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調査レポート

治療と仕事の両立に関する調査

治療しながら働く人が抱える課題と職場に求められる関わりとは

  • 公開日:2024/08/26
  • 更新日:2024/08/26
治療しながら働く人が抱える課題と職場に求められる関わりとは

働く世代にとって、思いがけない疾病に見舞われたときに仕事の継続についてどう感じるのか、何に困りどのような周囲の働きかけが支えとなるのか、といった実態を知っておくことは、自分がその困難に直面したときのいくらかの備えとなり、また、疾病を抱えて働く職場の仲間に対して何ができるかを考えるきっかけとなるだろう。そこで今回は、疾病を抱え継続的に治療を行いながら働いている会社員376名を対象に、治療と仕事の両立に関する調査を行った。

調査概要
両立で重視することも課題も発病からの期間で異なる
会社の施策で役立ち度が高いのは柔軟な働き方支援の制度
約2割が職場の誰にも相談できていない
本来の主体性や自律性の発揮を促進する支援のあり方とは

調査概要

継続的な治療を伴う困難な疾病といっても、疾病の種類、病状や治療の状況は、多岐にわたる。今回の調査では、「反復・継続して治療が必要で、短期(数カ月程度)で治癒しない疾病」として、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、その他難病、不妊などの身体疾患、うつ病、双極性障害、統合失調症、認知症などの精神疾患を抱えながら仕事を継続している20~50代の会社勤務社員を対象とした。また、治療と仕事を両立する上で、本人の重視することや課題感を知るだけでなく、会社や職場はどのような支援や関わりができるかを検討したいと考えたため、「上述の疾病に適切な治療を受けながら、仕事を継続するにあたって、お勤めの会社や職場からの何らかのサポートが必要・どちらかといえば必要」と答えた人に対象を限定した(図表1)。年代は、20~30代、40代、50代の3群がなるべく均等になるように回収した。疾病の種類は、身体疾患が57.4%、精神疾患が39.4%で、身体疾患は糖尿病、がんがそれぞれ15%以上であった。

<図表1>調査概要「治療と仕事の両立に関する調査」

調査概要「治療と仕事の両立に関する調査」

回答者の置かれている状況として、「治療期間」(現在治療中の疾病について、診療や治療を受け始めてからどのくらいの期間が経過したか)と、「病気や治療にともなう働き方の変更」を図表2に示した。

<図表2>治療期間・働き方の変更の状況〈n=376〉

治療期間・働き方の変更の状況

「治療期間」は、3年以上が54.0%と多く、1年未満が25.5%、1年以上3年未満が20.5%である。治療期間と疾病の種類との間には関係が見られ、精神疾患では3年以上が66.2%と多かった。治療期間と年齢群との間に有意な関係は見られなかった。

「働き方の変更」では、「仕事内容の変更」が35.1%、「一定期間の休職」が34.3%と多い。「一定期間の休職」は、従業員規模300名以上の会社で勤務する人では出現率が40%以上だった一方で、299名以下では20.0%であった。企業規模による制度の充実度の違いを示している可能性が考えられる。

両立で重視することも課題も発病からの期間で異なる

回答者の概要を踏まえた上で、まず、「治療と仕事の両立にあたり重視すること」と「就業継続上の課題」について、回答者の治療期間別に見ていく。病気に罹患し治療を始めて間もない時期(1年未満)、病状の変化に応じてさまざまな治療や働き方を模索する時期(1年以上3年未満)、治療の期間が長くなり課題がさらに変化する時期(3年以上)と想定し、重視することや課題の違い、その変化を検討した。

図表3は、「治療と仕事の両立にあたり重視すること」について、全回答者の選択率の高い順に示している。

<図表3>治療と仕事の両立にあたり重視すること
適切な治療を受けながら仕事を継続する上で、現在、あなたにとって重要なことは何ですか。
〈複数回答:優先度の高いものを5つまで選択/n=376/%〉

治療と仕事の両立にあたり重視すること

約6割が「1.生活のために必要な収入を維持すること」「2.心身共に無理せず仕事を続けられること」を選び、収入と体調の維持が、同程度に特に重視されていることが分かる。納得できる結果に思えるが、この傾向は1年未満群ではやや異なる。これら2項目の選択率は約4割にとどまり、「3.仕事の関係者の理解や協力が得られること」「4.病状に応じて、柔軟に仕事内容や働き方を調整できること」といった人間関係や業務遂行の維持が同じく約4割選ばれている。3年以上群は、他群に比べて1.の収入維持が70.9%と高い。また、「7.職場に居場所があると感じられること」は35.5%だが、1年未満群と比べて15ポイントほど高い。上述の傾向について、疾病種類による違いは見られなかった。

続いて図表4では、「就業継続上の課題」をどのように感じているか、図表3と同様に治療期間別に示した。

<図表4>就業継続上の課題
適切な治療を受けながら自分の望む就業を続けることに関して、現在、どのようなことに困っていますか。
〈複数回答:優先度の高いものを5つまで選択/n=376/%〉

就業継続上の課題

1年未満群、1年以上3年未満群で最も多いのは、「1.仕事へのモチベーションが低下している」で4割近くが選択した。図表5は、特に困っていることを具体的に記述してもらった内容だが、病気や治療により以前に比べてやる気や集中力が低下していることが困りごととして挙げられている。

1年未満群では、次いで「7.これまで通りに仕事の成果を上げられない」「11.会社や職場に迷惑をかけるのが心苦しい」が多い。これまでできていたことが急にできなくなり、人間関係や業務遂行の面で、心苦しさや不甲斐なさを感じていることが分かる。

1年以上3年未満群は、全体に他群より課題の選択率が高い。1.のモチベーション低下に加えて、治療・体調面の「3.治療や通院のための時間がとりにくい」「2.体力的にきつい」の選択が35%以上と多く、「5.治療やその副反応がつらい」も他群と比べて選択率が高い。加えて1年未満群と同様に、7.や11.の業務遂行面や人間関係の課題を抱える人も多い。なお、3.5.については、がん、不妊、難病の人の、7.については、がんの人の選択率が特に高かった。

3年以上群で、最も多いのが「6.治療費や収入の減少など金銭面の心配がある」である。図表5の自由記述からは、長い治療期間で費用がかさみ、経済的な困難さが高まっていること、収入を減らさないために、望ましい働き方を選択しにくいというジレンマがあることが分かる。先述の「重視すること」で「1.生活のために必要な収入を維持すること」が高かったことは、この課題との裏表であるといえよう。

図表5の自由記述では、上記に取り上げた以外に、「病気や治療の状況をうまく説明できない」「周囲の理解が得られない」といったコミュニケーション上の難しさも多く語られている。周囲への相談や、上司や職場による支援や理解については、レポート後半(図表7以降)で改めて述べることとする。

<図表5>就業継続上の課題〈自由記述から抜粋〉
適切な治療を受けながら自分の望む就業を続けることに関して、特に困っていることを具体的に教えてください。

就業継続上の課題

会社の施策で役立ち度が高いのは柔軟な働き方支援の制度

次に、会社としての制度や取り組みに関しての結果を見ていこう。厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」などを参考に14の施策をピックアップし、お勤めの企業で「1.現在、制度や取り組みとしてあるもの」「2.そのうち、あなたが治療と仕事を両立する上で役立っているもの」を選択してもらった。

図表6は、横軸を「自社にある」と答えた割合、縦軸を「自社にある」と答えたうち「役立っている」と答えた割合として、14施策をプロットした。

<図表6>会社の制度や取り組みの有無と役立ち度
現在お勤めの会社での、健康確保や治療と仕事の両立支援のための制度・取り組みについて伺います。
1. 現在、制度や取り組みとしてあるもの
2. そのうち、あなたが治療と仕事を両立する上で役立っているもの
について、あてはまるものをすべてお答えください。

〈複数回答/n=376/%〉

会社の制度や取り組みの有無と役立ち度

3割以上が「ある」と答え、比較的多くの企業で実施されているのは、「両立支援の理解促進」にあたる「1.健康重視の基本方針」「2.両立支援制度の周知」や、「両立支援の制度」にあたる「5.長期の病気休業制度」「6.通院・治療のための柔軟な休暇制度」、「柔軟な働き方の制度」の「11.テレワーク制度」「12.フレックスタイム制度」の6施策である。そのうち、「5.長期の病気休業制度」「6.通院・治療のための柔軟な休暇制度」「11.テレワーク制度」「12.フレックスタイム制度」は、「役立っている」が約7割である。これらは広く導入されており役立ち度も高い。

一方、その他の8施策は導入が2割前後とあまり高くない。しかし、そのうちの「4.支援者との交流機会」「14.みなし労働時間制度」「8.就業中の治療時間や場所の確保」「7.主治医との連携」「9.相談窓口の設置」は、5割以上が「役立っている」としており、今後さらに導入を促進したい施策だといえる。

図表7は、役立っていると答えた割合を治療期間別に示したものだ。

<図表7>治療と仕事を両立する上で役立っている制度や取り組み〈複数回答/n=376/%〉

治療と仕事を両立する上で役立っている制度や取り組み

前述で就業上の課題が他群より多く見られた1年以上3年未満群は、「両立支援の制度」の「7.主治医との連携」「6.通院・治療のための柔軟な休暇制度」「5.長期の病気休業制度」、「柔軟な働き方の制度」の「11.テレワーク制度」「12.フレックスタイム制度」について、役立ったと答える人が8割を超え、そのうち「7.主治医との連携」は、これらに次いで多かった「10.復職のためのリハビリ勤務制度」と共に、他群より有意に選択率が高い。一方、1年未満群では「1.健康重視の基本方針」が8割にせまり、他群より多い。発病して初めて、通院や治療のために時間を調整したり職場の理解を得たりするにあたり、会社が方針を示していることは大きな支えと感じられるのだろう。3年以上群は、「12.フレックスタイム制度」「11.テレワーク制度」が7割を超えた。しかし、他群より有意に選択が多いものはなかった。治療期間が長い場合により必要とされる施策については、今後、検討の余地があるかもしれない。

約2割が職場の誰にも相談できていない

ここからは、職場の支援や理解について検討していく。図表8は、現在の勤務先で、自身の病気や治療について、周囲の人に報告や相談をしたことがあるかを聞いたものだ。治療期間別に分布の差は見られなかったため、376名の傾向を示している。

<図表8>職場での周囲への相談
現在のお勤め先で、ご自身の病気や治療について、周囲の人に報告や相談をしたことがありますか。
〈複数回答/n=376/%〉

職場での周囲への相談

相談先の種類で最も多いのは「1.上司(66.2%)」、次いで「2.人事・相談窓口(43.4%)」「3.会社の支援職(42.3%)」だった。一方、「4.同僚」「5.経験者や現在同じような状況にある社内の人」「6.部下」は39.4%、23.4%、21.5%とより少なく、「相談したことがある」より「相談したことがない」が多かった。

相談先の種類の数としては、3カ所が21.3%と最も多く、次いで2カ所(20.2%)で、誰にも相談していない人は19.4%だった。相談していない理由の自由記述では、「適切な相手がいない・分からない」の他に、「報告・相談しづらい雰囲気がある」「報告・相談により不利益が生じる可能性があると感じる」などが見られた。

誰にどこまで報告や相談をするかは、本人の希望により選択されるものであるが、必要なときに、相談できたり話を聞いてもらえたりする相手が社内にいることは、治療や仕事の困りごとを解決するだけでなく、社会的なつながりや居場所感を得られる機会となるだろう。

図表9は、勤務先の人の対応や言動で「嬉しかったこと」「嫌だったこと」の自由記述を抜粋したものだ。

<図表9>嬉しかったこと、嫌だったこと〈自由記述から抜粋〉
治療と仕事を両立していく上で、お勤め先の人の対応や言動で嬉しかったこと、助けになったことはありますか。
治療と仕事を両立していく上で、お勤め先の人の対応や言動で嫌だったこと、不適切だと感じたことはありますか。

嬉しかったこと、嫌だったこと

「嬉しかったこと」では、「仕事の調整」「積極的な状況把握」といった実際的な支援だけでなく、「安心できる声かけ」「変わらない態度」「親身な対応」といった情緒的な支援が支えとなったことを示している。一方、嫌な経験としては「状況を理解しようとしない」「無理を求める」などのコメントがあった。支援する側に知識や余裕がなければ、こうした対応が増え、報告・相談を躊躇する一因となると考えられる。

本来の主体性や自律性の発揮を促進する支援のあり方とは

では、こうした職場からの支援や理解(支援の実現度)は、適切な治療を受けながら自分の望む就業を実現できること(両立の実現度)にどう関係するだろうか。

「支援の実現度」「両立の実現度」をそれぞれ5件法で尋ねたところ、両者ともに、「5.とてもあてはまる」「4.あてはまる」の合計が約60%、「3.どちらともいえない」が約25%、「2.あてはまらない」「1.全くあてはまらない」の合計は約15%だった。両者の関係を示したのが図表10である。支援の実現度への回答ごとの両立の実現度の平均値を見ると、「支援の実現度」が高いほど「両立の実現度」も高いと感じていることが分かる。

<図表10>支援と両立の実現度〈単一回答/n=376/%〉

支援と両立の実現度

図表11では、両立の実現度に影響する要因について、より細分化して検討した。

<図表11>両立の実現度に影響する要因

特に強い影響が確認されたのは、「上司の両立支援リーダーシップ」(「仕事が私生活や健康に与える影響を本当に心配してくれる」など6項目、6件法、α=.96)と「職場のインクルージョン風土」(「今の職場では、仕事上の役割だけでなく、個々人の事情や性格も大切にされている」など3項目、6件法、α=.93)である。それぞれについて、高群と低群の「両立の実現度」を比較したところ、高群が低群に比べて有意に高い結果が見られた。同じく図表11で示した「就業継続上の課題」の有無と「両立の実現度」の関係では、治療・体調の困難の有無以上に、「職場に居場所がないと感じる」「職場で期待されていないと感じる」群では、両立の実現度が低い傾向が見られる。これらから、両立の実現には、上司や職場の理解や支援、職場での良好な関係性の維持が、重要な要因となることが推察される。

会社の施策として、その有無が両立の実現度に関係することが確認されたのは、「1.健康重視の基本方針」「2.両立支援制度の周知」「3.研修や勉強会の開催」といった「両立支援の理解促進」に関するものだった。これらが行われている群は、そうでない群に比べて両立の実現度が高い傾向があった。会社全体の方針や発信は、上司や職場の支援にも影響を与えることから、その重要性は大きい。

会社・上司・職場の支援について見てきたが、最後に、本人が、適切な治療をしながら自分の望む就業を続けるために心がけていることを尋ねた自由記述が図表12である。

<図表12>心がけていること〈自由記述から抜粋〉
適切な治療をしながら自分の望む就業を続けるために、あなたが心がけている「コツ」「工夫」があれば、具体的に教えてください。

心がけていること

「思い切った援助要請」「早めの連絡相談」「こまめな業務共有」など、周囲への主体的な働きかけに関するもの、「ペースを守る」「メリハリをつける」といった心身を守るための仕事への取り組みのセルフコントロールに関するものが多く見られた。両立の実現は、自身のキャリアを自律的に歩んでいくための1つのトピックであり、周囲の支援だけでなく、こうした本人の取り組みが大事なのは言うまでもないことだろう。しかし、困難な状況にあるとき、これまでのように周囲への主体的な働きかけや仕事への取り組みのセルフコントロールを行うのは容易ではない。働く人の多くが、いずれかのタイミングで突然疾病に見舞われ、今回の調査にあるような困難に直面する。そのようなとき、1人で抱え込まずに、時間をかけながら、本来の主体性や自律性を発揮し、新たに自分らしい働き方を選択していけるよう、会社として、上司や同僚として何ができるか、私たち皆の問題として考えていくべきことは多いだろう。本調査が、意外と身近にいるであろう両立者の経験を聞いたり対話したりするきっかけとなれば嬉しい。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.75 特集1「ワークヘルスバランス-治療しながら働く」より抜粋・一部修正したものである。

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組織行動研究所
研究員

佐藤 裕子

リクルートにて、法人向けのアセスメント系研修の企画・開発、Webラーニングコンテンツの企画・開発などに携わる。その後、公開型セミナー事業の企画・開発などを経て、2014年より現職。研修での学びを職場で活用すること(転移)、社会人の自律的な学び/リスキリング、経験学習と持論形成、などに関する研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集などに携わる。

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