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連載・コラム

【事業成長期のHRMを考える】vol.6 HRBP勉強会レポート

企業の理念を体現する人事制度をつくる

  • 公開日:2020/09/07
  • 更新日:2024/04/04
企業の理念を体現する人事制度をつくる

本連載は、事業成長期にある企業組織のHRMのあり方について、ベンチャー企業の経営者やHR責任者の方々と議論した記録をお伝えするものです。
vol.2以降は、全5回にわたってベンチャー企業のHRBP・HR責任者の方々との学びのコミュニティにおける勉強会の内容の一部を、レポート形式でお伝えします。
今回(Vol6)のレポートでは、「企業の理念を体現する人事制度」をテーマに、人事制度設計の推進手順や方針設計のポイントと、自社・自事業の取り組み事例を討議した勉強会の様子を簡単にご紹介します。
急激な組織拡大のなか、人材の熱量・才能を最大限に引き出し、事業成長を力強く推し進める人・組織づくりのために何ができるのか。読者の方々のヒントにつながれば幸いです。

今回のご参加企業(順不同・敬称略)
株式会社サイバーエージェント/株式会社ゲームエイト/株式会社マネーフォワード/株式会社MTG/ウェルスナビ株式会社/ナイル株式会社/株式会社MUGENUP/株式会社FABRIC TOKYO/ユナイトアンドグロウ株式会社/カラクリ株式会社/株式会社フルスピード/WAmazing株式会社/ブランディングテクノロジー株式会社/株式会社VOYAGE GROUP/株式会社ツクルバ/株式会社シンクロ・フード

ナビゲーター
リクルートマネジメントソリューションズ HRテクノロジー事業開発部
野崎日土志・荒井理江・藤江嘉彦・奥野康太郎・芦村真美
コンサルティング部
加茂俊究

人事制度の位置づけと一般的な構築方法
人材マネジメントを照準を誰に当てて考えるのか?
多様な価値観の人材が集うからこそ、言葉と運用支援にこだわる
OKR等の評価制度導入における失敗と対策
多様な価値観を内包するグループ経営における留意点

人事制度の位置づけと一般的な構築方法

野崎:コロナ禍で開催を延期しておりました事業成長期のHRMを考えるHRBP勉強会の最終回は、「企業の理念を体現する人事制度をつくる」です。組織の成長に応じて、背骨に該当する人事制度をどのように設計・改定するかについて、意見を交わせたらと思っています。なお、人事制度といいますと、企業ごとにスコープが異なりますが、今回は以下の図の赤字で示した、組織のミッション・ビジョン・バリューを具体化した人材マネジメントの方針策定から、賃金・等級・評価制度の基本設計の部分を中心に議論ができればと思います。

図表1 人材リソースフローと人事諸制度

はじめに私から、「人事制度設計手順と制度設計における基本的な留意点」について簡単にご紹介します。まずは、一般的な人事制度の設計手順です。プロセスや期間はあくまで目安となりますが、現状把握から方針策定、詳細設計までで、大体6~9カ月程度で構築するのが一般的かと思います。ベンチャー企業の場合、組織ステージによってはあえて細かくつくり込まない方がよいケースもありますし、検討のタイミングによっては3カ月程度で短期構築するケースもあるので一概にはいえませんが、プロセスとしては概ね変わらないかと思います。

図表2 一般的な推進手順

つぎに、基本的な留意点ですが、3点あります。第1に、人事制度構築・改定の目的をどこに置くか。どのような目的で、何を変える必要があって、人事制度に手をつけるのかを明確にしておくことです。第2に、自社の特性(業態や事業・ステージ・状態)に即しているのかという点。第3に、今後の事業展開拡大とどう連携するのかという点で、主に前提とする事業ステージや期間をどう置くかです。

「ポリシー・検討方針策定」のフェーズでは、それらの点を明確にします。弊社では、それらの方針を「人材マネジメントポリシー」と呼称しています。ミッション・ビジョンを実現するために、いつまでに、どのような組織や個人の状態を目指すのか、その実現のために会社は社員に何を求め、何を約束するのかを言語化したものです。

図表3 人材マネジメントポリシー

バリューを明確化しているベンチャー企業は多いかと思います。バリューは、行動のフェアウェイである組織の価値基準を示したものであり、人材マネジメントポリシーは、目指す状態を示したものです。例えば、2025年ビジョンのような事業上のゴールを設定する際、それを実現するうえで、目指す組織や個人の状態をマネジメントチームの間で言語化しておかないと、人によって目指す像がズレたり、解釈が大きくぶれたりしてしまいます。事業成長と共に、組織ステージが「創業」から「拡大」、「公式化」ステージへと変わり、多様な価値観の人員の比率が増すほど、言語化することの重要性が増していきます。

言語化の一例として、個人でいえば、いわゆる対自己や対人、対仕事といった発揮行動観点、組織でいえば、職場の心理的安全、意欲性、目標指向性などの観点でありたい状態と現状を具体化します。また、必要に応じて、業務プロセスごとの仕事の仕方やコミュニケーションの現状とありたい姿など、さまざまな観点で議論し、マネジメントチーム内の価値観を合わせていきます。そのうえで、それを実現するために、社員に会社が約束する事も明確にします。以上を踏まえて、現状の人事制度における等級・賃金・評価制度の何を変えるのかが明確になります。こうした議論がないままOKR(Objectives and Key Resultsの略、目標と主要な結果)などの流行の手段の導入だけが先行したり、ベンチマークとしている他社や大手企業が運用している人事制度を自社にそのまま転用したりした結果、運用がうまくいかず困っているというご相談をいただくケースもままあります。

事業スピードが大事なベンチャー企業において、組織に関する議論に時間をかけ、目指す状態と現状の可視化をし、差分を埋める方法を検討しながら、人事制度をつくり込むプロセスがよいかどうかはケースバイケースですが、参考までにご紹介させていただきました。

さて、ここまでの内容を踏まえつつ、各社の事例や課題を共有する時間に入りたいと思います。各グループに分かれて、事例や課題をシェアしながら、自由に語り合いたいと思います。

~40分ほどグループ共有を行う~

人材マネジメントを照準を誰に当てて考えるのか?

野崎:時間になりましたので、グループ共有を終わります。では、各グループでどのような話が出たのか、「全体共有」をしていただけますか? まずは、グループ1からお願いします。今回は、各グループについた弊社のナビゲーターにまとめて話してもらいましょう。

藤江:こちらは、組織ステージが変わるタイミングで、人事責任者という立場で外部から入られ、人事制度の改定に取り組んでいる最中の方が集まられたグループでした。方針策定の前段階として現状把握をするうえで、事業の成長に応じて、必然的にさまざまな価値観を持つ人材が入り交じることになるベンチャー企業において、主に4種類のタイプの人材がいる点に留意しながら、施策設計を進めているというお話が印象的でした。「創業社長と一緒にやってきた人達」、そしてその後に「そこに憧れて新卒採用された人達」、拡大期に裏方も含めて「さまざまな専門性を持つ人材として外部から中途で入った人達」、さらに組織ステージが変わった上場前後のタイミングで、「自分のキャリアを育ててくれる最適な環境を求め、他社と比較検討しながら入ってきた人達」の4種類です。

セグメントごとに価値観は異なります。そのなかで目指す状態を設定し、制度に落とし込んでいくには、何をこれまで大事にしてきたのかという過去観点、これから何を大事にしていきたいのかという未来観点、どのような人材に居てほしいのか、一緒に働きたいのかという人観点など、さまざまな観点から議論することを通じて、共通点を丁寧に探り、紡いでいくプロセスが重要であるというお話でした。また、新たなマネジメントポリシーのようなものを明確にすればするほど、セグメントによってはフィットしない層も当然出てくるわけですが、どこまでソフトにいくのかハードにいくのか、何を基準に決めるのかという議論が印象的でした。

多様な価値観の人材が集うからこそ、言葉と運用支援にこだわる

加茂:私たちのグループ討議におけるポイントは大きく2つありました。1つ目はマネジメントポリシーについて。いかに言葉を揃えるかが大事であるという点。2つ目は、いかに運用に乗せるかという点です。

まず1点目のマネジメントポリシーの言葉を揃える点ですが、PMI(Post Merger Integrationの略、企業合併・買収後の統合プロセス)を進める上で、会社ごとに使っている言語が異なっており、まずはそこの言葉を揃えることからスタートしたという事例を伺いました。マネジメントポリシーで、総論賛成・各論反対のようなケースはよくありますが、言葉を揃えることによって、さまざまな価値観の社員が持つポリシーへの納得感や具体的な目指す状態のイメージを合わせることをとても大事にしていらっしゃいました。

2点目の運用にいかにつなげるかという点では、極めて実践的なマネジャー向けの研修を通じて、制度運用につなげているという事例です。具体的には、各マネジャーを集めた3種類の社内討議会を定期開催されています。象徴的な成果につながった各マネジャーのマネジメント行動、挑戦して失敗したマネジメント行動、視座をあげるための経営者を講師としたケーススタディの3つです。PMIを進める上で、制度の運用能力強化もそうですが、企業ごとのマネジャーの強みや価値観の相互理解を促進するねらいもあり、そうした場とコンテンツを設けているというお話です。運用について、もう1つ取り上げると、部長層が人事制度を運用するマネジャー層に対して、期待と経験のデザインを工夫することを徹底しているというお話でした。期待とは、基本的に1つ上の役割を期待し、アサインすること。経験のデザインは、1つ上の役割をアサインすると失敗することも多々あるわけですが、それをサポートするメンターを配置し、1on1を通じて必ずフォローすることです。人事制度の改定を通じて意図していることを率先垂範で上位層から実行していくことは、王道ですが、なかなかやりきれないケースが多いものです。それを徹底されている点が印象的でした。

OKR等の評価制度導入における失敗と対策

荒井:こちらは単一事業を営む100~200名規模の組織拡大ステージの企業の方が中心のグループでした。主に評価制度に関する議論が中心でした。1つ目が行動評価について。働き方がリモートに変わっていくなか、どのように行動評価の運用を工夫しているのかという点です。まずは、今の規模で事業も成熟していないなかで、あまり精緻化した行動評価項目を設計しても、策定のパワーがかかる割に、現場の納得感は高まらないという泥沼にはまりやすいということ。つぎに、行動評価を適用する対象から、シニア層は外すということ(シニア層は基本的に業績評価)。最後に、エンジニアやデザイナーのような技術職に関しては、マトリクス型組織設計として、ラインの評価と機能軸の評価を組み合わせ、コミュニケーションすることで納得感を高めているということを工夫されているというお話でした。マネジメントコストは高くなりますが、その点は受容しているという点が印象的でした。

もう1つがOKRの導入時の留意点についてでした。目線をあげて、ストレッチな目標を追いかける風土にしていくための1つの手段として、OKR導入を検討しているということでした。まず共有いただいたのが、事業が成熟していない段階でOKRを入れて、うまく運用に乗せられなかったというお話。そもそも事業のKPIや構造が定まっていない環境下、運用に慣れていないマネジャーを中心にOKRを展開するのは無理があり、うまくいかなかったという事例でした。また、教科書通りにOKRと評価を切り離して運用したが、誰も目標を追わず、これも機能しなかったという事例もありました。つぎに評価者や非評価者の目線をあげることを目的とした場合、OKR導入ではないのですが、目標のレビューにマネジメントコストをかけることで、それを実現しているというお話が印象的でした。具体的には、人事や部門長が目標設定と自己評価のタイミングで、必ず1~2時間程度この人材をどう育成していくかという討議の場を設けられているとのことでした。個人ごとに状態が異なるなか、目線をあげるという話をどう実現するかといえば、それを目的に話す時間を取り続けた先にしかないのではないかと考えられ、投資されているというお話でした。最適なフィードバック者が外部の方ならば、その方の巻き込みまでしていらっしゃるという点に意志を感じました。

多様な価値観を内包するグループ経営における留意点

奥野:私たちのグループは、複数事業を営まれている企業の方が多いグループでしたので、人事制度の話では、コーポレートと各事業部の役割分担の話が印象的でした。全社共通のバリューは置き、エントリーマネジメントをしたうえで、あまり中央からのコントロールを利かせすぎず、各事業が人事制度の運用を柔軟に回せるようにすること、人事部は各事業部の支援にパワーを割くというお話でした。また、もう1つ印象的だったのが、いわゆるウォーターフォール型で、上位方針から順にきっちりつくり込み、失敗をしてはいけないという意識で人事施策を設計されているケースが多いのですが、全くスタンスが逆で、所謂アジャイル型に構築しているというお話です。激しい変化と事業成長にともない、多様な価値観の人材が混在する組織においては、どのような制度にするにせよ、表に出せば、意見はいろいろ出てきます。意見が出てくることは組織として健全であり、その意見を聞いて、寄り添ったうえで、成果が出るためにどう変えていくのかというプロセスが重要なので、そこを最も重視しているというお話でした。その企業における過去の人事施策がまさにそうなのですが、大体10個施行して、1つしか残らないということを繰り返されています。まずはスピーディーに経営が方針を示して、各事業部の意見を吸い上げ、うまくアジャストしたうえで、クイックに始める。現場から意見が出てきたら、寄り添って、吸い上げて、それを集約したうえで、また新しい中身に変えていくというサイクルを回し続けていらっしゃいます。大事なことは、意見のある人達を集めて、「ごめんなさい、うまくいきませんでしたが、つぎはこう変えます」といったコミュニケーションを、経営や人事が逃げずに行うことなのではないかという考え方です。もちろん、アジャイル型のアプローチがよいとされる風土があることが前提にはなりますが、大変示唆に富むお話でした。

野崎:今回も各社の貴重な事例をシェアいただき、誠にありがとうございました。単一事業体における制度設計上で議論が必要な論点、複数事業体に進化するうえで人事自体もトランジションが必要であるといった観点等、ベンチャー企業が制度設計に向き合ううえで重要なテーマが散りばめられていました。Withコロナ時代、各社ともに暗中模索のなか、ベンチャー企業の皆様が、事業に全力で向き合える環境をつくるにはどうしていけばよいのか。リクルートグループ内に、各種研究・調査機関もありますので、そことも適宜連携しながら、こうした議論の場を継続的に設け、共に探求していきたいと思います。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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