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調査レポート

人事データ活用に関する実態調査

経営・人事や従業員に有益な人事データ活用とは

  • 公開日:2023/05/29
  • 更新日:2024/05/16
経営・人事や従業員に有益な人事データ活用とは

昨今、ピープルアナリティクス、HR アナリティクスへの関心が高まるなど、エビデンスに基づく人材マネジメント(エビデンス・ベースドHRM)を推進し、人的資本を高めようとする企業が増えている。本調査では、エビデンスの1 つである人事データの活用を「組織・人材に関するさまざまなデータを用いた、現状把握・分析・意思決定・実行・振り返りなど一連の活動」として広く捉え、その実態、課題について、人事管理職325 名のアンケートを基に明らかにしていく。

目次
調査概要
現在把握・今後重視の指標 エンゲージメントが最多
さまざまに取り組まれている人事データ活用場面
人事業務効率化に役立つも対従業員の活用はこれから
分析・活用スキル不足に課題 役割や役立ち度による違いも
課題解決への壁 多角的なデータ活用の必要性
実践知と学術的知見を統合した人事データ活用へ

調査概要

調査概要は図表1のとおりである。自社の人材マネジメントの全体像を把握している人事管理職を対象に、勤務先企業における人事データ活用について回答を求めた。

<図表1>調査概要「人事データ活用に関する実態調査」

<図表1>調査概要「人事データ活用に関する実態調査」

本稿では、役割の違いから、本社人事と部門人事に分けて結果を紹介する。本社人事は「本社スタッフで人事を専門に担う部門に所属」「本社スタッフで総務、経営企画、グローバル企画など人事部門以外に所属」を選択した227名、部門人事は「事業部内または工場などの部門・拠点に所属」を選択した98名である。

担当している人事業務(複数回答)は、「採用」(本社人事62.6%、部門人事59.2%)、「人材開発」(同64.3%、54.1%)、「組織開発」(同51.1%、45.9%)、「配置・異動」(同51.5%、52.0%)で選択率に統計的な有意差はなかった。本社人事の選択率が高かったのは「人事制度企画」(同43.6%、8.2%)、「HRテクノロジー・人事データ活用に関する業務」(同30.4%、7.1%)、「人的資本開示に関する業務」(同26.4%、7.1%)、部門人事の選択率が高かったのは「評価、昇進・昇格」(同64.8%、75.5%)、「労務管理」(同50.7%、62.2%)である。なお、企業属性(従業員規模、製造・非製造、日系・外資、上場・非上場)、回答者個人属性(年齢、役職)においては、群間で有意な差は確認されていない。

現在把握・今後重視の指標 エンゲージメントが最多

まず、人事としての活動のプロセスや成果を測定するデータとして、どのような指標を用いているのかを確認した。20の指標に対して、「現在把握しているもの」(図表2)および「現在重視しているもの」「今後重視したいもの」をそれぞれ選択してもらった(複数回答)。指標は、過去に弊社で実施した人材マネジメント実態調査(2018、2021)、人的資本情報開示に関するガイドラインISO30414、女性活躍推進法に基づく公表事項などを踏まえた項目とした。

<図表2>人事に関するモニタリング・成果指標(役割別)

<図表2>人事に関するモニタリング・成果指標(役割別)

「現在把握しているもの」としては、両群共に、「1.従業員エンゲージメント・従業員満足度・コミットメント」(本社人事68.3%、部門人事60.2%)の選択率が最も高かった。「17.時間外労働時間」(同59.9%、60.2%)、「18.有給休暇取得率」(同60.4%、55.1%)、「2.経営・リーダーシップに対する信頼度」(同54.6%、55.1%)、「20.離職率」(同51.5%、41.8%)についても多く選択され、群間で有意差はなかった。一方、生産性・コスト、多様性、採用に関する指標の多くは、本社人事の選択率が高かった。役割によるモニタリング指標の違いがうかがえる。

「今後重視したいもの」については、両群共に、「1.従業員エンゲージメント・従業員満足度・コミットメント」(同44.9%、34.7%)の選択率が最も高く、「2.経営・リーダーシップに対する信頼度」(同27.3%、24.5%)がそれに続いた。3番目に多いのは、本社人事では「10.女性管理職比率」(同25.1%、14.3%)、部門人事では「20.離職率」(同24.2%、23.5%)である。

「現在重視しているもの」との比較において、重視度が変化している指標もあった。「現在重視」より「今後重視」の選択率が高くポイント差がプラスに最も大きかったのは「6.教育投資に対するリターン(ROI)」(現在重視:本社人事13.7%、部門人事3.1%/今後重視:同20.7%、9.2%/今後-現在の差:同7.0ポイント、6.1ポイント)である。逆にポイント差が最もマイナスだったのは「17.時間外労働時間」(現在重視:本社人事33.5%、部門人事34.7%/今後重視:同19.8%、20.4%/今後-現在の差:同-13.7ポイント、-14.3ポイント)である。法改正により上限規制が設けられるなど時間外労働時間を把握・重視する動きは今後も変わらないと思われるが、人的資本の情報開示の流れに伴い、教育投資に対する着目度・重視度が相対的に高まっていることが推察される。

さまざまに取り組まれている人事データ活用場面

次に、15の人事データ活用場面を挙げて、「すでに取り組んでいるもの」(図表3)、「今後取り組みたい、さらに強化したいと思うもの」をそれぞれ選択してもらった(複数回答)。

<図表3>人事データ活用場面(役割別)

<図表3>人事データ活用場面(役割別)

すでに取り組んでいるものとしては、両群共に「14.ストレスマネジメント」(本社人事55.5%、部門人事48.0%)が最も選択されていた。制度として普及・定着してきたストレスチェックのデータ活用や、コロナ禍において従業員のコンディション把握が進んできたことの表れかもしれない。続いて、先述の指標として最多の選択率だった「11.従業員のエンゲージメント・働きがいの実態把握」(同48.0%、41.8%)が選ばれている。「4.成果を上げている管理職・一般社員の特徴把握」(同47.1%、42.9%)、「10.従業員のスキル・能力の把握」(同47.1%、42.9%)といった従業員のパフォーマンスを高めるための取り組みについても、両群共に多く選択されていた。

役割によって有意差が確認されたのは「1.応募書類・面接評価・適性検査データなどを用いた選考プロセスの振り返り」(同48.0%、29.6%)、「5.昇進選考時の評価と昇進後の活躍の関係分析」(同38.8%、25.5%)、「6.適材適所のための候補者や異動先のレコメンデーション」(同37.4%、27.6%)、「8.研修効果の測定」(同38.3%、27.6%)で、本社人事の選択率が高かった。全社としての人材パイプラインや生産性に対する関心の高さがうかがえる。

今後取り組みたい、強化したいものとしては、両群で1位「11.従業員のエンゲージメント・働きがいの実態把握」(同39.2%、31.6%)、3位「4.成果を上げている管理職・一般社員の特徴把握」(同32.2%、28.6%)は共通していた。本社人事では2位に「9. 360度フィードバック(多面評価)の活用」(同34.4%、20.4%)が、部門人事では同率1位に「15.離職理由の把握や離職防止の取り組み」(同28.6%、31.6%)が選択されている。本社人事ではツールを活用して人材を多面的に捉える取り組みが、部門人事では先述の今後重視したい指標同様に離職に関する取り組みが関心を集めているようだ。

人事業務効率化に役立つも対従業員の活用はこれから

これらの人事データ活用は何に対してどの程度役に立っているのだろうか。「人事業務の効率化」「経営・人事の意思決定の質の向上」「従業員経験の質の向上」の3側面、7項目を用いて役立ち度を尋ねた(図表4)。個々の活用場面ごとに目的や期待する効果は異なるものだが、会社全体として人事データ活用が進むほど、3側面の役立ち度が高まるものと考えている。別設問で「組織・人材に関するいっさいの人事データを活用することはない」を選んでいない297名(本社人事210名、部門人事87名)に回答を求めた。

<図表4>人事データ活用の役立ち度(役割別)

<図表4>人事データ活用の役立ち度(役割別)

総じて、「人事業務の効率化」「経営・人事の意思決定の質の向上」「従業員経験の質の向上」の順に役立ち度が高い様子が見てとれる。肯定的回答(役立っている・やや役立っている)の選択率を見ると、両群共に「1.人事業務の効率化」(本社人事60.5%、部門人事46.0%)が最も選択されており、「4.人事施策の検証や改善」(同54.8%、40.2%)がそれに続く。本社人事では「2.経営・人事の意思決定支援」(同54.8%、33.3%)も同じ選択率である(この項目のみ群間で5%水準の有意差が確認されている)。そして、両群共に「7.従業員の主体的な選択のサポート」(同44.8%、32.2%)の役立ち度が最も低い。人事業務の効率化に対する成果を感じつつある一方で、現場の従業員に役立つものとして活用できている企業はまだ少ないようだ。

実際の人事データ活用の程度、人事データを活用しやすい土壌があるかという組織の特徴によっても、役立ち度は異なるだろう。図表5では人事データ活用の程度、組織の特徴と人事データ活用役立ち度(図表4の7項目を1~5点で平均した値)の関係を確認している。数が少なくなりすぎないよう、本社人事・部門人事を分けずに全体で集計している。

<図表5>人事データ活用の程度、組織の特徴と人事データ活用役立ち度との関係 <n=297>

<図表5>人事データ活用の程度、組織の特徴と人事データ活用役立ち度との関係

人事データ活用の程度は、人事データ活用場面(図表3)の「すでに取り組んでいるもの」の選択数(「人事データ活用場面数」)を用いた。活用場面数が多いほど、人事データ活用役立ち度が高いことが分かる。

人事データを活用しやすい土壌については、意思決定に関わる社内情報の透明性(「他部署・経営情報の開示」)、従業員経験の質の向上への意義(「個の尊重」)という視点から検討を試みた。いずれも得点が高いほど、人事データ活用役立ち度が高いことが確認された。さまざまな場面での人事データ活用の取り組みが進むことに加えて、活用しようとしたときにハードルを下げる組織の特徴があることが示唆される。

分析・活用スキル不足に課題 役割や役立ち度による違いも

人事データ活用の課題について表した結果が図表6である。

<図表6>人事データ活用の実態

<図表6>人事データ活用の実態

役割別には(図表6-1)、両群共に「5.人事スタッフの分析・活用するスキルが足りない」(本社人事37.9%、部門人事35.7%)の選択率が最も高い。「14.社内への開示内容、範囲の判断が難しい」(同35.2%、25.5%)、「3.従業員の関心が低い」(同24.2%、32.7%)がそれに続く。群間で有意差があったのは「13.結果の変化に一喜一憂してしまう」(同8.8%、2.0%)、「14.社内への開示内容、範囲の判断が難しい」(同35.2%、25.5%)、「15.社外への開示内容、範囲の判断が難しい」(同15.0%、7.1%)である。本社人事は、開示に関連した課題とそれに付随すると思われる結果への反応に関する選択率が高い。

人事データ活用役立ち度によって課題は異なるのだろうか。高群、低群それぞれで、選択率が高い上位5位までのものを挙げた(図表6-2)。「14.社内への開示内容、範囲の判断が難しい」(高群43.3%、低群30.2%)は高群で最も選択率が高い。社内への情報公開やデータを用いた現場との対話を進める際に、人事データという性質上、配慮が必要な繊細な情報もあるだろう。効果的なデータ活用をする上での重要なポイントであることがうかがえる。「5.人事スタッフの分析・活用するスキルが足りない」(同40.3%、50.9%)は低群で1位、高群でも2位の選択率である。「2.経営陣の関心が低い」(同32.8%、35.8%)も合わせると、3項目が共通している。これらは活用が進むからこそ生じる課題、活用を阻む課題の両面があるようだ。

高群に特徴的なのは「9.従業員の協力を得るのが大変だ」(同35.8%、24.5%)、「7.社外の専門家によるアドバイスが必要だ」(同32.8%、9.4%)である。データ収集・活用場面で従業員に展開する範囲が広がること、分析・活用のレベルが高まることによるものだろう。低群に特徴的なのは「4.経験と勘が重視され、データは軽視される」(同19.4%、34.0%)、「8.手間がかかるので、費用対効果を感じられない」(16.4%、30.2%)である。データの有用性を社内で証明しながら活動を推進することの必要性がうかがえる。

課題解決への壁 多角的なデータ活用の必要性

人事データ活用の課題についての自由記述を抜粋して紹介したい(図表7-1)。

<図表7-1>人事データ活用の課題に関するコメント <自由記述より抜粋>

<図表7-1>人事データ活用の課題に関するコメント <自由記述より抜粋>

図表6と同様のカテゴリーで具体的な記述が確認されている。図表6になかった視点として、「開示」について、社内に展開する際に上から順に降りてきて「なんの役にも立たない情報に変化」とあり、ストーリーが伴わないと、意味のない情報の伝達になってしまうというエピソードがあった。打ち手につなげられていないという「課題解決」に関する記述も多く見られた。分析だけする、ただ結果を共有するということではなく、経営や現場のどんな問題を解決したいか、どんなメッセージを伝えたいかという目的や意図、問題意識が大切ということだろう。

同じく自由記述で、人事データ活用について人事として感じる限界や、データだけでは分からないと思うことについて興味深い結果が得られた(図表7-2)。

<図表7-2>人事データ活用の課題に関するコメント <自由記述より抜粋>

<図表7-2>人事データ活用の課題に関するコメント <自由記述より抜粋>

「データ」の捉え方として現場の実態と乖離があることに限界を感じたまま課題解決につなげられていないケースと、乖離がある前提で定性情報を含めて多角的に捉えて活用しているケースとが確認された。課題として挙がっていた人事データ分析・活用スキルには、データ解析などのスキルだけでなく、各種人事データの性質を理解した上で多角的に組み合わせ、現場と対話しながら、実効性のある解決策につなげる力が含まれているといえそうだ。

実践知と学術的知見を統合した人事データ活用へ

最後に、人事データ活用スキルを考える手がかりとして、2つの結果を紹介したい。図表8は、人事として意識して学んでいる知識・スキルを人事データ活用役立ち度別(高群と低群を抜粋)に示したものである。高群では、「8.統計解析に関する専門知識」だけでなく、「1.自社の戦略・ビジネス」といった現場の実践知や、「2.人的資源管理論」「3.組織行動学」「6.心理学」などの理論・学術的知見についても有意に選択率が高い。この結果は、会社の人事データ活用と人事に必要な知識・スキルの関係を直接示したものではないが、実践知と理論・学術的知見をあわせもつことの有効性が示唆される。

<図表8>人事として学んでいる知識・スキル(人事データ活用役立ち度別)

<図表8>人事として学んでいる知識・スキル(人事データ活用役立ち度別)

理論や学術的知見の活用に対する考えを見ると(図表9)、群間で差が最も大きいのは「1.現場で起きている現象への理解を深める際に参考になる」で、高群では7割を超える選択率である。定量・定性など多角的なデータを活用して現場の実態を捉える際に、理論や学術的知見を参照しながら理解を深めていくことが、実効性の高いデータ活用のポイントとなりそうである。

<図表9>人や組織に関する理論や学術的知見に対する考え(人事データ活用役立ち度別)

<図表9>人や組織に関する理論や学術的知見に対する考え(人事データ活用役立ち度別)

本調査では人事データ活用の実態を幅広くお伝えしてきた。定量・定性など多角的にデータを捉える、理論・学術的知見や実践知をあわせもつ、現場と対話しながら解決策につなげるなど、そのテーマは多岐にわたることが再認識できた。本調査が自社の人事データ活用について考えていただく観点となり、エビデンスに基づいた人事活動の一助となれば幸いである。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.70 特集1「エビデンス・ベースドHRM-対話する人事」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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技術開発統括部
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組織行動研究所
主任研究員

藤村 直子

人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)、リクルートにて人事アセスメントの研究・開発、新規事業企画等に従事した後、人材紹介サービス会社での経営人材キャリア開発支援等を経て、2007年より現職。経験学習と持論形成、中高年のキャリア等に関する調査・研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集・調査を行う。

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