にも留意

最後に、実務で応用する際の留意点を述べておきたい。ワーク・エンゲイジメントと他の認知・心理状態に正の相関や因果の関係があったとしても、それらは「相関係数=1」のように完全に他を決定するものではない。よって、先述のとおり、ワーク・エンゲイジメントが高まっても、ストレスが高まることもある。

また、仕事への没頭という点でワーク・エンゲイジメントと重複する部分のあるワーカホリズムについて、厚生労働省(2019)では正の相関が確認されている*2。

よって、ワーク・エンゲイジメントのみでなく、他のウェルビーイングやメンタルヘルスの状態を示す指標(例えば、ワーカホリズム、バーンアウト、職務満足感など:「ワーク・エンゲイジメントを高める4つの方法」図表1参照)についてあわせて確認することで、予期せぬ副作用などが起きていないか、確認する必要もあると考えられる*7

これからの「個と組織」とワーク・エンゲイジメント

健康寿命の伸長、年金支給時期の後ろ倒しなどの要因により、私たちがこれからより「長い期間」働くことになると、1つの仕事や企業にとどまることなく、仕事が変わったり、企業を移ったりする機会は多くなると想定される。

そのようななか、個人が健康に、かつやりがいをもって仕事に取り組むことにつながるワーク・エンゲイジメントは、ますます重視される概念となるだろう。

また、従業員のパフォーマンスやコミットメントの向上につながるという点で、組織側としても大切にすべき概念になるだろう。

厚生労働省(2019)にあるとおり、ワーク・エンゲイジメントが高い人は、副業・兼業に伴う疲労感をコントロールし、本業にもポジティブな影響を及ぼす効果が示されるなど、新たな働き方を進める上でも着目すべきものである*2。一方、定型業務に携わる人や、不本意な理由で非正規雇用となっている人において、ワーク・エンゲイジメントが低いことも示されている。このような点を考えると、ワーク・エンゲイジメントの高低による二分化のリスクが起きないよう、社会としてワーク・エンゲイジメントを高めるための施策を検討しなくてはならない。

これからの「個と組織」の健全な成長のために、ワーク・エンゲイジメントとどのように向かい合うか、本稿がその一助となれば幸いである。

★ワーク・エンゲージメントを高める方法についてはこちらのコラムでもご紹介しております。ぜひご確認ください。

*1 Schaufeli, W. B., Salanova, M., González-Romá, V. & Bakker, A. B.(2002)The measurement and engagement and burnout: A two sample confirmatory factor analytic approach. Journal of Happiness Studies, 3, 71-92.
*2 厚生労働省 (2019) 労働経済の分析―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について― 
*3 Schaufeli, W. B. (2018) Work engagement in Europe: Relations with national economy, governance and culture. Organizational Dynamics,47, 99-106. 
*4 向江亮 (2018) ワーク・エンゲイジメント向上の実践的取組に向けた知見の整理と今後の展望. 産業・組織心理学研究, 32, 55-78. 
*5 Knight, C., Patterson, M. & Dawson, J.(2017)Building work engagement: A systematic review and meta‐analysis investigating the effectiveness of work engagement interventions. Journal of Organizational Behavior, 3(86), 792-812.
*6 山本勲・黒田祥子(2019)AIなどの新しい情報技術の利用と労働者のウェルビーイング:パネルデータを用いた検証. RIETI highlight, 76, 25-28.
*7 島津明人(2014)『ワーク・エンゲイジメント―ポジティブメンタルヘルスで活力ある毎日を―』(労働調査会)

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.57 特集1 「ワーク・エンゲージメントを高める」より抜粋・一部修正したものである。 本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

執筆者

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技術開発統括部
研究本部
HR Analytics & Technology Lab
所長

入江 崇介

2002年HRR入社。アセスメント、トレーニング、組織開発の商品開発・研究に携わり、現在は人事データ活用や、そのための測定・解析技術の研究に従事する。
日本学術会議協力学術研究団体人材育成学会常任理事。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上席研究員。昭和女子大学非常勤講師。新たな公務員人事管理に関する勉強会委員。

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