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連載・コラムタグライン/世界を変える、「人間関係」の科学へ。連載 第1回

「自己を知る」は、よい関係性をつくるためのベース(前編)

「自己を知る」は、よい関係性をつくるためのベース(前編)
執筆者情報
HRアセスメントソリューション統括部
ソリューション企画部
エグゼクティブコンサルタント
竹内 淳一

プロフィール

時代の急速な変化にともない、働く個人と組織の関係が変わってきています。そして、リモートワークの急速な浸透などにより、かつてないほど、「人間関係」や人々が生み出す「関係性」、「場」が及ぼす影響が注目されています。当社は2019年7月、タグライン〈世界を変える、「人間関係」の科学へ。〉を策定しました。私たちは、“空気”だとか、“縁”だといわれ、捉えどころのないものだと思われてきた「人間関係」を、人々が生み出す場のエネルギーや相乗効果まで含めた豊かな概念として捉えています。
そこで、「人間関係」の側面から、多様な人との協働や、マネジメントのやりがいなどに光を当てる連載をスタートします。働く個人の一人ひとりをあるがままに生かすことを大事にしながらも、共通の目的に向かって社会に価値を発揮するために、組織に所属することの大切さにも触れていく、そんな連載にしたいと考えています。当社が50年以上、「個と組織」を科学的、実証的に探究してきたなかで培った知見を、各回さまざまな切り口でご紹介します。
連載の1回目は、自己との関係性に焦点を合わせた「『自己を知る』は、よい関係性をつくるためのベース」です。

「自己を知る」が改めて注目されている理由

皆、「自己を知る」ことの大切さは直感的に経験的に知っているのではないだろうか?
取り組む課題や新しい組織に自らを適応させ、よい結果を手に入れるために、例えば「自分は何が得意で何が苦手」で、「何にやる気になって、何に嫌気がさすのかを知る」ことは、自分で自分を前進させるために必要だったのではないか?
 「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」(孫子・謀攻)は有名だが、戦うというのは大げさにしても、状況や環境に挑むためには、どちらが欠けてもダメということを皆知っている。今私たちはVUCAの時代に生きている。そこにコロナ禍も加わり、私たちを取り巻く状況変化・環境変化は激しさを増し、「自己を知る」ことで自分自身が強くあることは、これまで以上に求められている。

多くの人が経験する「社会人になるタイミングでの『就活』」で、「自己分析」に取り組むのは象徴的な場面だ。面接で合格するための手段として取り組んだだけという人も、もしかしたら少なくないのかもしれないが。
本質的には、新しい環境で自分の力を最大限発揮する(挑む)ために、「自己を知る」ことに取り組むのが自己分析である。どの環境に身を置き、その意味を感じながら自らのエネルギーを高めるのか、どうやって自らの強みを生かし弱みを補うのか、まさにそれは社会に出てからの戦い方の設計そのものである。
これは、新卒のときだけのことでなく、転職でも、異動でも、新しい仕事や役割へのアサインでも同じことだ。

「自己を知る」は、「自己認識(セルフアウェアネス)」という概念で近代のリーダーシップ論のなかでも非常に注目されている。
EI(Emotional Intelligence:感情的知性)の提唱者であるダニエル・ゴールマンは、自己認識を以下のように捉えている。

<図表1>

自己認識の定義

立教大学経営学部の中原淳教授によると、「自己認識は、2020年代のリーダーにとっての必須科目になる」。それは、「自己の強みや専門性」を生かして「他」を動かすことが昨今は重視されているから。それは、VUCAの時代により不確実性が高まり、何が正解か分からない状況のなかにありながら、より強い倫理観が求められる企業にあって、かつての正解を提示するトップダウンの「強い」リーダーシップでは立ち行かなくなっているから。

しかし、「自己を知る」ということ自体をどのように捉えて進めたらいいのかは簡単なようで難しい。これを言語化・具体化することを本稿では考えてみたいと思う。

「自己を知る」は何につながるのか

ターシャ・ユーリックが過去の研究が示すものをまとめた内容からは、「自己を知る(=自己認識)」は本人とその周囲にさまざまなポジティブな影響を与えることが分かる。

<図表2>

自己認識の効果

この内容は、皆が直感的に重要だと思ったことを示していると言ってよいだろう。
一方、ターシャ・ユーリック自身の研究では、「ほとんどの人が自分は自身を知っていると信じているものの、自己認識できていることは実に稀有で、それを満たせている人は推計で全体の10〜15%程度だ」ということも投げかけている。
「重要だが、非常に難しいものが自己認識である」、まさにこれも直感的に思っていることを示している。

さらに他方で、就職活動から入社後の適応までを俯瞰して捉えた「就業レディネス」に関する研究についても紹介したい。
この研究は、「『自己を知る』ことが、入社後の効力感につながり、満足度や組織コミットメントを高め、そして定着につながる」ということを科学的に示している。

参考|就業レディネス
就業レディネスとは、「社会人としての自覚」と「自己理解の促進」が十分に高まった状態のことで、「就職活動への満足感」と並んで就職活動の充実を表す要素であるとされている(舛田, 2016)。
就業レディネスが高まった状態で入社することが、入社後の適応を促進し、満足度を高め定着に寄与する。

<図表3>就業レディネスと新人時代、社会人2年目以降の適応促進行動・効力感との関係

ここでの「自己を知る」は「自身が持っている能力や何を成していきたいかを『理解できている』」ということで、単純に「意識している」ということだけではない。自分が取り組むことに能力や成したいことがどうつながるか、さらにその先のやる気の向上にどうつながるかを「理解している」ということを指している。
そして、それはターシャ・ユーリックが示している「重要だが難しい自己認識」に向き合うことを意味しており、その先に、就業レディネスの醸成があり、入社後の適応や自身を生かす状態が待っているということを研究結果全体が指している。

自己を知るために何を捉えればよいか
〜人を構造的・俯瞰的に捉えるためのフレームワーク〜

しかし、この「重要だが難しい自己認識」は、誰もがある意味当然のこととしてある程度意識しているし、既に行っている。これが実感ではないだろうか。一方、広く深く「自己を知る」ことが、思った以上に難しいことも同様に実感があるのではないだろうか。
では、その難しさをどう乗り越えて「自己を知る」を進めたらいいか掘り下げてみたい。

最初に、人を構造的・俯瞰的に捉えるための「メガネ」となる、あるフレームワークを紹介する。
なぜなら、そのメガネが、「自己を広く深く知る」ことを促進するだけでなく、自分自身や周囲との関係を意図的に良い状態にすることを効果的に後押ししてくれると考えているから。
私たちの事業が長年磨き続けているテーマでもあるため、詳しくお伝えしたいと思う。


まず、人を構造的・俯瞰的に捉えるために、人の姿を少し紐解いてみたい。
「人はそれぞれ良い状態や結果を得るために、自身の持ち味を生かし、エネルギーを高く保ち続ける必要がある。しかし、人を取り巻く環境の変化が激しく複雑である。そのようななかで人はさまざまな喜怒哀楽を感じ、心の状態に揺らぎが生じる。それらを受けて、どのようにその状況に対峙する(戦う)のか、その『選択』を常に問われ続ける」

このような多面的でダイナミック(動的)な視界が、人を構造的・俯瞰的に捉えるためには必要となると考えており、ご紹介するのは、これを可能にするフレームワークである。

以下の図をご覧いただきたい。これは、人の姿を「氷山モデル」を使って表現したものである。
「氷山モデル」は、過去コンピテンシーを説明するモデルとして、スペンサーモデルが多くの場面で活用されてきたことで有名だが、当社では、さまざまなアセスメントツール、トレーニング、アナリティクス、コンサルティングなどのサービスやソリューションを60年近くにわたって開発し、クライアントに提供してきたなかで、それらの基盤として「氷山モデル」に磨きをかけてきている。

<図表4>

この図は、人のさまざまな姿を表現することに優れている。
表現している基本的なポイントは、「人の姿は、表出される目に見える特性だけで捉えられるわけではなく、その背後に内面の特性が隠れていて、それが人の姿に大きな影響を与えている」という点で、それを元に次のようなダイナミックな人の姿を捉えることができる。

【1】 獲得したい成果(目標)に対して、自身の持ち物(内面の特性)を発揮していることを表現している
【2】 得た経験から学び、自身の持ち物(内面の特性)に磨きをかけ、自己を変化させていくことを表現している
【3】 1と2で表現した自身の持ち物の出し入れが、心の状態の良し悪しに影響を受けることと、さらにその心の状態は周囲の環境に左右される様を表現している。

図表4の【3】は少し複雑なので補足したい。心の状態が良いとよりポジティブに目標を捉え意味づけて自分らしさを発揮するし、同様に経験もポジティブに捉え取り入れることで自身を変革する。また、心の状態が悪いと不安に押されて多くのことをネガティブに捉え、取り組む時もコミットメントが弱まったり自分に取り入れる時もゆがんだり流したりする。そのように捉えると理解しやすいのではないか。

さらに、人の内面の特性についても分解して捉えることで、その姿をより多面的に、そして多様に表現できる。
以下の図表5をご覧いただきたい。
これは人の内面を変わりやすさ・見えやすさの違いによって「3つの層」に分けて表現したもので、より下層にあるものが変わりにくく見えにくいものとして表現している。


<図表5>

それを基にすると、次のような表現で人の姿をより深みをもって捉えることができる

(某Aさんの例)

□ Aさんは、常に新しくて挑戦的な考え方をもっており、そのようなテーマに情熱を燃やしている。一方、これまでの経験から何事も基本に忠実なことが大事なことを理解しており、周囲にはそのスタンスが大事だと繰り返し語っている(考え方)

□ 現在は業務へのAI活用に取り組んでおり、その知識を身につけるため積極的に外部からのインプットを行い、挑戦的なPoC(Proof of Concept)を推進している。そのなかで、自身のスキル向上も果たしている(知識・スキル)

□ 他方、Aさんは元々新たなチャレンジを得意とするが、コツコツと積み上げていくことは不得手だ。普段は経験を生かし苦手な部分もカバーしているが、初めて取り組むときや追い込まれたとき、ストレッチした課題に取り組むときなどに、その元々の特性が顔を出すため注意が必要である(資質)

氷山モデルを活用し、水面下にある部分を分解して捉えることで、人の姿をより豊かに表現できることをご理解いただけただろうか。
一方で、自分自身やその周囲が、人の姿を偏った視点で捉えてしまっているかもしれないというリスクにも気づくことができたのではないだろうか。


ここまでは、「自己を知る」目的や必要性、その前提として必要な人を捉えるための「メガネ」についてご紹介してきた。次回の後編では、具体的に「自己を知る」を進めるにはどうしたらよいかについて解説したい。

シリーズ記事第1回 「自己を知る」は、よい関係性をつくるためのベース(前編)
第2回 「自己を知る」は、よい関係性をつくるためのベース(後編)
第3回 人間関係に悩む現代のマネジャーに伝えたい2つの視点
第4回 ミドルマネジメントの「人間関係」を役割や機能も含め拡大して考える
第5回 コミュニケーションの格差を生み出すテレワーク下の「物理的距離」と「心理的距離」
第6回 人と企業の新しい関係性を結ぶ、入社者支援のポイント(前半)―企業に入社する時、人は何につまずくのか?
第7回 人と企業の新しい関係性を結ぶ、入社者支援のポイント(後半)―プロセスと場のデザインで信頼関係をつくる
第8回 職場の意味と価値

「自己を知る」は、よい関係性をつくるためのベース(前編)
「自己を知る」が改めて注目されている理由
「自己を知る」は何につながるのか
自己を知るために何を捉えればよいか
〜人を構造的・俯瞰的に捉えるためのフレームワーク〜
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