インタビュー
多摩大学 初見 康行氏
3種の対話サイクルがキャリア形成活動の充実につながる
- 公開日:2023/10/30
- 更新日:2024/05/16
初見康行氏は、若手社員の早期離職問題やキャリア教育を研究する専門家だ。初見氏によれば、新卒時の就職活動には「3種類の対話」があり、学生がその対話サイクルを何度も回すことがキャリア形成活動の充実につながるという。その内容について具体的に伺った。
インターンシップは体験ベースの新しい対話形式だ
今、若手社員の早期離職が多くの日本企業の人事課題の1つになっています。私は早期離職と新卒就職活動の両方を研究していますが、早期離職を減らすためには、社会全体として企業と学生のマッチング精度をもっと高める必要がある、というのが私の見方です。そして、マッチング精度を高めるための現実的かつ有効な手段が「インターンシップ」だと考えています。
今の学生は新卒就職活動で「3種類の対話」を行っています。1つ目は自己分析や適職診断などの「自己探索」で、自分との対話と捉えることができます。2つ目は業界分析・企業分析などの「環境探索」で、外部情報との対話といえます。
3つ目が、インターンシップをはじめとする「体験型探索」です。体験ベースの新しい対話形式です。インターンシップで仕事を体験しながら、社員の皆さんや他大学の学生たちと対話すると、自己探索や環境探索も深まる効果が考えられます。
私は就職活動を始める学生たちには、「まずはインターンシップを一度体験してください」と必ず話します。学生から「自分が何に向いているか分かりません」とか「企業や職種をどう選んでいいのか分かりません」といった相談を受けたら、「手始めとしてインターンシップにいくつか参加するといいですよ」とアドバイスしています。早期のインターンシップ参加を促すため、私のキャリアデザイン講義の授業は、WEBインターンシップへの参加を単位取得要件の1つにしているほどです。
なぜ私がこれほどインターンシップを推すかといえば、インターンシップを通して、企業や仕事について感覚的・体験的に理解するのが一番手っ取り早いからです。学生にはあまり受けがよくない例えですが、恋愛のときに一度デートしてみると、相手のことがいろいろと分かるのと同じことです。また、就職活動を始める前の学生は、多くが就職活動に対する恐れを抱いていますが、その恐れは、一度インターンシップに参加するだけで解消されるケースが多いのです。その意味でも、早期に体験してみることが大切です。
新卒就職活動では、以上の3種類の対話サイクルを何度も回すことが大事です。例えば、まずインターンシップに参加して仕事を経験しながら、企業の皆さんや他大学の学生たちと対話します。次に、大学に戻って友達や先生、就職課のキャリアカウンセラーなどにインターンシップの感想を話し、自己分析を行います。その上で、改めて興味のある業界・企業を分析するのです。人によって対話の順番は異なるかもしれません。また、順番に絶対の正解があるわけではありません。しかし、こうやって対話サイクルを回すことが、キャリア形成活動の充実につながるはずです。
キャリア形成活動を1年生から始めた方がよいのでは
私が今、対話サイクルの回転数や充実度を高める上で注目しているのが、「キャリア形成活動の早期化」です。つまり、大学1・2年生のうちから、就職や仕事について学び始めた方がよいのではないか、と考えているのです。
もちろん、それが就職活動の早期化につながってはいけません。しかし現状は、キャリア形成活動があまりにも大学3年次に偏りすぎています。社会人経験のない学生たちが、果たしてたった半年や1年で、自分に最適な企業・仕事を見極められるのでしょうか。私はおおいに疑問に思っています。キャリア形成活動期間をもっと長くすれば、学生たちは企業・職業選びの質を高められるのではないか、と考えています。
具体的には、例えば1年生後期からタイプ1(オープン・カンパニー)を始め、2年生でタイプ2(キャリア教育)、3~4年生でタイプ3(汎用的能力・専門活用型インターンシップ)やタイプ4(高度専門型インターンシップ)のインターンシップを受けるのです*1 。すでに一部で始まっていますが、意欲の高い学生は2年生からインターンシップを受ける選択肢があってもよいでしょう。
そうすれば、学生は約3年にわたって、就きたい仕事は何か、就職したい企業はどこかをじっくり考えることができます。また、タイプ1から段階的に場を用意していけば、学生がキャリア形成活動の第一歩を踏み出しやすくなる効果も期待できます。タイプ1やタイプ2を少し受けるくらいなら、学業の妨げになる心配もないはずです。
*1 タイプ1 ~ 4は、採用と大学教育の未来に関する産学協議会による学生のキャリア形成支援活動4類型
インターンシップに参加すると学生の学習意欲が高まる
私がキャリア形成活動の早期化を後押しする背景には、別の理由もあります。定量的検証によって、インターンシップに参加すると、学生の学習意欲が高まり、一生懸命学ぶようになる傾向があることが分かりました。実は、就業体験には教育効果があるのです。この効果は、大学の専門・専攻(大学での学び)とインターンシップの内容が近いほど高まることも分かっています。インターンシップほどではないかもしれませんが、オープン・カンパニーやキャリア教育にも同様の効果があることが推測されます。
これからの大学には、こうした外部での就業経験を大学教育に取り込んでいく姿勢が必要になるのではないでしょうか。キャリア形成活動の早期化は、実は大学教育にも大きなメリットがあるのです。
ただし、企業が大学1・2年生向けのキャリア形成支援イベントを行うにあたっては、採用以外の目的を見つける必要が出てくるかもしれません。目的を採用だけに絞れば、企業が大学1・2年生向けにイベントを企画するメリットは現状ほとんどないからです。その目的は、企業によって違うでしょう。若手社員にメンター経験を積ませるため、自社のエバンジェリスト育成のため、ブランディングやCSRの一環など、さまざまな可能性が考えられます。いずれにしても、近い将来、企業が採用以外の目的をもちながら、大学1・2年生向けのオープン・カンパニーや、インターンシップなどを行う流れになっていくのがよい、と考えています。
【text:米川 青馬 photo:柳川 栄子】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.71 特集2「企業と学生の相互理解を深める『対話型採用』」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
初見 康行(はつみ やすゆき)氏
多摩大学 経営情報学部 准教授
2017年一橋大学大学院商学研究科博士取得。リクルートHRマーケティング、いわき明星大学教養学部准教授などを経て、2018年より現職。著書に『若年者の早期離職』(単著・中央経済社)、『人材投資のジレンマ』(共著・日経BP日本経済新聞出版)などがある。
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