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THEME マネジメント/リーダーシップ

連載・コラムタグライン 世界を変える、「人間関係」の科学へ。連載 第3回

人間関係に悩む現代のマネジャーに伝えたい2つの視点

人間関係に悩む現代のマネジャーに伝えたい2つの視点
執筆者情報
HRアセスメントソリューション統括部
アセスメントサービス開発部
マネジャー
荒金 泰史

プロフィール

時代の急速な変化にともない、働く個人と組織の関係が大きく変わり、注目されています。当社は2019年7月、タグライン〈世界を変える、「人間関係」の科学へ。〉を策定しました。 “空気”だとか、“縁”だといわれ、捉えどころのないものだと思われてきた「人間関係」を、人々が生み出す場のエネルギーや相乗効果まで含めた豊かな概念として捉えています。
本連載では、「人間関係」の側面から、多様な人との協働や、マネジメントのやりがいなどに光を当て、働く個人の一人ひとりをあるがままに生かすことを大事にしながらも、共通の目的に向かって社会に価値を発揮するために、組織に所属することの大切さにも触れていきます。

第3回目の連載は、上司と部下の一対一の関係性に焦点をあてた、“人間関係に悩む現代のマネジャーに伝えたい2つの視点”です。

上司と部下の「人間関係」を巡る悩み

私はリクルートマネジメントソリューションズにおいて、「INSIDES」という、クラウドサービスの開発・提供を行っている。

「INSIDES」とは、現場マネジャー(上司)に対して、メンバー(部下)一人ひとりの心理状態や性格タイプをふまえたコミュニケーションのポイントを示唆し、当社 の専門家がオンラインでいつでも相談を受け付けるサービスだ。

このINSIDESの導入にあたって、各企業では、現場マネジャー向けに、ツール活用のためのガイダンスを同時に行うことが多い。私は、こういった活用ガイダンスの講師も頻繁に務めている。つまり、さまざまな企業の現場マネジャーの皆さんを前にして、「メンバーの性格タイプごとに関わり方をこう変えた方がよい 」とか、「離職に至りかねないメンバーはこういう心理状態に陥っているから、こうしてあげた方がよい 」とか、そういった講義を行い、またディスカッションを通じて、その場で皆さんの相談にも乗らせていただくようなイメージである。

そんな私の働いている様子を目にして、ある老舗酒造メーカー出身の義父は、「君のやっていることは、『人間関係アドバイス』のアウトソーシングやなぁ」と言った。まさにそうだなぁと感じている。INSIDESを活用する企業はさまざまだ。日本とは商習慣の異なる外資系企業 のセールスチーム、昔ながらの職人気質の製造業の技術者、リモートワーク中心のシステムエンジニア、流通小売業の店長などなど……。

一方で「メンバーにどう関わったらいいのか」ということに、マネジャーが悩み、苦戦・苦心していることについては、業種や業態を超えて、驚くほど共通しているように思う。「最近の若者は何を考えているのか分からない」とは、いつの時代も聞かれる常套句のようなものだが、ブラック職場・ハラスメントなど、マネジメント上の失策がこれだけ公にクローズアップされてしまうなかで、メンバーマネジメントに臨む管理職の気苦労も増す一方なのかもしれない。本コラムでも、そんな現場マネジャーが、メンバーとの人間関係に悩むことが少しでも減るような視点を2つほど提供できればと考えている。

「上司が思うようには、部下は思っていない」という事実が、すれ違いや悩みを生む

1つの視点は、そもそも「上司から見て前向きそうか?と、本人が実際に前向きか?には、かなりの 差がある」ということである。このように書くと当たり前のことのように思えるが、意外とこのギャップを認識できない/前提として受け入れられないマネジャーが多い。例えば上司から見て「彼は、先日も大きな商談をまとめたばかりで、よく頑張っている。とても前向きに違いない」と思っていたメンバーが、「現在の状況は仕事の負荷が高すぎて、自分がやりたいことに時間を割けてい ない。もっと成長できる環境に身を置きたい」と言って転職してしまうケースがある。マネジャーの立場からすれば、このメンバーはチームのエースで、大きく期待をかけていた人材だったに違いない。それが行きすぎて、上司の期待に応えてくれていること≒現在の環境をポジティブに捉えているはず、といった思い込み・思い違いが起きてしまうことが、実際に企業の内側で起きている。

<図表1>

図表1

図表1は、弊社で蓄積しているデータを用いて、縦軸に「上司から見て、そのメンバーはどれくらい期待に応えているか?」を、横軸に「メンバー自身は前向きに働くことができているか?」をそれぞれ5段階でプロットしたものである。先述の“上司から見れば期待に応えている”が“自身としては前向きではない”メンバーは([2]の合計)は、23%にも及んでいる。

こういった思い違い・すれ違いの例は他にもある。同じ図の左下、“上司から見てまだまだと感じる”一方で“自身も前向きになれない”メンバーのケースだ。一般的なマネジャーは、自分から見て“まだまだ“と思うメンバーには、課題を指摘するようなコミュニケーションを取りがちだ。しかし、メンバー自身が前向きな気持ちを持つことができていない状態だと、こういった指摘はかえって空回りする。メンバーからすれば、素直に聞き入れることができないのだ。これも、メンバーの心境を思えば、ある意味当然である。だが、上司からすれば、本人の成長を思って一生懸命にアドバイスを送っている側面もあるだろう。上司が懸命にアドバイスすればするほど、部下がなぜ言うことを素直に聞かないのか、疑問に感じてしまう。こうしたすれ違いが起きやすい層の出現率([3]の合計)も、29%にも及ぶ。上司は、10人の 部下がいたらそのうちの3人に対して、 こうした苛立ちやストレスを感じているといえる。


こうした思い違いやすれ違いに起因する悩みに、マネジャーはどう向き合えばよいのだろうか? 簡単なことである。そもそも「自分がこうあってほしいと思うように、部下は思わない」 という視点に立ちきってしまうのである。そうすれば、自分が望むように部下が考えてくれないことへのストレスは解消される。あくまで部下自身の 視線・気持ちを知り、部下それぞれが前向きに、自律的に動いてくれるように働きかけることにフォーカスすればよいのだ。その視点を持つことで、やる気がない部下をどう変えればよい のか?という問いは、部下自身が前を向くために、マネジャーには何ができるか?という問いに変わって いくのである。

上司は、部下の抱えている不安や不満をすべて解決してやる必要はない

もう1つの視点は、「上司は、必ずしも部下の抱えている課題や不満を解決してやらないといけないわけではない」ということである。さまざまな企業のマネジャーと接していると「部下から『お客様の急な問い合わせに対応しなくてはならないことが大変だ』といったことを言われるが、それは私たちの会社の仕事の進め方としては変えようがないことなので困っている」といった悩みが寄せられることがある。

他にも「当社を取り巻く環境について、なかなか見通しが立たない状況で『会社の将来が不安だ』という部下の声があるが、そんなことは私にもどうしようもない」というマネジャーの声もあった。メンバーの不満や不安の要因に何となく見当がついてしまうからこそ、どのようにアプローチすればいいかが、かえって分からなく なってしまうマネジャーは多いようだ。

そんなマネジャーの皆さんにお伝えしたいことは、不満を抱えている部下が求めているのは、上司に問題を解決してもらうことではなく「自分の抱えている 気持ちをまずは誰かに聴いてもらうこと」なのだ、ということである。私がよく例に挙げるのは、自分の妻とのコミュニケーションだ。妻が、自分の仕事や会社・上司についての不満をいろいろと私に伝えてきた際に、私はつい「仕事の進め方をこうしたら?」「上司にもこう言ってみたら?」とアドバイスしてしまうことが多い。だがそのような対応をすると、当然のことながら 「火に油を注ぐ」結果となる。妻は正論やアドバイスなどは求めておらず、誰かに気持ちを聴いてもらいたかったのである。部下とのコミュニケーションも、根本的には同様である。

私は、若手社員の早期離職に悩む企業の相談に乗ることも多い。実際に、多くの企業で残念ながら退職の道を選んだ若手社員にインタビューをしてみて気が付くことづくのは 「この若手社員は、上司や周囲に辞めようかどうかを相談していないのだな」というケースが非常に多いことである。この点は、定量的な調査でも明らかにされている。

<図表2>

図表2

彼・彼女 らが退職に至る心理プロセスは、簡略化すれば下記のようになる。
1. 気になる事象をいくつか見かける
2.自分のなかで悶々と1の事象を解釈し、意味づけ、ネガティブなシナリオを作り上げる
3.自分は定年までこの企業で 勤めるべきではない、という結論に至る

この1〜3 のプロセスで、過度な思い込みや誤解、結論までの飛躍がよく見られるのだ。周囲から見れば 、「もう少し 話ができていれば、結論は変わったかもしれない」といったことが非常に多い。周囲に相談していないがゆえに、余計に悩みを深め、孤独に陥ってしまう若手社員が、そのまま離職に至ってしまう構図は上司・本人双方にとって不幸である。

部下の気持ちに立てば「私のことを誰1人分かってくれない」と思い込んでしまう状況と、「この人は分かってくれる」と思える上司や先輩が1人でもいる状況は大違いである。上司は、必ずしも部下が抱えている課題や不満を解決してあげる必要はない。一方で、部下の悩みや気持ちに注意を払い、理解や共感を示すことにはぜひ意識を向けていただきたい。部下が見ているのと同じように状況を見て、一緒に考えていくことが重要である。

リモートワーク環境で、上司・ 部下の関係性において気をつけるべきこと

最後に、リモートワーク環境において、マネジャーが気をつけるべきことに おいて、マネジャーが気をつけるべき留意点について触れさせていただきたい。こちらのデータは、ある企業において、リモートワーク環境下で「上司との1:1の対話」の増減が、メンバーのメンタリティにどのような影響を及ぼすか?を表したデータである。

<図表3>

図表3

このデータが示すことは非常にシンプルで、リモートワーク環境において、上司との1:1が減ってしまったメンバーの方が、1:1の対話を維持あるいは増やせているメンバーと比べて、ネガティブである割合が高い、ということである。

リモートワーク環境は、働く個人にとってさまざまなメリットやデメリットがある。なかでも孤独を感じてしまいがちなことや、1人で考え込む時間が増えてしまうことはデメリットになりやすい部分であるといえるが、そういった状況下で、上司との1:1の対話が少ないメンバーは、1人悶々としてしまいやすい うことが多いのだろう。

こういった状況では、ネガティブな思考ばかりが進みやすいものである。結果として、先述したように「こんな思いを誰も分かってくれない」「誰も私のことを気にかけてくれない」と落ち込んでいってしまう可能性もある。上司としては、リモートワークの環境においても、部下との1:1の対話機会については、ぜひ確保することを意識していただきたい。

「上司・ 部下の人間関係」に関する悩みは、企業の内で起こる悩みのなかでも最もポピュラーなものだが、科学的な視点を持ち、合理的に向き合えば、そもそも悩まずに済むことも多いと私は考えている。メンバーとの関係性が良くなれば、マネジャーの心的負担も軽くなる。
このコラムが、そんな一助になればよい と思う。


関連するサービス:現場マネジャーの対話を促進するコミュニケーション変革クラウド「INSIDES(インサイズ)


バックナンバー第1回 「自己を知る」は、よい関係性をつくるためのベース(前編)
第2回 「自己を知る」は、よい関係性をつくるためのベース(後編)

人間関係に悩む現代のマネジャーに伝えたい2つの視点
上司と部下の「人間関係」を巡る悩み
「上司が思うようには、部下は思っていない」という事実が、すれ違いや悩みを生む
上司は、部下の抱えている不安や不満をすべて解決してやる必要はない
リモートワーク環境で、上司・ 部下の関係性において気をつけるべきこと
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