国際経営研究の現場から 第6回 文化・制度の違いとリーダーシップ

今回は、文化・制度の違いと、求められるリーダーシップの関係を取り上げる。 リーダーシップは語る人によってさまざまな定義、解釈が行われる概念だが、本稿では、組織目標の達成に向けて、他者に対して影響を与える(Den Hartog & Dickson, 2004)という面に注目して議論を行う。「所変われば品変わる」というが、果たして、国や地域が異なれば、求められるリーダーシップのあり方は変化するのか、文化や制度の違いはどのように影響するのか、ということについて、本稿では考えてみたい。


はじめに

リーダーシップ研究の歴史は古く、数十年にわたる蓄積がある。しかし一方で、マネジメント研究の他の領域と同じく、多くの研究がアメリカにおいて行われており、世界の多様性を十分に捉えられていないという批判も存在する(Yukl, 2002)。こうしたなかで、大きな展開点となったのが、本連載でも度々言及してきたHofstede (1984)によるIBMでの研究である。彼が、IBMの世界中での調査データから、国により求められるマネジメントのあり方が大きく異なることを示したこと、また、国による文化の違いを定量的に示す4つの次元(後に幾つかの軸がさらに追加され、最新のデータでは7つの次元が提唱されている)を示したことで、異文化リーダーシップ研究が大きく発展するきっかけになった。

Hofstedeの研究から四半世紀あまりを経て、さまざまな取り組みが行われてきた。 「世界が多様であることを前提に、各国による有効なリーダーシップのあり方を調べる」研究が徐々に盛んになり、リーダーシップのテキストブックにおいて、国による違いについての解説に割かれるページ数も大幅に増えている (Dickson, 2003)。また、アメリカを中心にしたリーダーシップ研究ではあまり注目されてこなかった、非西欧的なリーダーシップのあり方に注目した研究も行われるようになった。例えば、Dorfman and Howell (1988)やAycan et al. (2000)によるパターナリスティック(父性的)リーダーシップ(リーダーが部下を保護し、支援を提供する一方で、部下には服従を求めるリーダーシップスタイル。アジアを中心に広く見られる)などが代表的なものだ。こうした研究の積み重ねを経て、有効なリーダーシップには違いがあるということ、 アメリカをはじめとした西欧における研究の成果を世界に当てはめるだけでは、その多様性を理解することは難しいということが理解されるようになったのである。

こうした研究のベースとなるのは、リーダーシップが有効に働くかどうかは、結局のところ相手がどのようにそれを受け止めるかにかかっている、という考え方である。社会が異なれば、それに伴って、人々が暗黙的にもっている「良い」リーダーに関する期待も異なる、それが故に、有効なリーダーシップも異なるのではないか、と考えるのである(House, Hanges, Javidan, Dorfman, & Gupta, 2004)。フォロワーが付いてこなければリーダーシップの発揮にはならない訳で、それだけフォロワーのこうした暗黙の期待は重要である。リーダーとフォロワーの社会的背景が違う場面(例えば、海外赴任者が赴任先で現地の人々と働く場合など) では、こうした暗黙の期待のズレがすれちがいを生みやすいともいえるだろう。

次節以降では、まず、こうした文化に起因するリーダーシップのあり方の違いについて、日本の読者の方々にとって関連が深いと思われる研究成果を紹介する。その上で、もう1つの世界の多様性の源泉である「制度」の影響について、幾つかの研究を紹介する。そして、最後に、多様性を前提にした上でのリーダーシップ開発のあり方について触れる。

文化とリーダーシップ

リーダーシップ論に入る前に、文化を比較する次元について少し整理しておこう。これまでに、さまざまな文化を分析する枠組みが異文化研究者たちによって提唱されてきたが、圧倒的な影響力をもっているのが、前述のとおり、Hofstedeによって提唱された枠組みである (Kirkman, 2006)。ここでは、当初に提唱され、その後もさまざまに研究されてきた4つの次元(図表01)を中心に議論を行う。

図表01 文化を比較する4つの次元

出所:Hofstede, Hofstede, and Minkov (2010)を基に筆者が作成

各次元の名称と内容については、図表01に記載させていただいたとおりだが、次元についてイメージをもってもらうために、世界における日本の相対的な位置と、高い国、低い国の例を簡単に紹介しよう。まず、「個人主義−集団主義」に関しては、日本は世界的に見れば中庸、やや集団主義より、といったところに位置する。それに対して、アメリカやイギリス、オランダ、ニュージーランドといった国々は、典型的な個人主義的な社会である。そして、集団主義的な社会としては、グアテマラやエクアドルなどの中南米、そしてインドネシアや韓国、タイ、中国などのアジア諸国が挙げられている。これらの国では、家族や、長年の付き合いのある友人関係が非常に重要視されやすい。「権力格差」に関しては、日本は中庸付近、やや高い、という位置づけとなる。この次元は個人主義−集団主義との相関がかなり高く、個人主義の社会では、総じて権力格差を許容せず、互いに平等であることを求める傾向が強く、逆も然りである。次に、「不確実性の回避」に関しては、日本は、フランスやベルギーなどと並び、世界的に見てもかなり高い。逆に、低い国としては、シンガポールや香港(香港は国としては中国の一部だが、歴史的な経緯もあり、国際比較研究では1つの単位として切り出して扱われることが多い)、デンマークやスウェーデン、イギリスなどが挙げられる。日本で、電車が少しでも遅れると批判を受けたりするのは、こうした文化が反映しているのかもしれない。「男性らしさ−女性らしさ」に関しては、日本、オーストリア、スイスなどが世界的に見て「男性らしさ」の高い国とみなされており、逆に、北欧諸国が低い傾向がある。この最後の軸に関しては、名称も含めて、さまざまな批判が行われているのだが、日本の「男性らしさ」の高さについては、昨今改めて注目されている女性の社会進出度の低さが大幅に影響しているようである。

さて、ではいよいよ、文化の次元とリーダーシップの関係性についての研究結果を見ていこう。個人主義社会の人々は、一人ひとりが独立してタスクに取り組んだ方が高い成果をあげる傾向がある一方、集団主義社会の人々は、一人でタスクに取り組むよりも、彼らが「身内」とみなす人々と一緒にタスクに取り組む際の方が高い成果をあげる傾向がある (Earley, 1993)。この傾向を反映し、 個人主義の社会においては、個々の部下ごとに「どのような成果をあげれば、どのような報酬が得られるか」 を明確にすることで動機づけるリーダーシップスタイル(transactional leadership)が相対的に有効であり、集団主義の社会 おいては、個人の利害を超えた、高次の目的に向けて人々を動機づけるリーダーシップスタイル(transformational leadership)が相対的に有効であることが知られている(Jung & Avolio, 1999)。 上司が部下に働きかける際に、職場の「集団」としての側面に注目するのか、それとも、上司と部下の間の「個人対個人」の関係に注目するのかが、大きく異なるといえるだろう。日本発のリーダーシップ研究として知られる、三隅二不二のPM理論(1966)に見られるように、日本のリーダーが影響力を発揮する上では「集団」に働きかけることが重視される。このことは、西欧諸国と比べて集団主義的であることの表れなのかもしれない。

次に、「権力格差」である。権力格差の小さい文化においては、人々は参加型リーダーシップ、すなわち、上司が意思決定の前に部下に相談し、意見を求めるスタイルを好む傾向がある。 逆に、権力格差が大きな社会では、相対的に「指示命令型」のリーダーシップを受け入れる傾向がある(Bu, Craig, & Peng, 2001; Dorfman & Howell, 1988)。また、問題解決については上位者の指示に従う傾向が強く(Smith, Peterson, & Schwartz, 2002) 、職場のコミュニケーションは上から下への一方通行となる傾向が強い(Javidan & House, 2001)。さらに、 集団主義的で、権力格差が大きな社会においては、先ほど挙げたパターナリスティック(父性的)リーダーシップが好まれる傾向があることが知られている。例えば、Aycan et al. (2000)の10カ国比較の研究では、中国やインド、トルコでパターナリズム(父性主義)の傾向が強いことが示されている。日本においては、改善運動をはじめとして、参加型で意思決定をする、ということが比較的広く行われている。が、上司が決めて、部下が黙って従う、という面も少なからずある。海外での豊富なマネジメント経験をもつ日本人エグゼクティブの方から、アメリカやイギリスでは、部下が人事評価に対する不満を上司にぶつけてくることは珍しくないが、 日本では黙って受け入れる人がほとんどだ、と伺ったことがある。こうした行動の違いには、権力格差が影響しているように思われる。

では、「不確実性回避」についてはどうだろうか。この文化が強い国においては、不確実性は好まれない。そうした国々では、良い上司の条件として、注意深いプランニング、確実性や信頼性、時間を守る、といった特性が挙げられる傾向がある。一方で、この文化が弱い国においては、臨機応変さ、即興性、フレキシビリティなどが相対的に重視される傾向があるようだ(Rauch, Frese, & Sonnentag, 2000; Stewart, Barsoux, Kieser, Ganter, & Walgenback, 1994)。また、不確実性回避が高い国の上司は、部下に権限委譲し、意思決定を委ねる傾向がより低く、業務をコントロールすることに強い関心を示す傾向がある(Offermann & Hellmann, 1997)。筆者は、個人的に、日本企業における「ホウレンソウ」の重要性は、この文化に起因するのではないかと思っている。何事も、上司や他部署から求められる前に自分から報告、連絡、相談する。それによって上司や関係者が仕事の進捗を常に知っておけるようになる。これにより、 「不測の事態」が起きることを防ぐことができ、安心して業務が進められるのだ 。逆に、ホウレンソウを絶やすと、何かあったときに「聞いてないぞ!」と慌てさせることになり、不確実性を好まない日本人にとっては不快な訳である。

最後の次元、「男性らしさ−女性らしさ」については、明確な合意はないのが現状である。そもそものこの次元については、上述のとおりさまざまな批判が行われている。そもそも、人間関係における積極性や受容性の違いと、男女の社会的な役割の違いを1つの次元としてまとめることに無理があるのではないか、といった点について疑問が示されているのである(Dickson, 2003)。そうした事情もあり、ここでは、この次元についての議論は省略させていただく。

さて、ここまで読んでいただいた上で、2点、お断りをしておきたいことがある。それは、ここで議論した違いはあくまでも傾向を表したものであり、1つの国のなかに、企業や個人による違いが当然存在する、ということである。国として括って議論を始めると、どうしても国のなかの多様性は無視することになってしまうのだ。 日本人のなかでも、 期待するリーダーシップのあり方は世代によって異なるかもしれない。また、企業としての組織文化が違えば、そのなかで受け入れられやすいリーダーシップのあり方も 異なるだろう。上記の議論は、あくまでも大きく国として括って議論をすると、こうした違いが見られる、ということである点にご留意いただきたい。

もう1点は、 国を超えて、 普遍的に好まれるリーダーの属性が存在するようだ、という報告もある、ということだ 。世界62カ国における文化とリーダーシップの関係について調査分析を行った大規模プロジェクト、GLOBEによれば、正直で信頼に値すること、将来を見通して計画を立てること、ポジティブで部下を鼓舞し、やる気を引き出すこと、そして、コミュニケーションを通じてチームづくりを行うことの4つは、国を問わず、普遍的に好まれる 、ということである。また逆に、自己防衛的であること、怒りやすく、協力的でないこと、独裁的であることなどは、どこであっても好まれない属性である、ということが示されている(Javidan, Dorfman, Sully de Luque, & House, 2006)。時折、世界的に活躍しているリーダーが、「リーダーシップの本質は国を問わず共通だ」と述べているのを拝見することがあるが、そうした人々は、ここで挙げたような普遍的なリーダーシップの要素に注目しているのかもしれない。

制度とリーダーシップ

文化と制度については、上記のとおりたくさんの研究が行われている一方で、社会間での制度の違いとリーダーシップの関係については、あまり研究は盛んではない。文化が社会の伝統や宗教、言語などに根ざした、人々に共有された価値観、信念、暗黙の前提 であるのに対し、制度は法律や慣行といった 「ゲームのルール」を指している。これらの概念的な境界は曖昧であり、時にオーバーラップしがちなのだが、ここでは紙幅の制限もあり、割愛させていただく(制度についての詳しい議論は、前回「第5回 制度の多様性」の内容を参照いただきたい)。前回議論したとおり、労働市場の仕組みを始めとする、各種の制度は、企業や個人の行動に大きく影響するものであり、国によってかなり違いがあることもよく知られている。この章では、制度の違いと求められるリーダーシップの違い について、いくつか研究をご紹介したい。

まず1つ目は、Responsible leadership (責任あるリーダーシップ)という観点で、 アジア(日本、韓国、香港)と西欧(アメリカ、ドイツ)の各国の間で比較研究を行ったWitt and Stahl (2015)の研究である。 金融危機以降の巨大金融機関における巨額のボーナスへの批判や、消費財メーカーの新興国での下請け生産現場における労働環境の問題 など、企業の社会的責任についての関心は、年々高まっている。これに伴って、社会的に責任あるリーダーシップについての関心が高まっている。こうした観点で、経営トップ層が、さまざまなステークホルダーに対する自分たちの責任をどのように捉えているか分析したのが、本研究である。

これらの5カ国を比較すると、文化的には日本、韓国、アジアは「儒教アジアクラスター」に分類され、比較的類似性が高いことが知られている。一方で、ドイツとアメリカは、西欧諸国であり、個人主義的であるという点で類似性はあるものの、ドイツはオーストリアやスイスと、 アメリカはイギリスやカナダ、オーストラリアなどの旧英連邦の諸国と同じクラスターに括られることが一般的である(House et al., 2004; Ronen & Shenkar, 2013)。それに対して、制度的には、アメリカと香港は市場での自由競争を重視するLiberal Market Economies (LMEs)、日本とドイツ、また、(厳密に言うと少し異なる点もあるのだが)韓国は、長期的な信頼関係を通じた協調に特徴があるCoordinated Market Economies(CMEs) に分類される(詳しくは前回の内容を参照いただきたい)。

本研究の分析の結果を一言で言えば、文化の違いよりも、制度の違いの影響が強く見られた、ということになる。日本やドイツ、韓国の経営トップは、企業は株主だけでなく、顧客や従業員、サプライヤー、地域社会などさまざまなステークホルダーに対して責任を負っており、株主中心の考え方に対して批判的であるのに対して、アメリカや香港の経営トップは、企業の責任は第一義に株主の利益を増やすことにあり、他のステークホルダーに対する関わりは、株主の利益を増やす手段とみなしていたのである。

もちろん、この研究はあくまで経営トップに焦点を当てたものであり、リーダーシップのなかでも、かなり限られたテーマに絞った研究である。経営トップの意思決定は、会社としての大きな方向性を決めていくことに関わるものである以上、コーポレートガバナンスや雇用に関わる制度の違いが、彼らの考え方に大きく影響することもまた、当然といえば、当然である。しかしながら、文化に偏りがちであったリーダーシップ研究に、制度の影響を指摘し、一石を投じたという点で、非常に興味深い研究だといえる。

もう1つの研究は、筆者自身が数年前にイギリスと中国で行った研究である。この研究では、日本人の赴任者が、赴任先でリーダーシップを発揮する上で、どのような課題に直面するのか、ということを調査している。イギリスは個人主義的で権力格差が低い、中国は集団主義的で権力格差が大きい国である。上記の、文化とリーダーシップの関係に関する研究から考えれば、両国で求められるリーダーシップには大きな違いがあるように思われる。しかしながら、日本人赴任者と現地の従業員へのインタビューでは予測とは大きく異なる傾向が見られた。いずれの国においても、日本人赴任者が、個人の役割を明確にし、 評価の基準や成果と報酬の関係を明確にすることができていないことが、一番の課題として浮上したのである。言い換えれば、いずれの国においてもTransactional leadershipが重要視されており、日本人の赴任者がそれを苦手と考えていることが明らかになったのである。

筆者は、この違いは、日本の労働市場のあり方が、イギリスや中国と大きく異なる点に起因しているのではないかと考えている。 国際的に比較すると、日本の雇用、仕事デザインの特徴は、長期安定的な雇用と、曖昧な個人の役割にある(Marsden, 1999)。 個人の役割は大まかには決まっているが、職場の状況の変化に応じて、柔軟に対応することが一人ひとりに期待されている。 そして、「自分の仕事の範囲はこれだから、それは自分の仕事じゃない」といったことを主張せずに、お互いに歩み寄って調整、協働していくことが、重要視されるのである。個人の目標と実際の仕事、評価の関係は曖昧になるが、長期的雇用のなかで、その曖昧さが許容されているのが日本の雇用の特徴といえるだろう。一方で、イギリスは、労働市場が流動的であり、労使間の信頼関係が伝統的に希薄であることから、個人の仕事の範囲や評価基準を明確にし、自分の貢献に見合う報酬を一人ひとりが確保しよう、ということへの関心が強い。中国も労働市場の流動性が極めて高く(Cooke, 2011)、経済発展のスピードも高いため、その時々で自分の評価を確保し 、報酬を得ることに対する関心が非常に強い。個人の役割設定が曖昧で、評価の基準が曖昧でも頑張ってくれる日本の部下に慣れた管理職が、こうした人々にリーダーシップを発揮しようとしたときに、Transactional leadershipが課題として表面化する、というのが筆者の解釈である。

この2つの研究が共通して示唆していることは、労働市場やガバナンスのあり方が、リーダーに求められることに少なからず影響しているようだ、ということである。特に、このことは、昨今、日本企業が注目しているアジア市場を考えたときに重要である。日本とアジア各国の間には雇用にせよガバナンスにせよ、大きな制度上の違いがある(詳しくは前回参照)。文化的には集団主義や権力格差などの点で異なり、制度的にはより雇用の流動性という点が異なっている。こうした違いがどのように複雑に絡み合い、「求められるリーダーシップ」に影響するのか、という点は、これからまだまだ探求が必要な研究テーマだといえるだろう。

リーダーシップ開発への示唆

「グローバルに活躍できるリーダーの育成」というテーマは、多くの企業において人事、あるいは経営の重要な課題として挙がっているのではないだろうか。 本稿の締めくくりとして、ここまで議論してきた国による求められるリーダーシップの違いの、リーダーシップ開発に対する示唆について簡単に議論したい 。「グローバルに活躍できるリーダー」とは何なのか、という定義は企業によって異なると思われるが、一旦ここでは、「文化や制度の違いを超えて、人々に影響力を発揮して成果をあげられる人材」とおこう。もちろん、リーダーの育成となると、ビジネスや市場についての洞察をもち、大きなスケールで方向性を描き、推進していくこと、といった戦略的な能力が当然重要になるが、ここでは、影響力の発揮の部分に焦点を当てたい。

冒頭で述べたとおり、国によって求められるリーダーシップが異なるということは、リーダーはそれぞれの状況によって、自らのリーダーシップのスタイルを少なからず調整する必要があることを示しているように思われる。 では、1つの国で上手くやれたら、他の国でも上手くやれるだろうか? そうとは限らない。次の国でも新たに修正することが必要になるからだ。そう考えると、「学習と適応を続けられる」ということが、1つの重要な要素だ、ということになる。この点に注目したのが、「第4回 海外赴任における適応」で議論したCross-Cultural Competenceという概念である。母国とは異なる環境に関心を向け、人々の行動を観察し、相手を理解し、自分の行動を調整する学習力がどれくらいあるか、そうしたことにそもそも関心があるかということが、グローバルに成果をあげる上で重要だ、という議論である。

もう1つ、影響力を発揮するという観点で大事な点は、普遍的なリーダーシップの要素もまた、存在するということだ。再掲になるが、正直で信頼に値すること、将来を見通して計画を立てること、ポジティブで部下を鼓舞し、やる気を引き出すこと、そして、コミュニケーションを通じてチームづくりを行うことというのは、普遍的に好まれるという調査結果が示されている。しかし、こうした要素を、どんな人たちとでも常に発揮することはおそらく簡単ではない。相手が違えば、効果的な計画の立て方、部下の鼓舞の仕方は異なるだろう。そう考えれば、こうした普遍的なリーダーシップの発揮も、試行錯誤を通じて学ぶ必要があるものだと考えられる。

以上の考察からは、普遍的なリーダーシップの要素や、学習を通じた異文化適応の能力をもつ(可能性の高い)人材を選び、海外の現場を経験させること、そして、リフレクション(内省)の機会を提供することが重要であることが読み取れる。経験学習の枠組みから考えれば、人は実際に経験すること、そして、そこで経験したことを内省し、自分なりに整理することで学習する(Kolb, 1983)。日本人にせよ、現地採用の外国人にせよ、こうした機会をいかに効果的に提供していくかが、グローバルに活躍できるリーダーを育成する上では重要なポイントといえるだろう。

ここで、特に強調したい点は、内省の機会である。日本人の赴任者が、海外にいる期間に、 自身の現地でのリーダーシップ発揮の状況について、現地の人々からの視点も踏まえて振り返る機会が、どれくらいあるだろうか? また、現地法人で採用した外国人で、将来的にリーダーとしての活躍を期待している人々に、自らのリーダーシップについて振り返る機会をどれくらい提供できているだろうか? また、そもそも、採用した国の人々を超えて、リーダーシップを発揮することを期待し、機会を与えられているだろうか? 「グローバルに活躍できるリーダーの育成」の育成を進める上では、これらをどのように世界中で行っていくか、というのが大きなチャレンジとなるように思われる。

終わりに

本稿では、文化、制度の違いが、求められるリーダーシップの違いに与える影響と、そうした違いを踏まえた、リーダー育成の課題について議論を行った。普遍的に通じる要素がある一方で、個人と集団、権力の格差に対する捉え方、不確実性への対処、そして、ステークホルダーとの関係のあり方といった面で、国により、求められるリーダーシップには違いがあることが、これまでの研究からは見えてきている。これらの違いを乗り越えて、多様な人々を動かし、成果をあげるリーダーを育成するには、適性を見極めた上で、 生まれ育った環境とは異なる場で、リーダーシップを発揮する機会を提供すること、そして、内省を通じて経験を学びに変える支援を提供していくことが必要と考えられる。特に、海外にいる人々にどのようにして機会を提供していくのかという点が、大きな違いを生むポイントであるように思われる。

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PROFILE
吉川 克彦(よしかわ かつひこ)氏
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 客員研究員

1998年リクルート入社。
コンサルタントとして、経営理念浸透、ダイバーシティ推進、戦略的HRM等の領域で、国内大手企業の課題解決の支援に従事。
英London School of Economicsにて修士(マネジメント)取得。
現在は同校にて博士課程に所属する傍ら、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所客員研究員を務める。

※記事の内容および所属は掲載時点のものとなります。

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