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新人・若手社員の創造力・思考力を高める[問いを立て仮説する編集力] 第3回

独自の解や新たな問いを発見したいなら「推感仮説力」を磨こう

  • 公開日:2023/09/15
  • 更新日:2024/05/16
独自の解や新たな問いを発見したいなら「推感仮説力」を磨こう

最近は、新人・若手社員の頃から「創造力」や「思考力」を高いレベルで求める企業が増えている。これらの力を高めるには[問いを立て仮説する編集力]を身につけるのが肝要だと語るのは、公開型研修「リクルートマネジメントスクール」の人気講師、株式会社編集工学研究所 主任研究員の橋本英人氏である。問いを立て仮説する編集力とは何か。なぜ効果的なのか。橋本氏が3回にわたって語る。
第3回では、独自の解や新たな問いの発見につながる「推感仮説力=アブダクション」の力を紹介する。

話者
● 橋本 英人氏 株式会社編集工学研究所 執行役員/主任研究員
発想企画力、理念浸透、次世代リーダー養成、読書術、リベラルアーツ等の研修企画運営および研修トレーナー、共著に『探究型読書』(2020年)。問いと本で対話と越境をおこす・一畳ライブラリー「ほんのれん」ディレクターを担う。リクルートマネジメントスクールでは、『仕事に活かす「探究型読書術:Quest Reading」 〜本を活用して思考力を磨く〜(171)』や『アナロジカルシンキング 〜類推の力で新たな「ものの見方」を手に入れ、既存の枠組みを超えた仮説を生み出す〜(211)』の講師を務めている。
なお、編集工学研究所は、所長・松岡正剛のもと編集工学を活用した企画・開発事業を展開している。詳しくはこちら。  

演繹法、帰納法、そして「推感仮説法=アブダクション」
発見の論法「アブダクション」は、AIがまだ到達できない領域だ
アナロジカルシンキング、探究型読書、アブダクションは、次世代に必要な「問いを立て仮説する編集力」を磨く方法だ

演繹法、帰納法、そして「推感仮説法=アブダクション」

連載コラムの第1回で「アナロジカルシンキング」に触れ、第2回で「探究型読書」について説明しました。アナロジカルシンキングは、多様なものの見方を動かし、豊かで意外性のある新たな関係の発見を生み出す思考法です。探究型読書は、著者や本の見方を借りて、今後考えたい「問い」や自分なりの「観」を養う読書法でありプログラムです。第3回では、発見の論理学としてのアブダクション(推感仮説力)を紹介します。アブダクションは、問いを立て仮説する編集力の全体に関わる方法です。

橋本氏の画像1

「アブダクション」という言葉は耳慣れないはずです。はじめて知る方も多いと思います。アブダクションは、「演繹法」「帰納法」と並ぶ論理の一種です(図表1)。演繹法や帰納法は、どこかで聞いたり学んだりした方も多いのではないでしょうか。なお、私たちはアブダクションを「推感仮説法」と独自に翻訳しています。

演繹法は、与えられた観察データや前提となる原理・条件から、それらを必然的に満たす結論を導き出す推論です。分かりやすくいえば、「○○○だから、□□□である」という論理を数珠つなぎにしていって結論を引き出すという方法です。例えば、有名な三段論法は、演繹法の一種です。三段論法とは、一般的な大前提を根幹にして(→花は咲く)、そこに中間段階の展開を加え(→桜は花である)、最終の言明(→桜は咲く)を確立する推論のことです。科学は、この演繹法を徹底的に使いこなして発達してきました。しかし、演繹法だけでは、大前提となる命題を確認するばかりで、新しい見解に至ることが難しいのです。

帰納法は、観察データや個別的事例にもとづいて一般化をするためのものです。例えば「花は咲く」という仮説を言明するために、「桜は咲いた、梅も咲いた、椿も咲いた、菊も咲いた」というような事例をどんどん挙げて、そうした個々の事例の集合にもとづいて「花はみんな咲く」という結論を導くのが帰納法です。いまや企業でも当たり前に行われているデータ分析は、基本的に帰納法です。ビッグデータ時代では、似たような事例はそうとう集まってくるので、帰納法はそれなりに強力な武器になっています。しかし、このような帰納法をもってしても、まったく新たな法則や見解にたどり着くことは難しいのです。いえ、そのためにはそもそもアブダクションが当初から立ち上がっている必要があるといえるのです。

発見の論法「アブダクション」は、AIがまだ到達できない領域だ

では、第三の論法・アブダクションとは何か。ごく簡単に説明します。アブダクションでは、最初に「驚くべき事実C」を見つけるところから始まります。このCは、われわれに疑念と探究を引き起こすトリガーなのであって、そこにはたいてい「説明仮説H」が伴います。とはいえ、たいがいの場合、Hを見つけるのはそれほど簡単ではありません。知と知をつないで仮説する必要があります。しかし、それを思いつけば、(見当違いも含めて)「説明仮説Hだと考えれば、Cも頷ける」という新しい見解に達することができます。

橋本氏の画像2

分かりやすい例を1つ挙げます。あるとき、「庭の花が散っている(驚くべき事実C)」ことを発見したとしましょう。周囲を見渡して地面が濡れていることに気づき、「きっと雨が降ったのだろう(説明仮説H)」というふうに仮説することができれば、庭の花が散ったことにも納得がいきます。これがアブダクションです。この例から分かるとおり、アブダクションは決して非日常的で難解なものではありません。むしろ、アナロジカルシンキングと同様に、私たちは日常的にアブダクションを使っています。

上記のプロセスを見直してみると、何かしら独自の見解や仮説にたどり着くためには、まず好奇心を持って問いつづける力が肝要であることが分かります。なぜならアブダクションにおいては、「花が散っている」という現象に驚く、ということが不可欠だからです。

日常の仕事のシーンで言うと、あるデータ集計や報告レポート、または職場で起こっている現象に対して、「驚きを持つ」「異質な点を面白がる」という好奇心が、最初に問われるのです。アブダクションは、第一に、目の前に立ち現れた現象や事象に対して、驚くべき事実Cを数多く発見することがスタートなのです。

そして第二に、多様なものの見方によって知をつなげる力を発揮してCに対する説明仮説Hを次々に立てることが重要になります。ここでは、コラムの第1回にお話ししたアナロジカルシンキングが活躍します。第2回のコラムでは探究型読書を紹介しましたが、外部知としての本や著者の見方を借りて知を自分なりにつなぐことが、説明仮説Hを生み出すドライブになりそうです。

そして第三に、これだ!と思う妥当な仮説が、独自の解や見方として生み出されていきます。アブダクションを提唱したチャールズ・サンダース・パースはこう言っています。「アブダクションは説明的な仮説を形成する過程である。それは新しいアイディア(観念)を導く唯一の論理的操作である。というのも、帰納は1つの値を決めるにすぎず、演繹はまったくの仮説の当然の帰結を生むだけであるからだ」と。

<図表1>発見の論理学「アブダクション」

<図表1>発見の論理学「アブダクション」

アナロジカルシンキング、探究型読書、アブダクションは、次世代に必要な「問いを立て仮説する編集力」を磨く方法だ

では、アブダクションと帰納法の違いは何でしょうか。アブダクションと帰納法で大きく異なる点の1つは、すでにお気づきのように、アブダクションは「われわれが直接に観察したこととは違う種類の何ものか」(チャールズ・サンダース・パース)を推論できるということです。アナロジカルシンキングが大胆に動くことで、説明仮説に例外性や意外性を取り込める飛躍があります。アブダクションは「違うもの」を引き込むことができる。ここがとても重要なところです。一方の帰納法には、違う種類のものは入りえません。似たものばかりが集まってくる。この飛躍はAIがまだ到達できない領域かもしれません。

さて全3回にわたって、ここまで読んでくださった皆さんなら、ご紹介した3つの力が、不確実な時代に、一人ひとりが自分なりの新たな問いと仮説を編集するために欠かせないことを理解してもらえるはずです。

橋本氏の画像3

編集工学研究所所長の松岡正剛は、「複雑なものを複雑なまま扱おう」と言います。近代社会では、複雑なものを単純化、平均化、効率化して扱う方法が発達しました。ロジカルシンキングや演繹法、帰納法がその典型といえます。複雑なものを分かりやすく漏れなくブレなく整理分析するだけでなく、複雑さや変化を味方にできる思考力や行動力を磨いたりすることが、これからの時代には重要です。そのための方法が、アナロジカルシンキングや探究型読書、アブダクションなのです。

私たちはいよいよ、若いときから、キャリアの早い段階で、こうした「問いを立て仮説する編集力」を求められるような新時代に踏み入ったのです。この力は、まだ見ぬ情報の可能性を引き出し組み合わせる力であり、さまざまな人や知を越境して相互編集する力です。一人ひとりの好奇心や小さな気づきは、必ずや、後々の豊かな編集の種となるのです。そのように捉えれば、昨今の新人・若手も漠然とした不安や悩みから少しは解放されるはずです。異質を恐れずに、大胆に、問いを立て仮説する編集力を磨いていくことが重要となると考えます。

本コラムに関連するサービスもございますので、ぜひご参照ください。

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