可能性を拓く人と組織 第2回 帝京大学 ラグビー部 監督 岩出雅之氏 常勝集団には心理学的な裏付けがある

全国大学ラグビーフットボール選手権大会において前人未到の9連覇を成し遂げた帝京大学ラグビー部。同部には、いわゆる体育会系指導とは真逆のチーム運営論がある。今回は同部監督の岩出雅之さんに、常勝集団がいかにして作られているのか尋ねた。


選手主導でチームを運営する

荒井: 帝京大学ラグビー部には、選手主導でチームを運営するカルチャーがあるとお聞きしました。監督が積極的に指示を出すスタイルから、選手たちに任せるスタイルに変わったきっかけがあったのでしょうか。

岩出: 昔は、こっちを指導すれば、今度はあっちで問題が発生して……というモグラたたき状態で、何度も同じ指導をしていたものです。今思えば僕自身が未熟でした。いつしか「勝ちたい」という気持ちが「選手を勝たせたい」に変わり、今では「選手を幸せにしてあげたい」と思っています。というのも、クラブでは中心的な存在だったのに、就職試験でうまく力を発揮できない選手がいたのです。自分の考えを整理して話すことができない、就職活動に主体的に取り組めないなど、色々とありまして。これもクラブの体質、ひいては僕の指導が問題だと痛感したのです。選手たちには大学の4年間だけではなく社会に出てからも成長し、周囲から愛される人になってほしいと思っています。だからいつまでも僕が引っ張っていては駄目なんです。

荒井: そこから選手主体のカルチャーが育まれていったのですね。

岩出: 選手の自律性を高めるために、まず成功体験を積ませます。すると有能感が高まり、比例して自律性も養われます。自律性が高まると仲間との関係性が、例えば依存的だったものが相乗効果を生むものに変わってくる。さまざまな要素を複合化させて、組織の状態を良くします。でも、良くなってきたなと思ったら卒業してしまうのですけれど(笑)。だから、在学中に上級生と下級生をうまく絡ませて化学反応を起こし、彼らから生まれるカルチャーを育むことを意識しています。

雑用は4年生が担当 下級生の余裕を確保する

荒井: そのカルチャーのなかで幼かった選手が、大人になっていくのですね。

岩出: 僕が心理学の担当をしていることもあり、カルチャーを作る手助けをしながら、個々の選手の心の成長も意識しています。例えば、目の前の出来事に一喜一憂するのではなく、意識的に自分の行動を選ぶ経験をさせていくとかね。そういうことを学ぶには、下級生の余裕が必要。自己実現を目指せる環境を整えることが出発点です

荒井: マズローの欲求5段階説でいうところの安全を確保するのですね。

岩出: そうです。まず、心理的な余裕を確保します。そのために他校のクラブで1年生がやるような雑用を、ウチは4年生がします。下級生が上級生から命令されて何かをする状況をなるべく減らすことで、少し余裕ができます。その余裕に教育を入れていくイメージです。基本的に上級生が下級生をサポートしています。選手には、本能的な子、理性的な子、色々と個性があるのでアプローチは少しずつ違いますが、本人に考えさせるという点では同じです。自分をコントロールすることを、体験を通じて学びます。これは教える側の上級生がしっかりと学習していなければできないことです。他校が何となく僕らのやり方を真似てもできないと思いますね。

最初に自分の人生に対するオーナーシップをもたせる

荒井: 上級生が下級生に働きかけていくことが基本なのですね。

岩出: だから、選手に心の仕組みを学ばせないと難しいです。心の仕組みを学ぶと、何となく思っていたことが目の前で顕在化されていくので、だんだんと興味をもつようになります。ただし、勉強がそんなに好きではない選手が、いきなり心の仕組みを理解できるかといったらそれは無理です。いかに簡単にするか、面白くするかがカギ。自分にとって価値があると思わせる工夫が必要です。未成熟なうちはどうしても楽か辛いか、損か得かばかりに目がいきますから(笑)。成長の段階には、大まかに言って、「分からない」「分かってもできない」「できるようになる」「やりたくなる」という4つのステップがあると思います。その階段を少しずつ上がっていくことが大切です。そうして自己決定をちゃんとさせながら、主体的に生きている実感を抱かせます。それを上級生と下級生の関わり合いのなかで実現させていくのです。

荒井: 自分で自分を動かせるようになることが第一歩なんですね。

岩出: 自分の人生にオーナーシップをもたせるというかね。君のオーナーは君だから、自分を動かせる力を養おうよ、ということですね。昔、ラグビーは自己犠牲のスポーツといわれていましたが、1年生に自己犠牲は要りません。まず自分自身を確立しないと、リーダーシップも育まれないですから。まず自分を作らせることが先で、リーダーシップをもって、周りを動かせるようになるのはその後です。リーダーシップの先には、チームへのオーナーシップがあります。これは「俺のチーム」っていうわがままなものではなく、中小企業の社長さんが四六時中会社のことを考えているのと同じように、選手がチームのことを考えているという意味でのオーナーシップです。ラグビーって痛いので、気持ちが入っていなかったらできないんですよ。それを監督や先輩に「行け」と言われてやっていたら、嫌々行くことになり、ケガにもつながります。そういう意味で、内側から燃えるものがないとラグビーはできないです。内側から燃えるものというのは、例えば、チームへのオーナーシップであったり、友情や絆であったりします。時間を共に過ごした仲間と培ってきたものが大事です。

大学4年間は未来への投資生き抜く力を培ってほしい

荒井: 冒頭のお話にもありましたが、選手たちの卒業後のことまで考えて経験を積ませているのですね。

岩出: 選手たちの4年間は未来への投資だと考えています。選手たちには、いわゆる昔の体育会系のイエスマン的なものではなくて、自分というものをきちんともって主体的に判断し、行動できる人になってほしいのです。繰り返しになりますが、まず自分の人生のオーナーシップをもつこと。オーナーシップがあるからリーダーシップが養われ、組織へのオーナーシップが育まれます。人間は素晴らしい体験をすると発想が変わるものです。卒業してすぐには気づけないかもしれませんが、いつか必ず「自分のエネルギーの源は大学時代のあの体験にある」と思える日がやってくると思います。オーナーシップ、リーダーシップ、マネジメントというスキルの教育も重要ですが、その土台となる体験をたくさんして卒業してほしいですね。ラグビーでいくら成功しても世の中で成功するとは限りません。新しい人生がスタートしたら、バイタリティやインテリジェンス、インティグリティなど、社会で輝くための力を養い、成長の階段を上り続けてほしいです。現在、スポーツ界ではさまざまな課題が表面化していますが、そういう問題を一掃するような人に育ってほしいと願っています。

【text:外山武史】

今回特に印象的だったのは、部員育成の一歩目を、自分のオーナーシップづくりと定められている点でした。オーナーシップとは、いわば自分の仕事や人生のハンドルを握ること。実は、学生だけでなく社会人もまた、「やらされること」に慣れ、自らハンドルを握っていることを忘れがちではないでしょうか。そうなれば、自分の仕事が色あせて見えるだけでなく、予想外の環境変化に対して柔軟に舵を切ることも難しいでしょう。どんな環境においても、自分自身にオーナーシップをもつ力は、VUCAを前提とした社会においては特に重要なポータブルスキルといえそうです。帝京大学の取り組みのように、新入社員のときこそ、自分自身に集中し、自分の舵を前向きな方向へと切っていける力を身につけられるよう、支援してあげたいですね。

【インタビュアー:荒井理江(経営企画部 人事グループ)】


※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.52連載「可能性を拓く人と組織 連載第2回」より転載・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
岩出 雅之(いわで まさゆき)氏
帝京大学 ラグビー部 監督

1958年和歌山県生まれ。帝京大学ラグビー部監督、帝京大学スポーツ医科学センター教授。ラグビー高校日本代表コーチ・監督を歴任後、1996年より帝京大学へ。2009年度全国大学ラグビーフットボール選手権大会で創部40年目に初優勝し、2017年度まで9連覇。著書に『常勝集団のプリンシプル』(日経BP社)などがある。

バックナンバー第1回 個と環境の両方に着目し障害をなくす(LITALICO 研究所 所長 野口晃菜氏)

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