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連載企画「自律と協働の時代を考える」第2回

加速するテレワークの明暗を分ける、チームでのコミュニケーションとは

  • 公開日:2020/07/06
  • 更新日:2024/04/04
加速するテレワークの明暗を分ける、チームでのコミュニケーションとは

新型コロナウイルス感染症の流行は、私たちのライフスタイルに大きな変化をもたらした。2020年4月7日に緊急事態宣言が発出され、「Stay Home」の合言葉のもと、在宅勤務が急激に広まっている。職種により状況は異なるが、弊社の調査結果においても、テレワークについて、経験者は未経験者よりも肯定的な回答が多い。実際にやってみてメリットを実感した人も多いのではないだろうか。これからの「新しい生活様式」にもテレワークの利用が明記されており、after/withコロナにおいても、在宅勤務が継続・拡大する可能性がある。
ここではテレワークで避けては通れないリモートでのコミュニケーションについて考察したい。

【連載】
第1回 自律と協働の時代を生きる仕事の進め方
第3回 テレワークの広がりは企業と個人の関係性にどのような課題を投げかけたのか

見えてきたテレワークのメリットと課題
オンラインコミュニケーションで発生する「Zoom疲れ」
テレワークに順応できる/できないケース
最後に

見えてきたテレワークのメリットと課題

企業にとって、テレワークの推進は、通勤・出張・宿泊費、さらにはオフィススペースの縮小による賃料の削減にいたるまで経済的メリットを享受できる。一方、従業員にとっても、往復の通勤ラッシュから解放され、プライベートや地域での活動に費やす時間が増えることで、生活の充実度が増す。合理的に考えれば、在宅勤務は推奨されていくだろう。
今後の情勢によっては、「対面が難しいからリモート(遠隔)」なのではなく、「リモートで対応できない時のみ対面」というように、「職場」のパラダイムシフトを迫られる可能性がある。

しかし、現実はそれほど簡単ではないことも、多くの人が感じているのではないだろうか。図表1はテレワークの普及度の推移であるが、これまでテレワーク導入が低迷していたことからも、多くのメリットの裏には、我々の業務を阻害する「不便」が存在することが想像できる。そのため、通信網やコミュニケーションツールが進化したから、すべてがテレワークに移行できると考えるのは拙速であると思われる。本稿では、解決すべき課題を個人、チームの両面から考えてみたい。

テレワーク導入状況の推移

オンラインコミュニケーションで発生する「Zoom疲れ」

4月以降、海外で「Zoom疲れ」(zoom fatigue)という言葉が使われはじめ(※1)、オンラインでのコミュニケーションによる精神的な負担が、対面よりも大きいことが分かってきた。オンライン通話での疲労の要因として、

・集中して画面を凝視すること
・画面に映る自身の顔を気にすること ※2
・表情が見えないなかで相手の感情を読み取る必要があること ※2
・少しの間が空くだけでも友好的でない雰囲気になること ※3
・微妙な音の遅れが発話衝突(かぶり)を引き起こすこと ※4

などが、諸々の研究から明らかになった。
弊社が本年3月に実施した「テレワーク緊急実態調査」(図表2)では仕事に関連するストレスや仕事を中断する頻度が減り、生産性が上がったとするポジティブな回答がやや多いものの、業務作業の能率や仕事のストレスが悪化した人もいる(※5)。この調査結果はテレワークを推進する際の期待効果を示すと共に、テレワーク環境において、コミュニケーションの得意・不得意により、順応できる人とそうでない人の明暗が分かれていることを示唆している。

テレワーク環境における生産性の変化

テレワークに順応できる/できないケース

ここで、テレワークに順応できる/できないケースを具体的に見てみよう。

ケース1:ビデオ会議での発言量 「自分から話せる人/話せない人」
数名でのビデオ会議の場面を考えてみると、対面の場以上に積極的で存在感の強くなる人と、息をひそめて気配を消してしまう人の差が大きくなっている。話者や会議の進行役からすれば、本当に聞いているのかさえ分からない、という不安のなか議事を進めなければならない。

相手の話に遠慮し、考えてじっくり話す内向性の強い人は、ビデオ会議においても発言量が少ない傾向があり、対面以上に意識して積極的に発言する必要がある。弊社では、企業向けにソーシャルスタイル(※6)別のトレーニングを提供しているが、日ごろの意識と訓練により誰でも、改善することができる。一方、会議の進行役や周囲が、おとなしいメンバーに対してコメントを促すなど、発言量のバランスを調整することも重要である。大人数の会議では、チャットの併用で、流れを遮らずにコメントできる仕組みなども有効である。

ケース2:上司への相談 「遠慮しない人/遠慮してしまう人」
オフィスであれば、タイミングを見計らい、「ちょっとよろしいですか?」と声をかけて相談できるが、テレワークの場合はアポイントを取って、「会議招集」を送ることになる。しかし、メールで相談するほど整理されておらず、悩んだ挙げ句に「次の機会にしよう……」と相談を諦めてしまう。

上司との5分の相談で解決できることが先送りになり、その結果、報告や決定の遅れや、モヤモヤが解決されずに次の仕事に移れないといった経験をしている人もいるはずである。特に異動したばかりで上司との関係性が薄い場合は、余計に相談のタイミングが難しい。
そこで、お薦めしたいのが、「1on1ミーティング」の設定である。隔週または週に1度30分~1時間程度、面談の時間を設定しておき、メンバーが自由に報告・相談する機会を設ける。この機会を起点に、上司との関係をつくることで相談もしやすくなる。

ケース3:オンとオフの区別「切り替えできる人/長々と仕事してしまう人」
テレワーク(在宅勤務)になると帰宅するという行為がなくなり、食事などの生活と業務時間とをはっきり区別することが難しくなる。移動時間なども削減され、プライベートに時間を割けるようになったと考える人がいる一方で、今まで以上に勤務時間が長くなったという声もある。

働いているメンバーの状況が見えづらいため、特に責任感が強く、真面目な一部の人に仕事が集中してしまうことがある。対応方法の1つとして、図表3にあるような担当している業務やコンディションの見える化が有効である。これは、上司がメンバーの勤務態度をモニタリングし人事評価するためだけでなく、チームでお互いの状況に関心を持ち、サポートし合える体制に意義がある。このようなソーシャル・サポート(※7)はこれまでの研究から、ストレスのかかる状況でうつ傾向や不安を軽減させるなどの効果が示されている(※8)。

チームでのコンディション把握の仕組みとフォーマットの例

最後に

テレワークを急速に進めることになった結果、自分から発信をし、気軽にアプローチができる人は情報システムの力によってさらにネットワークを広げ、活躍の場が広がっていくと考えられる。一方、苦手な人は、存在感が薄くなり、接触する頻度が少なくなってくる。このように明暗の分かれる状況は、チームの生産性を高める上での障害になる。今回のコロナ禍を機会と捉え、オンラインでも活躍できる個人のスキル向上と、チームとしてのサポート体制の両面に目を向けることが必要である。

※1 Google Trendの人気度から推定.
※2 Fosslien & Mollie(2020) . How to Combat Zoom Fatigue. Harvard Business Review April 29, 2020. 日本語版「ズーム疲れ」を防ぐ5つのヒント」ハーバードビジネスレビュー(2020年5月28日号).
※3 Sander & BaumanZoom(2020). Zoom fatigue is real ― here’s why video calls are so draining. ideas.ted.com
※4 玉木(2012)遠隔コミュニケーションにおける発話衝突低減手法. 慶應義塾大学博士論文.
※5 リクルートマネジメントソリューションズ(2020)「テレワーク緊急実態調査」.
※6 1968年にアメリカの産業心理であるDavid Merrill(デビッド・メリル)が提唱した、行動科学に基づくコミュニケーション理論。自己主張度×感情表現度の尺度で4つのタイプに分類し、それぞれの性格的特徴を推測することでビジネスへ応用
※7 ウィルズ(Wills, 1991)によれば、「他者から愛され、大切に思われている、尊敬され、価値を認められている、あるいは相互支援や責任の社会的ネットワークの一員である、などを知覚、経験すること」と定義されている。
※8 リクルートマネジメントソリューションズ(2019)「RMS Message vol.54 2019.05」.p.8.

シリーズ記事

第1回 自律と協働の時代を生きる仕事の進め方
第2回 加速するテレワークの明暗を分ける、チームでのコミュニケーションとは

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