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身体的・精神的な健康を促進するソーシャル・サポートとは

先行研究から見るソーシャル・サポートの効用

  • 公開日:2019/07/01
  • 更新日:2024/03/25
先行研究から見るソーシャル・サポートの効用

ソーシャル・サポートの研究の多くは、健康や医療などの分野で進められている。ここでは、組織での活用に対する示唆を得るために、ソーシャル・サポートがなぜ身体的・精神的な健康を促進するかについての知見を紹介したい。

健康や医療などの分野で注目されるソーシャル・サポート研究
ソーシャル・サポートの定義 さまざまな側面をもつ概念には注意が必要
ソーシャル・サポートは心身ともに健康を促進する
知覚されたサポートと受領されたサポートが 身体的健康に及ぼす効果
個人要因としての知覚されたサポート
環境要因が起点となる受領されたサポート
組織におけるソーシャル・サポート
困ったときにはサポートが得られると思う職場の人間関係
サポートを必要とする人のニーズにそったサポート提供

健康や医療などの分野で注目されるソーシャル・サポート研究

自然災害や高齢化の問題、貧富の差の拡大など、日本社会は将来への不安を感じさせる状況にさらされている。そのせいか、2019年度の幸福感に関する国際調査では、日本国民の幸福感は調査対象104カ国中58位、先進国中では最下位という結果になった※1。そのような社会不安のなかで、人と人とが支え合うことや、人との絆の価値が高まっているといえるだろう。

人と人とが支え合うことの現象理解やその効用について、「ソーシャル・サポート」という概念を用いて研究が行われてきた。心理学分野におけるソーシャル・サポート研究については、浦・南・稲葉(1989)が詳細なレビューを行っている※2。そこでは、米国を中心とする研究でまとまった知見が得られつつあることが指摘されるも、ソーシャル・サポートは社会的・文化的環境の影響を受ける可能性があることから、日本での記述的な研究の必要性が論じられた。残念ながら、その後も日本での産業組織場面におけるソーシャル・サポートの研究は、あまり進んでいない。一方で、健康や医療、教育や社会問題、福祉や看護などの分野では、研究が進められている。

本稿では研究が多く行われている健康分野を中心に見ていくが、その結果として、企業組織のなかでのソーシャル・サポートの価値や効用を考えるためのヒントを得ることを目的とする。そのために、「ソーシャル・サポートはどのような人にどのようなときに効果を発揮するのか、それはなぜか」という問いを中心に、ソーシャル・サポートについての理解を深める。

ソーシャル・サポートの定義 さまざまな側面をもつ概念には注意が必要

ウィルズ(Wills,1991)によれば、ソーシャル・サポートとは、「個人が、他者から愛され、大切に思われている、尊敬され、価値を認められている、あるいは相互支援や責任の社会的ネットワークの一員である、などを知覚、経験すること」と定義されている※3。この定義のポイントの1つは、ソーシャル・サポートは「知覚」と「経験」の両方を含むということである。つまり客観的にソーシャル・サポートが提供された事実がなくても、当人が受けたと感じていれば、サポートはあることになる。もう1つは、サポートは「他者」や「社会的ネットワーク」から得られるということである。他者は上司や家族などの特定の個人かもしれないが、組織や地域といった比較的大きな集団に属することでも、ソーシャル・サポートは得られる※4。

上記の定義の1つ目のポイントと密接に関連するのが、ソーシャル・サポートを「受領されたもの(received)」と「知覚されたもの(perceived)」に区別する考え方である※5。実際にサポートを経験したときは「受領されたサポート」になるが、「知覚されたサポート」ではサポートの有無は関係なく、当人がサポートされた、あるいはサポートしてもらえると思っている状態を指す。この2つの区別は、介入を考える際の示唆が異なる。サポートの必要な人を発見し、必要とされるサポートを提供する仕組みを整える場合は、受領されたサポートに働きかけることになる。いざというときに支えてもらえると思う人間関係を形成したり、そう感じられる組織風土づくりを目指す場合は、知覚されたサポートが対象となる。

他によく用いられるのが、サポートの内容に着目した「情報的(informational)」「道具的(instrumental)」「情緒的(emotional)」の分類である※6。こちらの分類も、具体的な介入策を考える際に参考になる。例えば子育て中の女性社員をサポートする際に、時短勤務などの制度を準備することは道具的サポートに当たり、育児の都合による仕事の調整に対して周囲が十分な理解を示すことは、情緒的サポートに当たる。

定義や分類の他に、研究ではどのようにソーシャル・サポートを測定するかの問題がある。測定には、サポートを提供してくれる可能性のある社会的ネットワークの構造に着目したものと、ネットワークのメンバーが適用してくれる機能に着目したものがある(e.g.,Wills,1998)※7。前者の例としては、自らの社会的役割の数や、さまざまなネットワークメンバーとの接触頻度、ネットワークの密度や内部の関連性の強さなどが挙げられる。後者の例としては、ネットワーク内のメンバーがさまざまなサポートをどの程度得られるかを評定してもらうものである。研究者によっては、前者のような構造に基づく測定は社会的ネットワークとして、ソーシャル・サポートとは区別することもある。本稿で紹介する研究や知見は、主に後者の機能面に着目して、サポートの受け手が回答した結果に基づくものが中心となるが、組織でのソーシャル・サポートを考える際には、ネットワーク構造のもたらす知見も重要である。

上記のようにソーシャル・サポートにはさまざまな側面がある(図表1)。ソーシャル・サポートの研究では、研究分野や個別の研究対象によって、上記のような側面が複雑に入り組んでおり、まとまった理論や知見を得られにくくしている。ある人がストレスを感じた際に、実際に誰からどのようなソーシャル・サポートが行われたか、また本人がそれをどのように受け取ったかによっても、複数種類のソーシャル・サポートが想定される。以降ではソーシャル・サポートの効果について紹介するが、どのようなサポートを念頭に置くかによって、なぜ効果が生じるのかが異なるため、注意が必要である。

図表1 ソーシャル・サポートのさまざまな側面

ソーシャル・サポートは心身ともに健康を促進する

これまでの研究で、ソーシャル・サポートは心身ともに健康を促進することが示されている。例えば、ストレスのかかる状況でうつ傾向や不安を軽減すること、慢性的な病気に侵された際の心理的な適応、寿命、病気への抵抗や回復、死亡率などとの関連が実証的に示されている。ソーシャル・サポートは、心理的な効果のみならず、身体的健康にポジティブな効果がある。特に、飲酒や喫煙、肥満や運動習慣などの身体的健康に関連すると考えられる要因よりも、サポートの方が効果が強いことがある※8。ソーシャル・サポートという概念の捉えにくさとは裏腹に、安定的にポジティブな効果が認められることで、ソーシャル・サポート研究への期待は高い。

ところがソーシャル・サポートを活用して効果的な介入を考えようとすると、なぜソーシャル・サポートが効果的なのかが問題になる。例えば、仕事でのストレスを抱えたときに、家族といればストレスは軽減されるだろうか。大病を患ったときに、職場の同僚からの情緒的なサポートはどのように役立つのか。ソーシャル・サポートが効果を発揮する理由が分からなければ、個別の状況にうまくソーシャル・サポートを活用することは難しい。

そこで、どのようにソーシャル・サポートが効果を発揮するかを考える際に有効な枠組の1つが、前述した受領されたサポートと知覚されたサポートの分類である。先行研究では、知覚されたサポートは健康に対して一般にポジティブな影響が確認されているのに対して※9、受領されたサポートの結果は一定でなく、ネガティブな影響も報告されている※10。また、この2種類のサポート間には、平均的に0.35の相関しかないことも報告されている※11。つまり、2 つのサポートは区別でき、しかも効果の発揮の仕方が異なる可能性がある。

知覚されたサポートと受領されたサポートが 身体的健康に及ぼす効果

ウチノ(2009)は、2種類のサポートが身体的健康に及ぼす効果を、人の生涯にわたる視点から図表2のように示している※12。

図表2 2種類のサポートが身体的健康に及ぼす効果

個人要因としての知覚されたサポート

(1)は、知覚されたサポートの効果であるが、この図の特徴は知覚されたサポートを個人要因としている点にある。知覚されたサポートとは、一般的なサポート期待やなんとなく人にサポートをしてもらっているといった感覚である。このような一般的なサポートの知覚しやすさは、自尊心や社会的スキルなどと共に子供の頃の家族関係の影響によって、個人差が生じる※13。その結果、病気やストレスへのより前向きな対処や、健康に配慮した行動をとる程度が高まり、身体的な健康が促進される。一般的な個人的傾向であるため、長期にわたっての行動や認知に影響を及ぼすことから、生活習慣病のような慢性疾患への効果が特に大きいと考えられる。

遺伝によってサポートの知覚しやすさがある程度規定されることも、報告されている※14。性格特性の1つという考え方もできるが、知覚されたサポートは、性格特性を統制しても老後の適応に有意な影響があり※15、性格特性と同じというわけではない。一般的なサポートの知覚のしやすさについては、今後さらに研究が必要だが、ある時点での個人の性格やスキル、態度などの特徴によって、困ったときは支えてもらえると感じることのできる人間関係をもつことは、個人の行動を前向きにすると考えられる。

環境要因が起点となる受領されたサポート

(2)は、受領されたサポートの効果であるが、こちらは個人要因ではなく、環境要因が起点となる。健康や経済的な理由でストレスが生じると、私たちはさまざまな方法で対処するが、その1つとしてサポートの受領がある。病気や過剰なストレスなど、対処が必要なときに受け取るサポートが、受領されたサポートである。問題に対処した結果、健康に配慮した行動をとるようになることに加えて、自尊心やコントロール感の高まりといった、心理的側面が改善し、身体的な健康が促進されると考えられる。このような状況は、生活習慣病のような慢性の疾病よりも、重篤な病気の診断を受けた場合など、急性疾患への対応時に顕著に見られる。

問題を抱えた個人が求めるサポートは、客観的に役立つ道具的サポートに限定するものではなく、感情的なサポートも含む。いずれにしても対処すべき問題はすでにあるため、「マッチング仮説」と呼ばれる考えでは、サポートが効果的であるためには、サポートの送り手は、受け手が必要とするものに合ったサポートを提供することが必要だとしている※16。受け手が求めていないサポートが提供されることが、受領されたサポートの効果が安定しないことの理由の1つと考えられる。

組織におけるソーシャル・サポート

ここまで心理的・身体的健康を結果としたときのソーシャル・サポートの研究を見てきたが、職場におけるソーシャル・サポートについて、どのようなヒントが得られるだろうか。

困ったときにはサポートが得られると思う職場の人間関係

ヴィスベスヴァランら(1999)が行った仕事のストレスにおけるメタ分析の結果では、ソーシャル・サポートはストレスがかかったときに効果を発揮して、その影響を和らげるというよりも、常にストレスの影響がないように機能しているのではないかとの考察を行っている※17。図表2のモデルを参考に考えると、この分析結果は(1)の知覚されたサポートを示唆していると考えられる。強くストレスがかかったときに機能する仕組みを考えるよりも、常日頃から困ったときにはサポートが得られると思う職場の人間関係を作ることが重要だと考えられる。また、サポートの知覚のしやすさには個人差があるため、その程度が低い人については、上司がサポート提供を行うなど、受領されたサポートを高める工夫が求められる。

サポートを必要とする人のニーズにそったサポート提供

受領されたサポートが有効に機能するためには、サポートを必要とする人のニーズにそったサポート提供が必要である。例えば、サポートがワーク・ファミリーコンフリクトの軽減に有効かを検証したメタ分析では、一般的な組織サポートや上司サポートではなく、ワーク・ファミリーに関する組織サポートや上司サポートの効果が認められた(図表3)※18。そもそも実際のサポートの授受は、サポートの受け手の心理的な抵抗など、難しい問題をはらんでいることから、十分にニーズを汲み取ると共に、適切な提供方法を工夫することが求められる※19。

図表3 組織におけるサポートがワーク・ファミリーコンフリクトの軽減に与える影響

一般的な対人関係や組織風土を整えることによって、知覚されたサポートを高める。こちらは、職場のコミュニケーションや人間関係の改善によって成し遂げられることが多い。一方で、特に強くストレスがかかる状況や対象者については、個人が求めるサポートを、抵抗なく受け取ることが可能な方法で提供することが必要になる(参考:「職場に活かす心理学第19回 人を助け、助けられること 」)。どちらも簡単なことではないかもしれないが、実現によって得られる効果は十分に期待できるものだろう。


※1 World Happiness Report (2019).
※2 浦光博・南隆男・稲葉昭英.(1989). ソーシャル・サポート研究:研究の新しい流れと将来の展望 (〈特集〉「ストレスの社会心理学」).社会心理学研究, 4(2), 78-90.
※3 Wills, T. A. (1991). Social support and interpersonal relationships. In Prosocial Behavior, ed. M. S. Clark, pp. 265-289. Newbury Park, CA: Sage.
※4 Thoits, P. A. (2011). Mechanisms linking social ties and support to physical and mental health. Journal of health and social behavior, 52(2), 145-161.
※5 Tardy, C. H. (1985). Social support measurement. American journal of community psychology, 13(2), 187-202.
※6 House, J. S., & Robert L. K. (1985). Measures and concepts of social support. In Sheldon Cohen and S. Leonard Syme (eds.), Social Support and Health, pp. 83-108. New York: Academic Press.
※7 Wills, T. A. (1998). Social support. In E. A. Blechman, & K. D. Brownell (eds.), Behavioral medicine and women: A comprehensive handbook, pp. 118-128. New York: Guilford Press.
※8 House, J. S., Landis, K. R., & Umberson, D. (1988). Social relationships and health. Science, 241(4865), 540-545.
※9 Thoits, P. A. (1995). Stress, coping, and social support processes: Where are we? What next?. Journal of health and social behavior, 53-79.
※10 Nurullah, A. S. (2012). Received and provided social support: A review of current evidence and future directions. American Journal of Health Studies, 27(3), 173-188.
※11 Haber, M. G., Cohen, J. L., Lucas, T., & Baltes, B. B. (2007). The relationship between self-reported received and perceived social support: A meta-analytic review. American journal of community psychology, 39(1-2), 133-144.
※12 Uchino, B. N. (2009). Understanding the links between social support and physical health: A life-span perspective with emphasis on the separability of perceived and received support. Perspectives on psychological science, 4(3), 236-255.
※13 Shaw, B. A., Krause, N., Chatters, L. M., Connell, C. M., & Ingersoll-Dayton, B. (2004). Emotional support from parents early in life, aging, and health. Psychology and aging, 19(1), 4.
※14 Kessler, R. C., Kendler, K. S., Heath, A., Neale, M. C., & Eaves, L. J. (1992). Social support, depressed mood, and adjustment to stress: a genetic epidemiologic investigation. Journal of personality and social psychology, 62(2), 257.
※15 Ko, K. J., Berg, C. A., Butner, J., Uchino, B. N., & Smith, T. W. (2007). Profiles of successful aging in middle-aged and older adult married couples. Psychology and Aging, 22(4), 705.
※16 Cohen, S., & Wills, T. A. (1985). Stress, social support, and the buffering hypothesis. Psychological bulletin, 98(2), 310.
※17 Viswesvaran, C., Sanchez, J. I., & Fisher, J. (1999). The role of social support in the process of work stress: A meta-analysis. Journal of vocational behavior, 54(2), 314-334.
※18 Kossek, E. E., Pichler, S., Bodner, T., & Hammer, L. B. (2011). Workplace social support and work-family conflict: A meta-analysis clarifying the influence of general and work-family-specific supervisor and organizational support. Personnel psychology, 64(2), 289-313.
※19 今城志保.(2019). 職場に活かす心理学 第19回「人を助け、助けられること」.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.54 特集1「職場におけるソーシャル・サポート希薄化する人間関係にどう向き合うか」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保

1988年リクルート入社。ニューヨーク大学で産業組織心理学を学び修士を取得。研究開発部門で、能力や個人特性のアセスメント開発や構造化面接の設計・研究に携わる。2013年、東京大学から社会心理学で博士号を取得。現在は面接評価などの個人のアセスメントのほか、経験学習、高齢者就労、職場の心理的安全性など、多岐にわたる研究に従事。

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