マネジメント人材育成ブック【3】成果をあげるミドル・マネジャーとは(ミドル・マネジャー研究・これからのミドル・マネジャー研究) 成果をあげるミドル・マネジャーは
「持論」をもっている

近年、私たちが行ったマネジメント(に関する)研究を6つのテーマでまとめ直した『マネジメント人材育成ブック』より、第3章「成果をあげるミドル・マネジャーとは」として、2014年に行った「成果をあげるミドル・マネジャー研究」や、「これからのミドル・マネジャー研究」についての研究成果をお届けします。

はじめに、架空の会社・X食品の新任営業マネジャー(加藤洋介)と、社内の誰かが対話する「ストーリー」がついています。
それぞれの章の研究成果を受けた内容となっておりますので、本文の導入として気軽にお読みください。

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第3話 新任マネジャー、修羅場経験を聞く

水谷「じゃあ、これで人事面談は終わりです。残り10分ありますけど、何か聞きたいことはありますか?」

加藤「“人事部の頭脳”と言われる水谷さんに、ぜひ一度伺いたかったことがあります。ズバリ、“成果をあげるミドル・マネジャー”に共通する特徴って、あるんでしょうか?」

水谷「ありますよ。その話は何時間でも話すことができますが、10分しかないので、かいつまんでポイントだけお伝えしますね。」

加藤は、昼過ぎの会議室で静かに頷いた。

水谷「ミドル・マネジャーが成果をあげる上で、特に大事なポイントが4つあります。1つ目は、“メンバー育成”に力を入れていて、多角的な側面から部下を育てようとしていること。育てるといっても、上から教えるという態度ではなくて、メンバーの主体性を引き出すようなコミュニケーションを取ったり、メンバーに当事者意識をもってもらうためにさまざまな仕掛けを行ったりするのが、優れたミドル・マネジャーの特徴です。一人ひとりに深く考えてもらい、主体的に動いてもらうために何ができるかをいつも考えているんです。

2つ目は、“持論”をもっていること。加藤さんも1年間マネジャーをやってみて、マネジャーには正解などないことがよくわかったと思います。正解がないからこそ、自分なりのルール、やり方をきちんと構築することが大事なんです。そのためには、しっかり“内省”しなくちゃダメ。つまり、自分の行動や考えを振り返って、なぜうまくいったのか、なぜ失敗したのかをよく考える必要があるんですね。良いマネジャーは、ほぼ全員、内省していると思っていいでしょう。定期的に内省する習慣をつけると、そのうち自分なりの法則が見つかってくる。その積み重ねが持論になるんです。」

加藤「ちょっと待ってください。」

加藤は集中してメモを取っていたが、それでも書くのが間に合わなかったのだ。追いついたところで、すかさず水谷が説明を続けた。

水谷「じゃあ、いきますね。3つ目は、1つのマネジメント行動にいくつもの意図をもたせること。例えば、組織の方針や計画の一部をメンバーと一緒に考えるマネジャーがいます。メンバーにとって、組織計画を考えるのは一種の“プレマネジメント経験”になりますし、主体的に組織に関わっていくことにもつながります。このマネジャーは、組織計画を立てること、部下の主体性を引き出すこと、そして部下育成を一度に行おうとしているのですね。優秀なミドル・マネジャーは、こういった工夫をいろいろと考えているんです。

最後の4つ目は、“部長と同じ視界”をもっていること。加藤さんはまだあまり意識していないかもしれませんが、課長と部長の仕事って、実は全然違うんです。特に大きく異なるのは、今後の事業の姿を考えること。課長はそこまで考えなくてもいいですよね。でも、部長になったらいきなり事業の未来像を考えることになる。これは大変なことなんです。優秀なミドル・マネジャーのなかには、こうした部長の役割を、課長のうちに一部引き受けている方がいます。この会社にも、そういう課長が何人もいますよ。もちろん、ある程度経験を積まないと難しいことですけどね。加藤さんには部長を目指してもらいたいので、今のうちから部長の仕事ぶりをよく観察して、自分が部長だったら何をするか、考えてもらえると嬉しいです。」

加藤「実はこの前、田中部長に言われて、国内第一営業部のビジネスをこれからどうしたらいいのか、必死になって考えました。最終的には部長の手直しがかなり入りましたけど、一応、今の組織計画にも組み込まれています。」

水谷「さすがは田中さんだ。加藤さんは、いい部長につきましたね。国内第一営業部のこれからが楽しみです。」
 

メンバー一人ひとりをよく理解し
彼らの意見を積極的に吸い上げている

私たちが2014年に行った「成果をあげるミドル・マネジャー研究」(図表1)では、68名の優秀なミドル・マネジャーから話を聞き、そのうちの48名のデータを分析して、「成果をあげるミドル・マネジャーの行動特徴」 を明らかにしました。この章ではまず、その主な内容をかいつまんでお知らせします。なお、この研究では、管理過程理論に基づいた5つの経営管理プロセスの「計画」(組織の計画を立てる)、「組織化」(組織をつくる)、「指令」(メンバーに指示する)、「統制」(変化に対応する)、「調整」(バランスを取る)をベースに、「メンバー育成」「職場づくり」を加えた7要素に基づいてインタビューと分析を行っています。
 

 
組織の方針や目標などの「計画」を立てるプロセスで、成果をあげるミドル・マネジャーたちが最も大切にしていたのは、「メンバーの納得感」でした。もし組織の方針や目標がメンバーに無理を強いるものなら、メンバーに不満が溜まってしまいます。しかし、達成が簡単な目標だと、チーム全体の評価が上がりません。大事なのは、メンバーが納得し、一丸となって方針や目標に向かっていく状況を創りだすことです。そのためには、組織の目標、方針、戦略シナリオを計画するとき、多くのメンバーを巻き込み、意見を積極的に吸い上げるのが良い方法です。なぜなら、メンバーの意見を反映した方が、メンバーの当事者意識が高まり、方針・目標も多様な観点から検討されて質が高くなるからです。実際、私たちの研究では、メンバーの意見を取り入れながら目標、方針、戦略シナリオを決めていくミドル・マネジャーが多く見られました。

なお、計画する際にメンバーを巻き込むのは、部下育成の意味でも重要だと語るマネジャーが何人もいたことは特筆すべきことです。後ほど詳しく触れますが、優れたミドル・マネジャーは、1つのマネジメント行動に2つ以上の意図や狙いをもたせることが多いのです。

計画を立てた後、「組織化」を進める際には、一人ひとりの志向や持ち味を把握し、中長期的な育成観点を加味して、各メンバーに業務を割り当てることが重要だと考えるマネジャーが主流でした。そのためには、ふだんから一人ひとりをよく理解し、コミュニケーションを取ることが欠かせません。各メンバーの負荷状況を定期的に確認することも大事です。人材リソース不足のときには、ミドル・マネジャーが率先してやりくりを工夫する必要もあります。満足のいく組織をつくるには、日頃の準備がものを言うのです。

計画や組織化は、ミドル・マネジャーが独断で行うこともできますが、実はこのような上流プロセスこそ、メンバーのことをよく考え、メンバーの意見を吸い上げていくことが大切です。ここでの行動の違いが、最終的な成果に差をつけるのです。
 

一人ひとりの長期育成プランを考えるとともに
風通しの良い職場づくりに腐心している

成果をあげるミドル・マネジャーは、ほぼ全員が「メンバー育成」に大変力を入れていました。特徴的だったのは、メンバーが今すぐに必要とするスキルや知識だけでなく、長期的な成長の土台となる「基本的なスキル・スタンス」や「物事を俯瞰する能力」を育成しようとするミドル・マネジャーが多く見られたことです。各メンバーの特徴を捉えて、長期育成プランを考えているマネジャーも珍しくありませんでした。彼らは、その長期育成プランを踏まえて、一人ひとりの将来につながる仕事を割り当てていました。勉強会や振り返りの機会を設けたり、専門性の高いリーダーにメンバー育成を任せたりして、職場全体で学びを起こそうとする取り組みにチャレンジしているマネジャーもいました。

また、マネジャー候補のメンバーにチームリーダーなどの「プレマネジメント経験〈第1章〉」を積極的に積ませようとするなど、状況に合わせたこまめな対応を行うミドル・マネジャーがたくさんいたことも目立ちました。新任マネジャーが対応に苦労することが多い「年上部下〈第1章〉」に対しては、ほとんどのミドル・マネジャーが敬意をもって接していると答えました。このようにして、相手に合わせて適切な対応をすることも重要なポイントといえます。

「職場づくり」に関しては、多くのミドル・マネジャーが「風通しの良い職場」、つまり自由闊達な会話などを通じてメンバーの力を引き出しやすい職場を目指していましたが、一部のマネジャーは、「共通の目標・目的に向かっている職場」、つまり高い成果を創出するために一丸となれる職場を目指していました。目指す職場像は、部署の特性や状況によって大きく変わってくる点だと思いますが、多くの場合、やはり「風通しの良さ」に注目するのがよさそうです。

優れたマネジャーは
自らのマネジメント行動の意図をすらすら語る

この研究でインタビューしていて興味深かったのは、ほとんどのミドル・マネジャーが、自らの具体的なアクションや意図をすらすらと語ったことです。マネジメント手法を十分に形式知化していなくては、このようにスムーズに語ることはできません。つまり、成果をあげるミドル・マネジャーの多くが、マネジメントの「持論」をもっているのです。日々のマネジメント行動を意図的に行い、その行動を日常的に内省することで、「概念化」を進めているわけです。〈第2章

こうした持論は、一朝一夕でできるものではありません。優れたミドル・マネジャーになるには、やはり一定の経験が必要だと言えるでしょう。とはいえ、自らの業務経験だけが、マネジャーの持論を鍛えるわけではありません。今回、ミドル・マネジャーの皆さんに「マネジメントスタイルに影響を与えたことは何か?」と質問したところ、多くの方が「過去の上司や先輩からの学び」を挙げました。どうやら、成果をあげるミドル・マネジャーは、成果をあげるミドル・マネジャーから多くを学んでいるケースが少なくないのです。その際、上司や先輩の「持論」が継承されることも多いでしょう。もちろん、上司や先輩の持論をそのまま受け継ぐのではなく、自分なりに研ぎ澄ませて、新たな持論にしているマネジャーも多いと思いますが、いずれにしても業務経験だけでなく、上司・先輩なども持論形成に大きく影響を及ぼしているのです。

バックナンバー

第1章 マネジャーになる(マネジャーへのトランジション研究)

第2章 経験から学ぶ(経験学習論・経験デザイン研究)

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ここでは、成果をあげるミドル・マネジャーの特徴の(1)(3)(5)を抜粋しました。この他、第3章では残りの(2)と(4)や背景にある調査結果について掲載しています。ぜひ第3章の全体をこちらからお読みください。
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