今日的な適性検査活用のポイント 企業における適性検査活用の新潮流〜測定から活用へ〜

執筆者情報
HRアセスメントソリューション統括部
アセスメントサービス開発部
測定技術研究所
マネジャー兼主任研究員
仁田 光彦

経営環境や労働市場・企業人の価値観の変化にともない、経営人事の意思決定にはより戦略的な要素が求められており、人事領域でもデータやテクノロジーの効果的な利用の必要性が高まっている。このような状況の下で、昨今HRアナリティクス、HR Techといった人事データの分析・活用が普及し、さまざまな先進事例が注目を集めている。RMS Message47号(2017年8月)でも、人事データ分析・活用の意義や方法をご紹介した(人事データ分析を阻害する「3つの壁」と「1つの落とし穴」 )。本論では、人事データのなかでも特に適性検査に着目して、採用・配置・育成それぞれの場面での活用の広がりについて概観してみたい。


経営人事における適性検査の活用

適性検査は、広辞苑(第六版)によると、「一定の行動や職業に対して、どれほど適した素質をもつかを測定する検査」と定義されており、性格、能力、興味などのさまざまな測定領域の情報を基にして、一定の行動や職業に適しているかどうかを予測する検査と位置付けることができる。

適性検査の発祥については諸説あるが、そのルーツの1つは、中国の官吏選抜試験であった科挙といわれている。こうした試験には、洋の東西を問わず長い歴史があるが、科学的な手法を用いた適性検査が初めて開発されたのは20世紀初頭で、フランスのビネーとシモンによる知能検査が嚆矢とされている。その後、心理測定技術の発展と共にその知見が経営人事の分野にも適用され、数多くの適性検査が開発されるようになっていった。また、二村(1998)によると、日本においても、1910年代から人事テストへの関心が高まり、広く研究されていたようである※。1970年代には経営人事への適用を前提とした適性検査が開発され、実施、採点、結果の適用を含めた運用方法が確立されるにつれて、一気に実務場面に普及していった。1990年代後半には、業務効率の向上に資するPC上での受検を前提としたサービスが開発され、さらに一般化が進んでいる。

※二村英幸(1998)『人事アセスメントの科学』産能大学出版部

本論で扱う適性検査は、こうした経営人事の意思決定支援を目的として開発されたものである。経営人事における適性検査は、採用選考や昇進・昇格などさまざまな場面で利用されているが、共通する価値は、「科学的手法に基づく客観的で構造化された情報提供」にある。経営人事では、常に難しい意思決定が求められるが、その前提となる情報には客観的なデータとして扱えるものが少ない。適性検査は、複雑な人間の特性を構造化し、科学的手法に基づいたデータ情報としてアウトプットできるため、人材情報の共有や比較、分析などに有用である。

昨今、こうした経営人事における適性検査の「活用」方法が広がりを見せてきている。筆者が開発・品質管理を担当している総合適性検査SPIに関しても、従来は人材採用場面における利用が中心であったが、配置・配属や定着・育成などの支援を目的とした活用が増えているのだ。さらに近年では、テクノロジーが進化するなかで、HRアナリティクスや社内のデータベースを基点とした人事施策の検討など、新たな領域にも広がりが見られる(図表1)。今回は、そうした適性検査「活用」の広がりについて、事例を紹介しながら整理すると共に、留意すべきポイントについてまとめてみたい。

適性検査の従来的な活用について
【図表1(1)〜(5)】

弊社のSPIは、1974年に主に新卒採用向けの適性検査として開発された。新卒採用選考は、経営人事の意思決定のなかでも、被評価者に対する情報が少ない場面の1つである。そこに客観的な人物特性に関する情報を提供することで、人事の判断を支援する目的で開発されている。現在でも、SPIが最も多く利用されているのは採用場面であり、その使い方にもいくつかのバリエーションがある。

1つは、面接場面における人物理解の促進である。職務要件を明確に定義した欧米のジョブ型の雇用制度と比較して、日本の場合、多くの企業ではローテーションを前提としたメンバーシップ型の雇用制度が取り入れられている。そのため、面接においては応募者の人となりを確認し、自社に合いそうか否かを判断する傾向が強い。面接という限られた時間のなかだけで応募者を評価することは難度が高いため、適性検査を利用して人物理解を深める、という手法がとられている。

また、初期選考における優先順位付けを目的とするケースも多い。日本の新卒一括採用では、短期間に多くの応募者の合否を決定する必要がある。しかし、応募者全員と面接するのが困難な場合も多いため、適性検査のデータを利用して、応募者を面接に呼び込む際の優先順位付けを行う。特に応募者数の多い大手企業では一般的な利用方法で、各社が独自の基準を設けている。

そのほか、応募者の自社への動機づけや採用活動の振り返りを目的とする場合もある。動機づけという目的では、応募者の性格タイプに合わせた面接やフォローを行う際のコミュニケーション設計(どのような内容を、どう伝えるか)、内定者へ適性検査結果をフィードバックすることで、自己理解を促進し、自社で働くイメージを深めてもらうといった使い方がある。少子化にともない若年人口が減少する一方、景況感が上向いているなかで、企業は応募者の動機づけに苦慮している。せっかく内定を出したにもかかわらず、辞退されてしまうケースも多い。こうした背景のなかで、動機づけを目的として適性検査を活用する例が増えてきている。また、採用活動の振り返りでは、応募者や採用者の適性検査データを用いた分析が行われている。例えば、応募者集団の経年比較や選考段階別の合否傾向比較などの分析を行い、次年度の採用活動を検討するための情報としている。

適性検査の入社後における活用
【図表1(6)〜(8)】

前述した採用場面に加えて、近年入社後の配置・配属や定着・育成に適性検査が活用されるケースも増加している。

配置・配属は、本人の特徴や希望を踏まえつつ、職務内容、職場の雰囲気、上司のタイプなど多くの要素を勘案して行う必要があるが、ファジーな領域で、いわゆる“人事の経験と勘”に頼っているところも多い。しかし、特に新入社員の場合は、入社直後のスムーズな初期適応がその後の活躍にもつながるため、重要な意思決定といえる。にもかかわらず、新卒入社者の場合、実際に働いた経験が少ないため、採用選考時の限られた情報に基づいて意思決定を行わざるを得ない。こうした際に、適性検査では、本人の特性情報を基にしてどのような職務や組織に適応しやすいかという情報が整理されているため、配置・配属を検討する際の重要な情報源となる。

一方で、配置・配属先を検討する際には、要員計画や組織事情から、そもそもの配置・配属先候補の選択肢が限られる場合も多い。こうしたときに、配属先の上司や同僚に新入社員の適性検査の結果をフィードバックすることで、新メンバーの特性を理解し、コミュニケーションのとり方や指導の仕方を工夫してもらうといった、定着・育成文脈で活用されるケースも増えてきている。こうした取り組みの背景には、若年人口が減少し人材の採用が難しくなるなかで、新入社員の定着・活躍の重要度が増している企業側の事情があるものと思われる。

配置・配属や定着・育成支援以外でも、入社後のパフォーマンスデータと適性検査データを紐付けて分析することで、自社の活躍者の特徴を抽出し、人材要件を設計するという活用方法が改めて注目されている。こうした取り組みそのものは以前から行われていたが、近年の傾向として見られるのは、分析手法の進化である。HRアナリティクス、ピープル・アナリティクスの文脈で語られるように、人事データとアナリティクス技術を組み合わせることで、経営人事課題の解決を図る新しい取り組みが増えてきており、そうした場面で適性検査データが脚光を浴びることが多くなってきている。さらに、社内のデータベース上に適性検査結果を取り込み、アナリティクスによって得られた知見を生かしながら、人事施策の日常サイクルのなかに組み込んで活用するといった取り組みも見られるようになっている。次に、こうした適性検査活用の“新潮流”について説明する。

適性検査活用の新潮流
〜HRアナリティクス〜
【図表(9)】

HRアナリティクス、ピープル・アナリティクスなど、「人事データ分析」に関連するニュースや記事を目にすることが多くなってきた。人事データには、人事考課や異動履歴などの「人事情報」、労働時間や休暇取得状況などの「勤怠情報」、従業員満足度サーベイなどの「調査情報」、そのほかメールや会議でのコミュニケーション状況など、多岐にわたるデータが含まれるが、適性検査のデータは、このうちの「人事情報」に属するものとされている。こうした、多種多様な人事データを機械学習などの知見を用いて分析し、活躍者や職種別適性などの条件を明らかにして、経営人事の意思決定の質を高めようとする取り組みが増えてきている。具体的な解析手法については、多く出版されている専門書に譲るが、そもそもHRアナリティクスにおいて、適性検査データを用いるメリットはいかなるところにあるのだろうか。以下、SPIを例にとって考察したい。

SPIは、図表2のような人材観を基に開発されている。測定領域は赤枠の箇所で、比較的変化しづらいとされる性格特性および基礎能力の側面であり、特定の状況や場面などの影響を受けにくく、安定した特性である。また、各尺度の内容が明確に定義されているため、分析で導き出された結果を解釈しやすく、活躍する人材の人物像などを容易にイメージすることができる。

さらに、上司へのフィードバック用の報告書や性格特性タイプごとの関わり方など、活用を支援するツールも用意されているため、人事施策への実践的な展開がしやすくなっている(図表3)。

また、別のメリットとして、豊富なリファレンスデータを利用できることも挙げられる。人事データを用いたHRアナリティクスにおいては、データ数の少なさが分析上の課題となることも多い。マーケティングデータなどに比べると、人事データは基本的に件数が少ないため、社内のデータだけを使用してHRアナリティクスを実施しても、結果が安定しづらいという傾向がある。そうした場面で、類似した業種や職種などのリファレンスデータを援用することで、結果の安定性を担保すると共に、妥当性や解釈性を補うことができる。

ただし、このような各種の人事データを用いたHRアナリティクスに取り組む際には、留意すべきポイントがある。それは、結果の“予測精度”と“説明可能性”のバランスである。やみくもにデータを投入してアナリティクスの“予測精度”のみを上げようとすると、プロセスがブラックボックス化して、解釈や根拠の説明が困難なロジックが作成されてしまうことも多い。また、機械学習においては、過去の意思決定結果(ex.採用における採否や人事評価)を基に予測がなされるため、学習データ自体にバイアスがかかっていると、恣意的な結果(ex.性別や年齢、人種などが評価の高低を分ける)が導き出されるという危険性もはらんでいる。経営人事の意思決定には、社内外への説明責任が伴うことを考慮すると、HRアナリティクスを実施する際には、“予測精度”と“説明可能性”のバランスに留意することが重要であるといえよう。

適性検査活用の新潮流
〜人事施策における日常的な活用に向けて〜
【図表1内の(10)】

また、こうしたHRアナリティクスの結果を踏まえ、適性検査を人事施策において日常的に活用していこうとする取り組みも始まっている。

先進的な企業では、タレントマネジメントなどのデータベースに適性検査の結果を取り込み、人事施策に利用する事例が増えている。例えば、部署ごとに構成メンバーを性格タイプでプロットし、成果の上がっている部署とそうでない部署の違いについてディスカッションするための材料にする、また対象者の特性と異動先の上司やメンバーの特性を確認した上で、配置を検討するといった活用方法である。さらに、在職者や上司に適性検査の結果を積極的にフィードバックして、マネジメントや部署内のコミュニケーションに生かすところまで展開している企業も現れている。経営人事の意思決定場面はもちろんのこと、現場での展開も含めて、適性検査を日常的に活用していくような取り組みが始まっている。

以上述べてきたように、経営人事における適性検査活用には新たな潮流が生まれている。効果的に使うことができれば、意思決定や施策実行を支援する有用なツールとして機能させることができる。一方、活用場面を広げていく前提として留意したい点があるので、最後に紹介しておきたい。

適性検査活用の留意点

本論では、採用選考、配置・配属、定着・育成、HRアナリティクスなど、適性検査のさまざまな活用場面を概観してきた。どのような目的で利用する場合においても、適性検査の主たる価値は「科学的手法に基づく客観的で構造化された情報提供」といえる。こうした価値の前提として、これまで以上に必要となるのが検査としての品質の高さである。検査自体の品質が十分でない場合、意思決定をミスリードするなど、意味のある解析結果が得られない可能性がある。適性検査の品質については、一般的に「信頼性」「妥当性」という2つの観点で表され(図表4)、それぞれの検査の解説書などに表示されることが多い。利用の前に、ぜひ確認していただきたいポイントである。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.54 特集2「企業における適性検査活用の新潮流〜測定から活用へ〜」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら
<具体的な活用事例>
伊藤忠商事 「機械学習を用いた活躍予測モデルの設計を目指して
サッポロビール 「適性検査の結果を異動時の重要資料に
※適性検査SPIについてはこちら

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