調査レポート
若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査
組織のなかでの自律的・主体的なキャリア形成の実態
- 公開日:2021/11/29
- 更新日:2024/05/17
これまで、キャリア自律の要因や効能を解明した先行研究はあるが、組織で働く個人がキャリア自律の意味することをどう認識しているかについては明らかになっていないことも多い。そこで、若手・中堅社員が、自律的・主体的にキャリア形成することをどのようなことと認識しているのか、自身が重視することと会社からの期待との間にギャップはあるのか、実現度や希望する程度、会社からの支援の実態などを明らかにすることを目的として、アンケート調査を実施した。
調査から、一人ひとりが思い描く自律的・主体的なキャリア形成のあり方はさまざまであることが確認された。自律的・主体的キャリア形成への意欲は、配置・異動、評価・処遇などを通じて受け取る会社からのメッセージによっても、変化していた。また、会社の目的や理念への共感、情緒的なコミットメントがあれば、自律的・主体的なキャリア形成による転職意識が抑制される可能性も示唆された。
- 目次
- 意味すること、重要だと思うことにばらつき
- 約3分の2は会社からの期待を感じている
- 半数は自律的・主体的なキャリア形成を実現
- いろいろな意識が入り交じる複雑な心境
- 同様のイベントでも意欲変化の傾向に違い
- 自己理解、行動面に課題
- 学習支援や柔軟な働き方、副業、配置、相談への要望
- 組織との関係がよければ転職意識は抑制される
意味すること、重要だと思うことにばらつき
調査概要は、図表1のとおりである。本調査では、回答者にキャリア自律という表現が浸透していないことも考慮して、「自律的・主体的なキャリア形成」という表現を用いている。
<図表1>調査概要「若手・中堅社員の自律的・主体的な キャリア形成に関する意識調査」
まず、今回の調査での主目的の1つである「自律的・主体的なキャリア形成」と聞いて何を意味すると思うかを尋ねた結果が図表2である。選択肢には、自己責任、自己決定という要素(1、2)、組織内キャリアに限定しない視点(3~5)、仕事経験を通じたキャリア形成の視点(6~8)、学び(9)、ライフキャリアも視野に入れた働き方の選択(10)を用意した。
<図表2>「自律的・主体的なキャリア形成」が意味すること
意味することとして多かったのは、「1.『自分のキャリアの責任は自分にある』と考えること」(64.6%)、「2.自分の価値観に基づいて、自分でキャリアを選択すること」(61.3%)、少なかったのは、「5.会社に頼らないで、自分の力でキャリアを切り拓いていくこと」(38.0%)、「3. 1つの職業や会社にとらわれずに、臨機応変にキャリアを形成すること」(40.1%)だった。その他は、5割前後の選択率で分散した。
同じ10項目に対して、自身のキャリアを考える上で重要だと思うことを3つまで選んだ結果が図表3である。「2.自分の価値観に基づいて、自分でキャリアを選択すること」(29.7%)、「10.自分に合った働き方を主体的に選択すること」(27.6%)が多く、「3. 1つの職業や会社にとらわれずに、臨機応変にキャリアを形成すること」(11.9%)、「5.会社に頼らないで、自分の力でキャリアを切り拓いていくこと」(13.7%)が少なかった。
<図表3>自身のキャリアを考える上で重要だと思うこと
重要だと思うことの選択率は、従業員規模では統計的に有意な差がある項目はなかった。個人属性や職務特性によって有意差が確認されたものを一部紹介しておく。10(働き方の選択)は20代後半(22.4%)に比べて30代前半(35.1%)が選択率が高かった。また、4(社外でも通用する専門性)と8(自ら成長機会)は、専門知識・技術の更新スピードが速い仕事をしていると認識している群の方が選択率が高かった(4:高群24.9% /低群17.7%、8:同22.6%/14.9%)。自律的・主体的なキャリア形成における優先順位はライフステージや職務特性によって異なる可能性が示唆された。
約3分の2は会社からの期待を感じている
勤務先の会社が「自律的・主体的なキャリア形成」を期待するメッセージを出しているか(以下「会社からの期待」)、出している場合に会社が求めている「自律的・主体的なキャリア形成」とはどのようなことかを確認した。
まず「会社からの期待」(図表4)としては、「強く期待するメッセージが、経営者やマネジメント層から出されている」(10.1%)、「ある程度期待するメッセージが、経営者やマネジメント層から出されている」(27.6%)、「具体的なメッセージはないが、期待されていると感じる」(28.4%)というように、全体の約3分の2にあたる66.1%が、程度の違いこそあれ期待を感じていた。個人属性において有意差はなかった。従業員規模において3000名以上・未満で傾向の違いが見られたため群別に比較したところ、3000名以上群(71.7%)の方が3000名未満群(60.7%)に比べて有意に高かった。
<図表4>「自律的・主体的なキャリア形成」に関する会社からの期待
一方、会社が求めている「自律的・主体的なキャリア形成」とはどのようなものか(図表5)。図表2・3と同じ10項目を用いて確認したところ、「6.何事も成長機会と捉えて、目の前の仕事に主体的に取り組むこと」(43.7%)、「8.新しい経験にチャレンジしながら、自ら成長機会を作っていくこと」(41.5%)、「9.キャリア形成のために必要な学習を、自ら継続的に行うこと」(33.3%)の順に多かった。属性別には、年齢層において「3. 1つの職業や会社にとらわれずに、臨機応変にキャリアを形成すること」で、20代後半(21.9%)が30代前半(7.3%)や40代前半(7.8%)に比べて選択率が有意に高かった。
<図表5>「自律的・主体的なキャリア形成」に関して会社が求めていること
図表3の自身が重要だと思うこと(3つまで)との比較においては、会社からの期待の方が相対的に多く選ばれていたのは「6.何事も成長機会と捉えて、目の前の仕事に主体的に取り組むこと」「8.新しい経験にチャレンジしながら、自ら成長機会を作っていくこと」、自身が重要だと思うことの方が相対的に多く選ばれていたのは「10.自分に合った働き方を主体的に選択すること」だった。会社が求めていることと、自身が重要だと思うことの間にはギャップも存在しているようだ。
半数は自律的・主体的なキャリア形成を実現
続いて、同じ項目で、どれくらい自分ができていると思うかを聞いた結果が図表6である。「どちらかといえばできている」まで含めれば、「6.何事も成長機会と捉えて、目の前の仕事に主体的に取り組むこと」(65.3%)、「1.『自分のキャリアの責任は自分にある』と考えること」(64.8%)は約65%ができているとの認識だった。
<図表6>「自律的・主体的なキャリア形成」の現状
そして、総じて「自律的・主体的なキャリア形成」ができていると思うかという質問(以下「実現度」)に対しては、「よくできている」(1.5%)、「できている」(11.6%)、「どちらかといえばできている」(36.4%)を合わせて49.5%ができているとの回答だった(図表7)。なお、年齢層別では20代後半の平均は他の年齢層と比べて有意に高く、転職経験者は転職未経験者に比べて有意に高かった。従業員規模では1000名未満に比べて10000名以上の平均が有意に高かった。
<図表7>「自律的・主体的なキャリア形成」の実現度
実現度と他の変数との関係としては、多くの先行研究と同様に、組織コミットメント目的愛着(.48)、職務適応・パフォーマンス(.57)、職場適応(.40)、人生生活満足(.39)というように有意な正の相関が確認された。組織コミットメントについては後述する。
いろいろな意識が入り交じる複雑な心境
ここまで、共通の10項目に対して、意味すること、重要だと思うこと、会社が求めていることについて見てきた。それぞれ多様な認識であるという前提ではあるが、「自律的・主体的なキャリア形成」そのものについては、どのような考えをもっているのかについても確認しておきたい(図表8)。
<図表8>「自律的・主体的なキャリア形成」に関する考え
まず自分のことについては、「1.自分自身は『自律的・主体的なキャリア形成』をしたい」(81.7%、とてもそう思う~ややそう思うの合計、以下同じ)という回答が多い半面、「2. 『自律的・主体的なキャリア形成』を求められることに、ストレスや息苦しさを感じる」(64.8%)という回答も一定数いる。周囲については、「3.これからは、多くの人に『自律的・主体的なキャリア形成』が求められる」(84.3%)一方で、「5.多くの人にとって『自律的・主体的なキャリア形成』は難しい」(76.3%)と思っている割合も高い。会社に対しては、「6.『 自律的・主体的なキャリア形成』を支援してくれる会社の方が、働きがいがある」(76.2%)、「7.『 自律的・主体的なキャリア形成』が進めば個人と会社がより対等な立場になれる」(72.6%)というポジティブな回答が多い。「8. 『自律的・主体的なキャリア形成』によって、社員の心は会社から離れるものだ」(48.1%)の選択も半数弱あった。なお、これらの意識に年齢層による統計的な有意差はなかった。
同様のイベントでも意欲変化の傾向に違い
「自律的・主体的なキャリア形成」の実現度や考えを聞いたが、おそらくさまざまな経験を経て、現在の認識に至っているだろう。実際、「自律的・主体的なキャリア形成」への意欲の変化を聞いたところ「高くなった」(38.2%)、「変わらない」(50.9%)、「低くなった」(10.9%)だった。年齢層や従業員規模などの属性による有意差はなかった。
変化に対する回答の理由や変化のきっかけのコメントを見ると(図表9)、変わらないなかにも、低いまま変わらないという人が一定数いることが分かる。配置・異動、評価・処遇や個人的なライフイベントなど、同様のイベントであっても会社からの対応や本人の捉え方によって両方向の変化があることが分かる。これらコメントが多かったイベントについては留意が必要だ。
<図表9>「自律的・主体的なキャリア形成」への意欲の変化 理由やきっかけとなった出来事・エピソード
自己理解、行動面に課題
図表10は、キャリア形成について困っていることを全体傾向と「自律的・主体的なキャリア形成」実現度別に集計したものである。群間で統計的な有意差があった印のついた項目を見ると、自己理解の3項目(1.実力、2.やりたいこと、3.選択肢)と行動の3項目(7.何をしたらいいのかが分からない、8.考える時間がない、9.行動に移せない)、会社の1項目(10.キャリアの見通しがもてない)で、実現度・低群の方が選択率が高いことが分かる。
<図表10>キャリア形成について困っていること :全体傾向、「自律的・主体的なキャリア形成」実現度別
年齢層別には、3(選択肢)は40代が少なく、6(成長スピードへの焦り)は20代が30代後半、40代に比べて多かった。経験年数によっても困っていることは異なるようだ。
学習支援や柔軟な働き方、副業、配置、相談への要望
会社がキャリア形成について支援する仕組み・制度について、現在導入されているものと、役立っているものを選んでもらった(図表11)。いずれも相対的に多かったのは「2.資格取得の金銭的補助」(現在導入されているもの54.8% /役立っているもの50.3%)、「1.必要なとき、必要な知識・スキルを学べる機会や仕組み」(同46.7% /44.8%)だった。導入率が低いなかで役立っているのは「20.学びの時間をとれるような柔軟な勤務体系(フレックス、テレワークなど)」(同25.8%/57.0%)だ。選択肢に挙げた仕組み・制度の導入が1つもないとの回答は16.2%、役立っているものはないとの回答は33.9%だった。
<図表11>キャリア形成を支援する会社の仕組み・制度
会社・職場への要望や支援を得たいことについて自由記述で回答を求めた結果が図表12である。記述内容を分類したところ、学習支援に関するものが184件と多くを占めた。次に多かったのは副業に関することだった。昨今のトレンドではありながら、89件もの副業に関する具体的な要望が挙げられたのは意外だった。働き方、配置・異動、人事評価、キャリア相談についても一定数のコメントが見られた。
<図表12>会社・職場への要望や支援を得たいこと
組織との関係がよければ転職意識は抑制される
最後に、組織のなかでの自律的・主体的なキャリア形成を考える上で話題になる転職意識との関係について見ておきたい。図表13は「良い機会があれば転職したい」という意識への、「自律的・主体的なキャリア形成」行動(図表6の10項目を平均)と「組織コミットメント目的愛着」(組織の理念や目的への共感やこの会社が気に入っているという情緒的なコミットメント)の影響を分析した結果である。
<図表13>「自律的・主体的なキャリア形成」行動と 「組織コミットメント目的愛着」が「良い機会があれば 転職したい」という意識に及ぼす影響
「自律的・主体的なキャリア形成」行動は「良い機会があれば転職したい」という意識を高める影響がある(.25)。しかし同時に、「組織コミットメント目的愛着」を高め(.47)、それが「良い機会があれば転職したい」という意識にマイナスの影響を及ぼす(-.25)。社員が自律的・主体的なキャリア形成をすると会社を辞めてしまうのではないか、という懸念に対しては、会社の目的や理念への共感や情緒的なコミットメントがあればそうはならない可能性が示唆された。また、「組織コミットメント目的愛着」は、「自律的・主体的なキャリア形成」に関する会社からの期待との相関関係が確認されたことから(.39)、キャリア形成に対する会社からの期待を明確に伝えることが、組織との関係性に好影響をもたらすことが推察される。
本調査から、一人ひとりが思い描く自律的・主体的なキャリア形成のあり方はさまざまであることが改めて分かった。それは、個人を取り巻くライフキャリア上の環境変化や、所属する企業との関係性などにも影響を受け、変化していく。キャリア形成や働き方に関して個人が望むことと、会社が期待することを相互にすり合わせながら、一人ひとりが望む形でのキャリア形成の実現を通じて、会社との良い関係性を更新していけるのではないだろうか。
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.64 特集1「キャリア自律の意味すること」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
執筆者
技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員
藤村 直子
人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)、リクルートにて人事アセスメントの研究・開発、新規事業企画等に従事した後、人材紹介サービス会社での経営人材キャリア開発支援等を経て、2007年より現職。経験学習と持論形成、中高年のキャリア等に関する調査・研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集・調査を行う。
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