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インタビュー

早稲田大学 日向野幹也氏、高橋俊之氏

自己決定できる環境づくりが若者の力を引き出す

  • 公開日:2024/04/26
  • 更新日:2024/05/16
自己決定できる環境づくりが若者の力を引き出す

「権限によらないリーダーシップ」という新しいリーダーシップ教育に、学生の関心が高まっているという。学生の力を引き出している「リーダーシップ開発プログラム」(以下、「LDP」)を主導する早稲田大学グローバルエデュケーションセンター教授 日向野幹也氏と同リーダーシップ開発プログラム副統括責任者 高橋俊之氏に、企業におけるZ世代の生かし方や組織成長のヒントを聞いた。

目次
授業運営を担当する学生に積極的に任せる
若手の心理的安全性を確保し実力を発揮しやすくする
個人の成長度に合わせ自己決定と支援のバランスをとる

授業運営を担当する学生に積極的に任せる

LDPは、早稲田大学の全学部・全学年の学生を対象にしたプログラムだ。ここでは、過去に同プログラムを履修した学生のなかから応募者を選抜し、TA(ティーチング・アシスタント)やCA(コース・アシスタント)を任せている。TAはクラスに1人ずつ置かれ、社会人講師と共に登壇するなど授業運営を担当。CAは3~5人でチームを組み、責任講師と一緒に授業内容を考えたり教材を作ったりする役割だ。

「私がリーダーシップ教育に関わり始めたのは、2005年のことです。それまでのリーダーシップは『権限や役職をもつ人が部下を引っ張る』という形で理解されることが多かったのですが、私たちは当時新たに生まれた『権限によらないリーダーシップ』を教えようと模索を始めました。そこで編み出したのが、TAやCAという学生の運営メンバーをフル活用する手法です」(日向野氏)

「学生であるTAにとって、授業運営は簡単ではありません。それだけに、一生懸命に講義を行います。その熱意が伝わるためか、主体的に学ぼうとする受講生が増えたのです」(高橋氏)

当初は教員側がすべての教材を用意し、TAはスライドどおりにシナリオを進める仕組みだった。しかし今は、TAやCAの権限を大きくし、教員は要所でヒントを与えるスタイルに変わった。

「TAやCAは受講生と同世代。受講生がどこでつまずきやすく、どうすればやる気が出るのか知っていることは、授業内容を決め講義を行う際にとても役立っています。また、デジタルツールに慣れている点も強みです。例えば、授業で動画を活用したいと課題を投げかけると、いろいろ工夫して良いものを作ってくれます。彼らの世代が得意な分野は積極的に任せ、教員たちは自分たちが得意な分野に集中する。そういうコラボレーションができるよう、普段から心がけています」(高橋氏)

若手の心理的安全性を確保し実力を発揮しやすくする

日頃からたくさんの学生と触れ合っている日向野氏と高橋氏は、Z世代を高く評価している。

「若いスポーツ選手のインタビューを見ると、一昔前の選手よりも成熟していると感じます。それと同じで、一生懸命に学んだり学外活動に取り組んだりしてきたTAやCAと仕事をすると、彼らがかなりの実力を蓄えていると分かるのです。もし企業がそうした若手の力を生かせなかったら、実にもったいないですね」(高橋氏)

Z世代の実力を引き出す鍵の1つは、共感できるビジョンの有無にあると高橋氏は見ている。

「TAやCAは、金銭的報酬目当てで参加しているわけではありません。彼らはこのプログラムに社会的意義を見いだし、手伝うことで後輩の役に立ちたい、またその過程で自分自身も成長したいと思っているから、一生懸命に自らの役割を果たそうとしているのです。つまりZ世代は、昇給・昇格などより『目に見えないリターン』を重視しているのではないでしょうか」(高橋氏)

一方、Z世代には人目を気にする傾向が強いと日向野氏は指摘する。

「多くの学生は、一生懸命に学ぶ姿を人に見せたがりません。同級生たちから『あいつ、教員のご機嫌をとろうと必死だな』と評されるのを恐れるからでしょう。そこでLDPでは、頑張るのはかっこいいことだし、周囲から認められる方がいいと学生たちに伝えることを大切にしています。授業の場での心理的安全性を確保するわけですね。

この考え方は、企業でも通用するはずです。Z世代の新入社員が新たな提案を行ったとき、皆の前であら探しをして論破したりしたら、次からは誰も提案なんてしません。まずは感謝を伝え、その上で足りない点があれば一緒に考える。そうやって成功体験を積み重ねていけば、若い世代は実力を発揮できると思います」(日向野氏)

個人の成長度に合わせ自己決定と支援のバランスをとる

日向野氏と高橋氏は時に、受講生にTA役をさせることがある。最初は戸惑うものの、彼らは見事に変身してTA役をこなしていくそうだ。

「Z世代は自己決定を重視しています。だから彼らに自己決定できる環境を与えれば、爆発的なパワーを発揮できるのですよ。さらに、個人だけではなく仲間と一緒に自己決定させれば、もっと大きな成果が期待できるはずです」(日向野氏)

ただし一方で、若手が周囲に支援を求められる環境を用意することも大切だ。

「何でも自分1人でこなせるのが偉いと教わってきた学生は、決して少なくありません。そのせいで、優秀な若手ほど周囲に助けを求めるのが下手な傾向があります」(日向野氏)

「そこでLDPの初回では、周囲に助けを求めることが大切だと強調します。また、十分な支援を与えつつ、『教えすぎ』にならないように注意も払いますね。子どもに自転車の乗り方を教えるとき、親は『手を離してないよ』と言いながら自転車から徐々に手を離していきます。それと同じで、若手の成長度に合わせてサポートの力加減を調整することが、上司には求められるでしょう」(高橋氏)

成果主義が広がり時短が加速する現代の企業では、若手をサポートしつつ自律的な成長を促す余裕をもつことが難しくなっている。しかし、若手に成功体験を積ませながら、上手に育成する工夫が必要だというのが、日向野氏と高橋氏の意見。

「若手の成長度を数字で測るのは構いませんが、そこだけに目を奪われると冒険ができなくなります。売上などの『フロー型成果』だけでなく、顧客との関係性改善といった『ストック型成果』に注目する。あるいは、長期的な成果で若手を評価するなどの工夫を取り入れてほしいです」(高橋氏)

「マネジメント層の世代は、人を褒めるのがうまくありません。一方、若い世代は他者への感覚が鋭敏だし、ポジティブなフィードバックが上手。LDPでも学生同士が『すごいね!』などの声を掛け合い、モチベーションを高めています。そういったZ世代の長所を生かすことが、企業に明るい未来をもたらすかもしれません」(日向野氏)

【text:白谷 輝英 photo::伊藤 誠】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.73 特集2「Z世代と共に創る未来」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE

日向野 幹也(ひがの みきなり)氏
早稲田大学グローバルエデュケーションセンター教授

東京大学経済学部卒業、同大学院社会科学研究科博士課程修了、経済学博士。東京都立大学、立教大学を経て、現職。専門は「リーダーシップ開発」。

高橋 俊之(たかはし としゆき)氏
早稲田大学グローバルエデュケーションセンター リーダーシップ開発プログラム副統括責任者

一橋大学法学部卒業、ミシガン大学MBA。情報機器系ベンチャー企業、グロービス・マネジメント・スクール統括責任者などを経て、独立。2020年より現職。

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