自律学習を実現するオンラインでのマネジメント研修 ――「フィールドワーク」と「相互学習」で職場での学びを最大化する

プロジェクト概要

背景・課題

新任の担当係長向け研修は従来、集合研修で実施していましたが、2020年はコロナ禍で開催可否そのものから検討を迫られました。議論を重ね、オンライン形式の長所を最大限に生かし、集合形式以上に学びの質を高めることを目指してオンラインで開催することにしました。

検討プロセス・実行施策

「フィールドワーク」と「相互学習」の重視という2つの新たな提案を受け、研修開発にチャレンジしました。学びのメインフィールドを職場と位置づけ、実践と研修を往復しながら学ぶ「フィールドワーク」。そして職場でのフィールドワーク後に、受講する仲間たちとWEBで経験の分かち合いをする「相互学習」を取り入れ、新たなオンライン研修を完成させました。

成果・今後の取り組み

受講者アンケートでは、行動につながる実践的な学び・気づきを得られたという回答が前年に対して大幅に増加しました。また、フィールドワークの実施率や取り組み姿勢についても手ごたえを感じています。仲間と学び合う仕掛けを盛り込んだプログラムを今後も磨いていきます。

背景・課題

単にオンライン化するだけの研修ではなく、学びの質にこだわる新任担当係長研修を

写真:北澤様

これまで当社では、新任の担当係長を対象に、集合形式の研修を実施してきました。当研修を導入した背景には、2000年から推進した組織のフラット化の反作用として、各職場で発生したマネジメントや人材育成の弱体化が挙げられます。この対策のため、2010年度からスタートした「Opening New Frontiers」と銘打った新たな人事施策の一環として、フラットな組織体制を見直しました。同時に導入したのが当研修で、業務推進の中心となる担当係長を対象に、新たな組織マネジメントのあり方を考えてもらおうと考えました。新任の担当係長が、昇進直後の高いモチベーションと、新しい役割を担うことへの期待・不安・悩みを持ち寄り、リクルートマネジメントソリューションズのファシリテーションのもと、まる2日間、議論し、学びを深める場として継続してきました。

2020年の当研修も、前年のコンテンツをベースに改善を加えて実施する予定でしたが、コロナ禍を受けて、その開催可否自体が検討を迫られました。上記の通り、当研修は、ファシリテーター・受講者間の議論に意義を認めていたため、対面で開催できないという前提条件では、その効果を疑問視する意見が多数でした。しかしながら、リクルートマネジメントソリューションズとの議論を重ね、オンライン研修であることを最大限に生かし、集合形式以上の学びの質の実現を目指すことで合意、当研修のオンラインでの開催を実施することにしました。これは、収束の見えないコロナ禍でも成長を止めてはならない、また、アフターコロナの新しい学び方を見据え、従来の集合形式一本足から進化していくべきという思いによるものです。また、テレワークの定着にともない、メンバーの行動や悩みが見えづらくなり、職場マネジメントの難度が高まってきており、各職場の最前線で奮闘する新任担当係長たちを支援したいというねらいもありました。

オンライン研修には、長所と短所の両方があります。最も大きな長所は、移動にともなう時間とコストを削減でき、これまで以上にフレキシブルな参加形態やプログラム構成が可能になる点です。このため、従来の2日間の連続した時間での受講方法に縛られず、本来、対象者に学んでもらいたいことと、それに必要なアプローチ(回数やタイミング)は何かを明確にし、オンラインの長所を生かして、フレキシブルにプログラムを組み立てることで、集合形式を超える学びの質を実現できるのではと考えました。

一方で、オンラインの会議・研修では、あらかじめ用意した情報の交換・共有は容易ですが、その場で新たな価値や概念を生み出したり議論の次元を上げたりすること、何かを体感して腹に落とすこと、新しい関係性を構築すること……これらはただオンラインにするだけでは実現が難しいため、内容と運営を工夫する必要がありました。これは、軒並みオンライン化を進めていた当社の他の研修でも共通する課題で、リクルートマネジメントソリューションズの力を借り、この点をブレークスルーしたいと常々考えておりました。(北澤様)

検討プロセス・実行施策

フィールドワークの重視はマネジメント研修のあるべき姿と感じた

写真:楊様

研修をオンライン化すると決めたものの、ゴールの到達レベル、つまり新任担当係長に対する期待値を下げるつもりはありませんでした。当研修は、何年も試行錯誤を重ねて改善をしてきたものであり、この質を下げないという目標は、当社の研修企画・事務局メンバー、リクルートマネジメントソリューションズの全員で共有し、研修の開発にあたりました。

リクルートマネジメントソリューションズの皆さんからは、2つの新たな提案をいただきました。1つ目の提案は、学ぶメインフィールドを職場と位置づけ、「フィールドワーク(実践)」を最重視するというものです。オンライン研修の場は、フィールドワークの合間に戻ってきてエネルギーや知恵を補給する「ベースキャンプ」と位置づけ、実践の場と研修の場を往復しながら効果的に学ぶ仕組みにするのです。

この提案は、私たちが考えていたマネジメント研修のあるべき姿と合致しました。人材育成は、職場実践だけでもOff-JTだけでも成り立つわけではなく、両方の場を往復しながら初めて本質的な学びになると信じており、我々人材育成機能は、実践と研修をいかに接続するかを追い求めてきました。リクルートマネジメントソリューションズの提案は、オンラインゆえの強みを生かしてそれを実現するもので、ぜひチャレンジしたいと思いました。

2つ目は、「相互学習」を重視することです。従来の新任担当係長向け研修では、一人ひとりが主体的に学ぶ仕組みになっていましたが、これを同じプログラムを受講する仲間たちで学び合う仕立てに変えるという提案でした。具体的には、職場でのフィールドワークの後、受講する仲間たちとWEB会議を行い(図表1「Act & Review」)、経験を分かち合えるアプローチを取り入れることです。この提案に加え、それをさらに進化させた取り組みとして約600名の受講者が参加する「Basecamp on Teams」を立ち上げ、受講コースごとに投稿・討議ルーム(Teamsチャネル)を設置し、他コースの参加者も自由に出入りできる設定としました。また、フィールドワーク・WEB会議の成果を全受講者が相互確認し、フィードバック・アドバイスできるようにもしました。

これらの試行錯誤を行い、新たなオンライン研修「マネジメント基礎プログラム」を完成させました。3カ月の間に全3回のオンライン研修を行い、その合間に各自のフィールドワークと小チームでの経験の分かち合いを挟む、というプログラムです。(楊様)

<図表1>マネジメント基礎プログラムの全体像

<図表1>マネジメント基礎プログラムの全体像


これなら必ず有意義な研修になる

写真:原田様

こうして完成させたマネジメント基礎プログラムを、2020年7〜9月に、もともとねらっていた対象層である約600名に対して実施しました。

まず感じたのは、事前課題への取り組みが前年までと比べて充実していたことです。事務局から強く呼びかけたことや、事前のWEB学習との相乗効果もあると思います。また、受講者自身も、新型コロナウイルス感染症拡大にともなう環境変化やマネジメントの難しさに対し、戦う武器を欲していたのだと思います。真剣に取り組もうとする姿勢を感じ取ることができました。
また、フィールドワークの実施率が高かったのも特徴です。例えば尊敬する上司やマネジャーに話を聞いてくる「マネジメント・インタビュー」では、多くの受講者が新たな学びやより深い気づきが得られるようなインタビューをしていました。
このように前年までの取り組みとの違いを目の当たりにし、有意義な研修になる期待を抱くことができました。

こうした各受講者の努力は、研修の回を追うごとに、オンラインであってもひしひしと感じることができました。1回目のオンライン研修では、担当者から脱してリーダーになるという覚悟が感じられない受講者が大半でしたが、2回目・3回目と進むうちに、受講者の間にマネジメントを意識してやってみようという意欲の高まりを感じ、手ごたえがありました。(原田様)

企画設計にあたって

経験学習サイクルをベースとした学び合いをオンラインで実現する」
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
ソリューションプランナー 市橋 直樹
開発担当 石橋 慶


デンソー様が目指している「自律学習」からは、決して孤独に1人で学ぶといったことではなく、「個々が高い主体性を発揮しながら日常的に学び、考えることで、それが互いへの刺激となり、シナジーを生みながら意欲的に学び合っていく」、こういった印象を受けています。

そのような「自律学習」を実現するために、「経験学習サイクルをベースとした学び合い」を設計の柱としました。3カ月間にわたって職場でのマネジメントの実践を行いながら、オンラインで互いの実践から学び合い、回を重ねるごとにマネジメントへの意欲や学びを深めていくことを目指しました。

今回の取り組みを通じて、デンソー様と共に工夫を凝らすことで、昨年の受講者から希望として挙がっていた「理想の学び方」を、数多く実現することができました。

<図表2>マネジメント基礎プログラムの研修設計全体像

成果・今後の取り組み

オンラインのメリットを最大限に生かし、「職場での学び」につなげられた

受講者アンケートでは、行動につながる実践的な学び・気づきを得られたという回答は前年より大幅に増加し、86%に達しました。このスコアは、コロナ禍以前の集合研修に対しても高いものでした。
また、フィールドワークの実施率や取り組み姿勢についても手ごたえを感じています。従来は研修のあるわずか2日間における様子しか把握できませんでした。しかし、オンラインでありながら、3カ月間の実践やフィールドワークを繰り返しながら3回もオンライン上で集まるという新しいスタイルでは、受講者の大きな変化を把握することができるようになりました。受講者の変化に合わせてプログラムを微調整することもでき、オンラインのフレキシビリティを最大限に生かすことができました。

仲間と学び合うことの価値は大きい

オンライン研修及び経験共有の場(Basecamp on Teams)を運営するチーム(楊様・原田様・永田様)

今回の研修が気づきになった受講者も多く、研修終了後に継続的に受講者間で研鑽したいという意向を持つ受講者は約97%に達しました。「今後も研修で一緒に学んだ仲間たちと経験の分かち合いをしたい」「研修終了後も『Basecamp on Teams』を残してほしい」という要望もいただきました。2日間の研修での対面のコミュニケーションでも人間関係構築の効果は高かったと自負していましたが、これも前年以上の反応でした。3カ月で3回のオンライン研修の場、そしてその合間のフィールドワークでの相互学習の場において、同じメンバーで何度も会話を重ねた結果、研修の課題だけでなく、普段の仕事の悩みも相談し合うチームになっていきました。これは私たちの想定を超えた効果でした。
1人で学びきれないことは多く、仲間と学び合うことの効果・価値が大きいことを、今回のプログラムで再確認したようです。今回は研修のオンライン化のなかで出てきた仕掛けではありますが、今後も研修形式が何であれ、磨いていきたい部分です。

(写真:オンライン研修及び経験共有の場(Basecamp on Teams)を運営するチーム〈左から原田様・楊様・永田様〉)

受講者の声
写真:藤中様

部下がいなくてもマネジメント行動は起こせると気づいた
法務部・事業法務室 担当係長
藤中 顕子様


研修前は自分にマネジメントの役割が務まるのか、漠然とした不安がありました。また、私は部下を抱えておらず、同じ課に所属する後輩も1人しかいないため、私がマネジメント行動を起こす立場になるのはまだ先のこと、と考えていました。

ところが、マネジメント基礎プログラムを受講して、チームの一人ひとりがマネジメントに参画することが必要なのだとマインドが変わりました。研修で学んだマネジメントのポイントにならって、横のつながりを生み出す仕掛けをつくり、チームの協働を促すようなマネジメント行動を意識して行うようになりました。

研修のマネジメント・インタビューで、尊敬する先輩からアドバイスをいただけたことも大きなきっかけとなりました。その先輩には「今、課のマネジメントをする立場にないなら、自分が参加するプロジェクトをマネジメントしてみたらいい」と教えていただきました。それ以来、マネジメント視点を持ってプロジェクトに関わるようになりました。今は、いずれ自分がマネジャーになったときにどうチームをマネジメントするかを想像しながら、プロジェクト内で少しずつ実践しているところです。

また、「相互学習」の仕組みを活用することで学びが深まりました。同じ課題に取り組んでいても、メンバーの経験・職場の状況などの違いからさまざまな意見が出てくるため、1つの物事をあらゆる観点で考えることができたからです。日々の業務で忙しいなか、1人で自習するのは難しかったと思いますが、仲間たちの存在もあって、積極的に取り組むことができました。

研修のフィールドワークは忙しいと後回しにしがちですが、この研修では学んだ知識を職場に当てはめながら学べるので、研修がマネジメントの疑似体験にもつながります。積極的に参加することで学びも深まると思います。

課長職向けマネジメント研修も同じ仕組みに

形は変わる可能性がありますが、今後もオンラインのマネジメント基礎プログラムを続けていく予定です。決してコロナ禍だけの特別対応というわけではなく、研修と実践を往復でき、「マネジメント研修のあるべき姿」に近づけるオンラインのメリットが大きいと考えているためです。今後もツールの進化と共に、さらに進化させたいです。

課長職向けのマネジメント研修も、リクルートマネジメントソリューションズと共に、同様の仕掛けを盛り込んだオンラインプログラムにしたいと考えています。今回のマネジメント基礎プログラムは、それほどの手ごたえを感じられるものになりました。(楊様・原田様)

企業紹介

株式会社デンソー
先進的な自動車技術、システム・製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカー。スローガンである「地球に、社会に、すべての人に、笑顔広がる未来を届けたい。」を実現するため、「電動化」「先進安全/自動運転」「コネクティッド」に注力し、新しいモビリティの価値を提供すると共に、「非車載事業」として、FA(ファクトリー・オートメーション)や農業の工業化に取り組み、社会・産業界の生産性向上に貢献している。