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連載・コラム

働く人の本音調査2024 第3回

人事施策を増やすと、従業員の会社へのエンゲージメントは高まるのか?

  • 公開日:2024/09/18
  • 更新日:2024/12/25
人事施策を増やすと、従業員の会社へのエンゲージメントは高まるのか?

私たちリクルートマネジメントソリューションズは、60年以上にわたり人々の内面(性格、志向、価値観など)を測定してきた技術を生かし、働く皆さんの意識・特性を多角的に捉えるチャレンジをしています。2023年の『一般社員の会社・職場・仕事に関する意識調査』(第1回第2回第3回)に続いて、今回は『働く人の本音調査2024』を実施し、働く人たちがマネジメントについてどのような希望をもち、マネジメントの実態をどのように捉えているか、などを広く質問しました。その調査結果を数回に分けて紹介します。

第3回は、「人事施策(人材開発施策)」の魅力や効果に焦点を合わせます。人事施策を増やすと、従業員たちは「会社は成長を支援してくれている」と思うのでしょうか?今回は、人事であれば誰もが気になるこの問いに向き合います。(第1回はこちら、第2回はこちら

※本調査に関連して、働く皆さんが自身のパーソナリティ・タイプとモチベーション・リソースを簡易に診断するツールとして「働くみんなの性格タイプ診断」をリリースしました。短時間で診断できますので、ご自身のタイプが気になる方はこちらからぜひご利用ください!

※本調査では、広く社会に本データを活用いただきたく、回答ローデータおよび各種属性別集計データなどをオープンデータとして開示しています。ご希望の方は、「お問い合わせ」よりお問い合わせください。【10月17日までの期間限定】~受付は終了いたしました~

なお、今回の調査では、図表0の調査項目で示されている人事施策を対象に調査しています。記事内では、略称で表記していますので、適宜ご参照ください。

<図表0>人事施策の調査項目と記事内での略称

人事施策の調査項目と記事内での略称
本シリーズ記事一覧
働く人の本音調査2024 第4回
「あなたは、結果評価とプロセス評価のどちらを望みますか?」
働く人の本音調査2024 第3回
人事施策を増やすと、従業員の会社へのエンゲージメントは高まるのか?
働く人の本音調査2024 第2回
「どんな人事異動なら、あなたは満足できますか?」
働く人の本音調査2024 第1回
「あなたはお金と機会と同僚、働くうえでどれが一番大事ですか?」
従業員に人気があるのは「個人選択型研修」や「ITスキル取得支援」
人気の高い「個人選択型研修」「ITスキル取得支援」を実施していない会社が多い
人事施策には「被支援感」や「会社へのエンゲージメント」を高める効果があるようだ
20代は汎用的スキルを身につけられる会社に魅力を感じる傾向がある

従業員に人気があるのは「個人選択型研修」や「ITスキル取得支援」

まずは、「人事施策の魅力」について見てみましょう。図表1は、魅力的な人事施策を選んでもらった結果です。最も選択率が高く、従業員に人気があるのは「個人選択型研修(38.1%)」で、次が「ITスキル取得支援(34.9%)」でした。キャリア自律が急速に広まる現代日本では、自分に必要な能力を自ら選んで開発できる個人選択型研修へのニーズが高くなっていると考えられます。また、DXやリスキリングなどの観点から、ITスキル取得に魅力を感じる人も多いようです。

<図表1>「あなたは、以下の人材開発施策のなかで、どれが魅力的だと思いますか。魅力的だと思うものをすべて選んでください」の回答結果

図表2は、魅力的な人事施策の年代別の選択結果です。このデータで気になるのは、若い人ほど「ITスキル取得支援」や「語学海外留学支援」を魅力的に感じていることです。人生100年時代といわれるなかで、今の20代・30代は、ITスキルや語学といった汎用的スキルを若いうちに獲得しておきたい気持ちが強いのかもしれません。

<図表2>「あなたは、以下の人材開発施策のなかで、どれが魅力的だと思いますか。魅力的だと思うものをすべて選んでください」の年代別の回答結果

人気の高い「個人選択型研修」「ITスキル取得支援」を実施していない会社が多い

次に、人事施策の実施率を見てみましょう(図表3)。全体的な実施率は、決して高くありませんでした。最も実施されている階層別研修などの「必須研修」でも47.3%と半分以下にとどまっていました。続いて「OJTリーダー制度」34.2%、「個人選択型研修」33.1%となっており、最も少ない「語学海外留学支援」や「MBA海外留学支援」は5%程度にすぎませんでした。

<図表3>「あなたの会社では、以下の人材開発施策のなかで、どれが実施されていますか。あてはまるものをすべて選んでください」の回答結果

図表4は、従業員規模別に実施率を比較したグラフです。このグラフを見ると、ほとんどの施策で共通して、従業員規模が大きいほど実施率が高くなる傾向がはっきりと出ています。全体的にいえば、従業員の多い会社ほど、人事施策を盛んに行っているわけです。一般的には従業員が多いほど人事部の予算も多くなるでしょうから、これは当然の結果かもしれません。

<図表4>「あなたの会社では、以下の人材開発施策のなかで、どれが実施されていますか。あてはまるものをすべて選んでください」の従業員規模別の回答結果

図表5は、図表1で「魅力を感じている」と回答した人のうち、その施策が会社で実施されて“いない”人の割合です。この図表で注目すべきことは、図表1で魅力的に感じる割合が高かった「個人選択型研修」が51.4%、「ITスキル取得支援」が65.8%と、どちらも実施率が高くないことです。つまり、従業員に人気の高い人事施策であっても、実施していない会社が多いのです。

<図表5>図表1で「魅力を感じている」と回答した人のうち、その施策が会社で実施されて“いない”人の割合

人事施策には「被支援感」や「会社へのエンゲージメント」を高める効果があるようだ

次に、従業員たちが「会社は自分の成長を支援してくれている」と感じているかどうか(被支援感)に注目します。図表6は、図表3の10施策の実施数ごとに、「あなたの会社は、従業員の成長の支援をしてくれていますか」という問いに対し、「あてはまらない」を1点、「どちらかといえばあてはまらない」を2点、「どちらともいえない」を3点、「どちらかといえばあてはまる」を4点、「あてはまる」を5点とした回答結果の平均値グラフです。ここから分かるのは、「人事施策の実施数が多い会社の従業員ほど、会社が自分たちの成長を支援していることを実感している」ということです。

<図表6>「あなたの会社は、従業員の成長の支援をしてくれていますか」(被支援感)の回答結果の施策数ごとの平均値

図表7は、「あなたの会社は、従業員の成長の支援をしてくれていますか」の回答得点別に、会社へのエンゲージメントの平均値を並べたグラフです。このグラフから分かるのは、「会社から成長支援されていると感じている従業員ほど、会社へのエンゲージメントが高い傾向がある」ことです。図表6と合わせて考えると、人事施策は被支援感を高める傾向があり、被支援感が高まると、会社へのエンゲージメントも高まる傾向が想定されます。(なお、本調査における「会社へのエンゲージメント」とは、“今の会社の理念やビジョンに共感している”“今の会社で働き続けたいと思う”“今の会社は魅力的な文化・風土を築いていくことができると思う”“今の会社は成長・発展していくことができると思う”という4つの設問に対し、「あてはまらない」を1点、「どちらかといえばあてはまらない」を2点、「どちらともいえない」を3点、「どちらかといえばあてはまる」を4点、「あてはまる」を5点とした回答の合計値です。)

<図表7>「あなたの会社は、従業員の成長の支援をしてくれていますか」の得点別の会社エンゲージメント平均値

さらに図表8は、人事施策ごとに、被支援感および会社へのエンゲージメントとの相関係数を算出したものです。このグラフを見る限り、「個人選択型研修(0.26、0.17)」「必須研修(0.25、0.16)」「ITスキル取得支援(0.21、0.14)」は、被支援感や会社へのエンゲージメントと相対的に関連が強いようです。特に「個人選択型研修」や「ITスキル取得支援」は、従業員人気が高く(図表1)、まだ実施していない会社も多い(図表5)わけですから、新たに実施するうえで狙い目の人事施策といえるでしょう。

<図表8>人事施策ごとの被支援感・会社へのエンゲージメントとの相関

最近は、個人のキャリア形成を個人と組織の共同責任と捉える「持続可能なキャリア」という考え方が提唱され始めています(De Vos他, 2020)。現代社会は環境変化が非常に激しく、キャリア形成の責任を個人だけに負わせることが現実的に厳しくなってきているからです。この流れを踏まえると、会社が人事施策を通して個人のキャリア形成を支援する必要性はますます高まるでしょう。今後、個人選択型研修やITスキル取得支援などを中心に、人事施策を新たに始める会社が増えていくことが想定できます。

20代は汎用的スキルを身につけられる会社に魅力を感じる傾向がある

最後に、少し深掘りしたデータを2つ提示します。

図表9は、各施策の実施有無と会社エンゲージメントの年代ごとの相関をランキング形式で並べたものです。このデータで注目したいのは、20代だけが他の年代とランキングがかなり異なっていることです。具体的には、「語学学習支援」と「書籍購入支援」が上位に入っています。「個人選択型研修」「ITスキル取得支援」も上位に入っていることを併せて踏まえると、20代は汎用的スキルを身につけられる会社に魅力を感じる傾向があると推測できます。

<図表9>各施策の実施有無と会社エンゲージメントの年代ごとの相関

次にパーソナリティタイプごとに魅力を感じる人事施策が異なるのかどうかについて、探索的に確認をしてみました。パーソナリティタイプは、当社のアセスメントにおける分類を用いており、図表10の4タイプ(象限)を指します。各象限は、上(チャレンジ)⇔下(コツコツ)、左(ウェット)⇔右(ロジカル)により分類されています。

<図表10>4つのパーソナリティタイプ

魅力的な人事施策(図表1)のパーソナリティタイプごとの回答結果は図表11に示しています。例えばこの4タイプのうち、Y(調和重視)タイプ・Z(秩序重視)タイプは、「確実さを重視し、ステップを踏んで成長したい」と考える人たちですが、彼らは人事施策全般に魅力を感じる傾向があります。特に、個人選択型研修、ITスキル取得支援、その他資格取得支援、書籍購入支援などに魅力を感じており、ステップを踏んで成長していきたいという特徴が反映されていることが分かります。一方のW(創造重視)タイプは、「新たなことにチャレンジしていきたい」と考える人たちですが、彼らは海外留学支援(MBA・語学留学)を魅力的に感じる傾向が強く出ていました。

<図表11>「あなたは、以下の人材開発施策のなかで、どれが魅力的だと思いますか。魅力的だと思うものをすべて選んでください」のパーソナリティタイプごとの回答結果

このように、パーソナリティタイプや年代などによって、魅力的に映る人事施策が異なる、という結果が示されており、個人属性によって魅力となる人事施策が異なっている可能性もあります。所属する従業員の声に耳を傾けながら、自社の施策を充実させていくことが重要かもしれません。

引用文献
De Vos, A., Van der Heijden, B. I., & Akkermans, J. (2020). Sustainable careers: Towards a conceptual model. Journal of Vocational Behavior, 117, 103196.

調査概要

調査概要

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