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THEME 人事制度

特集自律と協働を促進するマネジメントとは

自律人材が育つHRMへの転換

自律人材が育つHRMへの転換
執筆者情報
HRM統括部
コンサルティング部
マネジャー
樫野 正章

プロフィール

近年、事業構造の転換、従業員の就業観の変化、働き方の多様化にともない、新卒一括採用・終身雇用を前提とした一律管理・平等思想を重視する日本型の人材マネジメント(HRM)の見直しをする機運が高まっている。
折しも、新型コロナウイルス感染症対策のためにテレワークの導入が進んだものの、評価制度をはじめとした既存の人事制度との接続や、従業員の自律的なキャリア形成・働き方への意識・行動面の転換に課題を感じている企業も少なくない。
今日的環境下でのHRMのあり方、および、従業員の内発性を引き出し、個の自律的な成長を促す人事制度について考察していきたい。

1 日本型HRM の見直しをする機運が高まっている背景

デジタル・トランスフォーメーション(DX)にともなう「事業構造の変革」、人生100年時代での職業人生の長期化による「就業観の変化」、生産性向上を目指した「働き方改革」により、人事制度の見直しを進める企業はコロナ禍以前から増えていた。

コロナ禍でテレワークの導入が一気に進んだことで、新しい人事制度のあり方を模索しているお客様からの問い合わせはさらに増えたというのが実感だ。日本のHRMはどこを目指していく必要があるのか。まずは、企業が置かれている環境の変化、働く従業員の意識の変化、コロナ禍で一気に進んだ働き方の多様化の視点から、今後のHRMの目指すべき姿について考察していきたい。

(1)事業構造の変革

製品・サービス・事業構造の変革には、データとデジタル技術の活用が欠かせない時代となった。自社にないスキルをもった人材を外部から採用し、活躍できる環境を早急に整えていくことが求められる。新卒一括採用・終身雇用を前提とした一律管理の強い人事制度が、外部からの多様な人材の採用・活躍の阻害要因になるケースも目立ってきている。

一方で、データとデジタル技術による業務プロセスの変革により、一部の定型的な業務がテクノロジーに置き換わり、それらを担っていた社員の職域の転換が急務になっている。変化のスピードが速い環境下で、企業に必要な人材の要件も急速に変わり、終身雇用を約束することは困難になってきている。事業構造の変革を加速させるために、多様な人材を生かすことができ、従業員に自律的なキャリア形成を促す人事制度への転換を目指す企業が増えている。

(2)就業観の変化

従業員一人ひとりの「働くことに対しての目的意識」の多様化が進み、会社任せのキャリアから、自分でキャリアを創造していきたいと考える若手も増えてきている。背景には、人生100年時代といわれるように職業人生が長期化することが見込まれ、変化のスピードが速く、企業寿命が短くなるなかで、誰もが1つの会社で定年まで勤め上げるというモデルが現実にそぐわなくなってきていることが挙げられる。今後は、「主体的に自分の仕事・キャリア・働き方を選択できる」「当事者として仕事に向き合い、チャレンジや創意工夫が評価され、成長できる」環境があるかどうかが、会社選びにおいて重要な判断軸になる。

一方で、会社任せのキャリアで職業人生を歩んできた大手企業のシニア・ミドルは「今更キャリア自律と言われても」と困惑するし、「もしかしたら逃げ切れるのではないか」という淡い期待を抱いている従業員も少なくはない。あの人たちのようになりたくないと失望して辞めていく若手も増えてきている。こうした就業観の変化を捉え、主体的に仕事・キャリア・働き方を選択でき、一人ひとりにチャレンジを促すような人事制度へ転換を目指す企業も増えてきている。

(3)働き方改革

コロナ禍でテレワークの導入が一気に進み、従業員の働き方は大きく変わった。オフィスという場に縛られることなく、従業員は自律的に働く環境を手にした。同時に、一人ひとりが自分の能力を生かし、組織目的の実現に向けて主体的に貢献し、成果を創出していくことが期待される。一人ひとりが、何を成し遂げたのかをシビアに評価される時代が始まろうとしている。自律的な働き方に合わせた評価のあり方を企業は模索し始めている。

このような背景から企業は、従業員の自律的なキャリア形成・働き方を実現するためのHRMを目指している。弊社では、従業員の自律と協働を促進するHRMのコンセプトを図表1のように考えており、以降順を追って従業員の自律的なキャリア形成・働き方を実現するHRMについて考察していく。

<図表1>自律と協働を促進するHRMのコンセプト

<図表1>自律と協働を促進するHRMのコンセプト

2 組織のなかで自律的に働くとは

組織のなかで従業員が「自律的に働く」とはどういうことだろうか。本稿では、組織のなかで従業員が「自律的に働く」を、一人ひとりが「自分を生かす」ことと「組織目的とのつながりを実感しながら働く」ことと定義し考察していきたい。

(1)自分を生かす

会社は従業員にキャリア自律を求めているが、「あなたは人生を通じて何を成し遂げたいか?」もしくは「会社のなかでどうありたいか?」と問われても返答に困るビジネスパーソンは多い。これまでの会社任せのキャリアでは、今の仕事に向き合い、やり抜き、成果を出し、周囲に認知されることで出世の階段を登っていけばよかったので、改めて自分に向き合う必要はなかった。

今後、社内外を問わず自分でキャリアを切り拓いていくには、今の仕事に向き合い、やり抜き、成果を出すことに加えて、「自分の得意なことは何か」「なぜ熱中してやり遂げ、成果を出すことができたのか」などを客観的に振り返ることを通じて、自分が「成し遂げてきたこと」や「できること」を言語化し、主体的に発信していくことも求められる。

働き方が多様化していく時代にあって、この力は今後より強く求められてくることになると考える。さらに深い内省を通じて、未来に向けて「自分はどうありたいか」「何をやり遂げたいか」を言語化することを習慣化していくことも、人生100年時代を生き抜くビジネスパーソンに求められるスキルの1つになる。

(2)組織目的とのつながりを実感しながら働く

組織のなかで働く従業員が「自分らしさを生かす」とは、何でも自由にやってよいということではない。あくまで組織目的とのつながりのなかで自分らしさを生かすことを通じ、成果を出していくことが求められる。組織目的とのつながりのなかで、自分の取り組むべき課題を主体的に設定し、創意工夫しながら業務を遂行していくことが求められるのだ。変化のスピードが速い時代においては、トライ・アンド・エラーを繰り返すなかで、設定した課題そのものを置き直すような場面も多い。上から言われたことをやり抜くことで成果が出る仕事は少なくなってきている。事業や業務特性に応じた仕事の進め方、働き方の変化に合わせ、目標管理制度(MBO)などの評価制度も柔軟に対応できるようなものにしていく必要がある。

3 従業員の自律を支えるHRM

従業員に自律的なキャリア形成や働き方を求めるのであれば、従業員の自律と協働を支える環境づくりに企業は積極的に取り組んでいく必要がある。また、自分らしさを生かして自律的に仕事をしていきたいと考えている優秀な人材を惹きつける上でも、多様な個の持ち味を理解し、一人ひとりに合った選択や開発の機会を提供する必要がある。「メンバーの自律を促し伴走するマネジャー」「多様な人材の協働が促進される組織づくり」「メンバーの自律を支える人事制度」という視点から自律人材を育てるHRMについて考察していきたい。

(1)メンバーの自律を促し伴走するマネジャー

主体はメンバー本人であるが、組織目的を規定し、その実現に向けて仕事をアサインし、その成果を評価するのはマネジャーである。メンバーが組織目的を意識して、自分の仕事を創意工夫しながら自律的に進め、組織目的実現に向けて自ら取り組むべき課題を創造できるようになるには、その結節点であるマネジャーの力が不可欠となる。メンバーとの対話を通じて、メンバーの持ち味を掴み、メンバーと共に仕事・組織の可能性を広げていく、そのようなマネジャーが求められる(図表2)。

<図表2>メンバー主体の自己開発に伴走するマネジャー

<図表2>メンバー主体の自己開発に伴走するマネジャー

(2)多様な人材の協働が促進される組織づくり

変化のスピードが速く、複雑で正解のない時代において、多様なスキルや経験を有した個がチームとして協働し、トライ・アンド・エラーを繰り返し、時にはゴールそのものを置き直すなど、仕事の進め方が大きく変わってきている。決まった計画通りに進めれば成果があがるという時代ではなくなってきている。多様な人材の力を引き出し、相互に補完し合いながら、チームとして成果を創出するマネジメントに転換すると共に、新しいマネジメント様式や仕事の進め方に合った人事制度へと見直しを進める必要がある。

(3)メンバーの自律を支える人事制度

自律という文脈のなかで、JOB型の人事制度の導入を検討しているというお問い合わせを頂くことが増えている。その背景はさまざまで、[1]職務を限定した雇用契約を結びたい、[2]職務価値の大きさと賃金を連動させたい、[3]時間ではなく成果に応じた処遇をしたいというニーズに大きく分類される。メンバーの自律を促進させるという点ではどれも合理的な選択とはいえるが、特に[1]と[2]は、日本企業にとって全従業員に一斉に導入するのは、非常にハードルが高いと考える。その理由は、中途採用市場が十分に整備されていない日本において、新卒で優秀な人材を一括採用し、ジョブ・ローテーションをしながら育成し、マネジメントを担う人材を創るというシステムは、学生・企業にとって効率的な仕組みであり、捨てがたいものであるからだ。

一方で、仕事に求められる専門性は高まり、全員を長期にわたりジョブ・ローテーションしてマネジメントを担う人材に育成していくことの限界もある。特定の専門分野を決めて、スキルを高めていくことで活躍したいという、従業員のキャリア志向も高まっている。

安易にJOB型の人事制度を導入するのではなく、従業員が自分のキャリアに責任をもてる、自分で選択をしてキャリアを切り拓いていく仕組みの整備と意識の転換がまずは必要である。そのためにはまず、「年功序列の曖昧な一律のキャリアパスから、目指すべき姿を明確にした複線型のキャリアパスを導入すること」「社内での公平性に気を配るのではなく、人材マーケットにおける社外での競争力を高めるという視点を人事がもつこと」が重要である。同時に、従業員も「自分のキャリアの選択に責任をもつ」「社外のマーケットでも需要がある人材を目指す」必要がある。

そのためにも、多様な個の持ち味を理解し、一人ひとりに合った選択と能力開発の機会を提供し、人材の価値を高めることを通じて、新たな価値を創造し、社会に貢献していくような人事を目指したい。従業員も、会社任せのキャリアから、今の仕事に向き合いながら自分の持ち味を深く理解し、仕事を通じて能力開発をすることで、自分らしいキャリアを実現していくことが求められる。

4 自律人材の育成を促進させるためにHRMが備えるべき機能

「会社任せのキャリアから従業員主体のキャリア形成」「一律管理・平等思想から脱却し、多様な個を生かす」が、自律人材を育てるHRMの拠り所になる思想と考える。これらの視点から、人事制度の見直しポイントを示していきたい。

(1)多様な個を生かす複線型のキャリアパス

伝統的な日本企業でも、新卒で一括採用して、ジョブ・ローテーションをしてマネジメントを目指すモデルだけではなく、複数の選択肢のなかから働き方やキャリアを自分の意思と責任で選択できる仕組みを整備している企業が増えてきている。

例えば、「入社後一定の経験を積んだ後に、社内公募に応募できる仕組み(中途採用ではなく空きポジションが出たときにまずは社内で公募する仕組み)」や、「マネジメントを目指すのではなく専門分野でのスキルを高めて貢献していくような複線型のキャリアパス」を導入している企業も多い。また、社外からプロフェッショナル人材を機動的に登用できるように、別立ての制度を整備する企業が増えてきている。仕事に求められる専門性が高度化し、高い専門スキルをもった人材を社内外で確保し、生かしていくという動きは今後も加速することが想定される。自社の将来の事業構造を見据え、人材のポートフォリオがこれまでとこれからでどのように変化するのかを見定めた上で、多様な人材を生かす制度の整備を進める必要がある。

(2)内発性を引き出す目標設定

期初に取り組むべき目標を決め、その遂行結果がどうであったかを振り返り、評価を決めるという目標管理制度は多くの企業で導入されている。

一方で、メンバーの内発性を引き出し、主体的に高い目標にチャレンジさせることができていないという声をよく聞くようになった。「評価を意識して、小粒な目標になってしまい、主体的なチャレンジを促すことができていない」という声も多い。

この仕事でどこまで目指したいのか、この仕事を通じてどのような能力を身につけたいのかなどを上司とメンバーで深く対話し、期待とゴールを言語化して設定するケースは稀だと思われる。

本来、目標管理制度とは、組織目的や上位方針を踏まえ、自分の仕事の意味や価値を自ら考え、取り組むべきテーマを決め、ゴールを高く設定し、その達成に向けて創意・工夫しながら業務を遂行するためのセルフマネジメントのツールである。自律と協働やチャレンジを促進させるために、OKR (Objectives and Key Results)やノーレーティングなどの評価手法を導入し、野心的な目標の設定や目標の進捗や結果を全社で共有している企業も一部で増えている。

高い目標への主体的なチャレンジを促していくには、このような新しい評価手法だけではなく、「上司とメンバー間の相互理解と相互信頼」の両面が揃っていることが大前提である。上司がメンバーにとって自己開示しやすい関係性や環境づくりをすることは当然だが、メンバー自身も日頃感じている問題意識などを上司に率直に話し、自らが課題解決の主体者になることを申し出て、上司と共に組織アジェンダを創造し、多様なスキルや経験をもったメンバーと共に課題解決や新しい価値を創造していけるように、制度面・運用面の見直しを図っていく必要がある。

(3)支援のための振り返りとフィードバック

本人主体の自己開発とはいえ、メンバーの自律的な成長を支援する機能は欠かせない。仕事の遂行状況を定期的に振り返り、自分の成長と課題を言語化し、次なる機会につなげることを習慣化させていくことは自律人材の育成には欠かせない。目標設定や振り返り面談の機会だけではなく、頻繁にメンバーと向き合い対話をする機会を意図的に作り出していくことが必要である。1on1などを通じて、内省を促す有効な問いを投げかけ、率直にフィードバックする対話によって、本人の成長と課題の言語化の支援が欠かせない。

(4)関係性の質を高めた協働機会の創出

メンバーとマネジャーの関係性の質を高め、メンバーの内発性を引き出し主体的なチャレンジや自律的な業務遂行を促していくと同時に、メンバー同士の関係性の質を高めていくことも大切なことである。お互いがどのような仕事に取り組んでいるのかを理解するだけではなく、どのような思いをもって取り組んでいるのかを深く理解することにより、メンバー同士で自律的に支援し合い、時には踏み込んだフィードバックをすることで、新たな気づきや学びを得ることができる。専門分化・深化が進むなかで、マネジャーが支援できることには限界がある。メンバー同士の関係性の質を高めることが、メンバー一人ひとりの成長スピードを上げ、組織の成果を高めることにつながる。チームで、期初にお互いの目標設定の内容を共有したり、期中に進捗を把握したり、期末に振り返りやフィードバックを行うことも有効である。

(2)〜(4)の関係性をまとめたものを図表3の自律と協働を促進するマネジメントの全体像に示す。

<図表3>自律と協働を促進するマネジメントの全体像

5 自律的な成長を促す人事制度のポイント

ここまで見てきたように、自律・協働を促すHRMへの転換は、制度の多岐にわたり、従業員の慣習や行動様式を変えていく上で、経営や人事が意思をもって取り組んでいくものである。最後に、その実現に向けてのポイントをまとめ、むすびにかえたい。

(1)日頃のマネジメントサイクルへの組み込み

自分のキャリアは自分で切り拓いていくものであるという意識に転換する必要がある。今の仕事に向き合いやり抜くなかで、自分の持ち味を深く理解すると共に、周囲にも理解してもらうように働きかけることが必要となる。評価や異動の最終決定権は会社側にあるという前提はこれからも変わらないが、自分の仕事の成果を言語化して組織に共有し、周囲を納得させる力をもつことが自律的なキャリアを形成する上での前提であるという共通認識を醸成することがポイントになる。自己申告や社内公募制、昇進・昇格の手挙げ制などの仕組みを導入している企業は多いが、十分に活用されていないケースも多い。人事のポリシーへの組み込み、トップが積極的にメッセージを発信していくことが必要になる。また、日頃のマネジメントサイクルに、仕事の振り返り、成果の言語化、自分の持ち味の理解、やりたいこと・やってみたいことの言語化を組み入れ、日常化することで、キャリア形成の主体は自分であるという意識の転換を進めていく必要がある。

(2)マネジメント・組織文化・風土変革を目指す

自分の思いや考えを率直に伝えることができない、失敗を恐れて一歩踏み出せないと感じている若手は多い。上司とメンバー間、メンバー同士間で、お互いの持ち味を深く理解し、相互理解・相互信頼の場を作る必要がある。小さなチャレンジと成功を積み重ね、それが周囲から認められることで、もっと組織や社会などに影響力を広げていくような仕事をしたい、一歩踏み込んでチャレンジしたいと思えるような文化・風土を創っていく必要がある。人事制度を変えれば自律的な人材が自然と育つということはない。人事制度改革を通じて、マネジメントのあり方を変革させ、一人ひとりの主体的なチャレンジを引き出す文化・風土づくりを目指したい。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.60 特集2「自律人材が育つHRMへの転換」より抜粋・一部修正したものである。
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