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調査レポート

事業責任者の人・組織課題解決の支援ニーズに関する調査

事業責任者361名に聞く、人・組織領域の課題認識と支援ニーズ

  • 公開日:2022/05/30
  • 更新日:2024/05/28
事業責任者361名に聞く、人・組織領域の課題認識と支援ニーズ

今日では、事業環境のみならず、人と組織のマネジメント環境も不確実さを増している。事業現場を支えるために、人事に何ができるのか。事業責任者は、人事スタッフ・人事部門をどのような存在として捉え、何を期待しているのか。
本調査では、361名の事業責任者に直接たずねてみた。前半では事業局面による違い、後半では、いわゆるHRBPといわれるような自組織担当人事スタッフが部門内や人事部門にいるかなど人事の組織体制別の分析を試みた。

調査概要
管轄事業の3つの局面
事業責任者の人・組織に関する課題認識
人・組織課題への支援ニーズ
人材マネジメント施策への支援ニーズ
人事に求める専門性
人・組織課題についての人事・経営との会話
事業責任者にとっての人事の存在感・イメージ
見過ごされている課題、人事支援の機会はないか

調査概要

本調査は、「事業の現場」を預かる責任者がどのような人・組織課題に直面しているのか、それらの解決に向けて人事スタッフ・人事部門から積極的な関与や支援を受けたいというニーズをもっているのか、などを明らかにすることを目的に実施した。調査概要を図表1に示す。

<図表1>調査概要「事業責任者の人・組織課題解決の支援ニーズに関する調査」

<図表1>調査概要「事業責任者の人・組織課題解決の支援ニーズに関する調査」

管轄事業の3つの局面

まず、調査対象とした事業責任者の視界を理解した上で分析を進めるために、管轄事業が対峙している市場の状況から事業の特徴の分類を試みた。いわゆる事業ポートフォリオマネジメントの考えに沿って、市場の成長ステージと市場の競争状態(自社の市場占有度)をかけ合わせたのが図表2である。

<図表2>市場の成長ステージと市場の競争状態による分類〈単一回答/n=361〉

<図表2>市場の成長ステージと市場の競争状態による分類

市場が黎明期・成長期にあり、自社の市場占有度が独占・寡占的または多数の企業が拮抗している状態であれば、「成長重視局面」にある事業といえよう。市場の成長ステージが安定期にあって自社が独占・寡占的または多数の企業のシェアが拮抗している、または市場の成長ステージが転換期・衰退期にあっても自社が独占・寡占的地位にあるなら、その事業には十分な収益力があり、「効率重視局面」となるだろう。他方、市場の成長ステージにかかわらず他社が独占・寡占的な地位を占めていたり、市場の拡大や安定が望めないのにプレイヤーが多すぎたりする場合は、何らかの変革が求められる「要変革局面」といってよいだろう。

事業責任者の人物像に迫ってみよう。回答者全体の平均では、自社に勤務して22.7年、現在の事業領域との関わりが14.3年というベテランの姿が浮かび上がる。事業局面ごとの特徴としては、成長重視局面の事業を担当する93名の平均では、勤続年数が19.5年、事業に関わった年数が11.9年とやや浅い。また、経験したことのあるキャリアについてもたずねたところ、人事・労務領域担当の経験者が全体平均の13.3%に比べて、成長重視局面の平均では22.6%と多い特徴が見られた。

事業責任者の人・組織に関する課題認識

ここからは、事業責任者たちが、人・組織に関してどのような課題を認識しているのか、それら課題の解決に人事や社外専門家からの支援を必要としているのかについて、事業局面ごとの違いに着目しながら見ていく。

図表3は、人・組織の課題認識、人事スタッフ・人事部門からの積極的な関与がほしいもの、社外の専門家の知見提供や支援がほしいものについて、事業局面ごとに集計したものである。

<図表3>人・組織の課題認識と支援ニーズ〈複数回答/n=330/%〉

<図表3>人・組織の課題認識と支援ニーズ

上位の課題認識は、いずれの事業局面においても同様である。「人材獲得・採用に苦戦している」がいずれも筆頭であり、選択率上位5つまでは「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」「中堅社員が小粒化している」「新人・若手社員の立ち上がりが遅い」「次世代の事業経営を担う人材が育っていない」と、人材獲得・育成に関する課題で共通している。

しかし、選択率の水準は要変革局面において全体的に高い。事業が要変革局面にあることで、人・組織領域における課題が顕在化しやすいことが考えられる。特に「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」の選択率が59.5%と高く、特徴的である。事業に変革が必要とされる局面では、ミドルマネジメントの負担が過重になりやすいと考えられる。

上記5つの中心課題に続くのは、「優秀な人材が流出している」「難しい仕事に挑戦する人が少ない」「メンバーの自発的な活動が少ない」といった、優秀人材・自律人材の活躍に関する課題である。これらの水準も、要変革局面において高い。要変革局面では加えて、「メンバーが仕事へのやりがいを感じていない」(37.8%)、「メンバーの自律的な学習が不十分である」(29.7%)などの課題感も他局面より高い。変革が必要とされる事業局面でありながら、むしろ変革的・自律的志向が抑制され、仕事へのやりがいが見失われがちというジレンマ状況が推察される。

人・組織課題への支援ニーズ

人事スタッフ・人事部門および社外専門家からの支援へのニーズは、おおむね、課題認識の高さに応じて高くなっている。すなわち、人材獲得・採用支援、中堅社員の小粒化対策、新人・若手の立ち上がり支援などへのニーズが、事業局面を問わず共通して高い。

要変革局面では、その特徴であった「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」という課題に対して、人事支援ニーズが35.1%と高いが、社外専門家支援ニーズは13.5%とさほどでもない。内容が複雑で自社内でしか支援できなかったり、専門的知見を要するというよりは社内で解決したかったりするような課題が、ミドルマネジメント層の負担の中心を占めているのかもしれない。

対比的に、社外専門家に対しても積極的な支援ニーズが見られるのが、成長重視局面である。「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」の課題認識は47.3%と要変革局面よりも低いが、人事支援ニーズが32.3%と同程度、社外専門家支援ニーズは24.7%とむしろ要変革局面よりも高い。同様に、「次世代の事業経営を担う人材が育っていない」についても、人事支援ニーズが29.0%、社外専門家支援ニーズが21.5%と高い。成長重視局面にある事業の責任者の支援ニーズは、マネジメント人材のケアと育成にあり、人事だけでなく社外専門家の知見も頼りにする傾向が見られる。

人材マネジメント施策への支援ニーズ

図表4は少し角度を変えて、人材マネジメント施策について、人事スタッフ・人事部門からの積極的な関与・支援、または社外の専門家の知見提供や支援がほしいものをたずねた結果である。選択項目として提示した29施策のうち、選択率が高い順に5つまで列挙した。

<図表4>支援ニーズのある人材マネジメント施策ランキング〈複数回答/n=330/%〉

<図表4>支援ニーズのある人材マネジメント施策ランキング

「中途採用者の募集・採用の交渉・決定」「要員計画の策定」への人事支援ニーズはいずれの事業局面においても3割を超えている。近年では事業環境や技術の変化が大きく、人材要件も大きく変化し、高度化している。そのような要件に合致する人材を獲得する支援が、人事スタッフ・人事部門に期待されていると考えられる。

社外専門家に対しては、「メンバーの能力開発(Off-JT)」「中途採用者の募集・採用の交渉・決定」「メンタルヘルス対策」などが期待されており、専門的な知識や情報が求められる場面として納得感が高い。その一方で、「メンバーの能力開発(OJT)」「次世代リーダーの育成」「管轄組織内の異動や配置の交渉・決定」など、組織内の人材マネジメント場面にも社外専門家支援への期待が及んでいることは驚きでもあった。従来の自社のやり方とは異なる方法を取り入れ、マネジメント変革を試みる企業が一定数あることが示唆される。

事業局面別の特徴も見てみよう。成長重視局面では、「管轄組織をまたぐ異動や配置の交渉・決定」への人事支援ニーズが高く(31.2%)、「メンバーの能力開発(Off-JT)」への社外専門家支援ニーズが高い(25.8%)。事業の成長のためには、組織改編や人材の配置転換がより頻繁に行われ、優秀人材や希少人材の臨機応変な抜擢や早期育成が必要となるだろう。そのような場面で、人事や社外専門家の支援が期待されている。

他方、要変革局面では、人事支援ニーズが「メンバーの能力開発(Off-JT)」(39.6%)、「次世代リーダーの育成」(36.9%)、「中堅社員のモチベーション向上」(35.1%)で高く、横の異動というよりは、縦方向のマネジメントを強化する人材育成が人事に期待されているように見える。また、社外の専門家の支援ニーズが「メンバーの能力開発(Off-JT)」(34.2%)だけでなく、「メンバーの能力開発(OJT)」(25.2%)でも高いという特徴が見られた。社内とは異なる専門性の風を入れて、職場における人材育成を変革・強化したいという意図が推察される。

人事に求める専門性

人事への期待を、専門能力面からも見てみよう。図表5は、自社の人事スタッフに求める専門性についてたずねたものである。

<図表5>人事に求める専門性〈複数回答/n=330/%〉

<図表5>人事に求める専門性

情報面では「自社の戦略・ビジネスについての精通」「従業員個々人の情報についての精通」が、いずれの事業局面でも多く選択されている。「自社の戦略・ビジネスについての精通」は、特に効率重視局面で50.8%と高く、重視されている。

知識・技術面では、「人事制度の設計や運用への精通」が共通の期待として挙げられる。「コーチング、カウンセリング、ファシリテーションなどの実践スキル」は、効率重視局面ではさほどでないが、成長重視局面、要変革局面では3分の1以上が選択している。他に、成長重視局面では「リーダーシップや人の心理に関する専門知識」「英語などの語学力・異文化マネジメントの知識」への期待に特徴が、要変革局面は「人事関連データを集計・分析するための統計解析に関する専門知識」への期待に特徴が見られる。

「企画・分析力」「計画・実行力」といった一般スキルへの期待が高いのは要変革局面であった。人・組織課題がより複雑であるために、サポートする人事にも高い企画遂行能力が求められる可能性がある。

人・組織課題についての人事・経営との会話

ここまで、事業責任者から人事スタッフ・人事部門への期待について、主に事業局面による違いに着目しながら確認してきた。ここでもう1つ、人事の組織体制による事業と人事の距離の違いという観点を加えたい。

図表6は、事業部・部門の人事業務をサポートする組織体制についてたずねた結果である。「担当として自組織をサポートする役割の人事スタッフがいる」との回答が80.9%、その内訳として、部門内にのみスタッフがいる場合が73.3%、人事部門のみが14.7%、両方に自組織を担当する人事スタッフがいる場合が12.0%であった。

<図表6>自組織担当の人事スタッフの有無〈単一回答/n=361/%〉

<図表6>自組織担当の人事スタッフの有無

図表7は、そうした自組織担当の人事スタッフの有無別に、日頃、人・組織課題についての会話がどの程度あるかをたずねたものである。

<図表7>自組織担当人事スタッフの有無別の、人事・経営との会話〈単一回答/n=361/%〉

<図表7>自組織担当人事スタッフの有無別の、人事・経営との会話

自組織担当の人事スタッフがいる場合では、いない場合に比べて、人事スタッフ・人事部門、および経営者や上位者との人・組織課題についての会話が多い。特に、組織内と人事部門の両方に自組織担当の人事スタッフがいる場合に、会話が多いことが分かる。

自組織担当の人事スタッフの有無や、組織体制における人事スタッフの置かれ方が、人・組織課題に関する事業責任者の情報ネットワークに違いを生み出している可能性がある。

事業責任者にとっての人事の存在感・イメージ

事業責任者が人事に対して抱くイメージも、事業と人事の距離によって変わる。図表8は、「人事スタッフ・人事部門」と言われたときに想起するイメージとしてあてはまる言葉を選んでもらったものである。

<図表8>自組織担当人事スタッフの有無別の、人事のイメージワード〈複数回答/n=361/%〉

<図表8>自組織担当人事スタッフの有無別の、人事のイメージワード

自組織担当人事スタッフがいる場合は、回答者が選択するワードの数が大きく増え、幅広くイメージワードが選択されている。「人・組織に強い関心・思いがある」「規則に従う」といった共通イメージに加え、「誠実な」「頼りになる」「戦略的な」「思いやりのある」「人の可能性を信じる」「経営視点の」といったイメージが加わる。

自組織を担当する人事が部門内や人事部門にいることで、人・組織課題に関するコミュニケーションをとる相手も、その内容も変化する。自組織を担当する人事スタッフがいることで、事業責任者にとっての人事の存在感・イメージは、「感性と知性を兼ね備え、戦略があり献身的に行動する人事」になる。

見過ごされている課題、人事支援の機会はないか

ここまで、事業局面などの事業特性、事業担当人事の有無などの組織体制、事業責任者の個人特性など、さまざまな観点を確認してきた。それらが、人・組織課題の認識や人事支援ニーズにどの程度影響しているのか、並べて比較してみよう。

図表9に重回帰分析という手法を用いた分析結果を示した。「人・組織の課題認識の数」「人・組織課題に対する人事支援ニーズの数」(いずれも図表3で扱った19課題についての回答を足し上げたもの)、「マネジメント施策に対する人事支援ニーズの数」(図表4で扱った29施策についての回答を足し上げたもの)の3つの結果変数それぞれに影響を与えている要因を検討し、統計的に有意な水準となった要因と係数のみを記載した。係数が正の値で大きいほど、要因となる変数の値に応じて結果変数も大きくなることを示している。

<図表9>人・組織課題の数、人事支援ニーズの数に影響を及ぼす要因〈n=361/重回帰分析〉

<図表9>人・組織課題の数、人事支援ニーズの数に影響を及ぼす要因

事業特性が要変革局面である場合、3つすべての結果変数に有意な正の影響が生じていた。事業が要変革局面にあるときには、課題認識と人事支援ニーズが多岐にわたることが分かる。

事業が要変革局面にあることの影響の他にも、課題認識や支援ニーズに影響を与えている変数がある。部門内にのみ、または部門内と人事部門の両方に自組織担当人事スタッフがいると、人・組織の課題認識の数が増えていた。図表7において人事の組織体制によって事業責任者の人・組織課題に関する会話機会が変化していたことと考え合わせると、この結果は、部門内人事担当がいることで日常に紛れて見えにくい人・組織課題をも発見できていることを示していると考えられる。個人特性のうち現在の事業領域に責任者として関わった年数が課題認識の数に正の影響を与えていることからも、日常的には表面化しにくい人・組織課題を発見するには、時間がかかったり、部門内人事スタッフの多面的な視点が有効であったりすると考えられる。

また、部門内と人事部門両方に自組織担当の人事スタッフがいる場合には、いずれの人事支援ニーズの数も多くなることが確認された。部門内と人事部門の両方の人事スタッフが連携していることで、人事からどのような支援が受けられるかという情報が具体的に得られることの効果である可能性がある。

以上、事業責任者の人・組織課題の認識と人事支援ニーズを中心に、その背景も含めて理解することを目的に、分析と考察を行った。事業責任者には、直面する事業局面などの影響を受け、それぞれ異なる人・組織課題の認識があり、支援ニーズがあることが分かった。また、自組織担当の人事スタッフがいることで、人・組織課題とその打ち手に関する情報と支援ネットワークが豊かになることが示唆された。特に、部門内の人事スタッフは、人・組織課題を見過ごさずに発見することにつながる可能性があり、加えて人事部門にも連携できる自組織担当人事スタッフがいることで、人事支援の具体的なアイディアや選択肢が増える可能性がある。本調査が、現場を支える人事のあり方を考える参考となれば幸いである。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol. 66 特集1「現場を支える人事」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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組織行動研究所
客員研究員

藤澤 理恵

リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所主任研究員を経て、東京都立大学経済経営学部助教、博士(経営学)。
“ビジネス”と”ソーシャル”のあいだの「越境」、仕事を自らリ・デザインする「ジョブ・クラフティング」、「HRM(人的資源管理)の柔軟性」などをテーマに研究を行っている。
経営行動科学学会第18回JAAS AWARD奨励研究賞(2021年)・第25回大会優秀賞(2022年)、人材育成学会2020年度奨励賞。

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