支店の壁を越えたワークシェアと、人材育成・適正配置・適正評価のために「技術と人事の見える化」をしたかった

市川:私たちは1922年創業の建設コンサルタントで、全国各地の支店が独立して動く風土が伝統的に根づいていました。支店内でチームを組み、各地域のまちづくりに携わる組織体制になっており、支店を超えたチームづくりを行う習慣がありませんでした。支店ごとのカラーにもかなりの違いがあります。
その風土が変わる契機となったのが、2011年の東日本大震災です。東北復興支援のために全国の支店メンバーが集結し、全社協力体制のもとで皆が力を尽くしました。このとき、一時的に支店を越えたチーム編成を行ったことで、はじめて全社的な交流が発生したのです。その現場で、他の支店にも魅力的な人材がたくさんいる、ということを多くの社員が体感しました。その後は本社だけでなく、各支店においても支店の垣根を取り払いたい、全社対応のワークシェアをしたい、という機運が徐々に高まっていました。
しかし当時は、ワークシェアを実現する手立ては、個人の暗黙知しかありませんでした。「東北復興支援のときに一緒になったあの人にお願いしよう」という、属人的なワークシェアしか実現しなかったのです。これではいっこうに広がりません。ですから、技術の見える化は支店側の希望でもありました。
一方で、全社対応が可能になれば、落札できる案件は間違いなく増やせます。経営として、全社的なワークシェアを実現したいと考えるのは当然のことです。
それから、技術の見える化や全社対応を進める背景には、もう1つの大きな課題があります。それは「技術継承」です。これから、豊かな技術や経験を備えた60代の社員が退職していきます。私たちとしては、彼らの技術・経験を若手社員に継承したいのです。全社対応を実現して、社内の技術継承を進めたいというねらいもありました。
望月:「技術と人事の見える化」の第一弾として、私たちは2020年に基幹システムを入れ替えました。これによって、各支店のマネジャーが支店内の配下情報を見ることができるようになりました。また、各メンバーの保有資格の見える化も進めました。ただ、これだけではワークシェアは実現できず、人材育成・適正配置・適正評価にも十分ではありません。それならタレントマネジメントシステムを導入しよう、と意思決定をしました。