国際経営研究の現場から 第13回 国際経営における女性の活躍
〜Women in International Business〜

国際経営において多様性といえば、文化や言語、出身国などに注目が集まりがちだが、 性別(ジェンダー )についての研究も多い。企業における女性の活躍に関しては、さまざまな研究が行われているが、本稿では特に国際経営における男女の違いについての研究を中心にご紹介していきたい。


女性を海外に赴任させるメリットとは?

研究における論点は大きく2つ。女性を赴任者、あるいは出張者として海外に送る上での課題とメリット、また、グローバルマネジャーとして女性のキャリア開発を進めていく上でのポイントは何か、ということだ。

(国際経営に関わらない 女性の登用に関する議論については、例えば、ギンカ・トーゲル著『女性が管理職になったら読む本―「キャリア」と「自分らしさ」を両立させる方法』などが参考になる)。

歴史的に見れば、日本企業に限らず、アメリカ企業などにおいても、 海外赴任者は男性が多くを占めてきた。この要因としては、そもそも管理職や経営幹部はほとんど男性が占めており、女性比率が低かったことがもちろん挙げられる。加えて、女性自身が海外赴任を望まないのではないか、という懸念も、経営幹部や人事に多く見られたようだ。

また、赴任先国の社会における女性の位置付けへの懸念もあったようだ。例えば、1990年代初頭のアメリカ企業の幹部の立場に立って、 「本社で管理職ポジションにいる女性を、(女性管理職がほとんどいない当時の)日本に現地拠点の幹部として送り込む」という人事案について考えてみてほしい。「女性管理職に慣れていない日本の男性部下たちが、彼女のリーダーシップを受け入れるだろうか?」「取引先から幹部として認められるだろうか?」といった懸念が頭をよぎったであろうことは、想像に難くない。

しかし、こうした懸念は杞憂であり、実際には国際的なキャリアを望む女性も存在すること、また、海外赴任先でも男性同様にパフォーマンスを上げる女性がいる、ということを示す研究が80年代に行われた(Adler, 1984a, 1984b)。

更に、昨今は、文化や言語の壁を超えて関係性を構築し、チームを率いる必要があるグローバルな経営環境においては、女性の方がむしろ「理想的なグローバルマネジャー候補」なのだ、と指摘する研究も現れてきている(Tung, 2004)。

国際ビジネスから少し話がそれるが、 性別によるリーダーシップスタイルの違いに関する研究からは、 平均的に見て男性よりも女性の方が、部下との関係性構築に関しては優れている、ということが知られている。 例えば、Eagly and Johannesen‐Schmidt (2001)は、北米での調査の結果をもとに、男性と比べて女性の方が、「個々の部下に対する配慮を示す」「部下からの敬意を得る」といった点では優れている、という傾向を報告している(これはあくまでも平均の議論であり、男性間、女性間でのばらつきが存在するという点には留意が必要だが)。文化や言語の異なる人々と協働する必要があり、それゆえに関係性構築が国内でのビジネスと比べて難しい国際ビジネスの環境では、こうした女性が持つ関係性構築の能力がより重要になる可能性がある。

例えば、Koveshnikov, Wechtler and Dejoux (2014)は、EQ(エモーショナルインテリジェンス)、特に、「相手の感情表現を適切に解釈する能力」と、赴任先での「人間関係・業務への適応」の関係について興味深い報告を行っている。赴任者の 「相手の感情表現を適切に解釈する能力」が高い場合、男性でも女性でも、赴任先「人間関係・業務への適応」は総じてうまくいきやすい。しかし、この能力が低い場合、男性では適応に大きくマイナスの影響が出るのに対して、女性ではそれほどマイナスの影響は見られなかったのである。「女性であること」がEQの不足を補完している、ということだ。

女性が国際ビジネスで活躍する上での障壁は?

一方、女性が国際ビジネスにおいて活躍する上での壁についてはどうだろうか。海外赴任は欧米企業では過去20年間で大幅に減少している(Harzing, Pudelko & Reiche, 2015)。一方、海外赴任に対する代替手段として、国際的な出張やITを利用したバーチャルチームなど、多様なマネジメント手法が用いられるようになってきている。こうした変化を受けて、完全に赴任先に移り住む必要がある海外赴任と比べ、国際出張を通じて海外拠点のマネジメントに関わる方が、家庭を持つ女性にとってはより負担が少ないのではないか、という主張も見られる。ただし、Fischlmayr and Puchmuller(2016)らの実証研究によれば、出張中の育児を手助けしてくれる支援者(例えば家族)をどう確保するか、子供を置いて母親が出張することに対する周囲からの批判にどう対処するか、といったプレッシャーは依然として存在するようだ。

女性活躍促進について詳しい方は既にお気づきだと思うが、こうした点は、日本でのワーキングマザーの経験とも共通することだ。海外出張ほどでないにせよ、国内での出張や、業務上の都合で帰宅が遅くなることなどによる家事や育児への影響をどうコントロールするか、というテーマは、ワーキングマザーの多くが経験する課題の1つである。子供がいるとしても男性はこうした課題を経験することは少なく、 「女性が家事、育児を担う」ことへの社会的な期待が依然として大きい、という現実を反映したものだ、といえるだろう。

また、Linehan and Scullion (2008)らは、さまざまな産業の多国籍企業の女性グローバルマネジャー(=上級管理職ポジションについており、なおかつ国間の移動をともなうキャリアを経てきた女性)へのインタビューを行い、そこから 女性グローバルマネジャーの育成、登用には大きく2つの壁がある、と指摘している。1つ目は「男性と比べ、シニア幹部からのメンタリングを受けにくいこと」、2つ目は「男性と比べ、社内でのネットワークが構築しにくいこと」だ。

実は、この2つの項目も上記同様、女性の活躍促進に関する調査や研究において、頻繁に指摘されているもので、グローバルマネジャーに特有の現象ではない。しかし、筆者らは国際経営に特有の条件が、これら2項目の重要性を更に高めている、と指摘する。

例えば、メンターに関しては、一般的な傾向として、男性管理職は、社内でシニアなポジションにいる男性幹部からメンタリングを受ける関係になる機会が多いのに対して、女性管理職はそうした機会に恵まれにくい、ということが知られている。その上で、グローバルマネジャーとしてのキャリア開発に関しては、(1)組織内で影響力を持つ幹部をメンターに持っているかどうかが、魅力的な海外赴任の機会が得られるかどうかに影響する、(2)メンターを通じ、海外拠点に赴任している間も本社とのコンタクトを保てるため、女性本人が心理的な支援を得られる、(3)また、 メンターを通じて、逆に本社の幹部層の間で女性管理職への認知が高まる、(4)そして、その結果として、帰任時に良い機会が得やすくなる、などが、メンターの重要性として指摘されている。確かに、海外赴任中はどうしても本社との距離があるために、本社の人事面でのサポートや意思決定のレーダーから外れてしまいがちだ。そのため、陰に日向に支援してくれる非公式なサポーターがいることが、女性のキャリア進展に貢献する、というのは納得感がある。

また、ネットワークに関しては、(国際的な企業かどうかにかかわらず) 多くの企業でマジョリティを占めている男性は、男性同士の世代、階層、部門を超えた社内人脈を構築しやすく、それらを通じていろいろな情報や便宜を得ているのに対し、マイノリティである女性は社内人脈を構築しにくく、さまざまな不利にさらされる、というのが、従来の議論である。筆者らは、海外赴任中はこうした社内人脈の重要性が更に高まる、ということを指摘している。本社のさまざまな人々と人脈があれば、本社を離れていてもさまざまな情報や便宜を得ることができるためだ。

国際経営における女性活躍――研究からの示唆

最後に、これらの研究からの示唆をまとめよう。 筆者の知る限り、日本企業においても、女性を海外赴任させる企業が徐々に増えているように思われる。こうした取り組みに対して、何が示唆されるだろうか。

まず、女性もグローバルリーダーとして活躍する可能性がある、もしくは女性の方がむしろ適性があるかもしれない、ということだ。そのことを考えれば、 海外赴任をはじめとしたチャレンジの機会を与える、与えないを、性別によって判断するのではなく、個人ごとに見極めを行い、適性のある人材には女性であっても海外赴任、海外出張で国際的な経験を積む機会を与えることが重要だ、と考えられる。

ただし、そうした施策を進めるにあたり、「女性が家事や育児を多く担う(ことを期待する)社会的慣行があり、海外赴任や海外出張の際に家事や育児をどうするのか、というプレッシャーにさらされやすい」「現状の組織、特に上層部に行けば行くほど女性はマイノリティであり、マイノリティであるがゆえに、メンターやネットワークなどの点で不利な立場になりやすい」といった点に留意する必要がある。

こうした点に配慮した女性活躍促進施策を国内において実施している企業は増加しているが、海外への赴任や出張の際にどのようなフォローを行っていくか、という点では、国内とは異なる対応が必要かもしれない。積極的に女性のグローバルキャリアを促進するのであれば、本社からの遠隔でのサポートと、現地の幹部や人事からのサポートをどのように組み合わせていくかを、経営、人事として考えていく必要があるのではないだろうか。

参考文献

Adler, N. J. 1984a. Women Do Not Want International Careers: And Other Myths About International Management. Organizational Dynamics, 13(2): 66-79.
Adler, N. J. 1984b. Women in International Management: Where Are They? California Management Review, 26(4): 78-89.
Eagly, A. H. & Johannesen‐Schmidt, M. C. 2001. The Leadership Styles of Women and Men. Journal of social issues, 57(4): 781-797.
Fischlmayr, I. C. & Puchmüller, K. M. 2016. Married, Mom and Manager–How Can This Be Combined with an International Career? The International Journal of Human Resource Management, 27(7): 744-765.
Harzing, A.-W., Pudelko, M. & Reiche, B. S. 2015. The Bridging Role of Expatriates and Inpatriates in Knowledge Transfer in Multinational Corporations. Human Resource Management.
Koveshnikov, A., Wechtler, H., & Dejoux, C. 2014. Cross-Cultural Adjustment of Expatriates: The Role of Emotional Intelligence and Gender. Journal of World Business, 49(3): 362-371.
Linehan, M. & Scullion, H. 2008. The Development of Female Global Managers: The Role of Mentoring and Networking. Journal of business ethics, 83(1): 29-40.
Tung, R. L. 2004. Female Expatriates: The Model Global Manager? Organizational Dynamics, 33(3): 243-253.

PROFILE
吉川 克彦(よしかわ かつひこ)氏
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 客員研究員

1998年リクルート入社。
コンサルタントとして、経営理念浸透、ダイバーシティ推進、戦略的HRM等の領域で、国内大手企業の課題解決の支援に従事。
英London School of Economicsにて修士(マネジメント)取得。
現在は同校にて博士課程に所属する傍ら、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所客員研究員を務める。

※記事の内容および所属は掲載時点のものとなります。

次回連載:『国際経営研究の現場から 第14回 企業公用語としての英語〜English as a corporate language 〜』

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