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【開発者インタビュー】課長層向けコーチング登場の背景と今後

コーチングを課長層に導入し、個別化する課題に対応する

  • 公開日:2021/11/22
  • 更新日:2024/05/17
コーチングを課長層に導入し、個別化する課題に対応する

最近、「課長層向けコーチング」を実施する日本企業が増えています。なぜ課長層向けコーチングが人気なのでしょうか。本人にはどのような効果・効能をもたらし、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。弊社で課長層向けコーチングのサービスを開発している山下健介と星野翔次が、これまで企業の人事施策を支援してきた経験をもとにしながら、課長層向けコーチングの潮流について対談形式で紹介します。

対談メンバー

● 山下健介(HRD統括部 HRDサービス開発部 シニアスタッフ)

● 星野翔次(HRD統括部 HRDサービス開発部 シニアソリューションアーキテクト)

大手企業が課長層向けコーチングを続々と導入している
背景にあるのは「次世代リーダー不足問題」と「課長層の多重債務問題」
課長層が「Being」を考えつづけると「in→out型」に変わっていく
「個と組織の両方を生かす」のがリクルートマネジメントソリューションズのコーチング

大手企業が課長層向けコーチングを続々と導入している

――課長層向けコーチングについて教えてください。

星野:実は最近、「課長層向けコーチング」を新たな人事施策として導入する、大手金融機関、大手メーカー、総合商社など大手企業が増えています。つまり、大手企業の課長層がコーチングを受ける機会が増えているのです。

山下:コーチングといえば、経営幹部層向けの「エグゼクティブ・コーチング」がよく知られていますが、そうではなくて課長層がコーチングを受けるというのが新しい動きですね。

星野:そうなんです。例えば、ある某大手金融機関では、4年ほど前に課長層向けコーチングを導入しました。それ以来、毎年約70名の課長がコーチングを受けています。クライアント(コーチングを受ける人)の人気が高く、人事部には「課長向けコーチング施策だけは止めないでほしい」という声が多く届いているそうです。この会社では新任課長は必須、それ以外の課長は手挙げ、という方式を採っていますが、口コミで社内に良い評判が広まっているため、一向にクライアントが減る様子がありません。

山下:コーチングにあまり詳しくない方のために補足すると、コーチングとは、コーチとクライアントの対話によって、クライアントの成長や自己変容を促し、目指す姿の実現やリーダーシップ向上を支援するコミュニケーション手法のことです。カウンセリングやティーチングとの違いは、第一に、コーチと対象者が「対等な立場で率直に話し合う」ことです。第二に、カウンセリングやティーチングが目の前で抱えている問題の解決を重視しているのに対し、コーチングは未来に向けてその人の可能性を探りながら「対象者の人生に本質的な変化をもたらす」ことを目指すことです(図表1)。

<図表1>ティーチング・コーチング・カウンセリングの違い

<図表1>ティーチング・コーチング・カウンセリングの違い

背景にあるのは「次世代リーダー不足問題」と「課長層の多重債務問題」

――なぜ今、課長層向けコーチング施策が増えているのでしょうか。

星野翔次

星野:顧客接点の多い私のもとに届く相談で多いのは、「次世代リーダー不足問題」です。次世代経営人材育成のために課長層向けコーチングの導入を検討したい、というケースがよく見られます。 

一般的に課長層は、周囲からの期待に応えようとして頑張る人が多い傾向があります。周囲の期待や要望を受け入れて、力を発揮する「out→in型」人材です。ところが、そこから経営幹部となり、次世代リーダーとして活躍するのは、「自分はどうしてもこれがやりたい」という意志が強いタイプなんですね。自分の想いを打ち出す「in→out型」です。次世代リーダーは、新たなことを仕掛けていくので、社内外でさまざまな壁に直面します。そのような壁を一つひとつ打破するためには、自身の強い想いが必要になってくるのです。

社内で、次世代リーダーを増やすためには、課長層のなかに「in→out型」人材を増やす必要があります。後ほど詳しく話しますが、コーチングにはin→out型人材をつくり出す力があるのです。だからこそ、各企業は課長層にコーチングを導入し、in→out型人材のサクセッションプランを作ろうとしています(図表2)

<図表2>out→in型とin→out型人材の違い

<図表2>out→in型とin→out型人材の違い

山下:次世代リーダーを担う課長層に、役割や影響力の変化に早い段階から対応させようという意図はありますよね。それに加えて、大手企業の課長層のコーチングが増えている理由を、わたしはもう1つ違う角度からも捉えています。それは、「課長層の多重債務問題」です。

簡単に言えば、担う役割が多すぎるということです。課長層はそもそも自らもプレイングを担わねばならないケースも多く、以前から忙しい存在でした。現在はさらに数年前からの働き方改革や労働時間対応、さらにはメンバーの多様性が高まったことによる、個別フォローの負担がぐんと増えています。また、昨今のコンプライアンス強化の流れも踏まえて、メンバーとのコミュニケーションには細心の注意を払う必要があります。コロナ禍で緊急対応も多くなりました。離職意向のあるメンバーの引き留めもしなくてはなりません。こうした役割や制約は加わる一方で、決して業務は引き算されません。

しかも、課長層は味方が少なく、孤立しやすい存在です。メンバーのことを気にかけるばかりで、自分自身を大事にできないという事情もあります。以上を踏まえると、私には、課長層がコーチを最も必要としている存在に見えます。心強い味方になってくれるコーチを得て、社内では話せないような相談に乗ってもらうことが、日本の数多くの課長を救うのではないかと思うのです。

星野:同感です。特に、多様化する部下への対応が難しいと感じますね。なぜなら、部下が大事にしていることや上司に求めることは、千差万別だからです。プライベートを充実させたい部下もいれば、副業で稼ぎたい部下もいるでしょう。最近は、社会貢献のために我が身を捧げようとするタイプの部下も増えていると聞きます。もちろん、年齢も性別も出身もさまざまです。一人ひとりの想いを丹念にすくい取ってケアしていたら、課長はあっという間にパンクしてしまいかねません。

課長層が「Being」を考えつづけると「in→out型」に変わっていく

――なぜコーチングが課長層の多重債務問題を解決するのでしょうか?

山下:弊社のコーチングは「自分はどうありたいか(Being)」を重要視します。コーチと対話するなかで、自分自身がどうありたいか、自分が大切にしたいことは何かを対象者に見出していただくのが、私たちが考えるコーチングです。Beingを考えつづけると、次第に「自分がやりたいこと」が見えてきて「in→out型」に変わっていきます。この変容を重ねることが次の事業や会社を担う次世代リーダーの育成につながります。

星野:多くの企業は、現場の「やりたい!」という想いから新しいことが生まれる、と考えています。経営層は、課長を含む現場から、「これにチャレンジしたい!」と積極的に発信することを求めているのです。コーチングを受けることを通じて、課長自身が感じていることや、違和感がくっきりと明らかになり、それに気づくことで、現状から変化を起こそうとする気持ちが高まっていきます。

山下:しかし、自分がどうありたいかは、時間的な余白がなければ決して考えられません。忙しさの多重債務を抱える課長が1人でBeingを考えるのは、ほぼ不可能なのが現場の実情です。課長の多くは、コーチとの対話の時間を取ることで、はじめて「振り返りと内省の時間」を得て、自分のことに想いを巡らす余裕を持てるようになるのです。弊社のコーチングプロセスでは、行動の振り返りと内省・考察の時間を必ず取ります。振り返り・内省・考察が気づきの概念化につながり、自身の行動を変える原動力になるからです(図表3)。

<図表3>リクルートマネジメントソリューションズのコーチングプロセス

もちろん「in→out型」に変わっても、課長層の業務量は減りません。しかし少なくとも、優先順位をつけ、より重要な業務に対応しながら、自分の想いを武器に周囲をリードするマネジャーになることはできます。コーチングによって、多重債務問題を乗り越える工夫は可能だと考えています。

山下健介

私自身の例をお話しすると、私はマネジャーとしてコーチングを受けた後、必要以上に部下をケアしないようになりました。自分が部下をケアしすぎることで、部下本人が自分で体験して学ぶ機会を奪っていることに気づいたのです。その代わりに、部下が気持ちよく働けるような環境づくりに徹しました。その結果として、部下本人が体験から学んだことをきっかけに自律的に取り組むようになり、私のサポートも減らすことができ、マネジャーとして本来集中すべき業務時間を確保できるようになりました。どれだけ忙しい課長でも、実はこうした工夫の余地はさまざまなところにあります。コーチングがマネジメント上のヒントをもたらしてくれる可能性は高いです。

星野:「本音を聞いてもらえる」という効果もありますね。課長は上からも下からも我慢を強いられており、本音を言えるような味方が社内に少ない存在です。ですから「本当はこう思っている」という気持ちをないことにしてしまい、ただ業務をこなさざるを得なくなってしまう。それは、自分をないがしろにしてしまうことであり、課長のWillを育む意味でも、次世代リーダーを育てる機会としても、もったいないことです。課長にとって、第三者のコーチに本音を聞いてもらい、自分の本当の気持ちに立ち返る時間は極めて大切なんです。

先述しましたが、課長が実際に「やりたい!」と発信して自ら行動を起こしたときには、社内外でさまざまな壁に突き当たります。そのとき、課長1人で想いを押し通して、壁を破って進んでいくのは簡単ではありません。そんなときにも、コーチの伴走が心強い支えになるはずです。

「個と組織の両方を生かす」のがリクルートマネジメントソリューションズのコーチング

――人事の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

星野:当然ながら、コーチング施策にはそれなりのコストがかかります。それにもかかわらず、課長向けコーチングの引き合いは、増えている現実があります。なぜか。それは、ビジネス環境の急激な変化と多様化する部下により、従来以上に課長が抱えている問題の個別性が高まっているからだ、というのが私の考えです。部長や同僚が答えを持っている問題は少なくなり、各々の課長が自身で解決策や判断軸を見つけ、意思決定する必要があるのです。だからこそ、課長層に対しても一律支援ではなく、個別支援が必要だと私は強く思います。それに気づかれた企業は、会社を成長させるための投資として、課長層からコーチング施策を実施しているのだと思います。

山下:職場は、確実に徹底して行動をやりきる「実行型」から、一番現場を見ているメンバー同士で学び合いを起こしそこで得た兆しをもとに行動してみるという「学習+実行型」へ変わっています。課長が中心となって、現場組織が自ら学びながら実行しなくては、ビジネス環境の変化スピードに対応できない時代になったのです。学習+実行型の両利きのマネジメントでリードできる課長を育てたい場合も、自分の考えや振る舞いによって職場にどのような影響を与えるのか、与えたいのかを明らかにしていくことが求められています。ただし、それはとてもパーソナルで個別性が高いテーマです。だからこそ、1対1でのコーチングへの期待が集まっていると考えています。

星野:私の経験では、人事の方自身がコーチングを受け、その効果を実感したうえで社内にコーチング施策を展開する、というケースが非常に多いです。ですから、まずは人事の皆さんにトライアルとしてコーチングを体験していただきたい、と思っています。その効果にきっと驚くはずです。

山下:先ほど、弊社のコーチングは「自分はどうありたいか(Being)」を重視するとお伝えしましたが、一方で私たちは、個人の成長だけでなく、組織の成長もしっかりと踏まえたコーチング施策を行います。例えば、組織期待を受けたうえで個人の側に立ってコーチングする「サーベイフィードバックコーチング」というサービスを用意しています。

星野:弊社のビジョンは「個と組織を生かす」ですが、コーチングにおいても個と組織の両方を大事にしていますね。

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