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管理職の業務負荷と働き方改革3

  • 公開日:2024/06/10
  • 更新日:2024/06/10
管理職の業務負荷と働き方改革3
今、管理職の業務負荷が高いという話をしばしば見聞きします。管理職の大変な状況や管理職になりたい人が多くない状況を称して「管理職は罰ゲーム」といった言葉も出ています。また、弊社の調査でも、人事担当者および管理職層に「会社の組織課題」について尋ねたところ、「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」がそれぞれ第1位でした(人事担当者65.3%、管理職層64.7%)。注1

前回前々回は、管理職の業務負荷と働き方改革というテーマで、管理職の負荷が高く忙しいことの背景や、管理職の業務負荷軽減に関して先に知っておくと良いことについて見てきました。本稿では、筆者がコンサルティングを通じて見てきた、業務改革が進まない企業の特徴を取り上げながら、管理職の業務改革のポイントをご紹介します。

管理職の業務改革が進まない組織に見られる特徴
管理職の業務改革のポイント

管理職の業務改革が進まない組織に見られる特徴

業務改革が進まない組織に見られる特徴のうち、特に管理職の業務改革という観点で絞って4つご紹介します。

1点目は、「業務をまるごと“業務”と捉える」です。このような組織は、「うちの部署の業務にはムダがない」「私の仕事はすべて大事だ」と、業務や仕事をひとかたまりで「業務」「仕事」と呼ぶことが多いです。これが派生して、「この業務は、当時の専務が大事にしていたからなくすことはできない」といった、業務改革の及ばない聖域のような形で表れることもあります。

2点目は、「業務改革に取り組もうとする人のエネルギーを削ぐ事象が多い」です。業務改革は、目的として負荷軽減を掲げていたとしても、一時的には通常業務に改革が乗っかることで、負荷が上がることが多いです。つまり、業務改革が検討される部署や人は忙しいので、当事者からすると、「中長期でいえば業務改革をやった方が効果的・効率的かもしれないが、今の大変さを踏まえたらやりたくない」と思われがちです。そのようななかでエネルギーを削ぐことがあればなおさらです。

エネルギーを削ぐことの最たる例は、業務改革に取り組む人が孤軍奮闘してしまう状況です。例えば職場の管理職が、自身の業務を見直そうとしたときに、会社や上司が何も支援してくれない、部下が「余計なことをしてくれるな」と思うような状況では、管理職もそれらを気に留めることなく取り組みを行うのは難しいでしょう。

他にも、自社は、顧客向けには、業務効率に寄与する商品・サービスを提供したり、テクノロジーを活用した商品・サービスを提供したりしているのに、社内はそうした商品・サービスを使えず紙文化が根強い、といった「できるはずなのにやらない」と社内の人から思われる組織も業務改革のエネルギーが削がれやすいです。

3点目は、「管理職はこうあるべしという管理職への期待・要望が強固」です。前回も触れましたが、会社にとって管理職は会社側の人という認識であることが多いため、管理職が、いつでも、どこでも、何でもすることが要望されることがあります。また、近年の働き方改革の流れもあって、メンバーの業務を管理職が引き受けることもあります。

こうしたことに加えて、「管理職は現場の細かいことを知っておくべきだ」「管理職はその部署とのコミュニケーションの窓口であるべき」といった「べき」を本社や本部、他部署の人が思っていると、担当者の方が圧倒的に詳しい内容でも、管理職にとりまとめや統括を求めがちです。

さらに、「メンバーの信頼を得るためには、こまめに対面で接点を持つことが大事だ」「会議で提案への承認を得るには、***しておく必要がある」と、やり方も規定されている場合は、目的を達成することができたとしても、やり方が違うという理由で許容されないことが起きます。

4点目は、「管理職自身が取り組みに賛同しない」です。管理職の負荷軽減がテーマになるということは、管理職が大変な状況にあるということでしょう。とすれば、管理職の負荷軽減は、管理職自身がその取り組みの利益を受け取る人であるはずで、取り組みに反対することはないはずです。しかし、実態は必ずしもそうではありません。管理職は会社や組織からの期待に応え、役割を果たしてきたので現在の地位にあります。業績達成へのプレッシャーも担っています。よって仮に3点目で触れたような状況に対して気になることがあってもそんなものだろうと思うかもしれません。また、2点目でも取り上げたように、管理職自身がすでに忙しいので、日常に変化を起こすような気持ちにはなれない人も多いでしょう。管理職がこれまで築いてきた自分なりの成功の方程式が、手間や時間がかかるものである場合は、業務改革はその成功の方程式が否定されることになるという気持ちになることもあります。

加えて、会社が業務改革をすべきと思っていることを管理職やメンバーの業務にムダがあると会社が認識しているというメッセージだと受け取り、自分のやってきたことが否定されたと感じることもあるでしょう。これが転じて、業務改革が成功し管理職の負荷が軽減したら、管理職やメンバーの人数が減らされてしまうのではないかと不安に思うことも、管理職が取り組みに賛同しない背景になっていることがあります。

管理職の業務改革のポイント

管理職の業務改革が進まない組織に見られる特徴を踏まえて、管理職の負荷軽減を進めるポイントをご紹介します。

1点目の「業務をまるごと“業務”と捉える」への対応策としては、「業務を因数分解すること」をお勧めします。どの会社・組織でも、すべての仕事がムダだとか、ムダでないということはありません。業務を「業務」とまるごと捉える会社・組織においては、「業務」と呼んでいるものを一旦可視化することが効果的です。管理職の業務を、年、月、日、不定期に分け、それぞれの業務にどれだけの時間がかかっているかを把握するのは、業務の因数分解を行う方法としてよく採られます。もし、「このあたりに業務のムダがありそうだな」という当たりがついているのであれば、その部分をしっかり調べるのも良いでしょう。例えば、本社や本部、他部署から管理職宛てに届いている依頼の依頼元、依頼日、締め切り、作業の手間レベルなどを一覧にすることで、それぞれの部署が似たような依頼を、違うフォーマットで依頼していることが分かることがあります。休日の直前に依頼されて、休日の直後に締め切りのある仕事がいかに多いかを知ることもあるかもしれません。

また、業務改革の聖域をなくすという意味では、これまでに関わってきたクライアントでも、経営層が、「お客様に影響を与えないことは、すべて見直しの対象とする」「その業務は誰を喜ばせる仕事かを考える。もし役員や上司のためならそれは見直してよい」といった、聖域をなくすような発信をすることで業務改革が強力に推進されるのを見てきました。経営層のメッセージも管理職の負荷軽減の後押しになるでしょう。

2点目の「業務改革に取り組もうとする人のエネルギーを削ぐ事象が多い」への最たる対応策は、業務改革に取り組む管理職を孤軍奮闘させないことです。言い換えれば、さまざまな人が業務改革の当事者としてできることをすることです。もちろん管理職が自分でできる業務改革もあります。ジョブ・クラフティングのように仕事や業務の意味付けを変えてみることも有効でしょう。しかし、前回も触れたように、管理職だけでできる改革には限界があります。会社の仕組みや制度で業務負荷を減らせないか、メンバーができることはないかと、それぞれができることを取り組むことが大切です。「私も自分でできることや改革はやります。だからあなたもやってください」ということを言える管理職やメンバー、部署が増えれば、管理職の負荷軽減は多面的に進みます。

3点目の「管理職はこうあるべしという管理職への期待・要望が強固」への対応策は、その企業の勝ちパターンとつながっていることも多いので、難しい点も多いです。簡単にいえば、管理職における「フツウ」「アタリマエ」を変えるということです。昨今、女性社員の登用が進んでいるのは、管理職における「フツウ」「アタリマエ」を変えたいという意図も感じます。しかしながら、性別にかかわらず、すべての管理職が画一的な能力発揮を期待される状況では、実際には管理職の「フツウ」「アタリマエ」は変わりません。まずは、やり方を規定しないことから始めるのが良いのではないでしょうか。例えば、これまで、顧客訪問回数の多さや、御用聞き営業によって成功してきた営業部があったとします。営業部としての組織の目的に適うなら、やり方は別の形を取ってもよいということになれば、業務負荷軽減と組織成果を両立する方法が見つかる一助になるでしょう。

ちなみに、最近、管理職の役割を、「対人マネジメント」と「対課題・対仕事マネジメント」に分けて担当する人を分ける企業や取り組みが増えてきました。これは、人材育成など別の理由もありますが、「管理職に、いつでも、どこでも、何でもすることを求める」という全方位、フルコミットを期待・要望する状況を変えるという意味でも奏功するかもしれません。

4点目は、「管理職自身が取り組みに賛同しない」ことへの対応策ですが、こちらは、管理職にとって意味のある取り組みにすること、および管理職の持つプレッシャーに寄り添うことが重要です。

管理職にとって意味のある取り組みにする、というのは、会社からのメッセージが、管理職の総労働時間または総残業時間を削減することに寄っているように見える会社や組織において奏功します。超・長時間労働を見直すことは大事な活動ですが、同時に、労働時間において意味や価値のあるものの割合を増やすことも同時に実施すると管理職の賛同が得られることが多いです。労働時間を意味的な要素で分類したり、管理職の皆さんに「時間ができたら本当はやりたいことは何ですか」と尋ねたりすることが方法の1つとなります。

管理職の持つプレッシャーに寄り添う、とは、管理職が自身や自組織に期待される役割をどのように果たそうとしているかを知ることから始まります。例えば、ある営業部では、営業マネジャーが、顧客接点を担っている契約社員の皆さんのことを気にかけていることを示し、契約社員のために自分は働くという姿勢を伝えることが、業績に直結しています。その際、契約社員の皆さんが日常で困っているちょっとしたことをすぐに解決する動きが、望ましい動きの1つです。この場合、シフトなどの関係で、すべての契約社員の皆さんと接点を持とうとすると、管理職はオフィスにいる時間が増えます。しかし、ある管理職は、契約社員皆さんの信頼を得るために、別の方法を採っており、長時間労働もしていませんでした。業績達成などのプレッシャーを担う管理職は、たとえそれが自分にとって大変な方法であっても、採らざるを得ないことがあります。そうであるにもかかわらず「その方法は非効率だからやめろ」ということは一方的です。「別の方法でも目的に叶う方法がある」「このツールを用いることで、すぐに接点を持った方がよいメンバーがわかるようになる」と、管理職に新たな武器を提供することが必要です。

以上、業務改革が進まない企業や組織の特徴を踏まえて、管理職の業務改革のポイントをご紹介しました。本稿が管理職の皆さんの負荷軽減に少しでもお役に立てたら嬉しいです。

 

注1 リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」

執筆者

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員

武藤 久美子

2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍など。働き方改革やリモートワーク、人事制度関連の寄稿多数。自身も2013年よりリモートワークを積極的に活用するリモートワークの達人。
(株)リクルート ワークス研究所 研究員(兼務)。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。

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