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共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’レポートvol.5

VUCA時代に求められるリーダーとは

  • 公開日:2020/02/17
  • 更新日:2024/04/05
VUCA時代に求められるリーダーとは

VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字を取った言葉だ。変転極まりない昨今の経営環境そのものを指す。そうした時代にはどんなリーダーが求められ、そうしたリーダーはどうやって育成すべきなのか。
今回は、リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブプランナーの井上功がファシリテーターとなり、昨年12月17日に行われた、大手企業の人事を対象にしたセミナーの様子をレポートする。

組織開発に大きく舵を切る
結果の質は関係の質に左右される
同期を社外でつくるという試み
コテコテの関西企業がグローバル経営の先進企業に
求められるリーダー像が激変
人材育成は福利厚生ではなく投資である
組織を変えるにはまずトップから
評価基準の精緻化を目指さず、まずやってみること
若手が社外で得た“熱”を冷まさない工夫
研修の手挙げ制がエンゲージメントに奏功する可能性

組織開発に大きく舵を切る

開始時間の午前10時となり、冒頭、野村證券、武田薬品工業の取り組みが紹介された。最初にマイクを握ったのが、野村證券人材開発部次長の戸崎史絵氏である。

同社がリーダーを含む人材開発の流れを加速させたのが、2011年のことだった。新しく就任したトップが、度重なる不祥事を受け、「会社を根底から作り替える」というメッセージを発したのが翌年のことだ。

2011年、まず国内160店の店長が箱根のホテルに缶詰めになり、あらゆる研修を受けた。そのうち評判がよかったのが、組織開発に関わるものだった。そのノウハウを各支店に広げていくことが決まった。

翌2012年には組織開発に関する情報共有会が社内で発足し、2013年には本社の部門などにも組織開発が波及する。2014年には「未来共創カフェ」と題し、顧客にも加わってもらって未来についての対話を行うワールドカフェが開催された。「現在は1万5000名以上のすべての社員が、何らかの意味で組織開発に携わっている」と戸崎氏が話す。

組織開発に大きく舵を切る

結果の質は関係の質に左右される

なぜ組織開発なのか。背景にあったのが、米マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱する組織の成功循環モデルだった。

組織の「結果の質」を高めるには「行動の質」が重要となる。そのためには「思考の質」が重要であり、それを高めるためには組織における「(人間)関係の質」が決め手になる、というモデルだ。

「それまでの野村は結果の質だけを問う風潮が強く、それが数々の不祥事を招いてしまったという反省があった。関係の質の向上を図るのが、まさに組織開発なのだ。われわれ人材開発部も組織開発研修メニューの充実に努めている。他の研修は担当制だが、組織開発に限っては専任者を設けず、全員が担当という位置付けだ」(戸崎氏)

同期を社外でつくるという試み

そうしたなか、対外発信という意味で、注目すべき取り組みも現れている。2018年7月、青森県八戸市で開かれた「八戸新社会人会議」がそれだ。そこには、同社八戸支店の新人に加えて、八戸地域の企業に勤める新人が参加した。「八戸支店は小規模なので、同期が少なく、寂しくなって辞めてしまう新人が多い。それを防ぐためには、同期を社外でつくってあげればいい、という発想から生まれたイベントだ。講話やグループ討議を通じて、八戸で働く意義を再確認してもらう。支店としても、今まで付き合いのなかった地元企業とつながるという副次的効果が生まれている。これがうまく行ったので、全国の支店でも同じような動きが広がっている」(戸崎氏)

コテコテの関西企業がグローバル経営の先進企業に

続いて、もう一人のスピーカー、武田薬品工業 グローバルHR人材開発・組織開発(日本)タレントディベロップメント・リードの上場啓司氏にマイクが渡る。

同社は創業から238年の歴史を持つ老舗企業だが、昨今はグローバル経営の先進企業として知られる。社員約5万名のうち、日本国内で働くのは約5300名と1割強しかいない。

初めて海外に出たのは1962年のことで、進出先は台湾だった。その後、1980年代から90年代にかけ、国際戦略製品の開発に成功しグローバル事業が拡大。2008年にはアメリカのバイオ・ベンチャー買収に成功。以後、海外企業に対するM&Aを積極的に手掛けるようになった。2019年1月に約6.2兆円という巨費でアイルランドの製薬大手、シャイアーを買収したのは記憶に新しいところだ。

地域別売上は現在、日本が18%、アメリカが50%、欧州およびカナダが19%、その他新興国が13%となっている。上場氏が話す。「当社のグローバル化を最も象徴しているのが経営陣の構成だ。20名いる経営陣のうち、日本人はたった4名。私が入社した20年前はコテコテの関西企業だったから、隔世の感がある」

求められるリーダー像が激変

こうしたグローバル化に加え、経営環境の激変により、求められるリーダー人材の要件が大きく様変わりした。

上場氏いわく、以前は「明るく元気で素直な人材」を積極的に採用し、組織への強い忠誠心を持ち、優れた問題解決力と計画策定能力を備えた、物事の文脈を読めるジェネラリスト型リーダーに育て上げるのが人材開発の王道だった。
「威厳があり、口数は少ないが背中で語るのが、理想のリーダー像だった。右肩上がりの経済成長期で、ビジネスモデルが確立し、しかもマーケットが日本に閉じていた時代はそれでもよかった。今は違う。グローバル化が進み、世界を相手にするようになった。ビジネスモデルも多様化し、イノベーションが常に求められる、まさにVUCAの時代となり、そうした要件は時代遅れになってしまった」(上場氏)

では、今はどのような要件が必要とされるのか。
「常識を前向きに疑い、健全なコンフリクションを喚起することができる。問題解決力に加えて課題設定力に長けている。現場と素直に語り合える。専門性を持ちながら幅広い視点を有し、オープンさと透明性を併せ持つ。求められるリーダー像は180度変わった」(上場氏)

これに従い、理想的なリーダーの行動を言語化した「タケダ・リーダーシップ・ビヘビア」が策定された。具体的には「会社全体の視野でストラテジックに物事を考え」「人を巻き込みエネルギーを与え、パワーを引き出し」「プライオリティを決め」「個人の能力だけでなく、組織・チームの能力を上げることにコミットできる」リーダーである。「これをもとに各種のリーダーシッププログラムが作られている。特に、次世代リーダー育成プログラムは現経営陣がコミットする形で運営されている」(上場氏)

求められるリーダー像が激変

人材育成は福利厚生ではなく投資である

人材育成の意味付けも大きく変貌した。「それまでの人材育成は、社員全員に幅広く提供するという福利厚生的な面が強かったが、それをやめて、『育成は投資である』という方針に切り替えた。結果、階層別研修がほぼなくなり、選抜型に置き換えられた」(上場氏)

さらに重視するのが、人が育つための「5:4:1セオリー」というものだ。どういうことか。「人は、配置転換や抜擢などによって、不慣れで難度の高い仕事をこなすことで育つ。いわゆるOJTであり、その割合が半分ということだ。さらに研修への参加を通じたOFF-JTで育つ割合を1とみなす。

残りの4は上司からのフィードバックやコーチング、同僚との対話など、人間関係のなかでも人は育つことを示している。「ソーシャル・ラーニング(組織学習)」とも言い換えられる。人材育成というと、すぐに研修となりがちだが、それだけでは人は育たない。どのような仕事を割り当てて、それをどのような環境で遂行するか、ということも非常に重要なのだ。例えば、従業員リソースグループ(ERG)として、従業員が自発的に学び活動することを会社として支援しており、女性活躍、LGBTQ+、がんサバイバーなどのグループが活動している。これも重要な組織学習だ」(上場氏)

組織を変えるにはまずトップから

参加者からの質問の時間となった。
最初に、次のような問いが発せられた。「当社も国内市場がシュリンクし、海外に出ていかざるを得ない状況にあり、リーダーに求められる要件が武田と同じように様変わりした。変革を進め、新しいタイプの人材の数を増やしていく場合、どのくらいの社員がそうなったら成功したと考えていいのか。目安が知りたい」

野村證券の戸崎氏が答える。「割合については正直よく分からない。上司と部下との1on1ミーティングの意義などを説いた管理職向け会議を開き、3カ月後にアンケートをとったところ、『1度は試した』と答えた人が7割、『現在も継続して取り組んでいる』と答えた人が3割だった。今はもっと減っているだろう。総じて、1割が変わることを目指すべきではないか」

「割合というより、やり方の問題が大きい」と武田薬品工業の上場氏は言う。「武田で取り組んだのは、トップ層を変えることだった。次世代リーダーとなり得る、新しい人を外から採用しつつ、現有人材を大胆に異動させ新しい経験を積ませる。それを数年続け、今ようやくミドルマネジャーの能力向上トレーニングに取り掛かっている。一気にやっても駄目で、段階を踏むべきだ」

井上が補足する。「スタンフォード大学のエベレット・ロジャーズ教授によれば、先進的な16%の消費者が購入すると、ある製品やサービスが急激に市場に普及するそうだ。それを組織に援用すると、16%の人が変わると組織に大きな影響力を及ぼすのではないか」


評価基準の精緻化を目指さず、まずやってみること

次の質問は、タレントマネジメントに関するものだ。「それぞれの部門長からの推薦でタレントプールを作っているが、その評価基準がすり合わない。うまくやる方法があったら教えてほしい」

上場氏が答える。「武田ではリーダーたちが集まり、パフォーマンスとポテンシャルの2軸で人材についてレビューし、議論しながら育成計画を練るタレントレビューという手法を用いている。パフォーマンスとポテンシャルの両方が高評価の人材をタレントプールの上位に位置付けている。ただ、パフォーマンスはともかく、ポテンシャルを正確に見極めることは簡単ではない。だからといって、評価基準を精緻化することは効果的ではないと考えている。タレントレビューで、リーダーたちが全員で議論することを通じて目線が合っていき、判断軸が共有化される。そのプロセスこそが重要だ。また、評価の正確性を追求することに必要以上に労力をかけない。一旦評価を仮置きして育成計画を立て、実際にチャレンジングな仕事をアサインし、定期的にその結果を踏まえて再度評価し、育成計画を練り直すサイクルを回すことが重要だ」

野村證券でも、ちょうどタレントマネジメントを本格的にスタートさせるところだという。「タレントマネジメントとは別に、異動の有無(ありがA、なしがB)、年俸制(C)で3つに分かれていた総合職の統合も行われる。タレントマネジメントの対象はすべての総合職となる。あの人は旧B職だったという、かつての区分は無視して、真にふさわしいタレントを選べるかが重要だと考えている」

若手が社外で得た“熱”を冷まさない工夫

次々に質問の手が挙がる。「課題遂行型の選抜研修に社員を送る場合、その研修を通じて受講者が得た意欲やエネルギーが、現場に戻るとしぼんでしまうのではないか、という危惧を抱いている。あるいは、せっかく学んだことが実務でどう生かされているのかを探る効果測定も難しい。そこをどうクリアされているかを教えてほしい」

武田薬品工業、野村證券の両社とも、リクルートマネジメントソリューションズ主宰の、異業種の次世代リーダーが集まって新規事業プランを練り上げる共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」に社員を派遣している。上場氏、戸崎氏ともに、その経験から質問に回答した。

まず武田の上場氏だ。「受講者の燃え盛った志を冷まさない、という意味では、Jammin’での学びを受けた形で、社内でのマイプロジェクトを考えてもらっている。『よい刺激になりました』で終わるのではなく、自分の仕事に生かしてもらうところまでやってもらう。
また、効果測定という意味とは少し違うが、上司への情報提供を綿密に行っている。戻って来た受講者を生かすも殺すも現場の上司にかかっているので、部下に受講者がいる上司を一堂に集め、Jammin’の内容を説明しながら、今後起こり得る受講社員の気持ちや行動の変化なども伝え、きちんと受け止めてもらうよう、お願いしている」

続いて野村の戸崎氏だ。「Jammin’に参加する決定打になったのが、研修中の受講社員の様子を綿密に知らせてもらえるという点だった。その情報をわれわれ人事が独占するのではなく、上司にも共有している。新規事業を本気で考えるというプログラムであり、参加者の意識変革が起こりやすい。各上司には、この部下には今は必要ないと判断するならば、われわれの派遣要請を断ってほしい、と伝えてある。

加えて、未来共創推進部という新しくできた部署のリーダーにも話を通し、受講者が Jammin’で得た成果をもとに、『これがやりたい』と提案してきた場合、その部が“受け皿”になってくれるよう、依頼した」

研修の手挙げ制がエンゲージメントに奏功する可能性

最後の質問となった。「人材育成やリーダー開発を、エンゲージメント(愛社精神)の強化に利用したい。実践例があったら教えてもらいたい」というものだ。

上場氏は、ボトムアップ型プロジェクトについて語った。「選抜研修の受講者に募集をかけ、手を挙げたメンバーがチームを組み、ボトムアップで経営への提言を行う仕組みだ。例えば今年は、キャリア開発の新しい方法について彼らが独自に話し合い、経営陣に提言した。経営陣からよいという後押しを得たものは、われわれ人事も協力し、そのための施策が実現に向けて動き出した。これはまさしく、会社に対する彼・彼女らのエンゲージメントを深めているはずだ」

一方の戸崎氏はこう話した。「Jammin’をはじめとした選抜プログラムの受講者は、現在は人事が選んでいるが、これを一部、手挙げ制にしたらどうかと思っている。手挙げを認めることは当人のエンゲージメントの強化に作用するだけでなく、選抜組と手挙げ組が混じることで研修に化学変化が起こることが期待できる」

時刻は午前11時50分を回った。残り10分で、ファシリテーターの井上が話題に出た Jammin’の概要を説明した。

異業種の人事が一堂に会し、1つのテーマを軸にして、さまざまな問いを発し、学び合う。参加者はもちろん、自社事例を発表した戸崎氏、上場氏にとっても、有意義な学びの機会になったと思われる。

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