可能性を拓く人と組織 第4回 ツクルバ 代表取締役 CCO中村真広氏 働く「場」に必要な仕掛けってなんだ?

「『場の発明』を通じて欲しい未来をつくる。」をミッションに掲げるツクルバ。代表取締役CCO(Chief Community Officer)の中村真広氏に、どこでも自由に働ける今の時代でも存在意義を感じられるオフィスの作り方や、その背景にある考え方を聞いた。


企業の世界観が一番詰まっている場所

荒井:フリーアドレスを導入後、コミュニケーションの質が変わるなど、場が変わることで、人が変わる様子を見てきました。次第に「どんな空間を作ると、人の可能性を広げられたり、新しいものを生み出したりできるのだろう?」と考えるようになりまして。今日は、この問いを中村さんにぶつけたいと思って伺いました。

中村:なるほど。頑張って返球します。

荒井:早速ですが中村さんに「オフィスデザインをしてほしい」という依頼が来たら、どこから考えますか?

中村:これまでアカツキさん、メルカリさん、日本交通さんなどのオフィスデザインに携わってきました。その際、僕が意識していたのは、オフィス空間が表す企業のアイデンティティは、ホームページやパンフレットよりも五感に響くということです。

荒井:確かに……!

中村:なので、その企業のアイデンティティをしっかりとヒアリングします。その上で、「少し先の未来」も作りたい。その企業のビジョンを表出させるデザインにしたいと考えてきました。今は本当にどこでも働ける時代です。オフィスに来る意味がなくなってくるなかで、それでもなおオフィスを構える理由があるとしたら、「聖地」みたいな役割をもつ場だからだと僕は思っていて。その企業の世界観が一番詰まっている場所といいますか。

荒井:なるほど。

中村:初詣で「ここから一年が始まる」と感じて、日本人のつながりのようなものを感じられますよね。オフィスをそういう場所にしたいのです。オンラインでつながることもできるけれど、リアルとは熱量が違います。アート作品や建築物も写真で見るのと行って体感するのとは受けるエネルギー量が違うじゃないですか。

荒井:オフィスは「熱源のある聖地」であってほしいということですね。

オフィスの真ん中にタクシーを置く理由

中村:例えば日本交通さんは、オフィスの真ん中にタクシーを置いています。車が執務室や会議室に囲まれたような状態ですね。

荒井:みんなの誇り、大事にしたいものがそこにあるということですね。

中村:日本交通さんは、モニターや配車システムなどハードやソフトの開発にも注力しています。だから、タクシーとは無縁のところから入ってくるエンジニアもいるんです。ともすると、彼らはアプリケーションを作りに来たと思ってしまいがち。みんなの「タクシーの未来を創るために来た」という意識を喚起するためには、象徴となるものが必要だと思います。

荒井:タクシーがドライバーとエンジニアをつなぐ象徴になる、と。それにしても、オフィス内のタクシーを見て訪問者も驚くでしょうね。

中村:タクシーには最新のシステムやハードが搭載されています。会長が自ら運転席に乗り、お客様を後部座席に乗せて紹介することもあるそうです。

荒井:訪問者にもタクシーの未来を体感してもらうということですね。

中村:そうですね。人と人との新しい関係性を生み出す場という意味では、当社のツクルバキッチンも同じです。毎日のように社員がイベントをしていて、社外からも人が来るんですよ。僕は何をするか把握しきれていなくて「今日は何なの?」と社員に聞いたりして。「芋煮会です」と言われて驚いたりしています(笑)。ツクルバキッチンは、業務から離れて人と人が自由に絡み合う「余白」のような場なんです。

荒井:キッチンでイベントをしたら、思い出もできるわけですね。

中村:はい。人は自分の痕跡を残した場所を、自分の居場所だと感じるような気がします。例えば、エントランスに置いたボードには、「あなたの欲しい未来とは?」というテーマで社員に書いてもらっています。一筆書いた人は「自分たちの場」と感じられるようになると思うんですよね。あとは、私物が置いてあるとか。バーカウンターの棚にお酒やお土産が雑多に置かれているんですけれど、そうすることで自分の場所になるんですよね。

情報空間で心に火をつけ実空間で熱量を伝える

荒井:ツクルバが挑戦する「実空間と情報空間を横断した場づくり」についても聞いてみたいです。

中村:情報空間も人と人がクロスする場だから、実空間と同じ感覚で作れるような気がしているんですよね。リノベーション物件を紹介する「cowcamo(カウカモ)」というサービスを始めてから強くそのことを実感しています。

荒井:「cowcamo」でリノベーション物件を見ていると本当に「買うかも」と思ってしまいます。オンラインなのに手触りを感じられる伝え方をされていますよね。

中村:WEBで物件を見て内見を申し込む……これだと情報空間だけですが、商材として扱っているのは実空間です。いざ現地に行き、街を見て、物件を見て、「近隣のコミュニティはこんな感じなのかな」などと感じることができる。最後はエージェントがクロージングしますから、情報空間と実空間をオーバーラップしながら顧客体験ができるわけです。

荒井:情報空間で気持ちを盛り上げて、実空間とつなげるのですね。

中村:はい。実空間で熱量を直接伝えるということです。

まずは自分が「火のついた薪」になろう

荒井:情報空間と実空間のお話を聞いたので、コミュニティの盛り上げ方も伺いたいです。

中村:焚き火をするときはまず1本の薪を燃やします。火がついたらその脇に薪を一つひとつ添えていく。自分がコミュニティのオーナーだとしたら、まず自分が火のついた薪になります。
「俺、燃えているよ。みんな来なくて大丈夫?楽しいけど」みたいな(笑)。そうしたら1人、2人と集まってくる。

荒井:確かに、集まりたくなっちゃう(笑)。

中村:火が安定してきたら、エンゲージメントが高いメンバーに無茶ぶりするんです。「この辺のことはお前に任せたから」って。そうすると主体性のスイッチが入って、本格的に燃えてくれる。そうなれば自分は一歩引いて、全体を見ながら時々新しい薪をくべていけば大丈夫になるわけです。

荒井:経営にも通じる話ですね。

中村:実空間も情報空間もコミュニティも、人と人の熱量が、人を媒介にしながら回っていくものです。ツクルバのミッションは「『場の発明』を通じて欲しい未来をつくる。」ですが、僕の考える「欲しい未来」とは「想いの伝播で進化する社会」なんですよ。

荒井:中村さんたち経営者の想いの火種が人に伝播し、大きな炎へと増幅されていくイメージですね。そして、「そうだ、俺はこの想いを実現するために、この組織に入ったんだ」とオフィスという聖地で改めて気づく。

中村:みんなオフィスにエネルギーをもらいに来ているんだと思いますよ。

荒井:なるほど、大変勉強になりました。今日はありがとうございました!

【text:外山武史】

いつでも・どこでも働ける時代。たとえ非効率に思えたとしても、人がわざわざオフィスに足を運ぶ理由があるなら、それはいったい何なのだろう。そんな素朴な疑問が発端になり、この場となりました。

人は日々、物理空間やそこで出会う人・物から強烈なインパクトをもらっているようです。「熱源のある聖地」たるオフィスとは、そうした衝撃のなかで「自分はこの船に乗ったのだ」という熱量を思い出させてくれる場であり、これまで組織を牽引してきた人、これからの未来を作る人、職種、役割、社内外を問わず、その組織を取り巻く人々同士の、情熱の懸け橋となる場。オフィス空間から「熱量」を受け取り、自分のなかの火種が燃えると感じられるかどうかは、いいオフィスかどうかを点検する心理的な指標の1つになりそうですね。

【インタビュアー:荒井理江(経営企画部 人事グループ)】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.54連載「可能性を拓く人と組織 連載第4回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
中村 真広(なかむら まさひろ)氏
株式会社ツクルバ 代表取締役 CCO(Chief Community Officer)

1984年生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。不動産ディベロッパー、ミュージアムデザイン事務所、環境系NPOを経て、2011年、実空間と情報空間を横断した場づくりを実践する、場の発明カンパニー「株式会社ツクルバ」を共同創業。デザイン、ビジネス、テクノロジーを掛け合わせた場のデザインを行っている。共著書に『場のデザインを仕事にする』(学芸出版社)ほか。

バックナンバー第1回 個と環境の両方に着目し障害をなくす(LITALICO研究所 所長 野口晃菜氏)
第2回 常勝集団には心理学的な裏付けがある(帝京大学 ラグビー部 監督 岩出雅之氏)
第3回 「子どものやる気を引き出す仕掛け」の作り方(東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭 沼田晶弘氏)

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