可能性を拓く人と組織 第3回 東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭 沼田晶弘氏 「子どものやる気を引き出す仕掛け」の作り方

「世界一のクラスをつくる」というビジョンを掲げ、破天荒な学習指導を展開している東京学芸大学附属世田谷小学校教諭の沼田晶弘氏。「子どものやる気を引き出す仕掛け」がいかにして作られるのか尋ねた。


やっていることは企業で働く大人と変わらない

荒井: 作文や絵画のコンテストで獲得した賞金を元手に、帝国ホテルで食事し、リムジンに乗って学校に帰る「卒業遠足」や、アップテンポな音楽に合わせて踊りながら掃除をする「ダンシング掃除」など、沼田先生は子どものやる気を出すさまざまな仕掛けをされていますよね。そのアイディアはどこから出てくるのですか?

沼田: 自分では特別なことをしていると思っていませんが、気をつけていることがあります。先生って就業人口の1%くらいだと思うのですが、その1%が99%の家庭のご子息を教えていますよね。先生は、もっと先生以外の仕事を知った方がいいし、僕は、できるだけみんなを学校の外のいろいろな仕事の世界とつなげたいと思っているんです。例えば、荒井さんは、仕事のプロジェクトで成功したら、チームでご飯を食べに行ったりしませんか?

荒井: そういうときのご飯は最高においしいですね。

沼田: でしょう? それが子どもたちにとっては帝国ホテルだっただけの話で、やっていることは企業で働く大人と変わりません。「世界一のクラスをつくる」というプロジェクトを立ち上げて、成功を積み重ねたからボーナスが出たし、リムジンにも乗れたという話。企業でよくやられるように、僕も子どものやる気につながるようなKPIを置いてみたということです。それによって子どもたちが主体的に学び、能力を獲得していきます。極端な話、僕が遊んでいても、子どもたちが学びに没頭していたら「いい先生」だと思うんですよ。こうした学びの機会を作るアイディアは、学校の外のさまざまな人と話すなかで見つかるんです。

最終日の結果も大事だが準備の時間に価値がある

荒井: 最近はどんなアイディアが見つかったんですか?

沼田: 今は小学1年生のクラスを担当しているのですが、たまたま朝の会でサンマを食べた話をしたんです。「君たちは魚を上手に食べられる?」と聞くと、一斉に「嫌い!」「無理!」とか言い出したんですよ。「サンマをきれいに食べられたらモテる?」と聞かれたから、「それはもうモテモテよ!」と。そしたら、「やりたーい!」ってみんな言うんです。で、思いついたのがSPHF(サンマ・パーフェクト・ホネヌキ・フェス)。箸でどこまできれいに食べられるか競う会を、その2週間後にやると決めました。練習のために7回も家でサンマを食べた子がいたりして。少ない子でも2回、平均が大体4回くらいでしたね。

荒井: 平均4回ですか。それはすごい。

沼田: フェス前日の夕飯で最終調整を入れてきた子が、35人中21人。結果として、みんなきれいにサンマを食べるわけです。でも僕のねらいはそれより前で、普段は食べたがらないサンマを、子どもたちが自ら食べたいって言うわけじゃないですか。親御さんにとってこれほどうれしいことはないですよ。「お兄ちゃんはハンバーグが好きだけど、弟はサンマが大好物になりました」と話してくれたお母さんもいました。

荒井: SPHFに向けて夢中になって練習していくなかで、自然と学んでいくということなんですね。

沼田: 卒業遠足も同じですよ。コンクールへの応募は、それなりに学習効果が期待できます。最後の方なんてみんなもう完全にプロでした(笑)。とある小学生新聞のコンクールの場合、子どもたちは審査員が書いた本を図書館で借りて読んで、「この人にはこういう傾向がある。だからこれに似た参考記事を集めてきて」とか話し合うんです。そして、「消費税の増税がポイントになるはず」とリサーチの結果をみんなで話し合って、その内容を1面にもっていったりして。

荒井: ターゲットを想定したアウトプットの設計、仕事と同じですね(笑)。

クラスの応募作品の内容を知らないことも……

荒井: コンクールでは、先生はどこまで手助けをされたのですか?

沼田: ほとんどしていないです。コンクールに応募した作品を僕が把握していなかったこともあるくらい。記者さんに「先生のコメントを聞きたい」と言われたときに、「おい、何書いたの?」と子どもにこっそり聞いたりして(笑)。先生が前に出ると、学びの機会を奪ってしまいますよね。漢字テストの丸付けもそうです。先生がやるより、漢字が得意な子に丸付けのライセンスをあげて、やらせちゃう方が、精度が高かったりするんです。子ども同士の方が、「とめ、はね、はらい」とかすごくしっかり見ていますよ。それに、教える方にも学びがありますよね。3年生くらいになると、漢字テストの予想問題を作る子もいます。「みんなが間違いやすい漢字はこれだ!」みたいな感じでね。

荒井: 自分たちで楽しく学んでくれるから、先生からすると「しめしめ……」っていう感じですね(笑)。ダンシング掃除にもそんなねらいがうかがえます。

沼田: 最近ね、ダンスがうまくなってきたんですよ。僕は本物志向なので、掃除のダンスといえど、お遊戯っぽいクオリティは許せなくて。友人のプロダンサーに来てもらって、40分間みっちり指導してもらいました。本気でやるからこそ、子どもたちも夢中になるんです。僕は子どもに結構要望しますよ。そんなとき、普通の先生なら、家で練習して子どもに教えるのかもしれないけれど、アウトソーシングできるならした方がいい。そうやって時間を作って仕事を進めるから早く帰って、学校の外にいる人たちと一緒にお酒を飲むことができるわけです。

荒井: やっぱり外に向けてアンテナを立てていらっしゃるんですね。

沼田: 内側は見ようと思わなくても毎日触れているわけだし。それに、仕事はできるだけ効率良く成果を上げた方がいいじゃないですか。

ゆとり世代の能力をおじさんの尺度で測るな

荒井: この記事を読むのは、企業で人を育てる人たちなのですが、彼らにどんなことを伝えたいですか?

沼田: よくね、「これだから若い人は……」とか言うじゃないですか。彼らはね、上司や先輩の尺度で見たときにダメかもしれないけれど、調べごとなどをさせたらめちゃくちゃ速いし、オフィスソフトの機能もいっぱい知っていますから。若者はダメなんじゃなくて、自分たちと違うだけなんですよ。上司・先輩の方は、若い子がどうのこうのって言う前に、「もしかしたら、俺は自分の得意なところだけで威張ってるだけなのかも」と考えてほしいです。自分たちにない能力をもっている若者を、もっと巻き込んで生かしていけたらいいですね。

荒井: そうですね。固定観念をとっぱらって、共にいい仕事をするための仲間と思えるといいですね。今日は楽しい時間をありがとうございました!

【text:外山武史】

沼田先生は、子どもたちが思わず胸躍る「お題」を出す名手。「え!無理!」「でもやれたらすごいかも……」と、いつの間にかぬまっちワールドに引き込む姿は、夢と難題でチームを牽引するベンチャー企業のリーダーのよう。しかも先生は「伴走」も名手。お題の解き方は本人たちに任せつつ、後ろからそっと見守って、不安そうなら「OKサイン」を出す、アウトプットが半端なときには「俺たちは“世界一のクラス”。もっとやれるっしょ」「これは調べれば誰でも分かる。自分の意見は?」と、期待と共に引き上げることで、子どもたちはますます夢中に学んでいくそう。さて、社会人はセルフモチベートが基本。時にはぬまっちを思い出してみると、仕事を魅力ある「お題」に変え、楽しくうまく進めるブレイクスルーがあるかもしれません!?

【インタビュアー:荒井理江(経営企画部 人事グループ)】


※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.53連載「可能性を拓く人と組織 連載第3回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
沼田 晶弘(ぬまた あきひろ)氏
東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校へ。著書に『家でできる「自信が持てる子」の育て方』(あさ出版)などがある。

バックナンバー第1回 個と環境の両方に着目し障害をなくす(LITALICO研究所 所長 野口晃菜氏)
第2回 常勝集団には心理学的な裏付けがある(帝京大学 ラグビー部 監督 岩出雅之氏)

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