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管理職の業務負荷と働き方改革1

  • 公開日:2024/05/20
  • 更新日:2024/05/20
管理職の業務負荷と働き方改革1
今、管理職の業務負荷が高いという話をしばしば見聞きします。管理職の大変な状況や管理職になりたい人が多くない状況を称して「管理職は罰ゲーム」といった言葉も出ています。また、小社の調査でも、人事担当者および管理職層に「会社の組織課題」について尋ねたところ、「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」がそれぞれ第1位でした(人事担当者65.3%、管理職層64.7%)。注1

本稿では、管理職の業務負荷と働き方改革というテーマで、管理職はなぜ忙しいのか、管理職の働き方や業務の改革のポイントをご紹介します。1回目の今回は管理職がなぜ忙しいのかを取り上げます。

なぜ管理職は忙しく負荷が高いのか?
キーワード1「管理職は会社側の人である」
キーワード2「マネジメントの難度が上がっている」

なぜ管理職は忙しく負荷が高いのか?

1950年代から行われていた管理職の行動についての調査研究において、カールソンの研究注2とスチュワートの研究注3では、「管理者は、多くの人々との接触で 時間を費やし、対面でのコミュニケーションを好み、自部署メンバーばかりではなく他部署の人や他社の人や経営の上層部との接触にも多くの時間を割き、活動は小刻みで断片的である」という管理職の実態が明らかになりました。以前から管理職は忙しかったことが見てとれます。そして、管理職の仕事が、主として社内外の関係者との間で発生することは、筆者がリクルートワークス研究所で行った「企業のムダ調査」においても明らかになり、今も同様の傾向があることが分かります注4

こうした以前から続く傾向に加えて、昨今の管理職の負荷や忙しさのキーワードを多少強引に2つにまとめると、「管理職は会社側の人であること」「マネジメントの難度が上がっていること」でしょう。

キーワード1「管理職は会社側の人である」

1つ目の「管理職は会社側の人であること」ですが、これは管理職の位置づけや、管理職は管掌組織の役割や、要望された成果を達成するという役割を担っていることから生じます。

管理職の位置づけですが、管理監督者として労働基準法の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されません(除く:深夜業に関する規定、年次有給休暇に関する規定)。もちろん労働時間を確認して健康管理に利用したりする企業もありますが、先ほど述べた役割を果たすためには自分の労働時間は一旦脇に置いて働くことも増えるでしょう。加えて、昨今の働き方改革では、労働時間管理の下にあるメンバーの時間外労働削減に注目が集まりました。業務の見直しや効率化がなされないままにメンバーにできるだけ時間外労働をさせず、組織から期待される役割を果たすために、管理職にしわ寄せがいくことになりました。

こうしたことは、育児や介護などのライフイベントにも及びます。メンバーの時代には仕事と育児・介護の両立の体制・態勢が整っている企業においても、管理職になったとたん「ようこそこちら側の世界へ」といわんばかりにライフイベント関連の制度や支援は活用しづらくなるのです。ちなみにこれは管理職になりたがらない人が増えている一因にもなっています。

また、経営層や会社から「管理職は組織のことをなんでも知っておくべき」という姿勢を期待されることがあるのも管理職です。こうした期待は、数多くの会議への参加、各種依頼の窓口など、1つひとつは細かくても、積み上げたら結構な量になることもあります。家庭における「見えない家事」と同じような構図が会社のなかにもあるのです。管理職の置かれた状況を理解するには、手始めに管理職に依頼される内容を、発信部署、概要、依頼日、回答期日といった項目でリスト化するとわかることがたくさんあるでしょう。

キーワード2「マネジメントの難度が上がっている」

2つ目の「マネジメントの難度が上がっていること」は、これまで得意としてきたやり方が通用しなくなっていることに加えて、それをコンプライアンスやハラスメントに留意しながら、プレイヤーとしての役割を担いつつ行う、というハードな状況から来ています。

また、新型コロナウイルスと共に一斉・大規模・急激に始まったリモートワークもマネジメントに影響を与えました。リモートワークが普及する前は、管理職は偶然とついでの機会を使ってメンバーや関係者とコミュニケーションを取り、うまく役割を遂行していました。しかし、リモートワークでメンバーが見えづらい、分かりづらい状況になったことで、管理職によっては、もっとこまめにメンバーを見に行こうとする動きが現れました。また、リモートワークにより1on1ミーティングを行う組織が増えました。これはメンバーとのコミュニケーションを助ける部分が大きいですが、一方でメンバーが横や斜めの同僚や先輩に相談して解決していたことも、上司である管理職に相談がいくようになり、管理職の業務が増えているケースも出てきました。リモートワークの下では、偶然とついでのマネジメントから、意識的なマネジメントへの転換が必要となりますが、その転換が図られないと管理職は自分の時間を割いて対応することになりがちです。

加えて、新型コロナウイルス感染拡大前は、リモートワークは絶対に無理と言っていた企業・組織もリモートワークへの転換を余儀なくされました。このリモートワーク経験は、メンバーに人生や生活において仕事以外にも大切なことがいろいろあることを痛感したり、転勤のようにこれまでは当たり前に行われていた人事施策への疑問などにもつながったりしました。これを筆者は「いろいろ気がついてしまった」と呼んでいます。現在、リモートワークが定着した企業・組織と原則出社に戻った企業・組織がありますが、働く風景は新型コロナウイルス感染拡大前に戻っただけのように見えても、メンバーの気持ちが変わっています。同じようにマネジメントしても、メンバーに動いてもらえない、納得してもらえないといった想いをもつ管理職もいらっしゃるのではないでしょうか。

また、最近はDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)における多様性を生かす流れや、自己申告制度や社内公募制度など個々人の意思を尊重する流れもあり、個々のメンバーの声が重視されていることも、上記のような管理職も一方的に指示したりすることが難しいと感じたり、それではメンバーが動かないと感じることの背景にあると思料します。

ここまで、上記のように管理職の負荷が高く忙しい背景についてみてきました。次回はどのように管理職の負荷を軽減していくのかをご紹介します。

 

注1 リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」
注2 Carlson, S. (1951) Executive behaviour: a study of the work load and the working methods of managing directors. Stockholm: Strömbergs.
注3 Stewart, R. (1967) Managers and their jobs. Macmillan.
注4 リクルートワークス研究所「企業のムダ調査」エグゼクティブサマリー

執筆者

https://www.recruit-ms.co.jp/assets/images/cms/authors/upload/3f67c0f783214d71a03078023e73bb1b/1c5e245fa2644ca1b08aa2b427862ac1/2305080936_6879.webp

技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員

武藤 久美子

2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍など。働き方改革やリモートワーク、人事制度関連の寄稿多数。自身も2013年よりリモートワークを積極的に活用するリモートワークの達人。
(株)リクルート ワークス研究所 研究員(兼務)。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。

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