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調査レポート

テレワーク環境下における人事評価に関する意識調査

テレワーク環境下における職場の人事評価—評価の納得感はどのように変わったのか

  • 公開日:2021/03/01
  • 更新日:2024/05/20
テレワーク環境下における職場の人事評価—評価の納得感はどのように変わったのか

新型コロナウイルス感染症への対応でテレワークが拡大している。弊社「テレワーク緊急実態調査」※1では、テレワーク経験者の約3割が、仕事のプロセスや成果が適正に評価されないのではという不安が以前より高まったと答えている。この働き方の変化は、人事評価の受け取り方にどのように影響しているだろうか。また、新しい働き方に適した人事評価制度とはどのようなものだろうか。20代、30代の一般社員を対象に、テレワーク下での人事評価の納得感や望ましい人事評価制度のあり方などについて、意識調査を行った。

調査概要
約8割が人事評価を重視 報酬や処遇が決まるものだから
人事評価制度に満足は約6割 評価基準の明確さが影響
「直近の評価結果に納得」約65% 上司との十分な対話が鍵
約7割がテレワークになっても評価の納得感に変化なし
テレワークで刺激される部下の主体性、自律性
「時間」より「結果」 「短期業績」より「長期貢献」

調査概要

調査対象は従業員規模300名以上の会社に勤務し、テレワークを月の半分以上行っている20代、30代の一般社員で、実施時期は2020年12月である。2020年4月の緊急事態宣言以降、なんらかの形での人事評価が少なくとも1度は行われている時期と考えた。新型コロナウイルス感染症が広がる以前との変化を尋ねるため、現在の会社に入社して2年以上経っている人のみを対象とした。職種は、営業系、事務系、技術系が均等になるように回収した。有効回答数は493名である(図表1)

<図表1>調査概要「テレワーク環境下における人事評価に関する意識調査」

調査概要「テレワーク環境下における人事評価に関する意識調査」

約8割が人事評価を重視 報酬や処遇が決まるものだから

まず、人事評価の重視度を尋ねたところ、約8割(77.3%)が重視している(「とても重視している」~「どちらかといえば重視している」)と回答した(図表2)。2016年の弊誌調査「人事評価制度に対する意識調査 」(78.5%、リモートで働いている人に限定せず)と大きく変わらない。

<図表2>人事評価の重視度

人事評価の重視度

重視する理由を1つ選んでもらうと、「報酬や昇進・昇格が決まるものだから」(72.2%)が圧倒的に多く、2016年調査(59.1%)と比べても増えている。「仕事の手応えや自身の成長の度合いを感じることができるから」は、前回調査(30.9%)より減り、約2割にとどまった(21.3%)。

一方、約2割(22.7%)の重視していない(「どちらかといえば重視していない」~「まったく重視していない」)と答えた人の理由(あてはまるものすべて選択)は、「人事評価はあてにならないから」( 42.0%)が最も多く、次いで「評価結果が報酬にあまり影響がないから」( 35.7%)である(図表3)。「評価結果にかかわらず、ある程度の報酬を得ているから」( 29.5%)は10000名以上企業(43.8%)で、「自分がやりたいことや、好きな仕事ができればいいから」( 28.6%)は10000名以上企業(40.6%)や技術系の職種(39.1%)で高めだった。

<図表3>人事評価を重視する/重視しない理由

人事評価を重視する/重視しない理由

人事評価制度に満足は約6割 評価基準の明確さが影響

対して、自社の人事評価制度に満足している(「とても満足している」~「どちらかといえば満足している」)のは約6割(60.4%)である(図表4)。「とても満足している」「満足している」のみでは約2割(23.9%)である。それぞれ2016年調査に比べて高い(52.2%、15.0%)。今回は調査対象をリモートで働く人に限定していることが影響している可能性があるが、明確な理由は分からない。

<図表4>自社の人事評価制度についての満足度

自社の人事評価制度についての満足度

満足の理由(あてはまるものすべて選択)としては、「何をがんばったら評価されるかが明確だから」( 50.3%)が最も多い。対応するように、不満足の理由は「何をがんばったら評価されるのかが曖昧だから」( 65.1%)が圧倒的に多かった。これらはいずれも2016年(それぞれ41.0%、54.4%)より選択率が高く、評価基準の透明性を求める傾向は強まっていると思われる(図表5)。

<図表5>自社の人事評価制度についての満足/不満足の理由

自社の人事評価制度についての満足/不満足の理由

「直近の評価結果に納得」約65% 上司との十分な対話が鍵

では、直近の会社からの自分の評価については、どのように感じているだろうか。評価結果に納得感がある(「とてもあてはまる」~「ややあてはまる」)のは7割弱(65.3%)だった。ただし「とてもあてはまる」「あてはまる」のみでは3割弱(27.2%)である(図表6)。評価の納得感と職務適応感(仕事にやりがいを感じる、会社が期待する成果を出せている、職場の人とうまくやれているなど12項目を尺度化)の関係を確認すると、その相関は高く(0.63)、公平感のある処遇の分配のためだけでなく社員の活用と育成のためにも、これを高めていくことは重要であることが改めて分かる。

<図表6>直近の人事評価結果についての満足度

直近の人事評価結果についての満足度

評価の納得感が目標管理のプロセスによっていかに影響を受けるかを検討したのが図表7である。この分析では、評価の納得感を高群(「とてもあてはまる」~「ややあてはまる」)と低群(「ややあてはまらない」~「まったくあてはまらない」)の2群に分けたものを用いた。

<図表7>人事評価結果の納得感と目標管理プロセス(納得感高低の比較)

人事評価結果の納得感と目標管理プロセス(納得感高低の比較)

まず、目標管理制度の有無との関係では、納得感の高群では約8割(81.7%)が「あらかじめ設定した目標の達成度合いによって評価された」のに対し、低群では5割を下回っている(49.1%)。「評価結果が開示されている」についても、高群と低群の出現率には有意な差が見られた。

さらに、目標をめぐってどのようなコミュニケーションがなされているかと納得感の関係を見てみよう。「あらかじめ設定した目標の達成度合いによって評価された」と答えた人のうち納得感高群と低群に分けて見ると、「目標設定への関与」「目標の質」「目標遂行のサポート」のいずれの項目も高群が低群に対して有意に高かった。差が最も大きいのは「目標設定において、納得いくまで上司と話し合えた」で(差30.9ポイント)で、目標設定に自分の意向が尊重されるかどうか、目標がどのようなものだったかよりも、十分に上司と話し合えたと思えることが、納得感に強い影響を与えることが示唆される。

また、上司が「目標の進捗状況を気にかけて、アドバイスや支援をしてくれた」「目標に対して良い仕事をしたときに認めたり、褒めたりしてくれた」「チーム内で目標を共有し合い、上司・同僚と協力しながら仕事を進められた」という、期中の日常的な目標遂行のサポートの有無も、納得感高群と低群の差が大きい。

テレワークの頻度が高い場合でも、目標管理の仕組みが十分なコミュニケーションを伴って運用されれば、評価への納得感や仕事への意欲を引き出すことは可能だと考えられる。

約7割がテレワークになっても評価の納得感に変化なし

そうはいっても、テレワークが中心になることで、評価の納得感にいくらかの変化はあるのではないだろうか。どのような場合に、納得感に変化が出やすいのだろうか。

テレワークで働く場合とそうでない場合で、評価の納得感に違いがあるかどうかを尋ねたところ、約7割(66.3%)から、納得感に違いはないとの回答を得た。一方、低くなった人が約2割(20.1%)、逆に高くなった人が約1割(13.6%)とばらつきがあった(図表8)。

<図表8>テレワーク環境下での人事評価の納得感の変化

テレワーク環境下での人事評価の納得感の変化

新型コロナウイルス感染症の流行以前から高い頻度でテレワークをしていた群とそうでない群では、納得感が低くなったのは約2割と変わらないが、納得感が高くなったのは、以前から高頻度でテレワークをしていた群では26.2%と、まったくテレワークをしていなかった群の7.3%に比べ大幅に高かった。テレワークに慣れるにつれ、やり方次第でむしろ評価の納得感を高めていける可能性が感じられる。

また、職務自律性の低い群では、高い群に比べて、テレワークになったことで評価の納得感が下がった人が多く(25.1%)、上がった人が少なかった(7.5%)。1人で成果をアウトプットしにくく、以前より評価されにくい傾向があることが考えられる。一方、職務の相互依存性が低い群でも、納得感が高くなった人が少ないのが目立った(7.9%)。職務の特徴と評価の納得感については、さらに調査と考察が必要である。

目標設定において、納得いくまで上司と話し合えた群は、納得感が高くなる(24.5%)傾向が見られた。図表9のように、納得感の変化の理由には、成果を正しく評価してもらえるようになったという声がある一方、プロセスや取り組み姿勢を見てもらえないという声もあるなどさまざまで、テレワークへの慣れ、職務のタイプによって捉え方は違うと思われるが、目標設定に関する納得のいく対話、遂行場面での的確なコミュニケーションを重ねることで、乗り越えていけるものが多いと感じる。

<図表9>テレワーク環境下で人事評価の納得感が変化した理由

テレワーク環境下で人事評価の納得感が変化した理由

テレワークで刺激される部下の主体性、自律性

評価を有意義にしていくために必要なのは、上司の部下に対する働きかけだけではない。図表10には、テレワークで正しく評価されるために意識して心がけていることについて得た自由記述から、主なものを抜粋した。

<図表10>テレワークで正しく評価されるために意識していること

テレワークで正しく評価されるために意識していること

「こまめな報連相、密なコミュニケーションをする」「意識して成果をアウトプットする」「結果を残す」「目標、目的を明確にする」「プロセスや取り組み姿勢も伝えるようにする」「自分から動く」「同僚にも行動が見えるようにする」。こうした部下からの主体的、自律的な働きかけは、テレワークになる以前から、上司としては望んでいたことではないだろうか。テレワーク化をきっかけに、こうした意識が部下側にも高まっていけば、上司部下間のコミュニケーションはより充実し、仕事も評価も円滑に進むと思われる。

「時間」より「結果」 「短期業績」より「長期貢献」

テレワーク化を進める企業では、新しい働き方に応じた人事評価制度のあり方を模索する動きも活発化している。そこで最後に、調査対象である20代、30代が今後どのような人事制度が望ましいと思うのかを、4つの観点から、A、Bいずれの方が望ましいと思うかを尋ねてみた(図表11)。

<図表11>今後の望ましい人事評価制度のあり方

今後の望ましい人事評価制度のあり方

いずれの観点も、圧倒的にいずれかに偏ったものはなく、対照的な考え方が混在することが分かるが、傾向としては「時間的な貢献重視」より「結果重視」(65.3%)、「年齢や勤続年数に応じて平等」より「実力や成果に応じて個人差がある」(61.5%)、「短期業績重視」より「長期貢献重視」(64.7%)が多かった。これらは年代層別に有意な差はなかった。「業績を重視」より「取り組み姿勢やプロセスを重視」(56.4%)については、どの年代でも「取り組み姿勢やプロセスを重視」の方が多いが、20代後半では特にその割合が高かった(62.3%)。

人事評価制度について、良いと思う点、改善してほしい点についての具体的な記述が図表12である。

<図表12>人事評価制度について、良い点・改善してほしい点

人事評価制度について、良い点・改善してほしい点

良い点では、「上司との納得できる対話がある」「基準が明確である」「信頼できる上司である」などが多かった。これまで見てきた分析結果と合致する。

改善してほしい点では、「目標管理」「評価基準」「報酬体系」「評価方法」について、率直なコメントが集まった。

目標管理の仕組みはあるが、目標が上から下りてきて本人が口を出せないこと、評価結果の開示やフィードバックがないことは、改善してほしいこととして多く挙げられている。形骸化した目標管理制度はストレスであり、無意味で、いっそやめた方がいいという声もある。目標管理のプロセスは、適切に行えば評価の納得感を高めるのに有効であることは前述のとおりで、ぜひ改善したいポイントである。

評価基準については、部署・職種による明らかな評価の差、直属上司以外による相対的な調整、年功序列としか思えない不可解な処遇、が大きな3つの不満として見られた。評価基準が明確であることは、評価制度への満足、不満足を左右する最も大きな要因であり、対処すべきだろう。

評価を給与にもっと反映してほしいという声も多かった。評価をどれだけ適切に行っても、給与や賞与に反映されないのであれば、モチベーションにはつながらないということであろうが、短期的な業績を追いかけすぎるのは、本人や経営の持続的成長にマイナスな面もある。どの程度の時間軸で評価と処遇の関係を設計するかは難しいところだ。

評価方法については、多面評価を取り入れてほしい、部下から上司を評価する制度がほしい、など新しい評価のやり方を模索したいという声が見られた。手間がかかりすぎるという点も挙げられた。納得感と人的コストのバランスは重要な観点だ。

これらの声は、必ずしも、テレワークになったから生じたものではないだろう。しかし、テレワークが広がることにより、改めて、適切な評価のあり方を考える必要性が高まっている。テレワークになったからといって、評価の重要性は変わらず、やり方によっては、評価の納得感は高めることさえできそうである。人事、評価者、被評価者が共に当事者として関わり、リモート時代の評価のあり方を確立していくのに、本調査が一助となれば幸いである。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.61 特集1「リモートが問う人事評価のあり方」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

執筆者

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
研究員

佐藤 裕子

リクルートにて、法人向けのアセスメント系研修の企画・開発、Webラーニングコンテンツの企画・開発などに携わる。その後、公開型セミナー事業の企画・開発などを経て、2014年より現職。研修での学びを職場で活用すること(転移)、社会人の自律的な学び/リスキリング、経験学習と持論形成、などに関する研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集などに携わる。

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