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THEME キャリア自律

特集先行研究に見るその効用と限界

人が自律的に働くということ

人が自律的に働くということ
執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保

プロフィール

「自律性」について、これまで幅広い領域で研究されてきた。ここでは、「自ら行動を起こすこと」の要素を扱った先行研究を用いて、自律的であるとはどういうことなのか、何が自律性を高めるのか、さらにはその効用と限界について紹介しながら、今後の研究課題についても考えてみたい。

幅広い領域での自律性に関する研究

自律性に関する研究は、心理学、行動科学、経営学などに限らず、脳科学や哲学などでも幅広く研究が行われている。例えば、ボイスと呼ばれる、会社にとって耳は痛いが必要なことを発言する従業員の行動は、自発的なものと考えられる。一方で、近年の心理学の研究では、私たちは、思った以上に多くの行動を、選択したり、意図したりすることなく行っていることが指摘されている。また、人はAIなどのテクノロジーにも意図を感じるのか、といった問題意識の研究もある。自律性、主体性、意志、意図など、用いられる言葉もさまざまである。人のもつ自律性に関してはさまざまな方面から高い関心が寄せられているといってよいだろう。

ここで紹介する研究では、異なる言葉を用いているものの、いずれも「自ら行動を起こすこと」を扱っている。それでも研究は多岐にわたるため、さらに下記2つの視点から選んで、紹介する。

1つは、仕事に限らず一般的に自律的な行動に関する心理学研究のうち、著名な社会心理学者であり、自己効力感(self-efficacy)の概念を提案したバンデューラの考え方を紹介する。もともと自己効力感の重要性を唱える理論を拡張するなかで、彼は人の自律性が重要であることを説いている。もう1つは、自律的に働くことの効用と限界に関するものである。自律的な働き方と内発的動機づけの関係、現代のビジネス環境下での組織の役割期待、そしてすでに、プロフェッショナルとして時間や場所にとらわれない働き方を始めている知的労働者にとっての自律性に関する研究を紹介する。
最後に2つの視点を統合して、今後の組織で働く人にとっての自律性を考える際に、有用であると考えられる研究視点を提案する。

行為主体性をもつ人間(Agentic view of human being)

相互に影響し合う人と環境


バンデューラが提案する社会的認知理論では、行為主体である人は、意図して周囲の環境や自分自身に影響を与えるとしている*1。行為主体という言葉は、agentの訳語である。自ら行動を起こすことだけでなく、その行動の影響を視野に入れている点が特徴的である。彼の考える、主体的に行動する人のイメージには、自分の目標を選択する、複数の目標に優先順位をつけて対応する、行動の選択肢を実行可能性を含めて検討する、その時々の問題に対処する、行動の結果のフィードバックを得る、フィードバックを自分自身について考える際に用いる、などが含まれる。

一方で彼は、人の行動が、環境によって決まるか、行為主体者である人が決めるかの二元論的な考え方をよしとしない。与えられた環境のなかでしか行動を選択できない以上、人がすべてを自由に決められるわけではない。一方で、同じ環境に置かれたとしてもどのように行動するかは人によって異なり、そこには行為主体者の関わりがある。行為主体性は、人間に特徴的な認知能力に下支えされており、環境に適応しつつ生き抜くために、一般に人に備わっている機能だと考えられる。行為主体である人とその人を取り巻く環境は、相互に影響し合うことで、個人の行動のみならず、個人が属する集団や文化にも影響を及ぼす。


行為主体性4つの要素と3つの効力感


行為主体性には、意図性、先の見通し、自己反応性、自己省察性の4つの要素が含まれる(図表1)。これら4つの要素から、彼の考える行為主体とは、単にその場で自分で何かを決めたり、行動したりすることだけを指していないことが分かる。

図表1 行為主体性の4つの要素

先にバンデューラの考える主体的に行動する人のイメージを述べたが、要素と対応づけると、長期的な目標を念頭に日々の行動を決め(先の見通し)、環境に合わせて自分を動機づけたり律したりして(自己反応性)、目標に向けて行動していく(意図性)。さらにそういった行動は、自分自身を形づくっていく(自己省察性)。

行為主体的に行動するための能力(agentic capability)の基礎をなすのが、効力感である。それは4つの要素のいずれにも関係する。効力を感じるのは個人であるが、何に対して感じるかということによって、3種類の効力感がある。自分は特定の行動や影響力の発揮が可能であると考える個人的効力感(personal efficacy)の他に、代理的効力感(proxy efficacy)や、集団効力感(collective efficacy)がある。集団効力感とは、集団が、特定の行動をとったり影響力を発揮したりすることが可能であると、その所属メンバーが思う程度を指す。

3つの効力感の関係性は、十分に分かっているとはいえない。個人的効力感を高くもつ人は、集団の効力感も高くもつのだろうか。それとも自分に自信があるがゆえに、集団の効力感は低く感じるだろうか。後者の場合、個人が自律的に働くことで、集団への協力の必要性を低く見積もってしまうのだろうか。特に組織での個人の自律的な働き方を考える場合には、個人の自律性と集団への協力の関係を理解することは重要であり、その視点の1つが効力感の関係性を見ることであると考えられる。

個人にとって自律的に働くことの効用

自律性とパフォーマンスの関係


Fischer and Boer(2011)は63の国や地域から収集したデータで、人生における選択や自律性の程度が高い地域ほど主観的幸福感が高く、それは経済的な豊かさがなぜ幸福感を高めるのかを説明したと報告している*2。自律的であることは、仕事に限らず、幸福感を高める効果をもっており、それが汎文化的であることをこの研究は示している。

仕事に特化した研究では、Spector(1986)は、コントロール感をもっていると認知することと、仕事の満足度やパフォーマンスとの間に有意な関係があることをメタ分析の結果で示している(それぞれr= .35、.20、統計的な補正なし)*3。仕事の満足度は、上記の幸福感と類似の理由によって高まることが予想されるが、なぜ自律性が仕事のパフォーマンスを高めるのだろうか。その理由の1つに、自己決定理論が唱える、人は仕事や勉強などに、外的な強制や報酬ではなく、自ら内発的に取り組むことで強く動機づけられるという現象がある*4。この理論では、自律性が高い状況においては、内発的に動機づけられる程度が高く、自律性が低くなるにつれて、外発的な動機づけの影響が高まることが予想されている。


自律性と内発的動機づけ


Cerasoliら(2014)は、学業、仕事、 健康に関連する内発的動機づけとパフォーマンスの関係のメタ分析を行った*5。その結果、仕事場面に限った42 の研究結果を統合して、両者の相関の推定値が .34と、中程度の正の関係性があったことを報告している。さらに、パフォーマンスを評価基準の明確な量的パフォーマンスと、そうではない質的パフォーマンスに分けて関係性を分析したところ、量的パフォーマンスには内発的動機づけ、外的報酬のどちらもプラスの影響があったが、後者の影響の方が大きかった。一方で、質的パフォーマンスでは、内発的動機づけのみが影響を及ぼした(図表2)。これは基準のはっきりしない仕事においては、どのような結果を目標とするかや、どのような方法で行うかの裁量度が高いためと考えられる。高い自律性をもって仕事をしている人は、内発的に動機づけられることで、仕事のパフォーマンスが向上するといえる。

図表2 異なる結果変数に対する動機づけのメタ分析的重回帰分析の結果

仕事における自律性の重要性につい ては、日本の働く人への調査データでも検討している。自律的な仕事を行っていると思う人は、仕事を面白いと感じて、その結果仕事や組織へのコミットメントが高まったり、仕事で感じるストレスが低減したりすることが示された*6。

以上の研究結果をまとめると、仕事に限らず、選択や自律性の程度が高いことは、主観的幸福感を高める効果がある。おそらく同様の理由で、仕事でコントロール感をもつことは、仕事の満足度を高める。加えて、自律的に仕事を行うことで、内発的な動機づけが高まり、その結果、仕事のパフォーマンス向上も期待できる。組織メンバーが自分の意志で選択、決定ができる状態を作ることは、個人にとって、そしておそらく組織にとっても望ましい効果が期待される。

組織の期待する役割と自律的な働き方

役割行動の9分類


近年、日本の大企業においても、自律的な働き方を求める声がよく聞かれる。ビジネス環境の変化スピードの速さや、先行きの不透明さから生じるのだと論じられている。上記のような状況下で、個人の自律的な働き方は、組織にとってどのように望ましいのだろうか。それを考えるのに有用だと思われる、不透明な時代における働く人の役割モデルが、Griffinら(2007)によって提案されている*7。

これは組織が、働く人にどのような役割を求めるかをまとめたモデルであるが、役割行動の対象が、仕事、チーム(あるいは職場)、組織の3つからなる。また、役割が公式化されている程度に応じて、遂行行動を、高レベルの遂行(proficiency)、適応(adaptivity)、主体性(proactivity)の3つに分類する。これらを掛け合わせてまとめたものを図表3に示す。

図表3 役割行動モデル

彼らの研究では、2つの組織からデータをとって、上記の9つの分類が妥当なことや、役割遂行を促進する要因が役割によって異なることを実証的に示している。例えば、柔軟な態度をもつ人は、適応的な役割遂行にたけている一方、より自発的な行動に対する効力感が高いことが主体的な役割遂行を促すことなどが示された。


組織が求める期待レベルの明確化


組織が従業員に自律的な働き方を求める場合、組織や仕事によって異なる行動を指すことがあり得る。図表3の分類方法は、組織が期待する自律的行動を整理・明確化するのに役立つ。自社の次世代を担う新商品開発プロジェクトのリーダーには、組織メンバーとしての主体性を求めるだろう。テレワーク環境下で営業活動をしている社員に求めるのは個人の職務適応であるが、その営業課の管理職にはチームメンバーとしての主体性が必要だろう。

個人の側から見ると、自律には望ましい効果があるものの、どの程度の自律が望ましいのかについては、十分に研究がなされていない。一方で図表3ように、組織が個人に求める自律には、異なるレベルやタイプがある。個人における望ましい効果は、組織がどのタイプの自律を求めたとしても存在するのかといった観点や、求められる自律のタイプやレベルに合う個人差が存在しており、組織側からは適材適所の問題として考えることができるのかといった観点は研究テーマになり得る。

プロフェッショナル職における自律のネガティブな効果

専門分化における自律と協働


Mazmanianら(2013)は、質的な調査を行うなかで、いつでもコンタクトをとることを可能にするモバイルの利用によって、自律性のパラドックスが生じる可能性について指摘している*8。彼女らの研究は、知的プロフェッショナル職を対象としたものであったが、自分の自由なときに自由な場所での仕事を可能にするはずのモバイル使用が、プロフェッショナル意識とあいまって、プライベートの時間を犠牲にしてでも、仕事を行うようになったことを報告している。さらに、そういった傾向は、集団のレベルで強化される可能性についても述べている。図表4はパラドックスが集団において強化される様子を図示したものである。

図表4 集団において強化される自律性のパラドックス

少し前の研究になるが、やはり高い自律性を意図して作られたチームや組織が、相互への期待によって、結果的には自律性が強く制限されるようになったことを示している*9。

今後、ビジネスのあり方の変化によって、働く人の自律性はおそらく高まるだろうが、一方で専門性が分化されることで、1人でできる仕事の範囲は小さくなることが予想される。つまり、自律的な個人が、協働して仕事を行う機会が増えると考えられる。上記で紹介した研究が示すように、個人の自律性を高めるつもりで行った施策が、逆に集団として活動する際に仕事の裁量度を低める可能性やその促進要因、あるいはそれを避けるための方法などについては、今後の研究が必要だと思われる。ここでも、個人の自律性と、集団の自律性の関係性を明らかにすることの必要性が示されている。


今後の研究課題:効力感の高め方


最後に、全体に関連する研究課題を1つ挙げておく。社会認知的理論によれば、自律的な行動のなかでも、自分から課題設定を行うような「主体的役割」の遂行においては、そういった行動に対する効力感が必要になる。行為主体性を発揮するためのベースは、効力感であり、できると思えないことに対して、行為は生じない。今後、組織が変化に対応したり、変革を起こしていくような自律性を求めるとき、今までの仕事経験の延長ではない、新たな分野での行動に対する効力感が必要になる。どうすればそのような効力感が開発できるかは、実務に携わる人にとって、重要な問いになるだろう。


*1 Bandura, A. (2006). Toward a psychology of human agency. Perspectives on psychological science, 1(2), 164-180.
*2 Fischer, R. & Boer, D. (2011). What is more important for national well-being: Money or autonomy? A meta-analysis of well-being, burnout, and anxiety across 63 societies. Journal of personality and social psychology, 101(1), 164.
*3 Spector, P. E. (1986). Perceived control by employees: A meta-analysis of studies concerning autonomy and participation at work. Human relations, 39(11), 1005- 1016.
*4 Deci, E. L. & Ryan, R. M. (2000). The “what” and “why” of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11, 227-268.
*5 Cerasoli, C. P., Nicklin, J. M. & Ford, M. T. (2014). Intrinsic motivation and extrinsic incentives jointly predict performance: A 40-year meta-analysis. Psychological bulletin, 140(4), 980.
*6 今城志保・正木郁太郎(2018). 働き方改革は何を目指すべきか 異なる結果変数に対する側面別満足度の影響の違い. 日本社会心理学会第59回大会
*7 Griffin, M. A., Neal, A. & Parker, S. K. (2007). A new model of work role performance: Positive behavior in uncertain and interdependent contexts. Academy of management journal, 50(2), 327-347.
*8 Mazmanian, M., Orlikowski, W. J. & Yates, J. (2013). The autonomy paradox: The implications of mobile email devices for knowledge professionals. Organization science, 24(5), 1337-1357.
*9 Martin, J., Knopoff, K., Beckman, C. (1998). An alternative to bureaucratic impersonality and emotional labor: Bounded emotionality at the body shop. Admin. Sci. Quart. 43(2):429-469.
Kunda, G. (1992). Engineering Culture: Control and Commitment in a High-Tech Corporation (Temple University Press, Philadelphia).
Perlow, L.A. (1998). Boundary control: The social ordering of work and family time in a high-tech corporation. Admin. Sci. Quart. 43(2):328-357.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.59特集1「自律的に働く」より抜粋・一部修正したものである。
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