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タグライン/世界を変える、「人間関係」の科学へ。連載 第6回

人と企業の新しい関係性を結ぶ、入社者支援のポイント(前半)—企業に入社する時、人は何につまずくのか?

  • 公開日:2021/04/05
  • 更新日:2024/05/17
人と企業の新しい関係性を結ぶ、入社者支援のポイント(前半)―企業に入社する時、人は何につまずくのか?

時代の急速な変化にともない、働く個人と組織の関係が大きく変わり、注目されています。当社は2019年7月、タグライン〈世界を変える、「人間関係」の科学へ。〉を策定しました。 “空気”だとか、“縁”だといわれ、捉えどころのないものだと思われてきた「人間関係」を、人々が生み出す場のエネルギーや相乗効果まで含めた豊かな概念として捉えています。 本連載では、「人間関係」の側面から、多様な人との協働や、マネジメントのやりがいなどに光を当て、働く個人の一人ひとりをあるがままに生かすことを大事にしながらも、共通の目的に向かって社会に価値を発揮するために、組織に所属することの大切さにも触れていきます。 今回は、入社者の適応支援を取り上げます。企業は入社者とよい信頼関係をどのように構築していけばよいのでしょうか。前半は新卒入社者・中途入社者、それぞれの組織への適応の「壁」を、また後半では、入社者支援のポイントについて「組織社会化」の理論を踏まえながら紹介していきます。

目次
企業に入社する時、人は何につまずいてしまうのか?
新卒新人の適応の壁~社会人になるということ
中途新人の適応の壁~即戦力幻想と前職のアンラーニング

企業に入社する時、人は何につまずいてしまうのか?

人が企業に入社して適応することは、多くの社会人にとって1度は経験することでありながら、なかなか難しいものです。例えば新卒社員が3年以内に離職する割合は約3割、その理由としては、労働環境(労働時間・給与・待遇など)の観点の他に、「仕事が合わなかった」「職場の人間関係が合わなかった」「自分のキャリア上の将来性を描けなかった」といった適応不全の観点もよく挙げられます(※)。人は人はなぜ、ときに企業に適応できないことがあるのでしょうか。要因は、外部労働市場の状況や景況感、企業の業績や組織コンディション、採用プロセスの巧拙などさまざまですが、本稿では、人の入社後の適応プロセスに目を向けて考えてみることにします。

新卒新人の適応の壁~社会人になるということ

新卒入社者の場合、大学生から社会人へ自分の意識や行動を変化させる必要があります。

新卒入社者にとっての“壁”は、単に「人が、ある組織から別の組織へと移転することによる適応」という観点だけではありません。「学生」から「社会人」へのトランジション(役割転換。役割のレベルに合った職務を遂行できるようになること)という側面もあります。

端的に言えば、お金を払って学びを得る立場から、お金をもらって顧客に価値を提供する立場への変化です。顧客への価値提供のために、仕事への責任を持ち、自らを律し、時にプライベートでは積極的に接点を持たないような多様な人とも協働しながら、自ら考え動くプロフェッショナルとしての意識・行動が求められます。弊社が大規模なインタビュー調査をもとに作成した社会人の役割転換モデル「トランジション・デザイン・モデル」のなかでは、新卒新人としてのトランジションを促すために求められる「伸ばす意識・行動」と、「抑える意識・行動」例を以下のようにまとめています(図表1)。


<図表1>新人に期待される役割と「伸ばす意識・行動」「抑える意識・行動」

<図表1>新人に期待される役割と「伸ばす意識・行動」「抑える意識・行動」

トランジションは人によっては大きな変化ですので、はじめは違和感や戸惑いがあってもおかしくはありません。戸惑うこと自体が問題なのではなく、その状況をいかに自ら受け止め解釈し、乗り越えていくかが大切です。ただ、実は昨今の新卒新人は、この自分にとって納得できない環境のなかでも自力で意味づけをして進むというこの経験を、これまでの新人よりも経験していないことが、弊社の別の調査から見えてきました(図表2)。つまり、社会人になることを通じて、トランジションにともなう葛藤を自ら乗り越えるプロセスを新しく学習していくことになりますので、乗り越えるべき壁がこれまでの新人以上に高くなっているわけです。また他の調査では、新人が上司に期待することとして、「相談にのり、フォローする」「認める・ほめる」「耳を傾け、受け止める」といった行動を求める傾向も確認されています(図表3)。二重の壁を乗り越えていくにあたって、周囲に対し、自分の奮闘したプロセスに目を向け、耳を傾けて対話しながら伴走してほしい、葛藤による不安も大きいなかで、できたことはしっかりと承認してほしいと感じているようにも思えます。


<図表2>社会人になる前の経験の有無―新人・若手と育成担当の比較

<図表2>社会人になる前の経験の有無―新人・若手と育成担当の比較

<図表3>上司に期待すること

<図表3>上司に期待すること

中途新人の適応の壁~即戦力幻想と前職のアンラーニング

では、中途入社者の場合はどうでしょうか。中途入社者は、新卒入社者と異なり「即戦力」を期待されています。当然ながら、社会人としてのトランジションは乗り越えており、特定の職種・業務において成果を出すことを具体的に期待されていることが多いでしょう。しかし、実際は中途入社者もまた、会社を移ったことによる初期適応に苦労しています。

弊社が中途入社者に行った調査によれば、仕事や職場に馴染むまでに苦労があったことが分かります(図表4)。また、弊社が中途入社者にインタビューを行い、中途入社者の適応上の“壁”をまとめた適応の「3つの壁」と「6つの症状」(図表5)によれば、転職先の業務への習熟だけではなく、組織文化やその会社特有の仕事の進め方への戸惑い、また人間関係の構築などにも苦労するなかで、「自分は周囲についていけるのか」「やりたいことができるのか」といった不安を抱えていることが明らかになりました。

<図表4>中途入社者が適応に苦労したこと(職種別、複数回答)

<図表4>中途入社者が適応に苦労したこと(職種別、複数回答)

<図表5>中途入社者が入社1年以内に突き当たる「3つの壁」「6つの症状」

<図表5>中途入社者が入社1年以内に突き当たる「3つの壁」「6つの症状」

そしてもう1つ、中原淳氏が著した『経営学習論―人材育成を科学する』(2012年、東京大学出版会)では、中途採用者の適応を妨げる要素として、誰に聞けば仕事が進められるのかという社内人脈がないこと、社内で何をすれば評価されるのかという評価基準や役割が分からないこと、そして業務を行うための能力・スキルの不足の他に、前職までの仕事の進め方をアンラーニングできないことも挙げられています。

前職と同じ職種であったとしても、新しい職場環境に移れば成果を生み出すために必要な行動は異なります。前職での仕事の進め方や成果を出す方略を一度捨てて(アンラーニング)、新しい環境での自分なりの成果創出方法を見出していかなければなりませんが、入社者にとってこれはなかなか負荷が高いことでもあります。前職で高い業績を出していた人が、転職後にその成功体験を捨てられないことで、適応が阻害されてしまうケースもあります。

また、中途入社者は、本人の持つ専門性や仕事上のバックグラウンドが新卒入社者よりも多様であるため、適応不全の要因やアンラーニングすべき観点もまた多様です。そのため一律の支援が難しいのも、中途入社者支援において気を付けなければならない点です。

実際にあった例を紹介します。大手企業に勤めるAさんと、ベンチャー企業に勤めるBさんが、同じ中堅規模の企業に転職しました。Aさんは前職で組織の意思決定スピードの遅さや自身の裁量の小ささについて不満を感じていたので、転職先に入社したてのころは、一定の裁量や権限を持って仕事を進められる点が魅力だと思っていました。一方、ベンチャー企業から転職したBさんは、自身の裁量が小さくなったとしても体制が整った組織で働きたいと思っていましたので、転職先の仕組みが整っている点に感銘を受けていました。しかし、いざ仕事を進めてみると、Aさんは個人の裁量が大きすぎるところに、またBさんは、自身の権限の小ささや組織の仕組みが整っていることによるスピードの遅さに苦戦を強いられることになったのです。

同じ企業・組織であっても、前職とのギャップによって不適応感は全く異なるということ、そして、会社の風土について本人も前向きに合意した上で入社を決めていたとしても、いざ仕事をする段になると前職の習慣を捨てられず苦労することがあるという現実を、この事例はよく表しています。

新卒入社者同様、中途入社者が適応に苦労する瞬間があることもまた、構造的に当たり前のことです。中途採用者の適応のためのチューニング期間を割愛したり、特段のフォローをしたりすることなく即戦力としての動きを期待してしまうのは、現実的とは言えないでしょう。

このように、新卒社員、中途社員いずれの場合においても、入社者の初期適応には構造的な「壁」が存在します。では、入社後にどのような支援ができるとよいのでしょうか。後半では、入社者の適応を支援する施策設計のポイントについて紹介してみたいと思います。

参考文献
※厚生労働省「雇用動向調査」(2019年)/内閣府「子供・若者の現状と意識に関する調査」(2017年度)/JILPT「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成」(H29年)他より

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執筆者

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荒井 理江

ソリューションプランナー、広報・販促・ブランドマネジメントを担当ののち、2011年より「組織行動研究所」研究員として組織・人材マネジメントの各種調査・研究、機関誌「RMS Message」の企画・編集に従事。その後、経営企画部にて人材開発を主導、またベンチャー企業向け新規事業開発、サービス開発マネジャー兼プロダクトマネジャーを経て、現職。人材開発トレーナーの養成を担う。

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