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連載・コラム

新人・若手社員の創造力・思考力を高める[問いを立て仮説する編集力] 第2回

「探究型読書」を通じて、自分なりの「観」を養おう

  • 公開日:2023/09/04
  • 更新日:2024/05/16
「探究型読書」を通じて、自分なりの「観」を養おう

最近は、新人・若手社員の頃から「創造力」や「思考力」を高いレベルで求める企業が増えている。これらの力を高めるには[問いを立て仮説する編集力]を身につけるのが肝要だと語るのは、公開型研修「リクルートマネジメントスクール」の人気講師、株式会社編集工学研究所 主任研究員の橋本英人氏である。問いを立て仮説する編集力とは何か。なぜ効果的なのか。橋本氏が3回にわたって語る。
第2回では、問いを立て仮説する編集力を実践的に鍛えるプログラム「探究型読書」を紹介する。

話者
● 橋本 英人氏 株式会社編集工学研究所 執行役員/主任研究員
発想企画力、理念浸透、次世代リーダー養成、読書術、リベラルアーツ等の研修企画運営および研修トレーナー、共著に『探究型読書』(2020年)。問いと本で対話と越境をおこす・一畳ライブラリー「ほんのれん」ディレクターを担う。リクルートマネジメントスクールでは、『仕事に活かす「探究型読書術:Quest Reading」 〜本を活用して思考力を磨く〜(171)』や『アナロジカルシンキング 〜類推の力で新たな「ものの見方」を手に入れ、既存の枠組みを超えた仮説を生み出す〜(211)』の講師を務めている。なお、編集工学研究所は、所長・松岡正剛のもと編集工学を活用した企画・開発事業を展開している。詳しくはこちら。   

自分なりの「観」を養う「探究型読書」とは
読んでいる最中だけでなく「読前と読後も読書の一部」と捉える
探究型読書では、本に正解が書かれているとは考えない
本の視点を借りれば、多くの受講者が自分なりの問いを立てられるようになる

自分なりの「観」を養う「探究型読書」とは

連載コラムの第1回では「アナロジカルシンキング」に触れました。アナロジカルシンキングは、多様なものの見方を大切にしながら、豊かで意外性のあるアイディアを生み出す思考法です。今回は「問いを立て仮説する編集力」を実践的に鍛える方法である「探究型読書」についてご紹介します。

橋本氏の画像1

私たち編集工学研究所はさまざまな学習プログラムを用意していますが、なかでも最近、企業からの人気が高いのが「探究型読書」です。各階層の社員全般にも適応されますが、特に新人・若手の頃から本プログラムに触れておくことで、思考力の強化につながります。リクルートマネジメントスクールの3時間コースでも、『仕事に活かす「探究型読書術:Quest Reading」~本を活用して思考力を磨く~(171)』を定期的に開催しています。

本の読み方には、正解はありません。むしろ多様なあり方があって然るべきだと捉えています。ここで編集工学研究所が提唱している探究型読書とは、じっくり精読して本の内容を理解することを目的にはしていません。思考ツールとして本を活用し、一人ひとりの発想を前に進める方法論の1つです。この後ご紹介していきますが、探究型読書は、「著者の思考モデル」を取り出し、著者の見方を借りて自分の思考に生かす方法を体系立てて習得できるメソッドであり、本を外部知として活用して、アナロジカルシンキング(第1回を参照)を養う読書術でもあります。

このプログラムでは、著者が掲げる「テーマやキーワード」「発見や仮説や問い」を本から読み取るプロセスを高速に行い、その見方を借りることで、自らの「見方」や「観」を培っていきます。さらに他のメンバーとの「対話」を通してお互いのアウトプットの違いやズレに気づくことで、自分なりの「観」を深め、新たな「問い」を生み出していきます。企業の皆さんには、特に「自分なりの『観』を養うプログラム」として探究型読書を活用していただくことが多いです。

なお、探究型読書を活用した「自分なりの『観』 を養うプログラム」は図表1のようなプログラム構成になっています。また、探究型読書には、受け身ではなく主体的に本を思考ツールとして活用するために、次の5つの心得(図表2)があります。これから図表1と図表2を手すりにしながら、プログラム内容に触れていきます。

<図表1>探究型読書プログラム概要

<図表1>探究型読書プログラム概要

<図表2>探究型読書の5つの心得

<図表2>探究型読書の5つの心得

読んでいる最中だけでなく「読前と読後も読書の一部」と捉える

探究型読書では、読書を「読前・読中・読後」の3つに分けています。本文を読むことだけが読書ではなく、読む前と読んだ後も読書と捉えるわけです。本棚から気になる本を選ぶとき、あるいは書店で買う本を選ぶときから、「読前」は始まっています。表紙・タイトル・帯などから、本の中身をイメージして選ぶことも読書の一部であり、わたしたちの連想が動き始めます。次に「目次読書」と「連想編集」です。目次から本の構造を読み取り、キーワードを拾い上げて連想を広げ、本に書かれていることについて仮説を立てていきます。ここまでが読前です。

橋本氏の画像2

次は、いよいよ本を読む「読中」です。このとき、探究型読書は「マーキング読書」を推奨しています。マーキング読書とは、読みながら、書き込める場合は、キーワードや気になる文章に印をつけたり線を引いたりして、本をノートにすることです。特に、目次読書をヒントにしながら、読み手が気になったキーワードや重要だと思う言葉に対する著者の問い(Q)と発見(A)を探してマーキングすることがポイントです。ここでも連想を大事にします。自分のなかで湧き上がった連想や問いや気づきも、つまり自分の疑問(Q)や発見(A)も書き込んだり、記したりしていきます。私たちはこれを「QAサイクルを回す」と呼んでいます。マーキングしていくと、身体的にしるしを付けた箇所がトリガーとなり、本が、豊かな再読可能なものになります。あとでスピーディーに読み返せるようにもなるのです。

読み終わったら、「読後」に読前・読中を振り返ってもらいます。読前の目次読書で立てた仮説が合っていたかどうかを確認したり、読中にどのような気づきを得たかを改めて言語化したりします。この読前から読中で生じた「ズレ」が、自分の考えを深め、発見を促すのです。そのうえで、最後に仕事や日常に生かせそうな見方や示唆などを自分なりの『観』としてまとめてもらいます。さらに、今後考えていきたい「問い」を立てることにもチャレンジしてもらいます。これが、探究型読書プログラムのおおまかな流れです。

探究型読書では、本に正解が書かれているとは考えない

橋本氏の画像3

このように、探究型読書は、本をいきなり1文目から読むのではなく、「読前・読中・読後」の3ステップを通して、本を活用して思考するプロセスであるといえます。著者の主張や論理の道筋・動機・疑問・発見などの「著者の思考モデル」を借りながら自分の連想を広げることで、著者と主体的に対話するようなイメージで読んでもらいます。

また、探究型読書では、「5つの心得」として、モヤモヤとスッキリを行ったり来たりする「かわるがわる」や、本をいったん伏せて内容を回想し、その後に本を開けて確認する「伏せて開ける」といった方法も推奨しています。特に「かわるがわる」がポイントです。なぜなら、人はモヤモヤすると、いったん立ち止まって疑念を抱き、問いを考え始めるからです。その問いに対して、著者の見解に同意したり、自ら仮説や問いを出したりすることでスッキリに向かうことを繰り返す「かわるがわる」が、自分なりの「観」を養う原動力になるのです。

探究型読書は、正解探しではありません。本のなかに確たる正解があって、それを正確に理解しなければならないという読書スタイルを一旦脇において、モヤモヤを抱えることを恐れず、自分の見方や問いに気づく主体的な本の活用を推奨しているのです。最初は苦しいかもしれないですが、自分のなかに立ち上がるモヤモヤや疑念を保留して受け入れ、「分からない」ことやその状態ごと対話を進め、自らの仮説を立ち上げるトレーニングでもあります。

本の視点を借りれば、多くの受講者が自分なりの問いを立てられるようになる

自分なりの「観」を養い問いを立てるときには、著者や本の「視点を借りる」ことがヒントになりますが、例えば、探究型読書で皆さんとの議論が深まる本の例が、小川三夫『棟梁』(2011年文春文庫)です。この本は、日本を代表する宮大工の棟梁・小川三夫さんが、技が磨かれ人が育っていくとはどういうことかを話したものです。

『棟梁』に書かれていることの1つは、「育てる」と「育つ」は違う、ということです。職人は育てようとしても、本当の職人は育たない。彼らが育つのは当人に「執念」がなければムリなのだというのです。その根本に「やさしさ」と「思いやり」が身につかないと一人前にはなれないとも断言します。そして「カラダ」ができると「あたま」ができる。そのための環境と機会を用意して、未熟なうちに任せるのだそうです。これが小川さんの「育成観」です。

次に、上が詰まると組織は腐る。組織を腐らせないためには、先輩たちが次々に「席」を譲っていく必要があるといいます。また常に「試練の状態」があれば、組織は腐らない、とも語っています。小川さんなりの「組織観」です。

橋本氏の画像4

小川さんは、こんな叱責3カ条ともいうべきものも挙げています。「失敗するから叱られる」「決心できないから叱られる」「遅いから叱られる」。ただいつまでも叱ってもらえません。叱られる時間は短いのです。親方に叱られて10年。その10年で基礎を学びます。一番染み込むのは、失敗したそのとき。失敗して、叱られて、修正して、磨いていくのです。これが小川さんの「仕事観」です。

このような育成観・組織観・仕事観を、そのまま企業社会にあてはめるのは難しいでしょう。しかし小川さんの「観」を参考にしながら、自社の育成・組織・仕事をどのように変えたらよいかを考えることなら、それほど難しくありません。こうやって本の視点を借りると、多くの受講者が自分なりの観や問いを立てられるようになり、深められるのです。これが著者・本の視点を借りながら、自分なりの「観」を養い、問いを立て仮説する編集力を高めるという意味です。

リクルートマネジメントスクールの3時間コースや各企業別の研修では、回ごとにテーマを設定していきます。例えば、「仕事観」を考えるために『棟梁』を活用するように、「人間観」を考えたり、「創造性」を追究したり、「経済観×社会観」について対話したりすることも可能です。探究型読書は、ありとあらゆるテーマを扱うことができます。

探究型読書のプログラムでは、「Quest Topic」(クエストトピック)と呼んでいますが、各テーマを問いの形にして、例えば「仕事観」の場合は「チームの力をどうしたら最大化できるか?」「意思決定は何に左右される?」というクエストトピックを置いて、対話を重ねてもらうようにしています。最後は多少本から離れて、著者の見方や他のメンバーの考えをアナロジカルに借りて、自分なりの新たな「問い」を考えることにチャレンジしてもらいます。本という強力な外部知ツールを使った問いを立て仮説する編集力の実践といえます。企業別にこのテーマ・問い・選書をカスタマイズすることも多いです。1冊だけでなく、複数冊読み進めていくと、自分なりの関係の発見が起こり、観や問いが深まっていきます。

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