特集
中堅社員の成長経験に関する実態とは
中堅社員の成長を促すもの―多様な成長経験と志向から探る
- 公開日:2024/08/05
- 更新日:2024/08/05
「管理職になりたがる社員が減っている」「中堅社員の離職が目立つ」など、次世代のリーダーや経営人材候補が不足しているという声を聞く。「中堅社員」といっても、年齢、職種、職級などの属性、経験や志向などの個別性ゆえに一括りにできず、打ち手も多様である。今の中堅社員の仕事経験や志向などをひもときながら、中堅社員の成長を促すカギは何なのかを考えてみたい。
- 目次
- 「多様」で焦点を定めにくい中堅社員の育成
- 多様さのなかに見える段階的な成長経験
- 成長ステップを経験の前倒しで描き、上司・職場の次元も考慮する
- 仕事を「広げる」中堅社員と「広げない」中堅社員
- 柔軟で弾力的な志向を前提とした成長を
「多様」で焦点を定めにくい中堅社員の育成
人事担当の方に中堅社員育成の状況を伺うと、「新人研修の後は新任課長研修までほとんど何も研修をしていない」「対象が広くて統一的な期待役割を定義できず、一律の階層研修をしにくい」との声が上がる。トレーニングのご相談をいただく際も、「全員がそうではないですが、何となくこんな感じです」「全社の人材育成テーマに合わせて『自律』のテーマで」「中堅社員全般の課題解決スキルの向上」とやや漠然としたキーワードをいただき、弊社のソリューションプランナーが対象層の実態や課題を探りながら企画を進めることも多い。新人・若手層の組織社会化や、マネジメント職への役割転換という命題が明確なトレーニングと比較すると、優先順位が低く手を打てていなかったり、対象が広すぎて課題を特定することに苦慮されたりしている印象だ。多様性、抽象性が高く、課題をつかみにくいのがこの領域の特徴だと捉えている。
むろん、社員一人ひとりの状態や課題が同じであることはないので、画一的に共通のラベルを貼るのは難しく、また完全なる個別化はどの階層においても難しい。とはいえ、「多様であるから」と結論づけてしまうと、ただでさえ育成という解のないテーマにおいて、やみくもに矢を放ち続けるだけになってしまう。「多様」の中身について、今回は成長経験の切り口でのぞいてみたい。
多様さのなかに見える段階的な成長経験
管理職を起点とした研究で松尾(2013)は、成果を上げる管理職には「部門連携・部下育成・変革参加」の経験が重要であることを説いている。加えて、中堅リーダーを含む管理職以前に有効な経験を積むことの重要性や、経験からの学習には「過去にどのような経験をしているかによって、現在の経験が規定される傾向」(経路依存性)が存在することも併せて報告されているが、実際に中堅社員の時点で成長を感じた経験(以下「成長経験」とする)にはどのようなものが挙げられるのだろうか。
弊社が行った調査では、成長経験の1位は「1.モチベーションの維持が難しい環境下で耐えきる」だった(図表1)。困難な状況でも、果たすべき役割や業務を責任をもってやり抜くことを成長経験として認知している。業務の内容や進め方、仕事環境、人間関係などモチベーションの変数は複数考えられるが、自分で何らかの耐える意味や理由を見つけながらモチベーションのバランスをとって仕事を進めていることが想像できる。続いて、「2.多様な価値観の人と仕事をする」「3.自分なりの問題意識に基づき目標を定め、行動する」と、協働や問題解決の経験が続く。
<図表1>成長経験
なお、年次群別で見ると、「5.従来の知識・経験が通用しない状況のなかで成果を出す」「8.部下(もしくは部下に相当する人)をもち、指導・育成を担う」「10.新たなプロジェクトや業務プロセスの一部やリーダーを担う」は、社会人5年以上10年未満のグループで選択率が低い(図表1左)。社会人になって10年以上経つとそれまでのルーティンではない、新たな状況のなかで業務推進の責任や育成・指導を担う経験が成長の認知につながっていることが分かる。
また、この3項目は、組織内の役割(メインプレイヤーとリーディングプレイヤー※)別に見ても選択率に違いが見られ、リーディングプレイヤーの方が選択率は高い(図表1右)。このことから、年次と役割両方の共通項として、年次・役割が上がるにつれて業務推進のリーダーや部下育成が成長経験と認識されていることが分かる。また「4.責任者としての覚悟や主体性を問われる」「9.上司の仕事の一部を『自分の仕事として』取り組む」も、リーディングプレイヤーの選択率がメインプレイヤーに比べて高く(図表1右)、役割が管理職に近づくにつれて、責任を伴う業務や上司補佐の業務が成長経験として認識されていることが分かる。
※メインプレイヤ―:調査時に「一人前の担当者として、創意工夫を凝らしながら、自らの目標を達成する」と回答した人
リーディングプレイヤー:調査時に「所属部署の「主力」として、組織業績と周囲のメンバーを牽引する」と回答した人
図表2は、ここまでに触れた成長経験の具体的なコメントである。今回はあらゆる業種、従業員規模、職種が混在する中堅社員の調査結果ではあるが、全体的に年次や役割期待レベルの上昇に伴い、段階的に部門連携、部下育成、変革の伴う経験を重ねていそうなことが分かった。
<図表2>成長経験の具体例
成長ステップを経験の前倒しで描き、上司・職場の次元も考慮する
新人・若手層の組織社会化や管理職層の役割転換に比べると、中堅社員時代は役職変更など表面的に目立つ変化は少ない。しかし、中堅社員の確実な成長のためには、バックキャストで段階的な経験を積む成長ステップを意図したい(図表3)。バックキャストでの経験とは、例えばリーディングプレイヤー時代に不確実性が高く、リーダーなど責任が伴うようなマネジメントの一部の経験を積み、その手前のメインプレイヤー時代では、多様な人との協働や問題解決思考を生かせるような仕事を経験することである。当の本人にとっては大変さや困難さが伴う、しかし少し職級が上の先輩の業務で何となくイメージはつく、そんな背伸びした業務を経験することで、本人が成長を感じ、また、組織としても次の職級への適性や強み、課題の把握につながる。
<図表3>前倒しの成長を描く
実際に、とある企業では主任を対象としたリーダーシップ研修を、メインプレイヤーからリーディングプレイヤーへのトランジションを目的として行っている。中堅社員に対して課長職向けの学習内容をそのまま受けてもらうのは、受講者にとって距離感がある。そのため、研修1日目はまず自身の現状を俯瞰して周囲の期待を捉えるまでにとどめ、次の研修までの間に上司へのインタビューや管理職に求められるスキルチェックを行ってもらう。つまり、研修と研修の間にフィールドワーク(経験)を設け、インタビューでマネジメントの視野・視界に触れたり、スキルチェックで自身の課題を自覚したりして、次のステージに向けた視野・視界やスキルを間接学習する構造だ。
また、この企業では主任の上司である課長職にも相似した構造でマネジメント研修を行っており、課長自身が部長の視界を得ることをねらっている。バックキャストを意識した機会・経験をつくり出すことに加えて、複数階層で実践機会をセットすることで、上司(課長)自身が主任に対して育成を意識した関わりを実現できたり、自分のマネジメントノウハウやメソッドを間接的に伝承・継承できたりしている点はまさに一石二鳥で、あらゆる機会を相乗的に最大限生かしているといえる。
取り上げたような複数階層に対する施策を一斉に設けることはできなくても、職場における日常の関わりが成長経験を後押しすることもあるだろう。調査では、成長経験時の組織の状態や風土、上司の働きかけについて、それぞれ印象に残っているものを選択肢から3つまで選んでもらった。選択率が2割を超えたものを図表4に示す。職場に相談しやすい安心感や協働しやすい雰囲気があることは、成長経験を支える土壌といえそうだ。また、職場で将来の「目指す方向」が語られる風土や、上司の成長につながる業務アサインや仕事の意義や期待を伝える行動は、両方とも「中期的な視点」という共通項が見出せる。協働しやすい環境と中期的な視点、これらは中堅社員の成長経験を支える要素といえるだろう。
<図表4>成長経験時の組織の状態と上司の働きかけ
ここまで見てきたように、成長経験そのものは異動や転職などの大きな変化だけでなく、業務をやり抜くことや多様な人との協働、問題解決など、まさに日常的な仕事で起き得ることである。加えて、職場や上司・周囲からのサポートなども中堅社員本人の成長経験に作用する一要素であると捉え、中堅社員の成長について多角的に考えていきたい。
仕事を「広げる」中堅社員と「広げない」中堅社員
これまで述べてきた成長経験につながる仕事は、割り当てられる業務やプロジェクトなど、本人の外から機会を与えられて行う活動と、自ら仕事の範囲を広げていく活動の両方が考えられる。前者は必ずしも全員に多くの機会が用意されるとは限らないため、ここからは後者の「自ら仕事の範囲を広げること」(以下「仕事の広がり」)の可能性について考えてみたい。
中堅社員の実態を人事の方に伺うと、「自分の業務の範囲外の仕事に手をつけない」「尖りがなくなっている」など、仕事を広げたり影響力を発揮したりすることができていないとの声を聞くことが多い。しかし、調査によると、半数弱の人(45.1%・293人)が担当業務に加えて「改善した方がいい」「やった方がいい」と思う業務に取り組んでいる。また、これらに取り組む人は「自分が成長できる(46.1%)」「新たな仕事や機会につながる(29.4%)」「社会や会社にとって意味があると思うから(24.2%)」を理由に挙げている。成長、チャンス、意味や意義に敏感な人ほど、現業務に加えて自主的に仕事を広げていそうである。また、仕事を広げている人は仕事への適応状態が高く、自律的なキャリア行動やプロアクティブ行動がとれており、バーンアウトしにくい特徴も見えてきた(図表5)。仕事への適応やキャリア行動などの諸要素と仕事の広がりのどちらが起点になっているかは分からないが、相乗的に影響し合っていそうだと想像する。
<図表5>仕事を広げている/広げていない中堅社員の特徴
なお、仕事を広げていない人は、担当業務の忙しさや、取り組む必要性を感じていないこと、ワークライフバランスをその理由に挙げており、これらが仕事の広がりの足枷になっていそうだ。限られた就業時間のなかで、仕事を広げたりその活動の意味を感じたりする機会やきっかけはどうすれば作れるのだろうか。何があると追加で取り組む業務(仕事を広げること)を前向きにできそうかをたずねたところ、仕事を広げていない人ほど「制度や仕組み」「時間の余裕」の選択率が高く(図表5下)、これらは仕事を広げる後押しになる可能性がある。最近だと、労働時間の一定割合を社内(グループ内)副業や本業以外の新事業立案などの時間に充てられる制度を導入する会社もある。これらの制度は本業とのバランスのとり方や管理が難しい側面もあるが、仕事を広げることは中堅社員に限らず本人の成長や組織の成長にとっても意義がある。個人の意欲や主体性だけの問題にせず、組織全体でどのように「仕事の広がり」を生み出して推進していくのかは、今後も検討したいテーマだ。
柔軟で弾力的な志向を前提とした成長を
ここまで、調査結果を参考にしながら中堅社員の成長経験の特徴や仕事を広げている人の特徴について見てきた。あらゆる属性の中堅社員本人の認識の範囲からの考察ではあるが、個人の自発性の高低はあれども、社員の仕事の幅を広げて成長経験を促すことは、組織にとって変革活動や探索活動、次世代リーダーや経営人材の育成など必要なことである。また、成長経験時の職場や上司の特徴として、目指す方向性や仕事の意義・期待など中期的な視点の関わりがあることを先述した。依頼・期待したい業務が本人の成長やキャリアにどのような影響をもたらすのか、中期的な視点を取り入れて育成計画を立て、日々の関わりを考えたい。その際に留意したいのは、中堅社員には多様なキャリア志向があるということだ。
同調査でキャリア開発志向や管理職志向についての回答を見ると(図表6)、「キャリアを開発するためであれば今の会社にこだわらない」について、「ややあてはまる」「とてもあてはまる」は37.1%、「どちらともいえない」が36.0%だった。「今の会社でキャリアを開発していきたい」については、「ややあてはまらない」「全くあてはまらない」は35.7%で「どちらともいえない」が39.8%であったことから、中堅社員は自身のキャリア開発について、属する会社に限定せず、柔軟で自律的なキャリア形成を意識していることがうかがえる。
<図表6>キャリア開発志向、管理職志向
管理職に「なりたくない」「どちらかといえばなりたくない」と回答した割合は約半数の50.8%であったことからも、管理職昇進について積極的であるとはいえない。しかし、弊誌vol.42 特集「伝えたい マネジャーの醍醐味」では「昇進前に、管理職になりたくなかった人(ネガティブ群)のうち、半数以上が昇進後にその気持ちがポジティブに変化していることが確認」されている(「管理職意向の変化に関する実態調査」)。このことから、中堅社員時代に管理職志向がないことを問題と捉えるのは一考した方がいいと感じる。管理職志向は次のステージへの必要条件でなく、もとより弾力的であると捉え、イメージ形成や実務を通して志向も徐々にトランジションしていくものだと考える。
また、従業員のキャリア自律の文脈から昨今あらゆる年次を対象にキャリアをテーマとする研修の相談も増えている実感がある。先述した中堅社員の志向の特徴は、このようなキャリア自律を意識した企業の人材開発の活動も影響し、個人が自律してキャリアを考えていることの表れでもある。柔軟で弾力的なキャリア志向があるという前提のもと、先述したような成長経験を段階的に積めるステップや、自ら仕事を広げる活動などを通して、中堅社員本人が「実務」と少し先のキャリアの「イメージ」の両方を織り出せる成長の道筋を描くことが求められる。
【参考文献】
松尾睦 (2013)『成長する管理職:優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』東洋経済新報社
リクルートマネジメントソリューションズ(2018)「トランジション・デザイン・ブック2.0」
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.74 特集2「中堅社員の成長を促すもの」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
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中堅社員の成長をどう加速させるか-ストレッチする経験と内省を促すことが「経験学習」のカギだ
早稲田大学 人間科学学術院 准教授 廣松ちあき氏
執筆者
サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
主任研究員
小松 苑子
人材派遣会社にて営業職を経験後、新人・若手社員の教育体系の構築、研修の企画・運営、ナレッジマネジメントを行う。 2017年にリクルートマネジメントソリューションズに入社し、主に営業職、新人・若手社員領域のトレーニングの企画・開発に携わる。
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