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タグライン/世界を変える、「人間関係」の科学へ。連載 第4回

ミドルマネジメントの「人間関係」を役割や機能も含め拡大して考える

  • 公開日:2021/03/08
  • 更新日:2024/05/20
ミドルマネジメントの「人間関係」を役割や機能も含め拡大して考える

時代の急速な変化にともない、働く個人と組織の関係が大きく変わり、注目されています。当社は2019年7月、タグライン〈世界を変える、「人間関係」の科学へ。〉を策定しました。 当社は“空気”だとか、“縁”だといわれ、捉えどころのないものだと思われてきた「人間関係」を、人々が生み出す場のエネルギーや相乗効果まで含めた豊かな概念として捉えています。本連載では、「人間関係」の側面から、多様な人との協働や、マネジメントのやりがいなどに光を当て、働く個人の一人ひとりをあるがままに生かすことを大事にしながらも、共通の目的に向かって社会に価値を発揮するために、組織に所属することの大切さにも触れていきます。 第4回目の連載は、一対多の関係性について触れます。「人間関係」を役割や機能を含めたものに拡張して、ミドルマネジメントを中心に語ります。 企業組織における仕事の進め方、課題解決のあり方やコミュニケーション手法などは、環境変化のなかで大きく変化してきている。具体的には、テレワークやモバイルワークなどに代表される、リアルな人と人との交わりを前提としない業務のあり方が一般的となってきた。本稿では、第1回から3回で扱ってきた自己理解や上司・部下間の人間関係に関する議論を、役割や機能を含めたものとして拡張し、ミドルマネジメントを中心とした、マネジメントにまつわる、これまでと今後のあり方について考えてみたい。

上司は「部下に仕事をしてもらう」必要がある―テレワーク下での実態調査より
マネジャーに期待される役割は大きく変化しないが、チャレンジの克服の仕方が変わる
上司・部下双方が、力を出し合い成果に繋げる活動に向けて必要な「両義性」の認識
上司・部下の役割や活動を高いレベルで実行することで、互いの境界を超える

上司は「部下に仕事をしてもらう」必要がある―テレワーク下での実態調査より

当社では、テレワーク下での上司・部下間のコミュニケーションを起点としたさまざまな関係性のあり方について調査を行い、結果を報告している(詳細結果は上司・部下間のコミュニケーションのすれ違いとテレワークの影響)。図表1は、「管理職・一般社員それぞれが重視するコミュニケーション内容」に関する調査結果である。薄いピンク線で囲われた、上司(管理職)と部下(一般社員)で乖離の大きな項目に着目すると、上司は部下に「心身の健康を慮り、期待していると伝え、その貢献に感謝し、仕事や職場の活動に当事者意識をもって参画してもらう」べく活動しようとしているが、部下はそれほど重視していないことが窺える。以前から、マネジメントの役割や機能についてはさまざまな議論がある。本稿では、この調査結果を踏まえ、上司は部下に仕事を「やらせる」役割なのではなく、組織としてのミッションに向かって、部下にそれぞれの課題を「やってもらわなければならない」役割であると捉えてみたい。以後、新たな発見やこれからの時代における示唆はないか、議論を進めていく。

<図表1>管理職・一般社員それぞれが重視するコミュニケーション内容

<図表1>管理職・一般社員それぞれが重視するコミュニケーション内容

マネジャーに期待される役割は大きく変化しないが、チャレンジの克服の仕方が変わる

マネジャーの役割や活動に関する研究で著名なミンツバーグは、マネジャーの概念を拡張し、経営トップからミドルまでに通底するさまざまなマネジャーの役割が存在することを明らかにしている※1。具体的に、「(1)対人関係における役割(看板的、リーダー的、リエゾン的)」「(2)情報に関わる役割(監視者、散布者、スポークスパーソン)」「(3)意思決定に関わる役割(企業家、妨害排除者、資源配分者、交渉者)」の3つの役割を示した。そして、その後の追跡研究※2において、「マネジメントの役割そのものは、以前からのものと大きくは変化していないが、今日的環境においてその活動ウエイトが変わる」ことを報告している。

当社では、2010年より企業人の役割ステージの移行に伴うチャレンジと期待される役割に関する実態調査ならびに研究を行い、「トランジション2.0」としてまとめている。結果、多くの企業において、中堅リーダー、課長へとステージが変わるに従い、図表2のような役割が期待され、新たなチャレンジが発生することが明らかになった。

<図表2>課長・中堅リーダーに期待される役割とチャレンジ

<図表2>課長・中堅リーダーに期待される役割とチャレンジ

これらから、中堅リーダーには人やチームを動かして幅広い課題を解決することが期待され、管理職になると、「包括的な」仕事の任せ方や「職場全体の力を高める」活動の有無などがその活動の成否を分けていることが窺える。これらの期待とチャレンジの内容についてはミンツバーグも言うとおり、今日的だといえるようなものは少ない。ただし、特にそのチャレンジの乗り越え方については、ビジネス環境や時代背景を踏まえた固有の困難さが存在するといえる。具体的には、中堅リーダーが公式権限を伴わないなかで期待される、「バーチャル」なチームにおける、「周囲(の人びと)に無関心ではないことを表明しながら」、上手に人を動かすとはどういうことなのだろうか。管理職が、「年齢構成や背景、雇用形態の異なる社内外を超えた」メンバーそれぞれの強みを引き出し、「プロジェクト型など短サイクルのチームにおいて」その組織全体の力を高めること、とは、どのような時間軸で何を目指すことだろうか。

これらは、マネジャーやリーダーに共通する1つの解が求められる類のものではないだろう。職務特性や構成メンバーや課題により、解決策は異なるということである。ただし、それではあまりに状況やその時々の文脈に依存しすぎるのではないだろうか。

上司・部下双方が、力を出し合い成果に繋げる活動に向けて必要な「両義性」の認識

確かに、今日的な環境変化のなかでさまざまな関係者により構成される組織において、好ましい今後のマネジメントのあり方について検討するとなると、それらは個別性が高くなり状況やその時々の文脈に依存するウエイトは高まる。そうなると、上司や部下、関係者できちんとお互いの期待をすり合わせて、となるのが王道である。そこにおいて、実践に向けたヒントや論点を私たちは見落としてはいないだろうか。

本稿の議論は、上司が部下に仕事を「やらせる」のではなく、「やってもらわなければならない」と捉えることからスタートしている。日本企業の1990年代までのさまざまな新製品開発や変革に向けた活動から金井氏は「変革型ミドル」論※3を展開した。その際に併せて、「マネジメントの両義性」(図表3)についても言及している※4。それらは、マネジャーの役割や活動を、「表」だけではなくて「裏」からも捉え、意識的に両者を使い分けていくことで、個人や組織としての主体性やエネルギーの発露、持続的・継続的な成長を指向したものといえる。さらにいえば、上司は部下と共に「表」と「裏」を同時に実現するマネジメントにおける諸活動を行うことができる可能性がある。少なくとも1990年代までの優れた現場ではそれが行われていたことが今日あらためて確認できる。

<図表3>マネジメントの両義性

<図表3>マネジメントの両義性

1990年代以前と現在において上司・部下を取り巻く環境は大きく異なる。ただし、そこから学ぶべきものはあるのではないか。現在に比べて上司と部下間の権限や情報の格差が大きかった当時においては、マネジメント側が「両義性」を意識したことによって、部下からの自発的な提案や活動を促し、変革や組織成長を手にしたといえる。当時に比べて、両者の権限や情報の格差が小さく、他方取り巻く外部環境の複雑性・不確実性が高まり部下の多様性が拡大した現在において、この考え方を適用してみよう。上司・部下それぞれが、組織において期待される役割や活動を認識したうえで、その発揮や展開のあり方については、「表」と「裏」、もしくはその両方を効果的に使ったコミュニケーションが展開されるはずである。ただし、1990年代までとの違いは、2点存在する。まず1つは、複雑性や多様性の高まりから、一旦合意した方針が方向転換(ピボットともいう)される可能性が高いことである。もう1つは、マネジメントの「両義性」で示されているような、役割や活動の振れ幅や許容範囲のイメージを、言葉に出して示したり会話の俎上に載せたりすることである。方針が変わることはあり得るし、お互いの役割や活動を、その振れ幅や変化を前提に言葉にしておくことが関係の土台をつくっていくことに繋がるであろう。

上司・部下の役割や活動を高いレベルで実行することで、互いの境界を超える

個人や社会の対話的実践の重要性を唱えるガーゲンは近著「関係からはじまる(Relational Being)※5」において、今後の企業を含む組織においては、リーダーシップよりも組織の共同的な意思決定が必要であり、そこへの積極的な参加を促す手段の1つが肯定(アファメーション)であると指摘する。前項のとおり、本稿で扱う上司・部下の対話においては、両者が前提となる役割や活動を理解し、発揮しようとしていることが前提となる。そのうえで、さらに高次の組織成果の追求やさらなる個人のコミットに向けては、お互いの役割や活動に対する「両義性」を認識・活用した対話を、なるべく「明示的に」行っていく必要があろう。結果、上司や部下といった役割の境界を超えた意思決定や要望が生まれていくことだろう。

人生のうちで多くの時間を費やす仕事における、厳しくも温かい、そしてやりがいに満ちた上司と部下の関係性の輪が、さらに大きな組織を動かすダイナミズムに繋がっていくような未来は、もうそこにあるのかもしれない。


※1 Mintzberg, H.(1993)『Structure in fives: Designing effective organizations』,Prentice-Hall, Inc.
※2 Mintzberg, H.(池村千秋訳)(2011)『マネジャーの実像―‘管理職’はなぜ仕事に追われているのか』、日経BP社
※3 金井壽宏(1991)『変革型ミドルの探求―戦略・革新指向の管理者行動』、白桃書房
※4 金井壽宏・沼上幹・米倉誠一郎(1994)『創造するミドル―生き方とキャリアを考えつづけるために』、有斐閣
※5  Gergen, K.(鮫島輝美・東村知子訳)(2020)『関係からはじまる―社会構成主義がひらく人間観』、ナカニシヤ出版

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