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調査レポート

社会人の英語学習実態調査

社会人が英語学習を継続できない理由

  • 公開日:2012/07/25
  • 更新日:2024/03/22
社会人が英語学習を継続できない理由

社会人の英語学習は、必要にせまられ切羽詰まった状況で会社からの支援も得ながら行えるケースばかりではありません。日常的に実践機会で英語を使う場面がない場合にはなおさら、上達するかどうかは個人の継続学習に依存する部分が大きくなります。

そこで昨年、英語上達者の成功の秘訣を探るために、この5年間で英語が上達した社会人を対象にした「社会人の英語学習実態調査」を実施しました。その調査で明らかになった課題もふまえて、今回は、必要性を感じていながら英語学習を継続できない人を対象として、何が継続の妨げになっているのか、その実態を把握するための調査を実施しました。本レポートでは、その結果の一部についてご紹介します。

調査概要
英語学習の目的・理由
最近1年間の英語学習時間
社会人になってからの英語学習時間
英語学習を継続できない理由
さいごに

調査概要

昨年実施した、この5年間で英語が上達した社会人を対象とした「社会人の英語学習実態調査」では、効果のある学習法に関する回答はさまざまであるものの、学習を継続していることが上達している人の共通点として確認されました。現在の英語力が高い人ほど英語学習に時間を費やす必要性を認識し、実際に時間を費やしていたのです。しかし継続は容易なことではなく、英語学習の問題・課題トップ3は「時間」(時間がとれないなど)、「意欲・継続」(モチベーションが続かない、継続が大変など)、「実践機会」(話す機会がない、使う機会がないなど)でした。課題を感じながらも自分に合った方法で学習を続けた結果、成果をあげることができたといえるでしょう。そこで今回は、何が学習継続の妨げになるのかを、より具体的に見ていくために、“学習の必要性を感じていながら、なかなか継続できない”という人を対象とした調査を実施しました(図表01)。

図表01 「社会人の英語学習実態調査II」調査概要

図表01 「社会人の英語学習実態調査II」調査概要

調査対象者としては、英語力が初級・中級程度(目安としてTOEIC700点未満)で、英語学習の必要性に関する認識と現在の学習状況は図表02のとおりです。“将来的に英語学習の必要性を感じながらも、現在は学習を行っていない”という人が回答者の5割弱を占める結果となりました。なお、学習の必要性については「感じていない」を、学習状況については「継続的に学習を継続している」「最近初めて学習し始めた」「特に学習していない」を調査対象外としました。

図表02 英語学習の継続状況と必要性認識 <n = 416>

図表02 英語学習の継続状況と必要性認識 <n = 416>

また、仕事で英語を使う頻度が高い場合には、英語学習の多寡にかかわらず実践機会を通じて習熟することも考えられることから、ここでは「読む」「書く」は「週1回以下」、「会話」は「月数回以下」といった使用頻度の低い人を調査対象者としました。「読む」では6割、「書く」「会話」では8割の人が、仕事で英語を月に1回も使用しないと答えています。

こういった属性であることをふまえながら、次セクション以降、調査結果についてご紹介していきます。

英語学習の目的・理由

英語学習の目的・理由(複数回答)については、仕事での使用頻度が低い対象者ということもあってか、「仕事を進める上で、必要になったから」というのは前回調査(過去5年で英語力が向上した人が対象)で6割弱なのに対して2割弱と低く、「仕事を進める上で、いずれ必要になると思ったから」が4割強でした(図表03)。「昇進・昇格のために必要だったから」も前回調査に比べて選択率が低く、切羽詰まった動機でない人が多いことが確認されました。

図表03 英語学習の目的・理由 (複数回答)
<英語学習を継続できない人 n = 416 過去5年で英語力が向上した人 n = 524>
あなたが英語学習が必要だと考える目的・理由は何ですか。

図表03 英語学習の目的・理由 (複数回答)

さらに「仕事を進める上で、必要になったから」の具体的内容としては、「取引先とのやりとり」が前回、今回ともに最多で、続く「海外出張」や「会社の制度として必要」も同程度でしたが、「上司・同僚・部下に外国人が加わった/増えたから」は前回調査に比べると選択率が低い状況でした(図表04)。「海外赴任の予定」についても今回は選択した人はいませんでした。今回は仕事での英語の使用頻度の低さを対象者抽出条件に加えていることもありますが、「仕事で英語が必要」という人の中でも、日常的な職場環境での英語の必要度は前回と比べて低い傾向となっており、現在仕事で必要な人の場合でも、さほど差し迫った状況ではないようです。

図表04 英語学習の目的・理由 「仕事を進める上で、必要になったから」の具体的内容 (複数回答)
<英語学習を継続できない人 n = 76 過去5年で英語力が向上した人 n = 304>
前問にて「仕事を進める上で、必要になったから」とお答えになった方に伺います。
具体的な理由について、あてはまるものすべてを選んでください。

図表04 英語学習の目的・理由 「仕事を進める上で、必要になったから」の具体的内容 (複数回答)

最近1年間の英語学習時間

最近1年間の英語学習期間の累計は「まったくやっていなかった」が2割と最多で、「半年」「1年」はそれぞれ1割にも満たず、「1週間未満」「数週間」「1カ月」「数カ月」に回答が分散していました(図表05)。また、その期間中の平均的な1週あたりの学習時間数は「30分未満」が4割で最多、「3時間未満」までの合計が9割弱でした(図表06)。

なお、前回調査では、“集中的に学習した期間”(目安として「1週間に3時間以上学習した」期間)について聞いています。期間は「3年以上」(23.3%)が最多で、TOEIC800点以上の場合にはさらに選択率が高くなっていました(33.7%)。1週あたりの学習時間数は「3時間」(41.6%)が最多で、「5時間」「7時間」「14時間」の選択率はTOEIC600点台よりも700点台、800点台のほうが高くなっていました。

今回の調査では、学習を継続できない人を対象としているため、学習期間、時間ともに短いことは予想していましたが、前回調査での上達した人たちに比べて大きな差があることが確認できました。「半年」以上続けていた人は2割未満であり、そこが継続に向けての一つの分岐点になっているとも考えられます。

図表05 最近1年間の英語学習期間累計 <n = 416>
最近1年間のうち、あなたが英語を学習した期間を累計するとどれくらいですか。

図表05 最近1年間の英語学習期間累計 <n = 416>

図表06 最近1年間の平均的な1週あたりの英語学習時間
<n = 331 *図表06「まったくやっていなかった」を除く>
最近1年間のうち、あなたが英語を学習している時の平均的な1週あたりの学習時間数はどれくらいですか。

図表06 最近1年間の平均的な1週あたりの英語学習時間

社会人になってからの英語学習時間

前述した通り、英語学習を継続できない人は、上達者に比べて学習時間が大きく異なることを確認しましたが、英語学習に時間を費やすことができていないのは、上達者に比べて、英語力向上のために必要な学習時間の認識が足りないからでしょうか。

「高校、大学まで英語教育を受けた人が、仕事上でNon-Nativeとして十分なコミュニケーションができるようになるには、どれくらいの時間が必要だと思いますか」という前回調査と同じ質問で必要な学習時間の認識について確認したところ、「1000~3000時間未満」が最多となり、前回調査の上達者とそれほど傾向は違いませんでした(図表07)。しかしながら、社会人になってから実際に英語学習に費やした時間は「500時間未満」が8割弱と、上達者の傾向と大きく異なりました(図表08)。

必要な学習時間は現在および目標とする英語力によって異なるため、ここで回答した必要学習時間と実際の学習時間との間に乖離が見られるのは当然のことです。一方、現在のTOEICスコアが大卒新入社員の平均程度の500点としたときに(*注)、スコアアップに必要な学習時間の目安としては、700点には550時間、800点には900時間、900点には1300時間とのデータも紹介されています(Prolingua Executive Language Services)。これはあくまで目安ですが、一定量の学習時間が必要なことがわかります。

*注:2011年度大卒新入社員TOEIC平均スコアは494点(財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)

今回の回答者による英語力の自己評価は初級・中級程度(目安TOEIC700点未満)で、うち「初級」(TOEIC目安500点未満)が3分の2ということを考慮すると、質問のように「Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる」というような高いレベルを目標としている人は多くないことも想定されますが、英語の上達にはある程度の学習時間が必要であることは自分でも認識しており、わかっていてもできていない、という状況が推察されます。

図表07 必要学習時間
<英語学習を継続できない人 n = 416 過去5年で英語力が向上した人 n = 524>
高校、大学まで英語教育を受けた人が、仕事上でNon-Nativeとして十分なコミュニケーションができるようになるには、どれくらいの時間が必要だと思いますか。

図表07 必要学習時間

図表08 社会人になってからの英語学習時間
<英語学習を継続できない人 n = 416 過去5年で英語力が向上した人 n = 524>
あなたは社会人になってから、どれくらいの時間を英語力向上のために費やしてきましたか。

図表08 社会人になってからの英語学習時間

英語学習を継続できない理由

それでは、どのような時に、英語学習をやめてしまうのでしょうか。中断してしまったきっかけをたずねたところ、英語学習よりも優先順位の高いものができたこと(「他に熱中するものができた」)を全体の3分の1の人が選択していました(図表09)。「異動や転勤などの環境変化」が2割弱の選択率で続きます。「少し上達して安心」「いったん目標をクリア」ということが学習をやめたきっかけとなった人たちもある程度いました。

「その他」の自由記入では、「時間がない」(16件:忙しくなってやめてしまい再開しなかった、仕事の多忙・長期出張など)、「必要性が低い」(8件:仕事で英語を使う必要がないため学習が続かない、直近で必要としていないなど)、「英語学習手段の影響」(8件:入った英会話学校が合わなかった、視聴していたラジオ講座の番組が終わってしまった、会社での英会話が終了したなど)がコメントとしては多く確認されました。「なんとなく、特にない」(8件)という回答も見られました。

図表09 英語学習が中断してしまったきっかけ(複数回答) <n = 416>
あなたは英語学習が中断してしまったきっかけとして思い当たることがありますか。

図表09 英語学習が中断してしまったきっかけ(複数回答) <n = 416>

また、英語学習を継続できない理由について上位3位までの回答を得たところ、1位では「時間がない」、2位では「切羽詰まった状況にない」、3位では「効果的な学習法がわからない」の選択率がそれぞれ最多でした(図表10)。

図表10 英語学習を継続できない理由 <n = 416>
あなたが英語学習を継続できないのはなぜだと思いますか。理由としてあてはまるものを、上位3つ選んでください。

図表10 英語学習を継続できない理由 <n = 416>

1位に選ばれているものとしては「時間がない」の選択率が他の選択肢に比べて高いものの、1位から3位までの回答を累計したものでは、「切羽詰まった状況にない」が5割以上で最多となり、「時間がない」と続きます。「効果的な学習法がわからない」「明確な目標がない」「思ったように上達しない」も上位でした(図表11)。

学習の必要性タイプ別に傾向を比較すると、「現在必要」と感じている人は「時間がない」の選択率が、「将来のことを考えると必要」という人は、当然ながら「切羽詰まった状況にない」の選択率がそれぞれ最多でした。他、選択率に差が見られたものとしては、「現在必要」のほうが選択率が高いのは「効果的な学習法がわからない」「思ったように上達しない」「お金がなくなった」、そして「将来のことを考えると必要」のほうが選択率が高いのは「明確な目標がない」「学んだことを使う場がない」でした。

図表11 英語学習を継続できない理由(1位~3位の累計)
<全体 n = 416 現在必要性を感じている n = 159 将来のことを考えると、必要性を感じている n = 257>
あなたが英語学習を継続できないのはなぜだと思いますか。理由としてあてはまるものを、上位3つ選んでください。

図表11 英語学習を継続できない理由(1位~3位の累計)

さいごに

今回“学習の必要性を感じていながら、なかなか継続できない”という人を対象に調査したところ、

●英語の上達には時間がかかることは認識しているものの、社会人になってから実際に英語学習に費やした時間は少ない
●英語学習が中断したきっかけは、自分のなかでの優先順位の変化や、環境変化によるものが多い
●英語学習を継続できない理由としては、「時間がない」「切羽詰まった状況にない」「効果的な学習法がわからない」など

という結果となりました。

また、英語学習の必要度によって、何が継続の妨げになっているのかが異なることが示唆されました。英語学習が現在必要な人にとっては、効果的な学習法がわかって、上達の手ごたえがつかめれば(すぐに上達しなくてもあきらめずに続けられれば)、また、将来必要な人にとっては、明確な目標を置くことが、それぞれの継続のための手掛かりになるかもしれません。

“大人の学び”は実利的で、確固とした動機が必要であるという、成人学習理論に照らしても、英語学習というのは、学習を継続することが難しい構造となっていることを改めて実感できる調査結果でした。つまり、社会人にとっての英語学習は、必要に迫られた切羽詰まったものではないことも多いなかで、すぐに身につかない、いつ役に立つかもわからない膨大な暗記も必要で、実力がつかないうちにモチベーションが続かなくなり、学習を中断してしまうということが生じやすいのです。

グローバル化の進展に伴い、求められる英語力は“指示・命令型”から“創造・対話型”に移行してきており、海外売上比率が高い企業ほどグローバル人材としての活躍の成否をわける要素として語学力の占める割合が大きいという調査結果も出ています(「グローバル人材マネジメント実態調査2011」 (リクルートマネジメントソリューションズ))。グローバルリーダー育成の局面においてはもちろんのこと、組織として英語力の底上げを図りたい企業は、社会人の英語学習の難しさを理解したうえで、従業員が自立的に英語学習を継続していくためのサポートへの工夫が求められ、企業として本気で取り組まないと簡単には達成できない目標なのではないかと改めて考えさせられる調査となりました。

執筆者

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員

藤村 直子

人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)、リクルートにて人事アセスメントの研究・開発、新規事業企画等に従事した後、人材紹介サービス会社での経営人材キャリア開発支援等を経て、2007年より現職。経験学習と持論形成、中高年のキャリア等に関する調査・研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集・調査を行う。

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