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調査レポート

仕事と感情に関する意識調査

仕事場面の感情は職場でどう扱われているか

  • 公開日:2022/02/28
  • 更新日:2024/05/17
仕事場面の感情は職場でどう扱われているか

仕事場面で私たちはさまざまな感情を経験するが、その実態を捉えた調査はあまりない。本調査では、20〜49 歳の会社員を対象とし、仕事をしているときにどのような感情を抱いているか、感情の表出やコントロールについての現状や意識はどのようなものか、職場での感情への配慮が仕事のやる気や成果にどう関係するかなどを検討した。職場において社員の感情をいかに扱いプラスの方向に生かしていくかを考えるためのひとつの材料としたい。

調査概要
人はポジティブ、ネガティブ両面の多様な感情を抱いて働いている
感情労働の程度が高いほどさまざまな感情、強い感情を感じる
「仕事や職場に感情を持ち込むべきではない」が約7割
「感情を職場で伝えてよかった」 ネガティブ感情でも8割以上
「感情に寄り添い配慮する職場」ではネガティブ感情も表出しやすい
相互理解や感謝を伝える仕組みが感情交流を促す
感情の共有は、仕事のやりがいや職場の新価値創造にプラスに影響

調査概要

調査対象は、20~49歳で、従業員規模300名以上の会社に正規雇用の一般社員として勤務する方である。職務系統では、営業系、事務系、技術系が均等になるように回収した。接客・サービス系は「感情労働」と呼ばれるような感情のコントロールが要求される職務の代表的なものだが、今回はあえて対象から外し、それ以外のオフィスワーカーの感情の実態を捉えようとした。実施時期は2021年12月で、有効回答数は826名である(図表1) 。

<図表1>調査概要「仕事と感情に関する意識調査」

<図表1>調査概要「仕事と感情に関する意識調査」

人はポジティブ、ネガティブ両面の多様な感情を抱いて働いている

仕事場面では日々どのような感情が経験されているのだろうか。まず感情のバリエーションと頻度について確認した 。

図表2は、直近1カ月の仕事中に経験した感情について、5段階で尋ねた結果だ。赤色で示した5つが主にポジティブな感情、青色で示した5つが主にネガティブな感情である。このうち、「非常によく感じた」「よく感じた」「ときどき感じた」の回答が多かったのは、多い順に「心配・不安(78.2%)」「怒り・嫌悪(71.6%)」「退屈・無意味(64.1%)」といずれも、ネガティブな感情である。次いで、「嬉しさ・喜び・感謝(62.5%)」「親しさ・心地よさ(61.2%)」とポジティブな感情が続く。

<図表2>ここ1カ月で仕事中に経験した感情

<図表2>ここ1カ月で仕事中に経験した感情

「非常によく感じた」「よく感じた」「ときどき感じた」と回答した感情の数の平均は1人あたり6.2個である。また、ポジティブな感情のみ感じた人は全体の19.0%、ネガティブな感情のみ感じた人は7.2%で、約7割(70.7%)の人は、ポジティブ感情とネガティブ感情をそれぞれ1つ以上感じたと回答している 。

具体的にどのような場面でどのような感情を抱いているだろうか。「ここ1カ月で最も印象に残っている感情」を尋ねた結果では(図表3)、印象に残っている感情として選ばれたのは、ネガティブ感情が約6割(59.7%)、ポジティブ感情が約4割(40.3%)だった 。

<図表3>ここ1カ月で最も印象に残っている感情

<図表3>ここ1カ月で最も印象に残っている感情

選択した感情について、印象に残っている理由やエピソードを尋ねたところ、一人ひとりの経験と抱いた感情についての多くの記述が得られた(図表4)。同じ感情についても、多様なエピソードが見られる。大きな仕事を任されたことが、楽しさや自信につながっているケースもあれば、心配や不安につながっているケースもあるなど、仕事で抱く感情の複雑さも見て取れた。

<図表4>印象に残っている理由など、具体的なエピソード

<図表4>印象に残っている理由など、具体的なエピソード

感情労働の程度が高いほどさまざまな感情、強い感情を感じる

次に、営業系・事務系・技術系のオフィスワーカーにおいて、感情労働がどのくらい行われているかを確認した。

図表5は、感情労働の3要素7項目についての回答結果である。「とてもあてはまる」「あてはまる」「ややあてはまる」の割合で見ると、「感情の要求(職務遂行において感情を用いることを求められる)」は約8割、「感情の制御(本当の感情を抑える)」は約7割、「感情の演技(求められる感情を演じる)」は約6割と、いずれも半数を超えていた。

職務系統別に見ると、7項目の平均値は、営業系4.09、事務系3.90、技術系3.82で、営業系のみ有意に高かった。

<図表5>感情労働の実態

<図表5>感情労働の実態

感情労働の程度が高い「感情労働高群」(平均4.71)と低い「感情労働低群」(平均3.34)別に見ると、「いろいろな種類の感情を感じる」「強く感情を動かされる」「感情にからむトラブルが多い」について「とてもあてはまる」「あてはまる」「ややあてはまる」と回答した比率は、「感情労働高群」が「感情労働低群」より有意に高い。また、図表2の「ここ1カ月で仕事中に経験した感情」は、ポジティブな「嬉しさ・喜び・感謝」とネガティブな5項目について、「感情労働高群」は「感情労働低群」に比べ「非常によく感じた」「よく感じた」「ときどき感じた」の比率が有意に高かった。感情労働の程度が高い場合、ポジティブ感情もネガティブ感情もよく感じる傾向にあることが分かる。

「仕事や職場に感情を持ち込むべきではない」が約7割

仕事場面で抱くさまざまな感情は、どのように扱われているだろうか。「仕事や職場に感情を持ち込むべきではない」という考えについての賛否を尋ねた(図表6)ところ、約7割が「持ち込むべきではない」と回答した。一方で、自分の職場では「持ち込むべきではないと考えている人が多い」と思う人は約6割である。自分は持ち込むべきではないと思っているが、職場でそう考えている人は多くない、という人が全体の約4割(43.2%)だった。

<図表6>仕事と感情についての意見

<図表6>仕事と感情についての意見

職務系統別では、「持ち込むべきではない」と思う傾向は、事務系のみ有意に高く、「持ち込むべきではないと考えている人が多い」と思う傾向は、事務系と比べて営業系が有意に高かった。感情労働の程度別では、「感情労働高群」は「感情労働低群」より「持ち込むべきではない」が有意に高く、「持ち込むべきではないと考えている人が多い」が有意に低かった。自分も周囲も持ち込むべきではないと思っている傾向である。

「持ち込むべきではない」についての肯定と否定、それぞれの理由(図表7)を見ると、持ち込み否定派が「成果を妨げる」「判断がぶれる」「組織がまとまらない」とするのに対し、持ち込み賛成派は「やる気や成果につながる」「理解し合うのに役立つ」「ストレスを防ぐ」「条件付きでOK」となっている。成果をあげること、組織がまとまることに対して、感情を持ち込むことがプラスに働くかマイナスに働くかについて、職務の特性や個人の考え方により、正反対の意見があることがうかがえる。

<図表7>仕事と感情についての意見(理由)

<図表7>仕事と感情についての意見(理由)

上述のとおり、自分は持ち込むべきではないと思っているが、職場でそう考えている人は多くない、と回答した人が多数いたのは興味深い。そのような回答者の自由記述には「他人の感情が自分に影響してモチベーションが下がる」「周りが感情を出しすぎて職場内の統制がとれない」などが見られた。周囲の人の感情表出によって業務遂行に支障を感じた具体的な経験が背景にあることや、感情表出に対する価値観の違いに相容れないものがあることが感じられる。

「感情を職場で伝えてよかった」 ネガティブ感情でも8割以上

では実際に、仕事で抱いた感情を周囲の人に伝えるかどうかの実態はどうだろうか。ポジティブ感情の場合とネガティブ感情の場合で異なるだろうか。

前述の「ここ1カ月で最も印象に残っている感情」について尋ねたところ(図表8)、「その場で自分の感情を出した」人の割合は、ポジティブ感情で33.6%、ネガティブ感情で11.3%、「あとで他の人にそのときの感情について話をした」は、ポジティブ感情29.5%、ネガティブ感情31.0%だった。あとで伝えるのは、ポジティブ感情、ネガティブ感情共に約3割だが、その場での表出はポジティブ感情の方が有意に多い。

<図表8>仕事中に感じた感情を人に伝えたか

<図表8>仕事中に感じた感情を人に伝えたか

伝える相手はどうだろうか。「あとで他の人にそのときの感情について話をした」220名に尋ねたところ(図表9)、ポジティブ感情、ネガティブ感情共に、「職場の同僚」が6割以上と最も多い。次に多いのは、ポジティブ感情は「職場の上司」(37.2%)、ネガティブ感情は「家族・友人・知人」(39.6%)である。

<図表9>仕事中に感じた感情を誰に伝えたか

<図表9>仕事中に感じた感情を誰に伝えたか

職場で感情を伝えることは、良い結果につながっているだろうか。同じく、「ここ1カ月で最も印象に残っている感情」について「あとで社内の人に話した」人に尋ねたところ、「話してよかったと思う」人は、ポジティブ感情では100%、ネガティブ感情でも8割以上(83.5%)と、話してよかったという回答が圧倒的に多かった(図表10)。

<図表10>職場で感情を伝えてよかったか

<図表10>職場で感情を伝えてよかったか

図表11は、「職場の上司や同僚に、自分の気持ちや感情を隠さずに伝えたことで、良い結果につながったと思う経験」についての自由記述を抜粋したものだ。困ったときやつらいときに思い切って気持ちを伝えることで「周りが動いてくれた」「楽になった」、より良くしたいという気持ちを正直に伝えることで「仕事がうまく進むようになった」「自分の考えが変わった」との記述が多く見られた。職場で感情を伝えていくことは、賛否もあり場合による面もあろうが、うまく伝えれば良い結果につながり得るといえるだろう。

<図表11>職場で感情を伝えてよかった経験

<図表11>職場で感情を伝えてよかった経験

「感情に寄り添い配慮する職場」ではネガティブ感情も表出しやすい

職場で感情を伝えるかどうかは、職務の特性や本人の考え方だけでなく、職場や上司の感情配慮の程度が関係する。図表12は、職場や上司が、一緒に仕事をする同僚や部下の感情に、どのくらい寄り添ったり配慮したりしているかを尋ねたものだ。5項目のうち、「とてもあてはまる」「あてはまる」「ややあてはまる」の割合が特に多いのは「周囲に対する配慮や気遣いを忘れない(70.8%)」「喜びや感謝を感じたことについて、共有している(60.0%)」だった。

<図表12>職場・上司の感情配慮

<図表12>職場・上司の感情配慮

5項目の平均値で、感情配慮高群(平均4.48)と感情配慮低群(平均2.99)の2群として、前述の「ここ1カ月で最も印象に残っている感情」を回答した724名のうち「あとで社内の人(「職場の上司」「職場の同僚」「上記以外の社内の人」のいずれか)に話した」人の割合を比較した(図表13)。ネガティブ感情では、感情配慮高群の職場では、そうでない職場に比べ、社内の人に感情を伝える傾向が有意に高く、ポジティブ感情にも同様の有意傾向が見られた。

<図表13>感情配慮の程度と職場での感情表出

<図表13>感情配慮の程度と職場での感情表出

相互理解や感謝を伝える仕組みが感情交流を促す

職場に設けられている機会や仕組みにも、感情を伝えることと関係が見られたものがある。

図表14は感情の交流や配慮を促進すると考えられる機会や仕組みの導入状況についての回答だ。価値の共有や奨励に関する「仕事上の成功事例・挑戦事例を共有する機会」「朝礼や社員全体会議を通じた会社のビジョンの共有」は導入率が約25%、次いで、社員同士の関係構築に関する「社内報などでの社員の活躍や人となりの紹介」「お互いの良いところやお互いへの感謝を伝え合う仕組み」や、感情配慮に関する「上司と部下の間の、評価面談以外の1on1ミーティング」が約20%となっている。

<図表14>感情の交流や配慮を促進する仕組み

<図表14>感情の交流や配慮を促進する仕組み

このうち、仕組みの有無と社内の人に感情を伝えたことの間に関係が見られたのは、「お互いの良いところやお互いへの感謝を伝え合う仕組み」「同好会や勉強会など業務外の交流機会や金銭的補助」「社員同士で接点をもちやすくするための社員情報の公開」などだった。社員同士が、役割を離れて知り合ったり、仕事に対する思いや感謝を伝え合ったりする機会を設けることが、率直な感情の表出を促すことがうかがえる。

感情の共有は、仕事のやりがいや職場の新価値創造にプラスに影響

「職場・上司の感情配慮」や「感情の交流や配慮を促進する仕組み」は、本人のワーク・エンゲージメントや職場の新価値創造とも、プラスの関係があった(図表15)。

<図表15>「職場・上司の感情配慮」「感情の交流や配慮を促進する仕組み」と他変数の関係

<図表15>「職場・上司の感情配慮」「感情の交流や配慮を促進する仕組み」と他変数の関係

項目別に見ると、ワーク・エンゲージメント、職場の新価値創造共に、職場・上司の感情配慮では、「喜びや感謝を感じたことについて、共有している」「悲しさやつらさを感じたことについて、共有している」、感情の交流や配慮を促進する仕組みでは「お互いの良いところやお互いへの感謝を伝え合う仕組み」との関係が強く、喜びや感謝といったポジティブ感情、悲しみやつらさといったネガティブ感情を共有し合うことは、仕事のやりがいや職場の新価値創造に良い影響を与える可能性が示唆される。

「職場・上司の感情配慮」は、バーンアウトを起こしやすいといわれる感情労働においても、消耗感を低減し、ワーク・エンゲージメントを高める傾向が見られた(図表16)。

<図表16>感情労働高・低群別の職場における「職場・上司の感情配慮」と多変数の関係

<図表16>感情労働高・低群別の職場における「職場・上司の感情配慮」と多変数の関係

以上、「仕事場面で、人はポジティブ、ネガティブ両面のさまざまな感情を感じている」こと、「仕事に感情を持ち込むことには否定派が多い」こと、そんななかでも「感情を社内で話した人はよかったと感じている」こと、「職場・上司の感情配慮や感情の交流や配慮を促進する仕組みが感情の表出を促し、ワーク・エンゲージメントや職場の新価値創造とプラスの関係がある」ことを見てきた。さまざまな仕事場面の感情は、都度意識していると身がもたない面もあり、やり過ごしていくことも必要かもしれない。しかし、喜びや感謝、悲しさやつらさを共有することで、相互の関係性が深まったり、仕事のやる気や成果に良い影響を与えたりする可能性が垣間見えた。隠している自分と周囲の感情にもう少し耳を傾けることで、より理想的な職場に近づけるのではないだろうか。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.65 特集1「仕事と感情」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

執筆者

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組織行動研究所
研究員

佐藤 裕子

リクルートにて、法人向けのアセスメント系研修の企画・開発、Webラーニングコンテンツの企画・開発などに携わる。その後、公開型セミナー事業の企画・開発などを経て、2014年より現職。研修での学びを職場で活用すること(転移)、社会人の自律的な学び/リスキリング、経験学習と持論形成、などに関する研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集などに携わる。

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