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先行研究から「つながり」のデザインを考える

ネットワークの視点で見る個と組織

  • 公開日:2023/04/17
  • 更新日:2024/05/16
ネットワークの視点で見る個と組織

人々は「つながり」のなかで生きている。そうした「つながり」の影響は、ソーシャル・ネットワーク研究として盛んに行われており、学術分野を超えた注目を集め続けている。
ここでは、そうした「つながり」を組織のなかで生かすことができるのか、組織にとって有用な「つながり」をデザインすることができるのか、といった点からこれまでの知見と近年の研究潮流を概観したい。

「つながり」の重要性
ネットワークと個と組織
つながりをデザインすることはできるのか?
今後に向けて

「つながり」の重要性

人々のつながり(ソーシャル・ネットワーク、もしくは、ネットワーク)は、日常の行動のみならず職業的なキャリアにも影響することは広く知られている。

そうした知見の代表例として、「弱いつながりの強さ」に関する研究がある。Granovetter(1973)*1 は、共に過ごす時間が長く親密さが深いなどの「強い」つながりが社会生活のなかでは重要であるという直感に反して、「弱い」つながりこそが職探しに有用だということを明らかにした。「強い」つながりは閉じられた関係性を作り出すのに対して、「弱い」つながりは開かれた関係性となりやすく、それゆえに新たな機会を個人にもたらす役割を果たすと論じられている(図表1a)。

<図表1a>「強い」つながりと「弱い」つながり(閉じられたつながりと開かれたつながり)

<図表1a>「強い」つながりと「弱い」つながり(閉じられたつながりと開かれたつながり)

さらに、組織内部のつながりについての代表的な研究としては、ストラクチュアル・ホールに関する研究が著名である。Burt(1992)*2 によれば、ストラクチュアル・ホールと呼ばれる、ネットワーク上の結節点に位置するようなポジションに位置することが、組織内の情報流通における優位性につながる。実際に、そうしたポジションに位置することが、昇進や昇給などにつながっていることが示されている(図表1b)。

<図表1b>ストラクチュアル・ホール

<図表1b>ストラクチュアル・ホール

こうした研究に見られるように、ネットワーク研究は、「個人の経験は、特定の個人を超えて、社会全体とつながっている」*1 ことを明らかにしてきたが、近年の組織におけるネットワーク研究は、「つながり」の効果が複雑なものであるということを示しつつある。かつての(初期的な)研究が、「~というつながりがあった方が良い(悪い)」というシンプルなメッセージであったのに対し、ネットワークが役に立つ場面を限定するような方向で研究知見の精緻化が進んできている。

なお、ネットワークが及ぼす影響は広範に調べられているが、本レビューで注目するのは、「組織で(組織のなかで)ネットワークを生かす」という視点であり、例えばネットワークが個人の日常における孤独感に与える影響などについては触れないことにする*3

ネットワークと個と組織

近年の研究は、ネットワークの影響は、そのタイプ(どのようなつながりか)によっても異なるし、何に対する影響か(どのようなプロセスへの効果を考えるか)によっても異なるということを描き出してきた。つまり、ネットワークの効果はそれほど単純ではないということが示されてきている。

ネットワークの視点の、組織にとっての重要性が語られる代表的なトピックがイノベーションである。「ネットワーク型組織」という、ネットワークをケイパビリティの源泉として運営される組織のあり方については、特に2000年代から議論されてきた。そこでは、中央集権化された意思決定を伴う階層構造をもつ旧来型の組織に対して、ネットワーク型組織は、分散化された意思決定を行うフラットな組織構造であると考えられてきた。こうした議論においては、ネットワーク型組織の優位性として、柔軟で学習に適しているため、イノベーションを促進するという特徴が強調されてきた*4

こうした関心を背景に、組織のネットワークとイノベーションについては多くの研究がなされてきたが、最近、Perry-Smith &Mannucci(2017)*5 は、ネットワークがイノベーションに対して常にプラスの効果をもたらすというわけではなく、あるプロセスにプラスの効果をもたらすネットワークの特性が、次のプロセスではマイナスの効果をもたらすこともあると論じている。Perry-Smithらは、既存の研究をレビューし、イノベーションのプロセスに応じて、異なるネットワークの特徴が異なる効果をもたらしていると整理している(図表2)。例えば、「弱い」つながりの数は「生成」段階ではプラスだが、次の「精緻化」や「承認」の段階ではその特徴は効果をもたず、「実現」フェーズではむしろマイナスの効果となる可能性がある。イノベーションとネットワークとの関連を考える際には、こうしたプロセスごとの影響過程を精緻に検討していく必要があるといえるだろう。

<図表2>イノベーションのプロセスとネットワークとの関連

<図表2>イノベーションのプロセスとネットワークとの関連

さらに、組織ネットワークに関する研究の進展は、それが個人の組織行動に及ぼす影響プロセスも明らかにしつつある。組織に対するネットワーク視点での研究の黎明期(~2000年代)においては、ネットワークのなかの個人の自発的な決定や行動は無視されがちであり、ネットワーク決定論的な研究枠組が多かったことが指摘されている*6,7 。近年では、そうした反省を踏まえ、心理的な要素や組織行動のプロセスを精緻に見ていこうという提案がなされ、そうした提案に沿った研究が行われつつある*8,9

研究知見の蓄積が進んでいる例として、「離職」への影響を取り上げると、初期では、ネットワークの結びつきによって、離職が減少すると考えられていた。こうした効果は、人間関係の結びつきが離職意図を抑制するという直感ともよく合致しており、ネットワークの影響を考えるときにイメージしやすいものであったといえるだろう。しかし、後続の研究では、ネットワークの変化は離職意図には影響しないという結果を示すものもあり*10 、実はそうした直感的な効果は、必ずしも安定的なものではないということが分かってきている。

そうした状況を踏まえ、近年の研究では、離職意図の増減はネットワークの種類によることが指摘されている。例えば、離職意図を抑制するのは誰から助言を受けることができるかという観点でのネットワークであり、業務フロー上のネットワークはむしろ離職意図を高める可能性がある*11 。つまり、ネットワークの効果は、どのようなネットワークであるかによって左右されるという(考えてみれば)極めて常識的な結論である。

さらに、Vardamanら(2015)*12 は、より洗練されたモデルを提案している。Vardamanらによれば、ネットワーク上の結びつきの多さは、離職意図を抑えるというよりも、離職意図を実際の行動につなげにくくする(意図をもっていても辞めにくくなる)という働きをするとされる(図表3)。

<図表3>ネットワーク上の結びつきによる離職意図から離職行動への接続の抑制

<図表3>ネットワーク上の結びつきによる離職意図から離職行動への接続の抑制

こうした議論は、組織や個人にとって「つながりが良い/悪い」という単純な二元論を超えて、ネットワークの効果を精緻に捉えていく必要があることを示しているといえるだろう。

つながりをデザインすることはできるのか?

こうした精緻化を進める研究の蓄積を受けて、では、個と組織を生かすような「つながり」を組織のなかでどのように作っていけばいいのだろうか? より良い「つながり」をデザインするためには何を考える必要があるだろうか? そうした問いに対する答えとして、最近の研究からは、(1)人的資源管理(HRM)の取り組みを通じて、いわばトップダウンにネットワークをデザインする可能性と、(2)個人の行動がネットワークに与える影響を通じた、いわばボトムアップ的なデザインの可能性の2通りの展望を読み取ることができる(図表4)。

<図表4>ネットワークのデザイン可能性

<図表4>ネットワークのデザイン可能性

まず、トップダウン的なネットワークのデザインについては、近年、ネットワーク視点を組織の人的資源管理のなかに取り入れていく必要性が論者によって指摘されている*13,14 。Soltisらは、ネットワークを組織にとって重要な「資源」として捉え、人的資源管理は、「社会的資源管理(social resource management)」に移行すべきだと論じている。

そうした議論の背景として、個々の人事施策が、対象となった従業員全体を超えて、ネットワークへの影響を通じて職場全体に影響を及ぼしていくことが明らかになりつつある。例えば、Parkerら(2016)*15 は、肯定的な業績評価のフィードバックは従業員のネットワークを拡大するが、否定的なフィードバックは既存のネットワークへの依存度を高める効果をもつことを明らかにした。つまり、フィードバックによって、上司・部下の二者関係を超えて、職場の人間関係のネットワークのあり方に直接的な影響を与える可能性がある。

こうした研究知見は、人事施策を通じてネットワークをデザインできる可能性を示している。例えば、組織的に組織市民行動(組織のためになるような役割外の協力的な行動)を促進することによって、組織内のソーシャル・キャピタル(組織のなかのネットワーク的な資源)の形成が可能であることが論じられている*16 。さらには、組織内の異動や職務変更によってもネットワークは影響を受ける。業務上のつながりの変更は、業務外でのつながりの構築や解消を伴うことが指摘されている。

ネットワークへの影響を考えるということは、当事者を超えた、組織内への波及効果をも視野に収めるということである。こうした視点をとることは、人事施策がもつ、広範な影響・効果を再認識することにつながる。意図せざる効果をもたらすことがないようにするためにも、ネットワークに関する理解を深めることが肝要であると思われる。

次に、個人の行動によって、いわばボトムアップに「つながり」を作り替えていくことができるという視点の重要性も議論されている*8 。つまり、個人の行動からネットワークへの影響関係を考えるということである(図表4の右下の矢印を参照)。

こうしたボトムアップの影響過程への注目は、比較的新しいものではあるが、関連した研究も近年進められてきている。例えば、Trösterら(2019)*10 は、離職意図がネットワーク構築行動に影響するという知見を示した。上で見たように、ネットワークが個人の離職意図に与える影響は複雑であるが、Trösterらは、ネットワークが離職意図に影響を与えることはなく、むしろ、反対に、個人が離職意図をもつことによってネットワークの活用方法が変わってくると論じた。具体的には、退職を考えているとき、従業員は古い助言関係を離れて新しい助言関係を作ろうとする(友人関係については、既存の関係を維持するが新しい関係は作ろうとしない)ということが示されている。

さらには、個人と組織のネットワークとの循環的な関連に注目した研究も増えてきている。例えば、Tasselliら(2020)*17 は、ジャーゴン(組織内で特有に用いられる語彙)の使い方とネットワークとの関連を調べた。ユニット内では個々人のつながりが使用される語彙の類似性を高めるのに対して、ユニット間では、反対に、語彙の共有が人々のつながりを促進することが示されている。

こうした視点は、個人の行動と組織の(ネットワークの)ありようのダイナミックな関係を考えるということに他ならず、さらなる研究の発展が期待される領域だと考えられる。

今後に向けて

本稿では、組織における「つながり」を再考する視点を紹介してきた。ここまで概観してきたように、ネットワークのどのような特徴がどのような組織プロセスに有用であるかについてのニュアンスに富んだ理解が進みつつある。しかし、ネットワーク的知見を実務につなげていくためには注視すべき点も多いため、最後に留意点について述べておきたい。

まず、ネットワーク研究の知見がどこまで一般的といえるものなのかについて、今後の検証が必要であると思われる*18 。ネットワークの研究では、多様な種類のネットワーク特性を考える必要があるが、それは逆にいえば、ネットワークを取り巻くさまざまな特性を研究の対象にできるということでもある。こうしたネットワーク研究における「自由度」の高さは、ネットワーク研究の魅力であると同時に、知見の頑健さにつながりにくいともいうことができる。知見の実務活用の際には、再現性の検証はこれからという状態にあることに留意する必要があるだろう。

さらに、ネットワーク的な視点を個人の評価と結びつけることの問題点について認識する必要があると考えられる。ネットワークに関する研究知見は、ネットワークがネットワーク内の特定の個人に利益(や不利益)をもたらすという観点で捉えることができる*7 。そこでは、各人の属するネットワークやそこでの位置取りを、個人のもつ「資源」として捉えるという視点があり、それが人的資源管理を社会的資源管理に拡張して捉えていく必要があるという前述の議論にもつながっている。しかしながら、各人のネットワーク「資源」を、安易に個人の人事評価に使うことは慎むべきだろう。ネットワークは個人のもつ資源の1つにすぎないし、個人の特性とネットワークの関係についての知見はまだ十分ではない*9 。さらには、ネットワーク特性は、個人の行動によって変化可能であるかどうかもよく分かっていない。例えば、各人のネットワーキング戦略とネットワーク上のポジションを調べた研究では、両者に関連は見出されなかった*19 。そうした状況のなかで、ネットワーク的な観点から個人を評価することがフェアであるのかについて、社会的な合意があるとはいえない状況にあることは留意すべきであろう。

こうした留意点がありながらも、個人を孤立した存在ではなく、社会的なつながりのなかで捉えるネットワークの視点が今後ますます有用性を増してくることは間違いないと思われる。そうした視点から、変容する個と組織のあり方を考え続けていくことが重要となるだろう。

*1 Granovetter, M. S. (1973). The strength of weak ties. American Journal of Sociology, 6:1360ー1380.
*2 Burt, R. S. (1992). Structural holes: The social structure of competition. Cambridge, MA: Harvard University Press.
*3 ネットワークの影響全般に関心のある読者は、例えば以下の一般向け書籍などを参照されたい。
アルバート=ラズロ・バラバシ (2002). 新ネットワーク思考: 世界のしくみを読み解く. NHK 出版
ニコラス・A・クリスタキス & ジェイムズ・H・ファウラー (2010). つながり: 社会的ネットワークの驚くべき力. 講談社
*4 若林直樹 (2009). ネットワーク組織: 社会ネットワーク論からの新たな組織像. 有斐閣
*5 Perry-Smith, J. E., & Mannucci, P. V. (2017). From creativity to innovation: The social network drivers of the four phases of the idea journey. Academy of Management Review, 42(1): 53ー79.
*6 神吉直人・中本龍市 (2009). ネットワーク分析の経営学への応用に関する一考察: 因果図式, および妥当性の検討の必要性. 香川大学経済論叢, 82(3): 399ー410.
*7 Tasselli, S., & Kilduff, M. (2021). Network agency. Academy of Management Annals, 15(1): 68ー110.
*8 Kilduff, M., & Lee, J. W. (2020). The integration of people and networks. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 7: 155ー179.
*9 Casciaro, T., Barsade, S. G., Edmondson, A. C., Gibson, C. B., Krackhardt, D., & Labianca, G. (2015). The integration of psychological and network perspectives in organizational scholarship. Organization Science, 26(4): 1162ー1176.
*10 Tröster, C., Parker, A., Van Knippenberg, D., & Sahlmüller, B. (2019). The coevolution of social networks and thoughts of quitting. Academy of Management Journal, 62(1):22ー43.
*11 Soltis, S. M., Agneessens, F., Sasovova, Z., & Labianca, G. J. (2013). A social network perspective on turnover intentions: The role of distributive justice and social support. Human Resource Management, 52(4): 561–584.
*12 Vardaman, J. M., Taylor, S. G., Allen, D. G., Gondo, M. B., & Amis, J. M. (2015). Translating intentions to behavior: The interaction of network structure and behavioral intentions in understanding employee turnover. Organization Science, 26(4): 1177–1191.
*13 Soltis, S. M., Brass, D. J., & Lepak, D. P. (2018). Social resource management: Integrating social network theory and human resource management. Academy of Management Annals, 12(2): 537–573.
*14 若林直樹 (2019). 人的資源管理論と社会ネットワーク分析: 人事管理施策による組織活動の変化を焦点に. 日本労働研究雑誌, 61(4): 30–34.
*15 Parker, A., Halgin, D. S., & Borgatti, S. P. (2016). Dynamics of social capital: Effects of performance feedback on network change. Organization Studies, 37(3): 375–397.
*16 Bolino, M. C., Turnley, W. H., & Bloodgood, J. M. (2002). Citizenship behavior and the creation of social capital in organizations. Academy of Management Review, 27(4):505–522.
*17 Tasselli, S., Zappa, P., & Lomi, A. (2020). Bridging cultural holes in organizations: The dynamic structure of social networks and organizational vocabularies within and across subunits. Organization Science, 31(5): 1292–1312.
*18 近年、過去の研究知見の頑健さや一般化可能性について再考する必要性に関する議論が盛んに行われている。経営学会での議論の状況については、以下の記事にまとめられている。 「Academy of Management(米国経営学会)2022 参加報告
*19 Bensaou, B. M., Galunic, C., & Jonczyk-Sedes, C. (2014). Players and purists: Networking strategies and agency of service professionals. Organization Science, 25:29–56.


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.69 特集1 「つながり」を再考する より抜粋・一部修正したものである。 本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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組織行動研究所
主任研究員

仲間 大輔

2006年リクルート入社。京都大学総合人間学部にて文化心理学を専攻、北海道大学にて修士号を取得(社会心理学)。米国公認会計士。 リクルートホールディングスにて、主にグローバルM&AとPMI・海外子会社マネジメントに従事し、米国駐在などを経て、2017年4月より現職。 現在は、チームと組織デザインをテーマに、メンバー間のコーディネーションや協力についての研究を行っている。主な研究手法は、心理学実験、シミュレーション、組織データ分析、職場調査など。 Advancement Prize for MSEM Nominated Prize 受賞(The 12th International Conference on Management Science and Engineering Management.)

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