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調査レポート

人事担当マネジャー208名への意識調査

人事が考える、人材マネジメントのこれまでとこれから

  • 公開日:2018/08/06
  • 更新日:2024/05/16
人事が考える、人材マネジメントのこれまでとこれから

機関誌「RMS Message」50号特別企画“個と組織を生かす 人材マネジメントのこれまでとこれから”では、さまざまな角度から識者の見解を紹介してきた。では、実際に企業で人材マネジメントにたずさわる人から見た、人材マネジメントのこれまでとこれからはどのようなものだろうか。従業員300名以上の企業で人事業務を担当している管理職208名から得た調査結果を報告する。

調査概要
組織・人材マネジメントの実態
人事の仕事の現在と今後
2030年の人材マネジメント

調査概要

調査は、「組織・人材マネジメントの実態」「人事の仕事の現在と今後」「2030年の人材マネジメント」の3つのテーマについて行った。調査概要は図表1のとおりである。

調査概要

本稿では、各テーマから2~3の設問の回答結果をご紹介する。また、208名の全体傾向の他に、回答者が属する企業の業績成長率別(高群・低群別)の傾向も紹介していく。高群は、5年間の売上成長率と営業利益成長率の双方について、「業界平均と比べて高い・どちらかといえば業界平均と比べて高い」を選択した75名、低群は「業界平均と比べて低い・どちらかといえば業界平均と比べて低い」を選択した29名の回答を使った。なお、上場比率では2つの群に統計的に有意な差が見られるが(高群65.3%/低群37.9%)、従業員規模、業種には有意な差は見られない。

組織・人材マネジメントの実態

1)現在表出している問題

まず、現在勤め先で、どのような組織・人材マネジメントの問題が表出しているかをたずねた(図表2)。「よくあてはまる」「ややあてはまる」の合計で見たところ、最も多かったのは「次世代の経営を担う人材が育っていない(82.7%)」で8割を超えた。次いで「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている(78.4%)」「中堅社員が小粒化している(76.4%)」も8割に迫り、これらの問題が多くの会社に共通する問題であることが分かる。次いで、7割程度が「難しい仕事に挑戦する人が減っている(71.6%)」「従業員の自発的な活動が減っている(71.2%)」と、従業員の積極的な活動が以前より減っていることを問題視していた。

人材マネジメントの現状

業績成長率別で見ると、低群は多くの項目で高群より高い選択率となり、現状の問題がより顕在化していることがうかがえた。特に低群が高群より高いのは「やりがいのある仕事が減っている(高群48.0%/低群82.8%)」「従業員の経営への信頼感が低下している(高群49.3%/低群82.8%)」「職場ぐるみで人材育成するという風土がなくなっている(高群57.3%/低群86.2%)」だった。

2)人材マネジメント課題

このような問題があるなかで、各社は何を解決すべき課題だと認識しているのだろうか。あてはまるものをすべて選んでもらった結果は図表3のとおりである。6割を超える選択となった「新人・若手社員の戦力化(67.3%)」「中堅社員の育成(64.9%)」やそれに次ぐ「ミドルマネジメント層の能力開発(54.8%)」は、人材マネジメントの定番の課題といえよう。次いで「社員のモチベーション向上」が5割近く(47.6%)選択され、問題認識で最も多かった「次世代経営人材の育成・登用」が続いた(44.7%)。

現在の人材マネジメント課題

業績成長率別で統計的に有意な差が確認されたのは、高群が低群より高い「国内での人材採用(日本人)の強化(高群37.3%/低群10.3%)」「グローバル人材(日本人を含む)の採用・育成の強化(高群33.3%/低群3.4%)」だった。

3)人材マネジメントの成果を捉える指標

組織・人材マネジメントの成果は捉えにくいものも多いが、各社では、何を定量的、定性的な指標として設定しているのだろうか。現在用いているもの、今後用いる予定のものをすべて選んでもらった(図表4)。「現在」と「今後予定あり」の合計選択率で見ると、最も多かったのが「従業員満足度(79.8%)」で約8割だった。次いで、働き方改革・業務効率化向上に関わる指標が「時間外労働時間(68.7%)」「総額人件費(67.3%)」「従業員1人当たりの売上あるいは利益(66.3%)」と7割近くで選択された。

人材マネジメントの成果を捉える指標

「今後予定あり」のみでは「従業員満足度(34.1%)」に次いで「女性管理職比率(28.4%)」が多く選択された。

業績成長率別で統計的に有意な差が見られたのも「女性管理職比率」で、高群は低群に比べ、「現在(高群34.7%/低群10.3%)」「今後予定あり(高群32.0%/低群6.9%)」とも大幅に選択率が高かった。

人事の仕事の現在と今後

1)人事の仕事で特に重視すること

組織・人材マネジメントにたずさわる人事マネジャーたちは、人事の仕事の現在と今後を、どう捉えているのだろうか。デイビッド・ウルリッチ氏が『MBAの人材戦略』(1997、日本能率協会マネジメントセンター)で提唱した分類を参考に作成した4つの役割(詳細はこちら)について、重視度に順位をつけてもらった(図表5)。最も重視するものとして選択されたのは、現在も5年後も「(1)戦略実現パートナー(現在46.2%/5年後44.7%)」で、5割に迫り他に比べ大幅に多かった。他の3つの選択率は2割前後で大きく変わらないが、5年後と現在を比べると「(2)理念・バリュー実現パートナー」「(4)従業員パートナー」がやや増加し、「(3)業務推進パートナー」がやや減少となっている。

人事の仕事で最も重視する役割

業績成長率別では、現在も5年後とも、高群は低群より「(1)戦略実現パートナー」「(4)従業員パートナー」の選択が多く((1)は高群が現在 8.0%/5年後 10.1%、(4)は同 7.0%/ 8.3%)、低群は高群よりも「(3)業務推進パートナー」の選択が多かった(低群が現在 15.6%/5年後 13.5%)。

2)人事の成果をあげていく上で必要な能力

では、人事の仕事で成果をあげていくには、どのような能力が求められるのだろうか。必要な能力にあてはまるものをすべて選び、さらにそのなかで特に必要だと思うものを3つ選んでもらった(図表6)。「あてはまるものすべて」「特に必要なもの3つ」のいずれでも、「現場にネットワークを持ち、人・組織の現状を把握できる(64.9%/31.7%)」が最も多く選ばれ、次いで「現在だけでなく、将来的に求められる人材・組織像を構想できる(55.3%/26.4%)」「各事業・部門内のビジネス構造を理解できる(50.5%/21.6%)」の順で多く選択された。将来を見通した構想や、ビジネス構造に合致した動きができることは重要だが、そのためにも現場の人・組織の現状を把握することが、人事の成果をあげる上で最も重要だということだろう。

人事に必要な能力

業績成長率別では、「現場にネットワークを持ち、人・組織の現状を把握できる」は高群、低群とも約65%と高い割合で「あてはまる」と回答したが「特に必要なもの」の回答では、高群は42.7%と、低群の24.1%と比べ大幅に選択率が高かった。また、他にも選択率の差が大きかった項目としては、「あてはまる」で高群が低群よりも10%以上多かった「現在だけでなく、将来的に求められる人材・組織像を構想できる( 19.4%)」「人の能力・性格特徴を見抜く目がある( 15.3%)」「人・組織づくりについて強い関心・思いがある( 10.3%)」が見られた。

人事のプロフェッショナリティをより高める必要性がよく語られるが、1)2)を通して見られる高群の回答からは、長期的で戦略的な視点と共に、現場の感情や状況に共感をもって接する姿勢を持ち合わせたハイブリッドな人事への志向が感じられた。

2030年の人材マネジメント

1)視野に入れている未来

人事業務を担う人は、どのくらい先の未来までを視野に入れているのだろうか。視野に入れている年数を数字で記入してもらったところ、208件全体では最も多いのは5年で34.0%、次いで10年で29.6%、少し離れて3年で15.5%だった。

図表7のとおり、業績成長率別では、低群は、3年が27.6%と高群の11.0%に比べ大幅に多かった。長めの15年、20年は、高群のみに見られた。事業の先行きがはっきりしない今日、人事が長期的な視野をもつことは簡単ではない。しかし、人・組織の変化や成長は、事業の変化や成長よりも時間軸が長いことも多い。労働寿命が延びていることもあり、人事は、より長いスパンで先を見ていくことが必要になると思われる。

視野に入れている未来

2)2030年の人的リソース調達

次いで、2030年頃の勤務先での人的リソースの調達先についてたずねた。人口減少が続く環境において、2030年の人的リソース調達は若手以外の活用をより切実に考える必要がある。図表8のとおり、回答結果は、選択が多い順に、「65歳までの中高年人材の活用(28.8%)」「機械(AI・ロボット)の活用(21.6%)」「65歳以上の高齢者の活用(21.2%)」であった。この5年で女性の活用はある程度既定のものとなり、中高年や機械の活用をより視野に入れるようになったことがうかがえる。

業績成長率別では、高群は低群よりも「女性の活用」が多め(高群16.0%/低群10.3%)、低群は高群より「65歳までの中高年人材の活用」が多め(高群24.0%/低群31.0%)の傾向が見られた。

3)2030年の従業員を動機づけるもの

最後に、2030年頃に勤務先で従業員を動機づけるものが、現在と比べてどのように変わっていると思うかをたずねた(図表9)。重要だと思うものを、それぞれ3つ選んでもらったところ、「現在」「2030年頃」共に、「仕事のやりがい」「高い給与」が高い選択率となった。次いで「現在」では、「自分の成長の実感」「社内の人間関係の良さ」が多いが、「2030年頃」では、「多様な働き方の選択」「幸福感(この職場で働くことに幸せを感じること)」が多くなる結果となった。業績成長率別で見ると、特に、高群では、仕事のやりがいから多様な働き方の選択へと移行する傾向が強い。

従業員を動機づけるもの

ここ数年、働き方改革が推進され、仕事と生活の関係性が問い直されている。機械が職場により広く組み込まれるにつれ、働き方や働く人に求められるものはさらに変わる。今後、働く一人ひとりが、より主体的に多様で対等な会社との関係性を結ぶようになれば、企業が人事に求める従業員へのサポートも大きく変化していく必要があるだろう。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.50 50号特別企画「個と組織を生かす 人材マネジメントのこれまでとこれから」より抜粋・一部修正したものである。
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研究員

佐藤 裕子

リクルートにて、法人向けのアセスメント系研修の企画・開発、Webラーニングコンテンツの企画・開発などに携わる。その後、公開型セミナー事業の企画・開発などを経て、2014年より現職。研修での学びを職場で活用すること(転移)、社会人の自律的な学び/リスキリング、経験学習と持論形成、などに関する研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集などに携わる。

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