連載・コラム
管理職の業務負荷と働き方改革2
- 公開日:2024/06/03
- 更新日:2024/06/03
前回は、管理職の業務負荷と働き方改革というテーマで、管理職の負荷が高く忙しいことの背景について見てきました。本稿では、管理職の業務負荷軽減にあたり、事前に知っておくと良いことをご紹介します。
管理職の業務負荷軽減のために、業務自体の見直しを視野に入れる
管理職の業務負荷軽減というと、方向性として以下のようなことが思い浮かびます。
- 業務の代替・補完(技術による代替・補完、管理職の上司による代替・補完、管理職のメンバーによる代替・補完、専門組織など別組織による代替・補完)
- 業務の平準化
- 意味付けの変更(ジョブ・クラフティング)
- 管理職自身のキャパシティの拡大(人材開発)
- 業務自体の見直し(廃止、軽減)
「1.業務の代替・補完」は、例えば、生成AIによって情報収集や書類作成の時間を軽減したり、専門組織が集中してある業務を行うことで、効率的に業務を行えるようになったりすることもあります。メンバー(部下)に管理職自身の役割の一部を任せることで、メンバーの成長にもつながることもあるでしょう。
「2.業務の平準化」については、業務のムリ・ムラ・ムダでいえば、ムリとムダへの対応として該当します。管理職の負荷が一時的に増すことを避けられますので、その意味では管理職の業務負荷の軽減に寄与するでしょう。
「3.意味付けの変更」とは、業務を行う管理職がその仕事への意味や価値をつけることで、管理職自身が納得感を持って業務を行えるようになったり、業務へのやりがいを見出したりすることを指します。業務そのものを見直すのではなく、業務への認知・見方を見直すことになります。これは、ジョブ・クラフティングとも呼びますが、ジョブ・クラフティングを行うと、仕事のフィット感が上がり、仕事の有意味感や満足感、自己効力感が高まります。
「4.管理職自身のキャパシティの拡大」は、リーダーシップやマネジメント経験を通じて習熟したり、管掌職務についての専門性を磨くことで、管理職自身ができることを増やしたり、効率的・効果的な組織運営ができるようにすることです。
上記1から4は総じて、管理職の物理的または心理的な負荷を軽減するのに寄与するでしょう。一方で、「5.業務自体の見直し(廃止・軽減)」なくしては、管理職の業務負荷を本質的には軽減できないことには留意が必要です。理由は大きく分けて2つあります。
1点目は、上記1から4では、基本的には組織としての業務の総量が変わらないということです。仕事から離れた例え話ですが、家の片づけをしていて、ある部屋にあったものを、隣の部屋に置いただけでは、目の前から荷物はなくなりますが、あまり解決にはなっていません。仕事の場合はさらに、業務が移ることで、どこかに負荷を感じる人が出る場合もあります。また、前回も取り上げたように、管理職は、働き方改革推進の流れで、非管理職の業務を引き受けることにもなりますので、誰かの負荷が増すことで、管理職が別の業務を引き取ることにもなりかねないのです。
2点目は、管理職の業務負荷を、管理職自身の力だけで解決することに無理があるということです。筆者がリクルートワークス研究所で行った「企業のムダ調査」注2によると、管理職がムダを感じる業務は、経営層や上司、メンバー、他部署といった、他の人との関係性で起きていることが多いことが分かりました。これは、前回取り上げたカールソンとスチュワートの研究で明らかになった、「管理者は、多くの人々との接触で時間を費やし、対面でのコミュニケーションを好み、自部署メンバーばかりではなく他部署の人や他社の人、経営の上層部との接触にも多くの時間を割き、活動は小刻みで断片的である」という管理職の行動の特徴からも想像に難くないでしょう。誰かとの関係性で行われていることを、管理職自身の能力拡張や見方の変化だけで対応するのは、いささか無理があるでしょう。よって、管理職の負荷軽減を図りたい企業や組織の皆さんには、1から4に加えて、「5.業務自体の見直し(廃止、軽減)」も、実施していただきたいと考えます。朗報をお伝えしますと、前述の「企業のムダ調査」において、経営層も管理職も従業員も、企業内の多くのムダを認識しており、かつ、顧客やお客様に影響や迷惑のない範囲のなかで多くのことが見直し可能だと分かりました。
多くの管理職が組織内の業務のムダを認識
前述の「企業のムダ調査」では、以下の27業務につき、自組織にどれくらい存在するかを尋ねました(図表1)。27業務は項目としては「それはムダだろう」と思えるような表現をしましたが、「どれくらい存在するか」を尋ねる段階では、回答者にこれらの業務がムダか否かという評価は行ってもらっていません。
図表1 管理職が思う自組織における27業務の存在(一定以上存在すると認識している人の割合)
Q.(経営者・役員に)以下は、よくムダが指摘される業務・作業、対応です。あなたの「会社」において、以下のようなものはありますか(N=481/%)
出典:リクルートワークス研究所 「企業のムダ調査」(2023年)を元に弊社で加工
経営者・役員、組織長、就業者に、自社、自組織、自身の業務におけるムダの存在と割合について尋ねたところ(図表2)、経営者・役員のうち、69.5%が「自社」にムダな業務があると回答しました。また、全業務に占めるムダな業務の割合は平均で16.0%でしたが、全業務の30%以上はムダだと回答した人が27.4%いました。
組織長については、72.6%が「自組織」にムダな業務があると回答しました。また、全業務に占めるムダな業務の割合は平均21.7%、30%以上と回答した人は37.1%でした。
そして、就業者のうち、56.6%が自身の業務にムダがあると回答しました。また、全業務に占めるムダな業務の割合は平均14.9%、30%以上と回答した人は23.6%でした。
図表2 自組織にあるムダな業務・作業、対応の割合
出典:リクルートワークス研究所 「企業のムダ調査」(2023年)
27業務を見ていただくと分かるように、企業内で解消できることが大半を占めています。このように、経営層も管理職も従業員も、企業内に多くのムダを認識しており、かつ、顧客やお客様に影響や迷惑のない範囲のなかで多くのことが見直し可能であることが分かります。
しかしながら、実際にはムダを減らし、管理職の業務負荷の軽減を図る動きは、そんなに簡単でないことは皆さんも実感しているのではないでしょうか。例えば、図表2をご覧いただくと、業務のムダが全くないと感じている人と、多くのムダを感じている人が混在しています。このことは、業務負荷軽減を行っていくうえで壁になるでしょう。
筆者は、さまざまな企業や組織で、業務改革のご支援をしてきましたので、このテーマの難度の高さは多少理解しているつもりです。次回は、筆者がコンサルティングを通じて見てきた、業務改革が進まない企業の特徴を取り上げながら、管理職の業務改革のポイントをご紹介します。
注1 リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」
注2 リクルートワークス研究所「企業のムダ調査」エグゼクティブサマリー
リクルートワークス研究所「企業のムダ調査」データ集
なお、本調査では「組織長」という表現を用いており、実際に組織の長である人を「組織長」としています。本稿においては「企業のムダ調査」を取り上げている箇所以外は、「管理職」という表現をしていますが、ここでは同義と考えていただいて問題ありません。
執筆者
技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員
武藤 久美子
2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍など。働き方改革やリモートワーク、人事制度関連の寄稿多数。自身も2013年よりリモートワークを積極的に活用するリモートワークの達人。
(株)リクルート ワークス研究所 研究員(兼務)。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。
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