可能性を拓く人と組織 第1回 個と環境の両方に着目し障害をなくす

「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、障害者の就労支援や高校生までを対象とする学習支援などを行うLITALICO。人材育成にも通じる「人の力を引き出す視点」は、いかにして養われるのか。LITALICO 研究所所長の野口晃菜氏にお話を伺った。


一人ひとりに合わせた指導を行うLITALICOジュニア

荒井: 御社が発達障害や学習障害の子どもを支援・教育するLITALICOジュニアを始めた背景を教えてください。

野口: 私たちには「障害のない社会をつくる」というビジョンがあります。障害がある人の「生きづらさ」の原因は、社会の側にもあると捉えているのです。例えば、視力が悪い人はメガネやコンタクトをしていますが、視力を補正するものがなかったら「見ること」に障害を抱えますよね。

障害が障害でなくなる社会を作りたいという想いを原点に、私たちはLITALICOワークスという就労支援事業を行ってきました。これまで6000人ほどの障害のある方たちが弊社を通じて、一般企業に就労しています。6カ月間の定着率も86.1%と良好です。

一方で、主な利用者であるうつや統合失調症といった精神障害のある方のなかには、子どもの頃の失敗体験の積み重ねから発症したという方もいます。そのため、精神障害を発症する前に予防的な仕組みを作れないだろうかと考えました。

荒井: 病気を発症する前にできることがあると。

野口: 例えば、なかには12年間勉強が分からないまま、学年だけが上がっていったという方もいます。もっと早くその子に合った学びを提供できていれば、病気は発症しなかったかもしれません。そこで、発達障害をはじめとした多様な個性をもつ子どもたちを集めて、一人ひとりに合わせた指導を行うLITALICOジュニアをスタートさせました。

特別支援教育や発達支援の分野には、体系化されたノウハウのようなものがなく、どうしても職人芸的になりがちです。寿司職人ではないけれど、10年間修行して一人前とか、そういう考え方の世界だったんです。私たちはそのことに課題を感じて、どういう仕組みにしたら若い人材が育つか研究しました。それと同時に、子どもたちの個性に合った教材やプログラムを作り続け、いまでは全部で1万個くらいありますね。

子どもの個性を深く理解し綿密な指導計画を立てる

荒井: 子どもたちの支援はどのように進めるのですか?

野口: 子どもの個性に合わせて個別の指導計画を立てます。その子どもが社会生活を営む上で必要なスキルを学んでもらうという考え方です。「極端に怒りやすい」という場合は、「感情を表す言葉を知っているかな」とか「ここが難しそうだからここを中心にやっていこう」というように細かく観察し、子どもの個性を理解した上で目標を設定します。感情を表す言葉を知らないなら、「悲しい」とか「イライラする」という状況と絵札をマッチングできるような支援から始めたりもします。

荒井: 「そのひとりの『できるよろこび』をちからに」というメッセージも印象的ですが、子どもが楽しく学ぶための工夫もされているのですか?

野口: 大切にしているのは、その子どもが興味をもっていることを取り入れることです。電車でもシャボン玉でもいいですが、好きな活動を通して「できる」ことを増やしていきます。周りからは遊んでいるだけに見えるかもしれませんが、実は目標とする行動を目指して働きかけています。

荒井: 子どもの心に火がつくように促していくわけですね。

指導員の育成やマネジメントでも LITALICOスタイルを貫く

野口: 私たちは、子どもの学習支援をするための基本的な6つのアプローチ を「LITALICOスタイル」と呼んでいます。具体的には、「信頼関係を作る/最適なプラニング/心に火をつける/自信につなげる/安心できるコミュニティ/環境へのアプローチ」というもので、みんなでワークショップを重ねて作った社内の共通言語です。

指導員の採用や育成に関しても、LITALICOスタイルが大いに影響しています。採用活動では志望者が子どもに関心をもち、子どもと信頼関係を築くことができるかどうかを見ています。私が面接を担当する場合は、重度の自閉症のアキナちゃんになりきって、唐突にイチゴの話を始めたりしています。例えば、そんなアキナちゃんに「あ」という言葉を教えるという課題を与えると、志望者の子どもに対するアプローチが見えてくるのです。そこで「何でイチゴの話をするのだろう」と、その子の世界に純粋な興味を寄せる姿勢のある人が向いていますね。

荒井: イチゴの世界にまず入れと。

野口: そのとおりです。育成に関しては、指導をするために必要なスキルをすべて定義したスキルリストがあります。さらに各教室に育成担当者を置き、指導員の授業を見た後に、「今日、あの子の心に火をつけていたね」などとフィードバックするようにしています。

荒井: 指導員の育成も、子どもへのアプローチと同じなのですね。

野口: 子どもに自信をつけさせるためには、同じように自分が誰かに自信をつけてもらった経験がないと難しいと思います。さらに言うと、ウチはマネジメントもLITALICOスタイルです。例えば、できない指導員を責めるような光景を見たら、すかさず「できるようになるための働きかけ方を知っているはずでしょ?」と話しかけます。

荒井: 普段、子どもたちに対してやっていることですものね。

野口: 基本的にみんなは、「個」と「環境」というフレームワークで人を見ています。だから、何かしらの困難に直面したときに、個人に問題があるのではなく、環境との相互作用のなかで困難さが生じていると捉えることができるのです。「この人が悪いのではなく、この人が能力を発揮できる環境がないのかもしれない」という具合に。

「会社のために」という呪いから解き放たれよ

荒井: 理想の組織づくりのヒントを求めてこの記事を読んでいる人事の方にアドバイスするとしたら、どんなことを伝えたいですか。

野口: まずは自分を知ってほしいと思います。自分が幸せに生きていけるなら、無理して環境に合わせる必要はありません。極端な話、人事部で採用の仕事をするのでも、会社のために採用しよう、ではなく、面白い人に会って話を聞くことが楽しいとか、そういうモチベーションでもいいのではないでしょうか。「人事はこうあるべき」という考えは、ある種の呪いです。呪いのせいで自由に発想できなくなってしまうなら、そんなの全部、捨てていいと思います。会社のメンバーにも「心が動いたときが自分を知るヒントだよ」ってよく伝えています。

それともう1つ、みんながフィードバックをもらいやすい環境を作るといいかもしれないですね。フィードバックの仕方も、良い悪いを評価するものではなく、「あのとき楽しそうだったけど、何で楽しかったの?」というその人が自分を知るための働きかけができるといいと思います。

荒井: 「会社のために」となればなるほど、思考が窮屈になるのは分かります。「自分の幸せ」から始めることも人事の皆さんへの示唆になりそうです。今日はありがとうございました。

【text:外山武史】

こんにちは。「可能性を拓く人と組織」探険家の荒井です。今回の取材で私が特に印象的だったのは、指導員や社員の方々が自ら理念を体現し、互いの個性を生かし合う姿でした。その秘訣は、理念を体現する「共通言語」を徹底議論の上で生み出したことに加え、日々の「実践」姿勢にもありそうです。集団規範は「実践知」の蓄積によって形成されます。たとえ「多様性を生かす」といっても、現実的に難しい場面で「本音は違うよね」と逃げてしまえば、理念は有名無実に。むしろ理念を否定する行為が組織規範ともなり得てしまいます。LITALICOでは、個性が衝突する場面でも、「個性によって障害を感じないために、周囲には何ができるか?」と、皆で対話していました。理念のもと利害が衝突するときこそ、逃げずに対話する姿が、組織の真実を作るのですね。


※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.51連載「可能性を拓く人と組織 連載第1回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら


※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
野口 晃菜(のぐちあきな)氏
株式会社LITALICO 執行役員
LITALICO 研究所 所長

小学校講師を経て、2012年にLITALICO 入社。LITALICO ジュニアの指導員として勤務し、研修制度の構築にも携わる。同時に筑波大学にてインクルーシブ教育の研究を進め、博士号(障害科学)取得。
LITALICO ジュニア事業部副部長を経て、LITALICO 研究所所長に就任。2014年に執行役員に就任。

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