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調査レポート

人材マネジメント実態調査2021【後編】

変化の時代の人事の役割・貢献に対する思いとは

  • 公開日:2021/08/02
  • 更新日:2024/05/17
変化の時代の人事の役割・貢献に対する思いとは

前編では、人事の課題認識とその変化について紹介した。後編では、コロナ禍において、人事担当者が、自身の人事としての役割をどのように認識しているのか、2018年調査結果も参照しながらみていきたい。4つの役割の重視度の違い、人材マネジメントの成果を何と捉えているのか、従業員を動機づけるために重要なものは何だと考えているのか、それらの回答結果を報告していく。最後に、コロナ禍に直面し、不確実性の高い変動の時期だからこその人事の役割・貢献に関する自由記述結果の一部を通じて、日ごろ人事業務に携わっている皆さんの意識や思いを紹介したい。

1. 人事において重視する役割とは
2. 人材マネジメントの成果指標とは
3. 従業員を動機づけるために重要なもの
4. 不確実性の時代における人事の役割・貢献

1. 人事において重視する役割とは

1.1. 現在と5年後

人事として、自らが所属する組織において、どのような役割が重視されていると考えているのか。人事にはさまざまな機能・仕事があるため、先行調査(リクルートマネジメントソリューションズ、2010、2013、2018)で用いてきた4つの主な役割に順位づけする方法で、重視されている役割について聴取した(図表1)。

<図表1>人事の4つの役割

<図表1>人事の4つの役割

出所:「人材マネジメント実態調査2010」からの考察 「人事の役割」とは

現在および5年後について尋ねた結果は図表2のとおりである。現在一番重視するものとして最も多く選択されたのは「1.戦略実現パートナー」(39.1%)だった。次に多いのが「3.従業員パートナー」(23.2%)で、「4.理念・バリュー実現パートナー」(19.3%)、「2.実務推進パートナー」(18.3%)についても、大きな差なく回答が分かれた。5年後についても、現在と同様に「1.戦略実現パートナー」(38.7%)が最も多く選択されている状況に変わりないが、次に多く選択されているのが「4.理念・バリュー実現パートナー」(23.6%)となっていた。

<図表2>現在と5年後の一番重視する役割つぎのことは、人材マネジメントを専門に担当する部署において、どの程度重視されていますか。現在/5年後について、1(一番重視する)、2(二番目に重視する)、3(三番目に重視する)、4(四番目に重視する)の順位づけを行ってください。(単一回答/n=491/%)

<図表2>現在と5年後の一番重視する役割

それでは、回答者ごとに、現在と5年後の選択状況はどのように変化したのだろうか(図表3)。

<図表3>一番重視する役割 現在と5年後の選択の変化(単一回答/n=491/%)

<図表3>一番重視する役割現在と5年後の選択の変化

現在、一番重視する役割として「1.戦略実現パートナー」を選んでいた人のうち、5年後も「1.戦略実現パートナー」を選んでいたのは72.4%で、「4.理念・バリュー実現パートナー」は69.5%が同じ選択をしていた。一方、「2.実務推進パートナー」と「3.従業員パートナー」は、それぞれ54.4%、53.5%と、同じ選択だったのは半数程度にとどまった。他の半数近くは、5年後には重視する役割の優先順位が変わるという見通しをもっているようだ。例えば「3.従業員パートナー」については、21.9%が5年後は「1.戦略実現パートナー」を選択している。その回答者群が、現在コロナ禍で一時的に従業員に寄り添った役割の優先順位を高く認識してのことなのか、今後の事業環境変化を見越してのことなのか、推測の域を出ないが、今後の動向にも注目していきたい。

1.2. 2018年調査との比較

回答者が同一ではないため、参考情報となるが、同じく人事の管理職に回答を求めた前回の調査結果(リクルートマネジメントソリューションズ「人材マネジメント実態調査」、2018)を参照しておきたい。図表4に一番重視する役割の選択状況を示した。現在、5年後共に、2018年調査との比較において、統計的に有意な差はみられなかった。3年前と今とで、会社ごとには個別の事情もあるだろうが、全体としては大きく傾向は変わらないようだ。

<図表4>一番重視する役割 2018年調査との比較(単一回答/%)

<図表4>一番重視する役割2018年調査との比較

2. 人材マネジメントの成果指標とは

2.1. 現在と今後

次に、現在と今後の人材マネジメントの成果指標について尋ねた結果を紹介する(図表5)。現在については、「1.従業員満足度」(60.3%)が最も多く選ばれていた。何を成果指標と置くかは、自らの貢献領域の認識に通じるところでもあるが、約6割が、人材マネジメントでの各施策を通じて従業員満足度の向上を実現したいと考えているようだ。「2.有給休暇取得率」(48.9%)、「3.時間外労働時間」(47.7%)、「4.総額人件費」(44.0%)、「5.従業員一人当たりの売上あるいは利益」(41.3%)がそれに続く。今後について、上位を占める指標は変わらないが、「7.女性管理職比率」(31.4%)が「1.従業員満足度」(37.1%)に次いで多く選ばれていた。

<図表5>現在と今後の人材マネジメントの成果を捉える指標次の指標のうち、「人材マネジメントの成果」を捉える指標として用いているものはどれですか。現在と今後について、それぞれあてはまるものをすべてお選びください。(複数回答/n=491/%)

<図表5>現在と今後の人材マネジメントの成果を捉える指標

2.2. 2018年調査との比較

こちらも、前回調査との比較を見ておく(図表6)。統計的に有意な差がみられたのは、「1.従業員満足度」(2018年調査45.7%/今回調査60.3%)、「2.有給休暇取得率」(2018年調査35.1%/今回調査48.9%)、「18.経営への信頼度」(2018年調査16.8%/今回調査23.0%)の3指標だった。なかでも「従業員満足度」「有給休暇取得率」は10ポイント以上増えている。昨今のエンゲージメントへの注目の高まりや、2019年4月より順次施行されている働き方改革関連法の影響もあるのかもしれない。この2指標に比べると選択率は高くないが、「18.経営への信頼度」の上昇は、コロナ禍での安心・安全への配慮をはじめとする、人事の打ち手が経営への信頼につながることが意識されていることの表れとも考えられる。

<図表6>人材マネジメントの成果を捉える指標(現在) 2018年調査との比較(複数回答/%)

<図表6>人材マネジメントの成果を捉える指標

3. 従業員を動機づけるために重要なもの

3.1. 現在と5年後

前項のとおり従業員満足度の重視度合いが高まるなかで、どうやって従業員を動機づけたらいいのだろうか。それを考える1つの手がかりとして、従業員を動機づけるために重要なものを選んでもらった結果を紹介する(図表7)。

<図表7>従業員を動機づけるために重要なものお勤めの会社において、現在、従業員を動機づけるために重要なものは以下のうちどれだと思いますか。また、5年後に重要になっているものはどれだと思いますか。それぞれ3つまでお選びください。
(複数回答・3つまで/n=491/%)

<図表7>従業員を動機づけるために重要なもの

現在については「1.仕事のやりがい」(58.0%)、「2.高い給与」(46.4%)が多く選択されている。5年後についても、「1.仕事のやりがい」(48.7%)、「2.高い給与」(36.7%)が多いという傾向に変わりはないが、「8.多様な働き方の選択」(26.9%)は現在(15.1%)より10ポイント以上多く選択されている。コロナ禍でのテレワークの急拡大により、世の中的には多様な働き方の選択への関心は高まったかにみえたが、企業の多くは急場の対応となっていて、従業員の動機づけを高めるといった本来的な目的での多様な働き方については、今後の課題として捉えられているのかもしれない。

3.2. 2018年調査との比較

前回調査との比較をすると(図表8)、「1.仕事のやりがい」(2018年調査67.3%/今回調査58.0%)、「2.高い給与」(2018年調査43.3%/今回調査46.4%)が多く選ばれていることに変わりないが、「1.仕事のやりがい」が約9ポイント減少し、「3.出世や昇進」(2018年調査15.4%/今回調査26.9%)が約10ポイント増加している。「3.出世や昇進」については、前編で紹介したように、管理職になることに魅力を感じない人が増えているからこそ、管理職という仕事の魅力を高めたいということもあるのかもしれない。また、相対的に選択率は高くはないものの、「9.高度な知識やスキルを習得する機会」(2018年調査7.2%/今回調査13.8%)は増加し、「10.幸福感」(2018年調査18.8%/今回調査13.2%)は減少していた。

<図表8>従業員を動機づけるために重要なもの(現在) 2018年調査との比較(複数回答・3つまで/%)

<図表8>従業員を動機づけるために重要なもの

4. 不確実性の時代における人事の役割・貢献

最後に、コロナ禍に直面しているなかで、自身が考える人事の役割・貢献に関する自由記述結果の一部を紹介したい(図表9)。

<図表9>人事の役割・貢献についての考え(自由記述より抜粋して筆者が分類)
コロナ禍に直面し、このような不確実性の高い変動の時期だからこその人事の役割・貢献を、あなた自身はどのように捉えていますか。

<図表9>人事の役割・貢献についての考え

不確実性の高い変動の時期だからこその、変化対応の重要性に関するコメントが最も多かった。中長期の視点で取り組んでいくべき、新しいことにチャレンジする機会であるとのコメントも多くみられた。

テレワークに関連したコメントも多く、コミュニケーション、組織としての求心力、評価の仕組みの見直しなどについての言及が散見された。モチベーションや働きがいに関しても具体的な言及が複数みられ、先述した従業員満足度の重視度合いの高まりとの呼応も感じられた。

また、HRM各機能ごとの具体的な言及も多くみられた。その内容は、優秀人材の定着および新規採用、配置の柔軟性と適材適所の実現、変化対応できる人材の育成、適正な人事評価、安心安全な職場環境など多岐にわたり、この機会に取り組みたい課題がさまざまに挙げられていた。

これらのコメントをみると、それぞれ携わっている役割や立場に応じた自負が語られ、変化の時代に、人事の存在の大きさを感じることができるのではないだろうか。今はコロナ禍で目の前のことに対応せざるを得ないことも多いだろう。一方、有事に備えて強い組織をつくっていくことが人事の役割であることが再認識できる結果となった。

何を人事の役割と考えるかには一つの答えが存在するわけではない。前編・後編を通して、コロナ禍で浮かび上がった人事課題と人事の役割・貢献について、調査結果のご報告と共に考察を重ねてきた。今回の調査報告が、経営や人事の皆さんがこれからの人事の役割についてお考えになる際の一助となれば幸いである。

執筆者

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組織行動研究所
主任研究員

藤村 直子

人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)、リクルートにて人事アセスメントの研究・開発、新規事業企画等に従事した後、人材紹介サービス会社での経営人材キャリア開発支援等を経て、2007年より現職。経験学習と持論形成、中高年のキャリア等に関する調査・研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集・調査を行う。

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組織行動研究所
客員研究員

藤澤 理恵

リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所主任研究員を経て、東京都立大学経済経営学部助教、博士(経営学)。
“ビジネス”と”ソーシャル”のあいだの「越境」、仕事を自らリ・デザインする「ジョブ・クラフティング」、「HRM(人的資源管理)の柔軟性」などをテーマに研究を行っている。
経営行動科学学会第18回JAAS AWARD奨励研究賞(2021年)・第25回大会優秀賞(2022年)、人材育成学会2020年度奨励賞。

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