慶應義塾大学 島津明人氏 ワーク・エンゲイジメントを高める4つの方法

ワーク・エンゲイジメントは、ユトレヒト大学でウィルマー・B・シャウフェリが提唱した概念だ。そのシャウフェリに学び、日本でいち早くワーク・エンゲイジメント研究を始めた島津明人氏に、日本人の特徴やワーク・エンゲイジメントを高める手法などについて伺った。


パフォーマンスと生産性を高めるワーク・エンゲイジメント

私はもともと臨床心理学の観点から、働く人のメンタル不調を研究していました。そのなかでワーク・エンゲイジメントに出合い、2005年から1年間ユトレヒト大学でシャウフェリ教授に直接学んで、帰国後は日本の職場のワーク・エンゲイジメントとメンタルヘルスを研究しています。

ワーク・エンゲイジメントは早くから日本企業の注目を集めました。その主な要因は、ワーク・エンゲイジメントが高まると、従業員のメンタルヘルスに良い影響があるだけでなく、パフォーマンスと生産性も高まるからです。この2つのキーワードを打ち出せたことで、経営の関心を高めることができました。

ワーク・エンゲイジメントとは熱意・没頭・活力が揃った状態

ワーク・エンゲイジメントとは、「仕事に誇りややりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)の3つが揃った状態を指します。なお、没頭はチクセントミハイの「フロー」から来ていますが、フローが短時間の没入を意味するのに対し、この没頭は継続性を重視します。日々没頭していることが大切なのです。

また、ワーク・エンゲイジメントと関連する概念には、ワーカホリズム、バーンアウト、職務満足感があります(図表1)。これらは活動水準と仕事への態度・認知の違いで分かれます。

ワーク・エンゲイジメントは活動水準が高く(仕事に多くのエネルギーを注ぎ)、仕事への態度・認知が快である(楽しく働いている)状態です。

それに対して、活動水準は高いが、仕事への態度・認知が不快な(強迫的に働いている)のが「ワーカホリズム」で、楽しく働いているけれども、活動水準が高くないのが「職務満足感」です。そして、働くのが楽しくなく、仕事にエネルギーを注げない状態が「バーンアウト」です。

「働きがい」はワーク・エンゲイジメントと似ていますが、学問的に正確に分類すると、単に仕事への態度・認知が快である状態を指します。活動水準の高低は関係なく、ワーク・エンゲイジメントと職務満足感を含む広い概念です。

ワーク・エンゲイジメントには国民性が表れる

ワーク・エンゲイジメントには、世界的に共通する特徴がいくつかあります。

例えば、一般的には年齢が上がるほど、ワーク・エンゲイジメントは高まります。これはエンゲイジメントを高める組織資源(裁量権や信頼関係など)と個人資源(自己効力感やレジリエンスなど)の両方が、キャリアを経るほど蓄積されるからです。ただし、高齢者に関しては研究途上です。

また、スピルオーバーとクロスオーバーという現象があります。「スピルオーバー」は、個人のライフからワークへ、ワークからライフへ良い感情がうつることで、ワークライフバランスはワーク・ライフの双方に良い影響があると考えられます。

「クロスオーバー」は、誰かの高いワーク・エンゲイジメントが周囲にうつることです。特に上司がいきいきしていると、部下もいきいきしてくる傾向があります。そこには3つの背景があります。第1に、部下が上司の視点を学習し、自らエンゲイジメントを高めるケースがあります。第2に、エンゲイジメントの高い上司は前向きな言動をする傾向が強く、それが部下に良い影響を及ぼします。第3に、職場そのものにエンゲイジメントを高める要因がある可能性もあります。

ただし、スピルオーバーもクロスオーバーも、ポジティブ感情だけでなく、ネガティブ感情も伝染するので注意が必要です。

一方で、ワーク・エンゲイジメントは国や文化によって異なる特徴もあります。なかでも日本はかなり特異的です。というのも、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度に則って測定すると、日本人の得点は海外より低く出ます。それも、シャウフェリ教授が「データの入れ間違いではないか」と疑ったほど、圧倒的に低いのです。

その原因はある程度分かっています。簡単に言えば、日本人は「自己批判バイアス」が強い傾向にあり、自分を厳しく捉えがちなのです。反対に欧米人の多くは「自己高揚バイアス」が高く、自分はできると自らに言い聞かせて、気分を高める傾向があります。そのため、欧米の得点には、本当にワーク・エンゲイジメントが高い人と、ワーク・エンゲイジメントが高いと自分・周囲に見せかけている人が混在します。日本人はそうした見せかけの率が低く、むしろ自分の状態を批判的に見るので、得点が低く出るというわけです。

加えて日本人は、周囲との関係のなかで自己を定義する「相互協調的自己」をもつため、周囲に忖度して、自分がいきいきと働いていると見せないようにする力も働いていると考えられます。その証拠に、うつ状態の測定尺度では、ネガティブな内容を尋ねる項目は日米の得点がほぼ同等ですが、ポジティブな内容を尋ねる項目は日本が米国より著しく低いのです。つまり、日本人には「自分がポジティブな状態にいることを否定したがる性質」があるようなのです。

まとめると、日本人の得点の低さの背景には自己批判バイアスや相互協調的自己があり、得点が低いから、ただちに日本のワーク・エンゲイジメントが低いといえるわけではありません。それを考慮して、施策を考える必要があります。

ジョブ・アサインメントを工夫することも重要だ

職場のワーク・エンゲイジメントを高める方法としては、4つの方法を推奨します。これは私たちが「労働生産性の向上に寄与する健康増進手法の開発に関する研究」で開発したもので、私の研究室のWEBサイト(島津明人研究室)にガイドラインとマニュアルを載せています。参考にしてください。

1つ目は、職場メンバーで「参加型討議」を行って職場活性化の取り組みを検討・企画・実施する方法です。2つ目は職場内でお互いに尊重し合える人間関係を築くための対話を積み重ねる「CREWプログラム」で、3つ目は個人が自らやりがいのある働き方を工夫する「ジョブ・クラフティング」の研修プログラム、4つ目は職場の「思いやり行動」を増やすプログラムです。いずれにも一定の効果があると考えられます。

仕事において、裁量権や自己効力感が高いことは、ワーク・エンゲイジメントを高めることにつながるので、適切な「ジョブ・アサインメント」も重要です。組織としては、ジョブ・アサインメントを工夫した上で、個人にジョブ・クラフティングを促すのが順番だろうと思います。

最後に1つ注意点を。それは、日本人では、ワーク・エンゲイジメントとワーカホリズムに多少の相関関係があることです。つまり、仕事に没頭するあまり、心身の健康を損ねたり、ワーカホリックになったりする可能性があるのです。没頭だけでなく、気持ちを切り替える工夫も大切です。

【text :米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.57 特集1「ワーク・エンゲージメントを高める」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
島津明人(しまずあきひと)氏
慶應義塾大学 総合政策学部 教授

2000年早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。ユトレヒト大学客員研究員、東京 大学大学院准教授、北里大学教授などを経て、2019年より現職。『ワーク・エンゲイジメント』(単著・労働調査会)、『職場のポジティブメンタル ヘルス』(編著・誠信書房)など著書多数。第28回日本産業ストレス学会大会長。

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