連載・コラム
人事担当者に役立つ 「キャリア自律」の進め方 〜個と組織をともに成長させる!〜第3回
施策の効果確認とモニタリング方法
- 公開日:2024/03/25
- 更新日:2024/12/11
第1回:「キャリア自律」の全体像の描き方
第2回:施策の現場実装、運用におけるポイント
第3回:施策の効果確認とモニタリング方法(⇦今回)
前回(第2回)は、キャリア自律施策の現場実装、運用におけるポイントとして、現場で行動を誘発するための考え方をお伝えしました。今回は、PDCA※の改善サイクルでいうとC(評価)にあたる、施策の効果確認とモニタリング方法についてお伝えします。
※Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)の頭文字であり、品質改善を目的とする業務改善手法の1つ
第3回ゴール:施策の効果確認とモニタリング方法が分かる
1.キャリア自律の最終ゴール指標(KGI)を決める
2.現場でキャリア自律として誘発したい思考・行動を指標化する
3.年間の職場の動きに欠かせない指標とする(モニタリングした結果を使う)
1.キャリア自律の最終ゴール指標(KGI)を決める
まずは、キャリア自律の最終ゴール指標(KGI:Key Goal Indicator)を決めます。第1回のコラムでキャリア自律が実現している状態を定義しました。その際にご紹介した例をもとに考えてみましょう。図1は、自社にとっての「キャリア自律」を、「個と組織のビジョン実現に向けて、ともに必要な能力を高め成長していくこと」と定義した概念図です。この状態を自社では何を使ってどのように測定するのかを決めます。個の視点のKGIとして、「個のビジョン実現」については、KGI1従業員意識調査のエンゲージメント指数※1を置くことができます。また、「主体的な成長」についてはKGI2として、従業員の成長度※2等を置くことができます。組織視点のKGIとして、「組織能力の見える化と計画的育成」についてKGI3戦略上必要な人材の充足度等を置くことができます。
これらのKGIをご覧になって気づいたことはありませんか。実は2023年3月期決算から、上場企業などを対象に人的資本に関する情報開示が義務化され、その流れで人的資本経営として統合報告書等で開示されている指標※3とリンクすることが多くなります。逆にリンクしない場合は、人事ビジョンとキャリア自律の位置付けがつながっていないか、狭義になっている可能性があります。
<図表1>キャリア自律を実現している状態を指標化する
※1 参考)“エンゲージメント”を知る・測る・向上する
※2 ジョブグレードやミッショングレード等の場合、グレードの高まりは価値の高い仕事や役割をし業績貢献している人が増えたと捉えることができます。なお、それにより組織業績が高まるという観点で小社では「経営資源配分指標:BRAIN」という考え方を取り入れています。詳しくは、『組織を動かす経営管理~経営企画のプロが教える計画・実行・モニタリングのしくみ』もしくは、事例発表資料をご覧ください。
※3 参考)自社らしさを生かした人的資本経営を再考する
2.現場でキャリア自律として誘発したい思考・行動を指標化する
次にキャリア自律の最終ゴール指標(KGI)を実現するために、どのようにしてその状態を実現するのか現場で誘発したい思考・行動のメカニズムを構築します(コラム2回目の図表1参照)。メカニズムにおける現場での鍵となる要素(KFS)を明確にします。KFSが進んでいることを見える化する「推進指標(KPI)」を決めます。KFS・KPIの推進に向け、現場で徹底的にやりきるべき「Key行動(KPA)」を決めます。
<図表2>現場で行動誘発するためのKFS⇔KPI⇔KPAの因果を具体化する
2回目のコラムでご紹介した例をもとに考えてみましょう。図表3は、キャリア自律の最終ゴール指標(KGI)を「成長サイクルを回すこと」と置いたときの達成シナリオです。どのようにしてその状態を実現するのか現場で誘発したい思考・行動のメカニズムを構築し、現場での鍵となる要素をKFS1~4までメンバー・上司それぞれに置いています。KFSが進んでいることを見える化する「推進指標」をKPI1~4として決めます。
具体的には、KFS1でメンバーは「自分のキャリアや成長テーマの意志を明確にする」、上司は「組織として実現したいこととメンバーの想いをつなげて動機づける」という鍵となる行動を置きます。そして、KPI1目標設定面談後のアンケートで「成長テーマが設定できたか」「目の前の業務や目標が自分のキャリア実現に役立つと感じるか」などを聞くことで推進されているかを測定します。
KFS・KPIの推進に向け、現場で徹底的にやりきるべき「Key行動(KPA)」は「自分なりの成長にこだわる」ことであり、メンバーは「今期の成長テーマ」を考えて面談に参加し、上司は目標設定面談のなかで「目の前の目標がメンバーのキャリアや成長にどうつながっているのか」を意味づけし、挑戦を促します。
なお、研修等の施策の効果測定についての考え方ですが、研修等の施策そのもののゴール設定(例:研修を通じて気づき・学びがあったか等)だけでなく、研修後に誘発したい現場での行動(KFS1やKPI1を高める行動 )が置けているか、つながっているかについても確認することをお勧めします。
<図表3>KGI達成のシナリオは現場で「成長サイクルを回すこと」と置いた場合のKFS⇔KPI⇔KPAのイメージ
測定できないものは改善できないという格言がありますが、組織のマネジメント改善のためにはデータを使用し、何が機能していて、何が機能していないかを評価することは非常に重要です。
一方で、データを見るだけでは十分でないことも多いです。数値の裏に隠されている測定はできないけれども、現場に足を運んで対話することで、本音や真実が見えてくることもあります。今後、データサイエンスが進化し、本音や真実に近いデータが、本人の自己認知に関係なく行動ベースで収集できるようになるまでは、数字の意味をよく考え振り回されないように気をつけたいところです。
3.年間の職場の動きに欠かせない指標とする(モニタリングした結果を使う)
上記1・2でお伝えしたKGIやKPIを定期的にモニタリングします。例えば、社員のエンゲージメントであれば年に1回、かならず秋に実施するなど、時期を決めて年間の職場の動きに組み入れます。秋に社員のエンゲージメントサーベイを実施し、その結果を冬に翌年度の方針や施策を考えるための判断材料にしていきます。
また、その結果を全社で共有し(経営層が意識する指標として所感を述べ)、結果のよかった職場の取り組みを学び合う仕組みが入っていると改善に拍車がかかります。このように、モニタリング結果を職場の動きに欠かせない指標として使うことで、キャリア自律の営みが現場に定着していきます。
浸透しているとは(無意識に)行動化することです(図表4のD)。行動しない取り組みは廃れていきます。廃れないように、また、形式的にならないように現場に役立つものとなるように工夫することが設計においては大事になります。
<図表4>浸透のステップ
● まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。今回は、施策の効果確認とモニタリング方法についてポイントをお伝えしました。
個と組織をともに成長させる『キャリア自律』の進め方について、人事領域の実務家の方に向けて、3回に分けて具体的な事例を交えてお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか。個と組織を生かすために、実務家の皆さんの手を動かす参考材料になれば幸いです。
第1回:「キャリア自律」の全体像の描き方
第2回:施策の現場実装、運用におけるポイント
第3回:施策の効果確認とモニタリング方法
執筆者
技術開発統括部
コンサルティング部
1グループ
エグゼクティブコンサルタント
山本 りえ
1999年 サービス業
2000年 税理士・社会保険労務士事務所(社会保険労務士)
専門は労働法、企業労務問題の解決やリスクヘッジに関する制度構築・相談を担当。
2005年 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
コンサルタント兼ファシリテーターとして幅広い業種やテーマに対して変革支援を行い、プロジェクトで関わった企業数はのべ150社を超える。
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