調査レポート
マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年
高まる期待と負荷に向けて、実践への個別サポートが求められる
- 公開日:2023/09/25
- 更新日:2024/06/10
近年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響がもたらした、ビジネスニーズの変化、急速なオンライン化の浸透や、若年層の仕事・キャリア観の変化、ITやAIなどのデジタルテクノロジーの発展など、私たちの仕事や職場に大きな変化をもたらす事柄が続いています。
このような環境において、ミドルマネジメント層の現状や期待はどうなっているのか、昨年までに続いて人事担当者と管理職層を対象とした調査を行いました。調査結果をもとに、今後の管理職層・マネジャー育成のあり方についてご紹介していきます。
昨年実施した同調査のレポートは こちら をご参照ください。
- 目次
- 調査概要
- 「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」ことが企業組織課題の1位
- 人事からはメンバーのキャリア形成支援の期待が高まる
- 管理職の大半がプレイングマネジャーであるという現実
- メンバーの育成には研修、コンディションのケアにはコーチングが求められている
- 管理職になりたくない中堅社員が増えている
- 「自律共創型」組織への移行が進んでいる
- まとめ
調査概要
企業の人事担当者および管理職層(マネジャー・課長・部長)を対象としました。
「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」ことが企業組織課題の1位
人事担当者に会社の組織課題について尋ねたところ、選択数が多い順に、1位「1. ミドルマネジメント層の負担が過重になっている(65.3%)」、2位「2. 次世代の経営を担う人材が育っていない(64.0%)」、3位「3. 中堅社員が小粒化している(63.3%)」という結果となりました。同じ設問に対する管理職層の回答は、1位「1. ミドルマネジメント層の負担が過重になっている(64.7%)」、2位「3. 中堅社員が小粒化している(64.0%)」、3位が3つあり「2. 次世代の経営を担う人材が育っていない(62.7%)」「5. 新価値創造・イノベーションが起こせていない(62.7%)」「8. 新人・若手社員の立ち上がりが遅くなっている (62.7%)」でした(図表1)。
<図表1>会社の組織課題(2023年)
「1. ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」の選択率が1位になったのは人事担当者の回答でも管理職層の回答でも、本調査をスタートした2020年から初めての結果となりました。
冒頭でお伝えしたようなビジネス環境の変化が激しいなかでの、組織目標の達成や新価値創造の役割に加え、管理職の選択率が3位になっている「8. 新人・若手社員の立ち上がりが遅くなっている(62.7%)」のようなピープルマネジメントの難度が上がっていることなども背景として考えられます。
また、「2. 次世代の経営を担う人材が育っていない」は前回までの調査でも高い選択率となっています。「3. 中堅社員が小粒化している」という課題も併せて考えると、企業が求める人材がなかなか想定通りに育っていない状況があるようです。
負担が高くなっているといわれる管理職層にはどのような期待が寄せられ、どこに難しさを感じているのでしょうか。ここから、具体的に管理職層に寄せられている期待と実態について見ていきます。
人事からはメンバーのキャリア形成支援の期待が高まる
人事担当者に「管理職に最も期待していること」(3つまで選択)を尋ねたところ、選択率1位の項目は、「1. メンバーの育成」でした。次いで、「2. メンバーのキャリア形成・選択の支援」「3. 部署内の人間関係の円滑化」「4. 業務改善」が続きました。
一方、管理職層に「管理職として重要な役割」(3つまで選択)を尋ねたところ、人事担当者と同様に「1. メンバーの育成」が1位でしたが、続いては「3. 部署内の人間関係の円滑化」と「5. 担当部署の目標達成/業務完遂」が選ばれました。人事で2番目に選択されていた「2. メンバーのキャリア形成・選択の支援」は5番目の選択となりました(図表2)。
<図表2>管理職に期待していること・管理職の役割(2023年)
人事担当者、管理職層ともに「1. メンバーの育成」の役割認識が一番高いのは従来からと同様の結果ですが、ビジネス環境の変化に伴い働き方の価値観が多様化するなかで、人事担当者からはキャリア支援への期待が高まっていることが今年の特徴です。育成だけではなく、部下の中長期のキャリア形成支援までがマネジャーの役割になってきたといえそうです。
管理職の大半がプレイングマネジャーであるという現実
管理職層の負荷が高くなる一因として考えらえるのが、プレイヤー業務の多さによる負担です。管理職にしか行うことのできないマネジメント業務への期待は年々増大、複雑化しているといわれていますが、それに加えてプレイヤー業務を担当しているとさらに負荷は高まっていきます。
今年の調査では、実際に管理職がマネジメント業務に携われている比率がどれぐらいであるかを確認してみました。
一番多かったのはマネジメント業務の比率が「50%」と回答した人で選択率は20.7%となりました。次いで、「80%」と「20%」という対照的な回答が続く結果となりました。一方、「90%」や「100%」といった大半の時間をマネジメント業務に割けている人は少数派であるという結果になりました(図表3)。
<図表3>【管理職層】マネジメント業務の比率
併せて、なぜ管理職がプレイヤー業務を担わなくてはいけないのかその理由についても調査をしました。
理由として一番選択率が高かったのは「1. メンバーに知識・スキルが不足しており仕事を一任できない」でした。次いで「2. 自分の専門性を維持・向上させ続けるため」「3. メンバーに他部署を動かす調整力が足らず、一任できない」が続きます(図表4)。
一任できるメンバーが不足していることが、マネジメント業務に専念することを難しくしている状況が見えてきました。また、意外にも、マネジャー自身が専門性維持・向上のためにプレイング業務を持ち続けていることが分かりました。このような状況を踏まえると、今後もマネジャーがプレイング業務を一定の割合で持ち続ける流れは変わりそうにありません。
<図表4>【管理職層】プレイヤー業務を行う理由
メンバーの育成には研修、コンディションのケアにはコーチングが求められている
続いて、管理職層が求められている役割のなかで、難しさを感じていることは何かについて見ていきます。
管理職層に、「日々のマネジメント業務で難しいと思っていること」について質問したところ、上位から順に「1. メンバーの育成・能力開発をすること」「2. 既存業務に取り組みつつ、新しい挑戦を行うこと」「3. 自部署の業績・目標を達成すること」が選ばれました(図表5)。
<図表5>【管理職層】日々のマネジメントで難しいと思っていること(2023年)
プレイヤー業務をする理由としてメンバーへなかなか一任できない実態が見えましたが、一任できるメンバーを育成していく過程でも難しさを感じているという結果となりました。また、人事担当者から管理職層への期待(図表2)の2位にきていた「2. メンバーのキャリア形成・選択の支援」と関連しそうな「10. メンバーの希望するキャリアや働き方を実現すること」は、管理職が感じる難しさとしては選択率が低い結果となりました。この項目を管理職の役割として取り組むかどうか、管理職層の認識にバラつきがあるのかもしれません。
上記と併せて、難しいと思っていることに対しどのようなサポートをしてもらいたいと思っているかについても調べた結果が図表6です。
管理職層が難しいと思っていること(図表5)の1位に挙がっていた「1. メンバーの育成・能力開発をすること」については、「A. 研修などでのインプット」が一番多く選択されています。一方、難しさ2位の「2. 既存業務に取り組みつつ、新しい挑戦を行うこと」については、「D. 人員補給や配置転換」の選択率が高く、現状の組織で対応していくことに限界を感じている様子がうかがえました。
また、同じメンバーへの対応のなかでも「5. メンバーの仕事に向けたやる気を高めること」「メンバーの心身のコンディションのケアをすること」については、「B. 上司や人事からの具体的なアドバイス」や「G. 外部の専門家によるコーチング」を求める意見が多く、研修などの一律の対応よりも状況に合わせた個別のアドバイスを求めているといえそうです。
また、人事担当者の回答を見ると研修や人事・上司からのアドバイスは半数以上の企業が行っている結果となっている一方、外部のコーチングの実施率は23.3%にとどまっています。ただし「これから検討しているサポート」ではコーチングが一番高くなっており、管理職層が求めているサポートとも一致していそうです。
<図表6>
【管理職層】管理職業務で難しさを感じていることに対して周囲に求めるサポート
【人事担当者】すでに実施しているサポートと、これから実施を検討しているサポート
Q:以下から、すでに実施しているサポートをお選びください。 また、これから実施を検討しているサポートをお選びください。(複数選択)
管理職になりたくない中堅社員が増えている
次に、管理職昇格についても調査した結果についてお伝えしていきます。
人事担当者に「課長・マネジャー候補育成・選抜の難しさ」について質問したところ、「特に難しさは感じていない」という回答は全体の14.7%となり、大半の人事担当者が難しさを感じているという結果でした。難しさを感じる内容については、「1. 課長・マネジャーになりたいという社員が減っている」が42.7%で1位、2位が「2. 課長・マネジャー候補に向けた育成の進め方」、3位が「3. 課長・マネジャーになる前に必要な経験を積ませること」となりました(図表7)。
<図表7>
【人事担当者】課長・マネジャー候補の育成や選抜における難しさ
Q:貴社では課長・マネジャー候補の育成や選抜に難しさを感じていますか。難しいと感じていることについて下記から選択してください。(いくつでも)
育成の仕方そのもの以上に、管理職になりたいという社員が減っていることが挙げられたのは印象的な結果です。組織課題の1位が「1. ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」という結果が出ていたように(図表1)、管理職の仕事が周囲からも大変に見えていることが一因になっているのかもしれません。
また、管理職自身にとっては大きな役割転換の節目で、どのようなことがサポートになり、どのようなことが難しさとなっているのかを調べてみました。
図表8は管理職が自身の昇格時に「あってよかった経験」と「なかったがほしかった経験」について回答した結果です。両方とも「10. あてはまるものはない」が1位となりましたが、それ以外でいうと「1. 新任昇格時の研修」「2. 管理職同士の情報交換の場」「3. 昇格前にリーダーとしてメンバーを率いる経験」があってよかった経験の上位に並んでいます。また、実際はなかったがほしかった経験としては、「8. 専門家による個別コーチング」「5. 上司や人事による個別サポート」「9. WEBなどのマネジメントフォローツール」が上位で選ばれています。ここでも一律の育成に加えて、実践のなかで個別の状況に合わせたサポートが求められている様子がうかがえました。
<図表8>
【管理職層】昇格時にあってよかった経験/なかったがほしかった経験
Q:ご自身が管理職へ昇格されたときにあってよかった経験、なかったがほしかった経験を選択してください。
今度は人事担当者に課長昇格時に実施しているサポートと、実施はしていないが今後検討したいサポートについて尋ねました。実施しているサポートとして1位に選ばれたのが「評価者研修」、次いで「新任昇格時の研修」「上司や人事による個別サポート」となりました(図表9)。
今後実施を検討したいサポートについては管理職層と同様に「8. 専門家による個別コーチング」が最も多く選択されました(30.7%)。次いで「6. 多面評価など部下からフィードバックを受ける機会」「7. 半年後などのマネジメント実践状況フォローの研修」が続き、マネジメントの実践に伴走していくための施策の検討が進んでいるようです。
<図表9>
【人事担当者】昇格時に実施しているサポート/実施を検討したいサポート
Q:貴社で課長昇格時に実施しているサポートや、今後実施を検討したいサポートを選択してください。
「自律共創型」組織への移行が進んでいる
最後に、自社の組織の特徴について質問した結果を見ていきます。
実際に担当している組織について「自律共創型組織」への期待と取り組みの度合いを尋ねた結果が図表10です。
各設問に対して「そう思う」「ややそう思う」と回答した人は、「1. 会社から自律共創型組織に移行することを求められている」が全体の61.3%、「2. 自分の所属組織は自律共創型組織であることが必要だと思う」が69.7%、「3. 実際に自律共創型の組織運営に取り組んでいる」は49.4%という結果になりました。会社で求められている以上に自組織での必要性を感じ、半数近くがすでに何らかの取り組みを始められている様子がうかがえました。
<図表10>自律共創型組織への移行度
Q:以下の自律共創型組織に関する事柄について、ご自身のお考えにあてはまるものをお選びください。
また、自律共創型組織の運営に向けて取り組んでいることで、難しさを感じていることは何かについて質問した結果が図表11です。選択率が高かったのは、「1. あいまいな状況のなかでも先を見て、組織のビジョンを打ち出す」「2. 失敗を恐れず、まずは挑戦してみることをメンバーに勧める」でした。
前例も正解もないなかで新しい方針を打ち出したり、そこへ向けてのメンバーのチャレンジを促したりすることは自律共創型組織を運営していくうえで重要なことである一方、実現に向けては一定のハードルがある様子が見られました。
<図表11>【管理職層】自律共創型組織に向けた組織運営の実施状況
Q:自律共創型の組織運営に向けて、難しいと感じていることを3つまで選択してください。
まとめ
本調査スタートの2020年から初めて「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」ことが今年、人事担当者と管理職層の両者において企業組織課題の1位になったのは象徴的な結果であったといえます(図表1:会社の組織課題)。
ただし、ミドルマネジャーの過重負荷状態は以前から叫ばれてきました。今年の調査結果から示唆されるのは、比較的短期的な「業績達成」や「メンバーの育成」の重要度は変わらないままに、中長期的な視点が必要となる「メンバーのキャリア形成・選択の支援」までマネジャーに期待されるようになり、マネジャーの担う役割の幅は広がり続けているということです。
そうしたなかで、マネジャー自身はより個別具体の事象に対処できるようなサポートを求める状況にあるといえるでしょう。マネジャー自身からもコーチングのニーズが出てきており、それに対応して人事としても施策化を検討しているフェーズであるといえます。
このようなマネジャーの苦労する姿を見るにつけ、これからマネジャーとなっていく管理職候補群は、マネジメント志向が低い状態にとどまっています。
マネジャーが孤軍奮闘しているように映り、その立場に魅力を感じづらくなっている傾向が見えてきます。
一方で、組織としては、自律共創型の組織転換への必要性は年々高まっています(図表10:自律共創型組織への移行度)。7割近い管理職層が、自組織が自律共創型の組織であることが必要であると回答しており、これは会社から求められていると感じる割合より高くなっています。現場に近いマネジャーこそが自律共創型の組織転換の必要性を肌で強く感じているといえそうです。
※自律共創型のマネジメントについては こちら をご参照ください。
自律共創型の組織では、マネジャーが1人でけん引するのではなく、メンバーそれぞれがまさに自律的に動き、自らの意思を打ち出していくことが求められます。
言い換えれば、環境変化に適応しようとするなかで、組織のあり方を変化させると共に、個々のメンバーが新たな役割を発揮していくことで、はじめて機能するチームになっていきます。
このようなメンバーの変化を起こすことをマネジャーだけに期待するのではなく、個々のメンバーそれぞれが成長するための施策や支援を、組織変革の動きと有機的につなげ、効果を最大化することが人事機能には求められています。
そうした支援が、結果的には、マネジャーの過重負荷状態を軽減する打ち手にもなるのではないでしょうか。
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